神滅教
「お母さん、服装変じゃないかな?」
「大丈夫よ。よく似合ってるわ」
「屋敷が見えてきましたね」
「お貴族様の屋敷か。堅苦しいのは苦手なんだがな」
俺、リンダさん、リンカちゃん、師匠は、ファウードの領主であるアレン公爵様の屋敷の前に来ていた。
全員、失礼のないようにそれなりに服装を整えている。
まあ、俺はあまり服を持っていないから、初めてダリアさんと会ったときに貰った黒色の服を着てきているけどね。
どうして公爵様の屋敷に行くことになったのかと言うと、ゴブリンの大繁殖についての詳細な報告を聞きたいとのことだ。
この前表彰されたメンバー+リンダさんが今回屋敷に呼ばれた。
俺は一般ガーディアン代表みたいなポジションだ。
屋敷に入ると、使用人のメイドさんに案内されて、屋敷の3階にある会議室に入った。
中に入ると、既に席がいくつか埋まっていた。
表彰式の時に見た、カイゼル髭の似合うダンディなおじ様、アレン公爵にアルネロさん、レオナルさん、オリガンさん、ダリアさんとクーティさん、ラインベルさん、ハドルさんが既に席についていた。
部屋の奥には見慣れない男性も1人立っていた。かなりやせ細った顔をしていて、あまり元気なようには見えない。
俺たちが席に着いた後、約束の時間より5分遅れてガンズさんが来て、全員がそろった。
ちなみに、遅れてきたガンズさんからは少し酒の匂いがした。この人はこんな時でも酒がやめられないんだな。
「これで全員そろったな。ではこれより今回の事件に関する最終報告会を始める」
上座に座っていたアレン公爵が立ち上がり、報告会の開始を宣言した。
すると、部屋の奥にずっと立っていたやせ細った男性がアレン公爵の隣に移動してきた。
「今回の報告会の内容をまとめて王都へ報告するために、王城から派遣されてきた一等書記官のアルフェム君だ」
「どうも・・みなさん。ご紹介預かりました・・・アルフェムです。エクス・クウォード王国の一等書記官を務めさせていただいております。今回の事件の報告書の作成を・・・・・グレン国王に押し付けられ・・・・いえ、承りました。どうぞよろしくお願いします」
アルフェムさんは途切れ途切れに自己紹介を済ませた。
大丈夫なのか、この人? 今にもぶっ倒れそうだぞ?
俺以外にも、この部屋にいる人の大半がアルフェムさんを心配と不安が混じった表情で見ていた。
みんなの視線に気づいたアルフェムさんは、苦笑いをしたあとやつれている理由を話した。
「不安にさせてしまってすみません。今回の事件について・・・・あちこち走り回っておりまして。かれこれ4日ほど・・・・寝ていないもので。ですが・・・・ご安心ください。後3日は・・・・徹夜出来ますので」
とてもそうは見えないが? というか4日徹夜とかどんだけブラックな職種なんだよ一等書記官って。
アルフェムさんはゆっくりと歩いて、また部屋の奥に戻って行った。
「では、順番に報告をしてもらおう」
アレン公爵様が報告会を仕切り、順々に報告が行われていった。
と言っても、既に何度か聞いている話ばかりだけどね。
全員の報告が終わると、部屋の奥からアルフェムさんが出てきていくつか質問してきた。
アルフェムさんの質問が終わり、今日の報告会はこれで終了した。
「ちょっといいかしら? この場にいるメンバーに共有しておきたい情報があるの」
みんなが帰ろうと席を立ちあがりかけた時、オリガンさんから待ったがかかった。
今回の事件の黒幕と思われる神滅教について調査していたオリガンさんが、調査結果を報告したいと言ってきた。
それを聞いた師匠が、めんどくさそうな顔を隠そうともせず、オリガンさんに質問した。
「全員で聞かなきゃいけねえのか、その話」
「一応ね。この街の主戦力であるあなたたちにも聞いておいて貰いたいの」
間違っても俺はこの街の主戦力ではないと思うのだが。
まあ、この場には常駐軍の司令官にガーディアンギルドのマスター、副マスターもいるからね。
俺はたまたまこの場に居合わせただけだが、面白そうなのでぜひ俺も話を聞きたい。
「先ずは神滅教について一応説明しておくわね」
神滅教、俺もファウードの図書館でこの世界の歴史について勉強していた時に、神滅教についての本をいくつか読んだ。
そもそも神滅教の成り立ちは、初代勇者リョーガ・マサキが8000年前に魔王を討伐したことがきっかけだ。
当時の魔王軍の残党が、勇者に討伐された魔王の魂を回収して、極秘裏に魔王復活のための研究を行っていたのだ。
魔王討伐から3000年後、今から5000年前に魔王軍残党で行われていた魔王復活の研究が失敗して一匹のモンスターが生まれた。
そのモンスターの名前はラグナ。終焉を意味するラグナロクから取った名前らしい。
ちなみに、ラグナロクと言う言葉は初代勇者が残した言葉らしい。この世界には元々ラグナロクと言う言葉はない。
魔王の魂が変異して生まれたラグナは、ある凶悪な能力を持っていた。
それはラグナのオリジンスキル・インサニティ。
元々は魔王の固有魔法である狂化魔法が変異したものだ。
狂化魔法とは、理性や命などを対価に一時的に強大な力を得られる魔法らしい。まあ、魔王っぽい魔法だな。
その狂化魔法が変異したオリジンスキル・インサニティは、空気中の魔力を変異させ、その魔力を摂取したものを暴走させる力を持つ。
このオリジンスキルによって、世界中の魔力がどんどん変異して行った。
真っ先に影響を受けたのがモンスターだ。体の大半が魔力で構成されているモンスターは変異した魔力の影響を強く受け、世界中でモンスターの暴走が起きた。
この事態を終息させるために、二代目勇者アズサ・アマシロが召喚された。
アズサ・アマシロを旗印とした魔族以外の種族による他種族連合軍が結成され、世界中でインサニティによって暴走したモンスターの駆逐などが行われた。
勇者の登場により体制を立て直した各種族に対して、ラグナを作った魔王軍残党は、自分たちを神滅教と名乗りだした。
神を殺し、この世界に真の自由をもたらすという教えを説き、他種族連合軍に対抗するため、様々な種族から仲間を集めた。
特に、神滅教がもっとも重視したのはラグナの完全制御を果たすための研究だ。
破壊本能のままに暴れまわるラグナを制御して自分たちの力にすることに心血を注いだ神滅教は、世界中から優秀な研究者をさらい、強力なマジックアイテムの収集に取り組んだ。
その過程で、人工生命体悪魔の生成に成功し、悪魔の軍勢を作り上げたり、インサニティの影響を受けた者を支配下に置く術を開発するなど、神滅教はその勢力を瞬く間に伸ばしていった。
大陸の1つを支配した神滅教は、ラグナの不完全な制御に成功。完全な制御は出来なかったものの、ラグナに神滅教は攻撃しないよう、インサニティの影響下にあるモンスターに攻撃しないよう制限をかけることに成功した。
勢力を増し続ける神滅教に対抗していたアズサ・アマシロは、悪魔の軍勢を支配する7人の大悪魔の内2人を味方に引き込み残りの5人を討伐し、連合に加盟していなかった魔族の説得に成功。
寝返った2人の大悪魔と魔族の協力により、神滅教が支配した大陸の半分を奪い返すことに成功した。
他種族連合軍と神滅教の最後の決戦で、神滅教は支配下に置いたモンスターと残っている悪魔を全て投入して、背水の陣で攻めて来たらしい。
連合軍側は、甚大な被害を受けながらもこれらを撃破することに成功。
アズサ・アマシロは各種族の代表及び、大悪魔2人を引き連れてラグナと戦い、勝利した。
その後、連合軍が血眼になって神滅教の残党狩りを行い、神滅教は滅びた。
俺が知っているのは大体こんな感じだ。
まあ、オリガンさんの説明も俺と似たようなものだったので間違ってはいないな。
その滅びたはずの神滅教が、5000年たった今頃になって活動を再開し始めた。
「この間襲ってきた神滅教の司祭を名乗るクロウウェルの口ぶりでは、既に神滅教は複数の支部を持つまでに規模を拡大している可能性があるわ」
あれだけの大事件を引き起こしたのだから、今の神滅教の規模がある程度大きいのはまず間違いないと俺も思う。
「確か5000年前も神滅教は様々な兵器の開発などを行っていたのですよね? この間のゴブリンの襲撃の際にも、その一端が見受けられましたね」
クーティ先生の言葉を聞いて、俺の頭の中には幾つかの光景が浮かんだ。
人工的にトレントを作れると言う魔種というアイテム。ゴブリンを操作していた謎の笛。俺は見ていないが、黒い色違いのゴブリンもレオナルさんの所とオリガンさんの所に現れたらしいしな。
トレントを作れる種、ゴブリンを操れる笛、色違いのゴブリン。
これらを神滅教が所持しているとなると、既に神滅教には相当の戦力が備わっているのかもしれない。
後、胸に埋め込まれていた黒い魔石と言うのも気になる所だ。
オリガンさんたちを襲撃してきたクロウウェルという男も、俺がノラの森で遭遇したフクロウの仮面を被った男も、リンカちゃんが見つけた黒ローブの男も、見た目は人間なのに、魔族にしか適性がないはずの闇属性の魔法を使っていた。
やはり胸に埋め込まれていたという魔石の力で闇属性の魔法を使えるようになったのだろうか?
師匠たちが倒したドラゴンも胸に魔石を埋め込まれていたらしいし、本当に幅広く研究を行っているようだな。
オリガンさんがみんなで共有しておきたいという情報は、今の神滅教の規模や同行などについてのものらしい。
オリガンさんはまず、今回の報告会にリンダさんが参加しているわけを説明した。
「今回この場にリンダも来てもらったのは、ここ半年ほどの間に、リンダが神滅教とかかわりのあるかもしれない施設などを何度か破壊しているからよ」
「なに! 本当かリンダ!?」
「うん。まあ怪しい施設を3つほど潰したの」
「どんなだったんだ?」
師匠の質問にリンダさんは淡々と答えだした。
何でも、最近リンダさんを名指しした不思議なクエストが時折届くらしい。
指定された場所はどこも人があまり寄り付かない場所ばかりで、そこに行くと毎回謎の施設が見つかるのだとか。
「ガーディアンのグランドマスターに協力してもらってその施設を調査してみると、非合法な薬物なんかの製造を行っていたり、モンスターの研究なんかが行われているのがわかったの。それで、この半年ほどでそういった施設を3つほど潰したの。その時に、黒いゴブリンに襲われたり、施設の周りや中庭に生えている木にトレントが紛れていたのよ」
リンダさんの話では、施設は潰したものの、毎回中はもぬけの殻で、モンスターやトラップが仕掛けられているらしい。
突入の日程などがバレてしまっているようだ。
「王都の知り合いからその話を聞いて、今回リンダにファウードまで来てもらったの。直接話を聞きたかったから」
「ん? じゃあ今回リンダが帰って来たのはオリガンのばあさんに会うためだったのか?」
「そうだよ。オリガンさんに頼まれちゃあ断れないし、久しぶりにみんなの顔も見たかったしね」
リンダさんが急に帰ってきたのはオリガンさんに呼ばれたからだったのか。
リンダさんに施設の場所を伝えてくる謎の依頼主については、ガーディアンギルドの方で極秘に調査中らしい。
「リンダが潰した施設からは重要な証拠などが全部なくなっていて詳しいことは分からいそうなの。まあゴブリンやトレントで防犯をしている時点でまともな施設ではないのは間違いないでしょうけど」
リンダさんが潰した施設はどれも王都周辺にあったらしい。
ガーディアンと王国騎士団でその後も周辺の調査を行っているらしいが、今のところ怪しい施設は1つも見つけられていないそうだ。
リンダさんにクエストを依頼した人物はどうやって3つも施設を見つけ出したのだろう?
「リンダから話を聞いて私は確信したわ。今後、神滅教の活動は活発になるでしょう。今まで存在がバレないように息をひそめていたのに、繁殖させたゴブリンに街を襲わせたのがその証拠。彼らはもう自分たちの存在を隠そうとしていないわ」
オリガンさんの出した結論に、会議室内にいた全員が息をのんだ。
もしかしたら、大量のゴブリンによる襲撃など、ただの前哨戦に過ぎなかったのかもしれない。
神滅教。その規模や今後の活動などには、まだまだ分からないことが多い。
まあ、最近よくある最初からチートな力を持っているラノベ主人公の様に強大な力を持っているわけでもない俺に出来ることなどたかが知れているだろうけど。
自分の身と、大切な人たちの身ぐらいは守りぬかないとな。
そうなると、やっぱりもっと力をつける必要があるよな。
前々から考えていたけど、そろそろ行こうかな。ダンジョンに。




