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魔導書と歩む異世界ライフ  作者: ムラマサ
ダンジョン攻略編
53/78

強行作戦

 シュミットナー子爵家。

 メルグ領主シュトーレン伯爵家を長年にわたり支え続け、メルグ内においては伯爵家に次ぐ権力を持つ大物貴族家。

 しかし、シュミットナー子爵家の現当主であるカスカロフ子爵は、長年にわたりシュミットナー家が築いてきた権力や人脈を自分のためだけに悪用し、私腹を肥やしていた。


 -----


 蒼真がメルグに到着した日の夜、カスカロフ子爵の寝室では、女性の悲鳴が響いていた。


 「ああ、いや! ああん!」

 「いいぞ! もっと鳴け!」


 天蓋付きの大きなベットの上では肥え太った醜い体の男が、全身が真っ赤にはれ上がっている女性を押し倒していた。

 男は、右手に持っている鞭で女性を打ち据えながら、己の獣欲を女性の体で発散していた。


 首輪をつけているその女性は、やがて悲鳴をあげなくなり、光の無い虚ろな目で天井を見つめたまま動かなくなった。


 「ち、もう壊れたか。人間はすぐ壊れるからつまらん。ほら、どけ! 邪魔だ!」


 男は動かなくなった女性を蹴り飛ばし、ベットから突き落とした。

 ベットの上で1人になった男は、大の字に寝転がり、ベットの隣のテーブルに置かれている鈴を鳴らした。


 「お呼びでしょうか。カスカロフ様」


 鈴に音を聞いてすぐさま、執事が部屋へと入ってきた。


 「壊れた。また牢屋に戻しておけ」

 「かしこまりました」


 執事は、後ろに控えていた2人組にベットの脇で動かなくなっている女性を運ばせた。

 女性が部屋から運ばれた後、ベットの上で全裸をさらしているの主人の元へと移動する執事。


 「あの奴隷にはもう飽きられましたか?」

 「ああ。日に日に反応が悪くなっている。やはり人間の女では長くは持たんな」

 「心を閉ざして、何をされても反応しなくなってしまいますからね」

 「人間はもう飽きた。次はエルフだ。奴隷商が引き連れていたエルフが欲しい」


 オーノウス帝国ではかつてエルフ狩りが行われ、多くのエルフを奴隷として攫った過去がある。

 そのせいでエルフは基本帝国には近づくことがなく、帝国の外では何かと行動しづらい奴隷商がエルフの奴隷を手に入れる機会は少ない。


 しかし、先日馴染みの奴隷商がエルフを手に入れたという情報をカスカロフは入手していた。

 種族の特徴として、見目麗しい容貌をしているエルフは、その希少性もありとても高値で取引されている。

 その金額はカスカロフ子爵の財力をもってしても簡単に用意できる額ではなかった。


 エルフという、自分の欲を満たすための新たなおもちゃを手に入れようとカスカロフは躍起になった。

 その時、エルフ奴隷を持っている奴隷商の方から、奴隷を提供してもらえるのなら高値で引き取ると言われ、カスカロフはメルグ周辺の村々を襲撃して奴隷として売りさばくことを思いついたのだ。


 そして、その計画を任されたのがリザだった。

 村の襲撃自体は盗賊団に任せておけばいい。大事なのは奴隷商に村人を売るときに値段交渉できる人材だった。

 カスカロフの元で帳簿の改ざんなどを主に行っていたリザが一番の適役だと判断されたのだ。


 「ブエナ村の襲撃はどうなった? どのくらい金が集まった?」

 「それなのですが。報告によると失敗したとのことです」

 「なんだと! リザの奴しくじったのか!?」

 「ええ。盗賊団を利用したまでは良かったのですが、たまたま居合わせたガーディアンに邪魔されたようでして」

 「で? リザはどうした? あの女はワシの秘密を知り尽くしておる。情報を漏らす前に身柄を確保せねば」

 「申し訳ありません。リザは現在逃走中です。常駐軍にいる子飼いの者から、村の襲撃が失敗したとの情報を入手し、すぐさまリザの身柄を確保すべく護衛隊の者たちを向かわせたのですが、襲撃の邪魔をしたガーディアンと、リザ本人が抵抗して逃げられたとのことです」

 「あの女の事だ。襲撃に失敗した時点で自分が殺されると分かっていたのだろう」

 「今のところ、リザがメルグに入ったと言う報告は受けておりませんので、別の街へと逃げ出したと思われます」

 「いや、遠くへ逃げてもワシに命を狙われ続けるだけだとあの女ならわかるはずだ。リザはまだこの近くにいる。恐らく、二ドル伯爵へ接触してワシを捕えようと考えておるだろう」

 「なんと!? では急ぎリザの捜索を行いましょう」

 「しなくていい。今下手に動けば伯爵に怪しまれる」

 「しかし、その隙にリザが伯爵と接触するやも知れません」

 「その心配はない。リザは火属性の魔法は使えるが、隠密などはこなせない。伯爵とコネがあるわけでもないリザがそう簡単に伯爵と接触するなど出来るはずがない」

 「なるほど。では、リザはどうなさいますか?」

 「襲撃を邪魔したガーディアンがいるのだろう? そっちから当たってみろ。アヴァルにこのことを伝えて、邪魔をしたガーディアンを特定するのだ」

 「了解しました」

 「それと、念のために屋敷の警備を強化しておけ。地下にいる戦闘奴隷どもも、いつでも出せるようにしておけ」

 「承知しました」


 今まで誰にも尻尾を掴まれることなく悪事を働いてきたカスカロフは、決してバカではなかった。

 しかし、まさか襲撃を邪魔したガーディアンにより、リザが既に伯爵と接触することに成功しているとは思ってもいなかった。


-----


 「てめえ! 大人しくてろって言ったそばから問題起こしやがって!」


 俺は現在二ドル伯爵邸の地下牢に入れられていた。

 あれよあれよという間に牢に入れられて茫然としていたところに、二ドル伯爵の屋敷で世話になっているリザが俺に文句を言いに来た。


 「よりにもよって、情報を集めろって言われてたアヴァル本人を殴るとか。何考えてんだ!」

 「ついカッとなって殴った。後悔はしていない」

 「しろ! 死ぬほど後悔しろ!」


 うるさいなあ。殴っちゃったもんは仕方ないじゃん。

 鉄格子の向こう側から俺に文句を言ってくるリザは、今にも俺に殴りかかってきそうなほどの剣幕だ。

 牢屋に入れられているのは俺の方なのに、リザの方が牢屋に入れられた囚人みたいだ。


 「まあまあ、リザ君。落ち着いて」


 リザの文句を適当に聞き流していると、俺を牢屋に居れた張本人の二ドル伯爵がやってきた。


 「伯爵様もこいつに何か言ってやってくださいよ。こいつ反省してませんよ」

 「今は反省を促すよりも、これからどうするかを考える方が先ですよ」

 「むー。伯爵さまがそう言うなら」


 相変わらず伯爵の前ではリザは大人しいな。

 

 「ですが、問題を起こされて困ったのは事実ですよ? ソーマ君?」


 最初に会った時は俺の事をソーマ殿と呼んでいたのに、いつの間にか君付けで呼ばれるようになってしまった。

 伯爵の中での俺の評価が急降下していっているな。


 「まあ、過ぎたことにいつまでも文句を言っていてもしょうがない。もっと建設的な話をしましょうよ」

 「こいつ開き直りやがった!」

 「・・・・・まあいいでしょう。時間もあまりありませんしね」

 「時間がない?」

 「ソーマ君がアヴァルを殴って監禁していることをカスカロフ子爵はまだ知りません。情報規制を張り、ギルド内にいたガーディアンと職員にはギルドから出ないように言いつけてあります。アヴァルの件がカスカロフ子爵にバレる前に、子爵がこれまでに行ってきた悪事の決定的な証拠を集めなければなりません」


 アヴァルの件がカスカロフ子爵にバレれば、当然子爵は証拠の隠蔽を図るだろう。

 そうなれば、子爵を捕まえるのは困難になる。

 だから先手を打って先に証拠を確保しておきたい。

 でもそんなすぐに証拠なんて集められるのか?


 「1つだけ手があります。カスカロフ子爵の屋敷にある隠し部屋には、これまでリザ君が改ざんしていた帳簿の原本が保存されています。それを手に入れられれば、とりあえずカスカロフ子爵を捕えることが出来ます」

 

 確かに、帳簿の原本が手に入れば動かぬ証拠になるだろうな。

 捕えさえすれば、余罪の追及は後からでも問題ないか。

 

 「でもどうやってその原本を手に入れるんですか?」

 「騒ぎを起こして、その隙にリザ君の案内で私に部下が隠し部屋に潜入して原本を手に入れます」

 「なるほど、リザなら屋敷の構造も隠し部屋の場所も知ってますから、案内役にはぴったりですね。問題は騒ぎを起こしてちゃんと注意を引けるかですね」

 「何他人事のように言っているんですか? 騒ぎを起こすのはあなたですよ?」

 「ええ!? 俺!?」

 「今回、こんな強引な手段に出る羽目になったのはあなたのせいなのですから、しっかりと働いてもらいますよ?」

 「あのー。騒ぎって具体的にはどうすれば?」

 「屋敷の警備をしている者たちを引き付けてもらいたいので、適当にいちゃもんでも付けて乱闘騒ぎを起こしてください」

 「それって、下手したら殺される可能性もあるんじゃあ?」

 「安心してください。その場合は私がソーマ君のお墓を手配しておきますから」

 「安心出来る要素が全くない!」

 「出来るだけ派手に、長く暴れてくださいね。この作戦の成功はソーマ君の頑張りにかかっていますから」

 

 こんなことになるならアヴァルを殴るの我慢するんだった。

 

 「屋敷の警備兵を俺1人で相手するなんて無茶な」

 「大丈夫ですよ。援軍は用意しますから」

 「援軍?」

 「今ギルドで待機してもらっているガーディアンたちに私の名で依頼を出しておきます。ソーマ君に協力して乱闘騒ぎを起こすようにとね。ガーディアンたちもカスカロフ子爵に少なからず恨みがあるでしょうし、多少報酬を多めにしておけば引き受けてくれるでしょう」

 「ちなみに、報酬ってどのくらいですか?」

 「1人頭金貨30枚」

 「金貨30枚!?」


 昨日貰った報酬よりも多い!

 それだけあれば、新しい防具とかいろいろ買えるぞ! ずっと行きたかった大人のお店にも行けるかも。グへへへ。


 「この仕事、喜んでお引き受けいたします!」

 「そうですか。それは良かった。ではさっそく移動してください。カスカロフ子爵の屋敷の前で他のガーディアンの方々と合流し次第、騒ぎを起こしてください。リザ君も、すぐに移動してください」

 「はい。伯爵様」

 

 伯爵はポケットから鍵を取り出し、俺の牢屋の鍵を開けてくれた。

 俺はふと気になったことがあったので、牢屋を出てから伯爵に質問してみた。


 「今回、俺を牢屋に入れる必要ってありました?」

 「特にありませんね」

 「じゃあ何で入れたんですか!」

 「問題を起こしてくれた腹いせです」

 「もしかして、結構怒ってます?」

 「大丈夫ですよ。死ぬ気で騒ぎを起こしてくれれば私はそれで満足ですから。私は少し離れた場所でソーマ君の雄姿を見ていますからね」


 俺に危険な仕事を任せておいて、自分はそれを安全な所から見て楽しんでるとか。この人良い性格してるわー。


 何はともあれ、いよいよ決着だ。

 元凶のカスカロフ子爵を捕えて今回の事件ともこれでおさらばだ。

 そして、俺は金貨30枚を手に入れる!

 

 

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