赤ローブの正体
馬車を引きながら丘を下り、ようやく丘の麓にあるブエナ村の近くまで付いた。
途中謎の赤ローブの男からの襲撃を受けたが、御者のおじさんのおかげで難なく撃破。現在赤ローブは気を失い、縄で拘束された状態で馬車に乗っている。
先にキャロスティがブエナ村に着いているはずだが、どうなっているのだろうか?
村の広場の様な所から煙も上がっていたし、村には慎重に近づいた方がいいな。
村は木の柵で覆われていたが、村の入り口と思われる場所に数人の村人らしい人たちが立っているのが見えてきた。
何やら手にクワなどを持っていて、険しい表情で周囲を警戒しているように見える。
やっぱり村で何かあったみたいだな。
俺に気づいた村人たちが、クワを構えながら話しかけてきた。
「止まれ! お前は商人か?」
馬車を引いているからか、村人たちもさっきの赤ローブのように俺を商人と勘違いしているようだ。
まあ、武器とか持ってないし、勘違いされてもしょうがないけどね。
「俺はガーディアンです。途中でモンスターの襲われて馬に逃げられてしまったので、ここまで馬車を引いてきたんです」
「ガーディアン? 今更何しに来やがった!」
「散々俺たちの依頼を無視しておいて! どの面下げて来たんだ!」
なんだなんだ?
俺がガーディアンだと伝えたら、村人たちが今にも襲い掛かってきそうなくらい興奮しだした。
この村ではガーディアンは嫌われているのだろうか?
俺がどう対応したものかと頭を悩ませていると、御者のおじさんが馬車から顔を出して村人たちに話しかけた。
「お前ら、この人はメルグのガーディアンじゃねえ。ファウードから来た人だ。メルグのガーディアンとは関係ない」
「おお。あんたの馬車だったのか」
「ファウードのガーディアン? じゃあメルグのガーディアンじゃねえのか」
御者のおじさんはこの村の人たちと顔見知りだったようだ。
よくわからないが、誤解は解けたようで、村に入ってもいいと許可をもらった。
だが、村に入る前に、この村で何が起きたのかを確認しておかないとな。
俺は村人たちにいくつか質問をした。
「丘の上から煙が見えましたが、村で火事でも起きたのですか?」
「火事なんてもんじゃねえ。盗賊どもが攻めて来たんだよ」
「勇敢な嬢ちゃんのおかげで盗賊どもは全員捕まえたがな」
盗賊の襲撃? 結構な大事件が起きていたんだな。
そして、勇敢な嬢ちゃんって、キャロスティのことだろうな。
俺の出番は一切なく、キャロスティ1人で盗賊たちを倒してしまったらしい。
本当に無茶するんだから、キャロスティは。
「その女性は多分俺の連れです。今はどこにいますか?」
「何だ、あの嬢ちゃんの知り合いだったのか。なら早くそう言えよ。あの嬢ちゃんはこの村の英雄だよ」
「今は気を失ったみたいで、村長の家で手当されているはずだよ」
やっぱり無茶してたみたいだな。
早くキャロスティの様子を見に行きたいが、その前に馬車に乗っている赤ローブをどうにかしないとな。
「ここに来る途中で赤いローブを着た男に襲われまして、今は馬車の中で気絶しているのですが、この村には牢屋とかはありますか?」
「ん? ちょっとまて! 赤いローブの男だと!?」
「どこだ!? 見せてくれ!」
赤いローブと言う単語にやたらと反応する村人たち。
馬車に乗せている赤ローブを村人たちに見せると、みんな驚いていた。
話を聞いてみると、この赤ローブの男が村を襲った盗賊団を指揮していたらしい。
いつの間にか盗賊団を見捨てて1人で逃げだしていたらしいのだが、運悪く俺と丘の上で遭遇してしまったという事みたいだ。
赤ローブを村人たちに任せて、俺は馬車を引いて村長さんの家へと向かった。
ブエナ村はそれ程大きな村ではないので、すぐに村長さんの家へと着いた。
すでに俺の事は知らされていたらしく、すんなりと俺を家に入れてくれた。
さっきの村人たちが知らせておいてくれたようだ。
キャロスティの診察のために村長の家を訪れていた村医者に、足を怪我している御者のおじさんの手当てをお願いして、俺はキャロスティの様子を見に行った。
ベットで眠っていたキャロスティの顔色はいつもと変わらず、特に具合が悪いようには見えなかった。
特にやることもないので、キャロスティの看病がてら、同じ部屋でのんびりしていると、おじさんの手当てを終えた村医者の先生が部屋に来た。
先生の話では、キャロスティは腹に強い衝撃を受けているらしく、内臓は無事だが骨にヒビが入っているとのことで、しばらくは安静にさせておけと言われた。
安静にしていられるかな、この子?
その後、村長さんのご厚意で、そのまま村長宅に泊まらせていただいた。
次の日、村長さんの奥さんが作ってくれた朝食を食べていると、キャロスティが目を覚ましたと連絡があった。
朝食のパンを食べながらキャロスティの部屋へ行くと、村長さん以下数人の村人たちから泣いて感謝されているキャロスティがいた。完全にタイミングを間違えたな。
村長さんたちにどう対処すればいいのか分からずオロオロと動揺しているキャロスティから 「助けてくれ」 とアイコンタクトが飛んでいきた。
俺はアイコンタクトで一言 「がんばれ」 とだけ伝えて無言で部屋から出た。
お昼の昼食を食べてから、またキャロスティの部屋を訪れた。
俺が部屋に入った途端、恨めしい表情で俺を見て来るキャロスティ。
俺はそんなキャロスティの表情に気づいていないふりをして話しかけた。
「おはよう、キャロスティ。気分はどうだ?」
「親友に裏切られて悲しい気分ですわ」
「そうか。まあその話は置いといて。医者の話は聞いた?」
「ええ。腹部を怪我してしまったと。しばらくは激しい運動はできないと言われましたわ。治療のためにメルグに行った方がいいとも言われましたわ」
「まあ、元々メルグには行く予定だったし、ちょっとメルグでの滞在期間が長くなるぐらいなら問題ないでしょ」
「メルグに着いたら今回の裏切りの罰として食事をおごってもらいますからね!」
く! 裏切りの対価がでかい。
出来るだけ安いお店で我慢してくれとキャロスティと交渉していると、村長がやって来た。
さっきまで泣いて感謝されていたせいか、村長を見たキャロスティの表情がちょっと嫌そうだった。
「お加減はどうですかな? キャロスティ様」
「ですから、わたくしのことを様付けして呼ぶのは遠慮してくださいませ。わたくしは貴族ではありませんわ」
「この村ではキャロスティ様は貴族よりも尊敬されておりますよ」
「んもう! そう言う事ではありませんわ!」
村長とキャロスティの話が平行線のままずっと止まらないので、俺の方から何か用かと村長に尋ねた。
「実はですな。この村の英雄であるお二方にこのようなお願いをするのは心苦しいのですが、ソーマ殿がとらえたあの赤ローブの男をメルグまで護送して頂きたいのです」
「護送? 確かメルグから常駐軍が盗賊たちを連行するためにこの村まで来る予定だって昨日聞いたと思うのですが?」
「ええ。そうなのですが。常駐軍がこの村に来るまでには少し時間がかかりますので、先に主犯格である赤ローブの男だけでも連行しておきたいのです。しかし、盗賊たちに荒らされた村の修復もありますし、何よりいざという時に赤ローブに対抗できる者がこの村にはおりませんので、赤ローブを捕まえたソーマ殿に護送して頂きたいのです。キャロスティ様も、早くご快復いただくためにソーマ殿とメルグに行ってもらえればと思いましてな」
ふーむ。なるほど。え? ていうか俺も英雄扱いなの? まあ悪い気はしないからいいけどさ。
捕えた盗賊団は20人以上いるらしいから、常駐軍が来るまで下手に動かせない。
だが、今回の村襲撃の主犯格である赤ローブ1人を護送するだけなら馬車が一台あれば十分だろう。
だが相手は村の襲撃を計画するような危険な奴だ。そんな奴の見張りが村人だけでは確かに心細いな。
俺としては別に構わないのだが、問題はさっき目を覚ましたばかりのキャロスティが動けるかだな。
俺がキャロスティの方に振り向くと、キャロスティは俺の言いたいことは分かっていると言った顔でうなづいた。
「わたくしなら問題ありませんわ。さっき部屋の中を軽く歩いてみましたが、普通に歩く分には特に体に痛みも感じませんでしたわ。それに、早く怪我を直してダンジョンに行きたいですしね」
キャロスティも問題なしか。じゃあこの話引き受けるか。
俺は村長さんに承諾の意を伝えた。
出発は明日の朝方になるそうだ。
今日はもう一泊村長さんの家に泊めてもらうことになった。
次の日の朝。
準備を整えた俺とキャロスティは馬車が待っている村の入り口へと向かって歩いていた。
キャロスティは昨日言っていた通り、問題なく歩いている。これなら馬車の移動にも耐えられるだろう。
一応、念のために昨日のうちに村長さんに貸して貰った部屋で痛み止めの薬などもいくつか作って置いたし、備えは万全だ。
村の中を歩いていると、出会う村人全員から感謝された。主にキャロスティが。
次第に村人たちが集まってきてキャロスティに握手などを求め始めた。
大勢の村人たちに囲まれているキャロスティはまるでアイドルみたいだ。
まあ、中にはキャロスティの豊かに実った双丘をチラチラ見ている若い村人の男性もちらほらいたけどね。
少しして人の数が減ってきたら今度は村の子供たちが集まって来た。
その子供たちが口々にキャロスティのことを水狼様みたいだと言っている。
誰だそれ? 気になった俺は近くにいた女の子に聞いてみた。
「ねえ? 水狼様って誰の事?」
「水狼様は、メルグにいるエーランク? っていうガーディアンなの!」
どうやら水狼と言うのはメルグにいるAランクガーディアンのあだ名のようだ。
その水狼と言う人は子供たちにとても懐かれているらしく、子供たちはみんな水狼様のことを自慢しだした。
「お母さんが病気で倒れた時に、水狼様が森の中からお母さんの病気に効く薬草を取ってきてくれたの!」
「俺、水狼様に稽古つけてもらったことがあるんだぜ!」
「水狼様は、水属性の魔法と剣を同時に扱うすごい人なんだよ! お父さんたちに時々怪我を負わせるブレードウルフの群れを1人で全滅させちゃったんだよ! すごいでしょ!」
子供たちの話では、水狼と言う人は定期的にメルグ周辺の村々を訪れては困っている村人たちを助けているらしい。
キャロスティは子供たちの話を聞いてすっかり感動している様子だ。
子供たちと別れた後も、ガーディアンとは困っている人々を助けるために存在すべきだと熱く語っていた。
数人の村人と縄でぐるぐる巻きにされた赤ローブを乗せた馬車に乗り、俺たちは見送りに来てくれた村長たちに手を振りながら村を出発した。
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ブエナ村からメルグまでは馬車で半日ほどの距離なので、今日の夕方には着く予定だ。
特にモンスターと出くわすこともなく、順調に馬車は進んだ。
お昼になり、一旦馬車を止めて俺のガレージバックに入れていた村長の奥さんお手製のサンドイッチを、みんなで一緒に食べていると、甲冑に身を包んだ騎士のような恰好をした集団が道の向こう側からやってきた。
「そこの者ども! 貴様らはブエナ村の者か!」
1人だけ他より少し派手な甲冑を着た男が、やたら高圧的な態度でこちらに話しかけてきた。
馬車の御者をしていた村人が、代表してその男と話に行った。
「ええ。確かにブエナ村の者ですが、騎士様が何の用でしょう?」
「貴様らなどに用はない! 用があるのは積み荷だ。何を積んでいる? 正直に話せ」
「ええっと、ですね。私たちはメルグに犯罪者を運んでいる所でして」
「犯罪者? 村を襲撃してきた盗賊団か?」
「はい、そうです。盗賊団はまだ村で拘束しているのですが、メルグの常駐軍が迎えに来る前に、主犯の男だけでも運んでおこうと言う話になりまして」
「それは丁度良かった」
「はい? 丁度いい?」
「俺たちはその男を引き取りに来たのだ。早くその男をこちらに渡せ!」
「ええ!? ちょちょっと!」
騎士たちは勝手に俺たちの馬車に乗り込み、拘束していた赤ローブを勝手に自分たちの馬車に乗せようとしてきた。
なーんか怪しいな。こいつら? 少しゆすってみるか。
「すみません」
「なんだ、貴様は? 村人には見えないが?」
「盗賊たちを捕まえたガーディアンです」
「ああ、貴様らがそうか。ご苦労だった。ではな」
「待ってください」
もう用はないとばかりにさっさと去ろうとする騎士の肩に手をかけ、俺は遮るように騎士の前に移動した。
「何だ? 邪魔をするなら容赦はせんぞ!」
「邪魔をする気なんてありませんよ。ただ、少し気になることがありまして」
「だから何だ! 何が気になると言うのだ!」
「どうしてブエナ村が盗賊に襲撃されたと知っているのですか? 見た所あなたたちは常駐軍ではないようですが?」
派手なカラーリングの鎧を着ている騎士たちは、とても常駐軍のようには見えない。
「確かに俺たちは常駐軍ではない。だから何だ? 盗賊のことは常駐軍から聞いたのだ」
「だったら尚更おかしいですよね? 数日後に常駐軍が盗賊たちを護送しに来る手はずになっているのに、どうして常駐軍ではない人たちが主犯の男を連行するのですか?」
俺の質問を聞いた騎士は、舌打ちした後少し間を空けてから返答した。
「・・・・・メルグ領主の二ドル伯爵様のご命令で主犯の男を連行しに来たのだ」
「ではそれを証明するものは?」
「証明?」
「領主様の命令で来たと言うのなら、命令書を持っているはずですよね? まさか命令書も持たずに犯罪者を受け取りに来たのですか?」
この質問で騎士の顔色は一気に悪くなり、何度か口を開きかけたが、良い言い訳が思いつかなかったのか何も言わなかった。
すると突然騎士は腰の剣を抜き、左手の盾を構えてきた。
「ええい! うるさいうるさい! それ以上文句を付けるなら領主への反逆としてこの場で処罰するぞ!」
「反逆はあなたたちでしょう? 領主の命令と偽って犯罪者を奪うなんて立派な反逆だ」
「黙れと言っているのだ! その口を閉じなければ今すぐこの場で貴様を」
「ぐわあ! 貴様、逃げるな!」
騎士が俺に襲い掛かろうとしてきた時、赤ローブを強引に自分たちの馬車に乗せようとしていた騎士たちの方から悲鳴が聞こえてきた。
俺と騎士が同時に馬車の方に振り向くと、騎士の剣を盗んでキャロスティたちの方に逃げる赤ローブの姿が見えた。
「すみません、隊長! 逃げられました!」
「何をしているバカ者が! 早く捕えろ!」
「キャロスティ! 逃げろ!」
俺は急いでキャロスティたちの方に向かって走り出した。
が、どうにも様子が変だ。
赤ローブの男はキャロスティたちに近づくと、そのまま襲い掛かることなく、キャロスティたちに背を向けて追ってきた騎士たちと戦いだした。
あれじゃあまるで赤ローブがキャロスティたちを守っているように見える。
俺が困惑していると、当の赤ローブの方から俺に声をかけてきた。
「おい、貴様! ソーマとか言ったか? 貴様も手を貸せ!」
「はあ? なんで俺がお前に手を貸すんだよ!」
「いいから従え! こいつらはカスカロフの手下の犯罪者上がりの騎士もどきどもだ! 俺を護送している所を見られた時点で、メルグに着く前に口封じのためにお前らを殺そうとしていたはずだ! 分かったら手を貸せ!」
ええい! よくわからんが、この騎士もどきどもがろくでもない連中らしいというのは分かった。
だったら俺も遠慮はなしだ!
「貴様! 犯罪者に手を貸すのか!?」
「お前らだって領主の名を語る犯罪者だろうが! スマッシュブロウ!」
「おぶう!」
俺はアーツを発動して騎士の1人を鎧ごと吹き飛ばした。
赤ローブは剣の扱いに慣れていないのか、めちゃくちゃに剣を振り回してなんとか騎士たちと戦っている。
流石に殺すのはまずいだろうからサーペントフレイムやファイヤーボールは使えない。
なら、久々に雷属性の魔法の出番だな。
「サンダーショック!」
「ぐばばばばばば!」
触れた相手に電流を流し込むサンダーショックは、電圧を加減すれば相手を気絶させることが出来る。
鎧越しにどんどん電流を流し込み、俺は騎士たちを次々と気絶させていった。
と言うかこいつら弱い。本当に騎士の恰好をしただけのただのチンピラだったみたいだな。
せっかく盾を持っているのに全然使いこなせていない。むしろ盾を邪魔そうにしている。
明らかに盾の扱いに慣れていない。甲冑が重いのか動きが遅いし、剣の扱いも下手くそだ。
身軽に動き回る俺を捕えることが出来ずにあっという間に騎士もどきどもの数は減っていった。
「ぐわああ!」
俺が最後の騎士を気絶させると後ろの方から剣が落ちる音がした。
俺がそっちに振り向くと、赤ローブが疲れ果てた様子で地面に座り込んでいた。
めちゃくちゃに剣を振り回していたから疲れたのだろう。
とりあえず、騎士もどきとの戦闘が終わった後も逃げ出す様子はないし、俺は赤ローブを立たせようと手を出した。
「ほら」
「ああ。悪いな」
俺の差し出した手を掴んで赤ローブが立ち上がった。
その時、ローブのフードが風でめくりあがり、何かが地面に落ちた。
「ん? 何か落ちたぞ? これは・・・カツラ?」
「しまった。まあいいか。もう隠す必要もないし」
「ん? このカツラお前のなの? なんでカツラなんて被ってた、ん、だって、えええええええ!!」
俺が地面に落ちたカツラを拾い赤ローブに視線を向けると、そこには綺麗な銀髪をたなびかせた美少女が立っていた。
「お前女だったの!?」
「リサだ。よろしくな、ソーマ」




