ソーマ対リンダ
「私と決闘しよう!」
現役のSランクガーディアン、リンダさんからの突然の決闘発言にギルドの中は騒然とした。
そもそもなんでDランクの俺なんかに決闘を申し込むんだよ、リンダさん。
「決闘って。俺とリンダさんじゃ勝負にならないでしょう?」
「あら? 私じゃ貴方の本気を引き出せないかしら?」
「俺じゃあなたの相手は務まらないって言ってるんですよ!」
「ならハンデをあげるわ。それならいいでしょ?」
何が何でも俺と戦いたい感じだな、この人。
俺に何か恨みがあるとか、そういう感じではないみたいだから、命を取られることはなさそうだけど。
リンダさんは俺が決闘を了承するのを楽しそうに待っている。
そりゃあ、あんたは楽しいかも知れないけど、勝ち目のない戦いをしなくちゃならない俺は全然楽しくないよ。
「大体、決闘を受けるメリットがないでしょう?」
「うーん、それもそうね。じゃあ、ソーマ君が勝ったら何でも言う事を1つだけ聞いてあげる。私が勝った時は特に何も要求しない。これでどう?」
そうまでして俺と戦いたいのか。
リンダさんの後ろのリンダファンからは、せっかくなんだから戦えとヤジが飛んでくる。
味方がどこにもいない。
「はあー」
俺は深い溜息をついて、コップに残っていたエール酒を一気飲みした。
もう飲まなきゃやってらんないよ!
俺は空になったコップを勢いよくテーブルに叩きつけた。
「分かりましたよ! やればいいんでしょう、やれば!」
「やったー! じゃあ早速ギルドの地下訓練場でやろっか!」
何が楽しいのか、リンダさんは鼻歌を歌いながら地下訓練場への階段を下りて行った。
俺は地下に下りる前にもう2~3杯エール酒を飲んでから階段を降りた。
こうなったら、やれるとこまでやってやる!
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先に地下に下りていたリンダさんはショートパンツと薄いTシャツを着ただけのかなりエロい、もとい、ラフな格好に着替えて俺を待っていた。
これから戦う人の恰好ではないな。
俺に続いて大勢のギャラリーが訓練場へと入ってきた。
皆一様にリンダさんの格好に驚いている。まあ、大半が喜んでるみたいだけどね。
俺とリンダさんを取り囲むようにギャラリーが並び終えた頃に、リンダさんがルール説明を始めた。
「勝敗の決め方はどちらかが降参するか、戦闘続行不可能になるか、境界線を越えてしまうか、で決めるね」
戦闘続行不可能って言ったぞあの人。少し戦うだけじゃなかったのかよ。
訓練場の床には、リンダさんが引いたと思われる白いラインが書かれていた。
あちこち歪んでいて結構適当なラインだけど、これを超えて外に出ても負けってことね。
「ハンデとして、私は武器防具の使用は一切なし! ソーマ君は基本なんでもありでいいよ!」
いや、俺今日はクエスト受ける気なかったから防具もガントレットも持ってきてないんですけど?
全然ハンデになってない。
「えー! ソーマ君も武器防具なしで戦うの!?」
「俺、格闘戦主体なんで普段から武器を使ってないんです」
「めっずらしー! じゃあお互い武器も防具もなしで戦うってことで! 私は一応手加減して戦うけど、なんか喧嘩みたいで楽しみ!」
喧嘩で済めばいいけどね。加減間違えて殴り殺されるなんてごめんだよ。
決闘、というか喧嘩? のルールが決まったところで、いつの間にか俺とリンダさんの間に立っていたガンズさんが審判を務めることになった。
ガンズさん、ノリノリじゃん。リンダさんを止めてくれる気はないのね。
「それではこれより、リンダ対ソーマの決闘を始める! 両者準備はいいな?」
「もちろん! 盛り上がってきたわ!」
「俺も問題ないです」
「決闘開始!」
開始直後、最初に動いたのは俺の方だ。
俺は一気にリンダさんとの距離を詰めた。
リンダさんの顔目掛けて右ストレートを打ち込んだが、最小限の動きで避けられた。
「一気に突っ込んでくるなんて勇気あるね、ソーマ君! でも、カウンターには気を付けないとね?」
すかさずリンダさんは俺の顔目掛けて右手を伸ばしてきた。
俺は左手でリンダさんの右手を弾いて攻撃を反らした。
「やるー! 格闘戦主体は伊達じゃないね。しっかりと訓練した人の動きだよ!」
そりゃ、ツヴェイト師匠に鍛えられてますからね!
「でも、私のターンはまだ終わってないよ!」
右手を弾いた後、リンダさんからの猛烈なラッシュが来た。
次々と飛んでくるリンダさんの拳を、俺は両手で受け流し続けた。何回かかすったが、直撃だけは何とか避け続けた。
俺の方はもう限界まで頑張って何とか耐えられているような状態なのに、リンダさんの表情には余裕がある。
リンダさんの拳を受け流した回数が3桁になりかけたとき、リンダさんの方から後ろに飛び退いて距離を取ってくれた。
「すごーい、ソーマ君! ここまでついてこられるなんて思ってなかったよ!」
涼しそうな顔で俺を誉めてくれるリンダさん。
周りのギャラリーも俺とリンダさんに拍手を送ってくれた。
「満足してもらえましたか?」
「うーん。確かにすごいけど、満足には程遠いかな? ソーマ君とはまだまだ戦いたいな」
正直俺は、今のやり取りだけで結構体力消耗してるんだけどね。
これ以上さっきの様に格闘戦でやり合うのはしんどい。
と言うわけで、俺は基本何でもありと言うハンデを存分に使わせてもらうことにする。
「そうですか。満足してもらえませんでしたか。じゃあ俺も全力を出しますよ」
「まだ全力じゃなかったの!? 見せて見せて! ソーマ君の全力!」
「それじゃあ、お望み通り俺の本気を見せますよ。フレイムウェアー、マキシマイズ!」
「え?」
突如俺の両腕から激しく炎が燃え上がった。
これぞ、俺の固有魔法マキシマイズとフレイムウェアーの合わせ技!
通常のフレイムウェアーとは桁違いの火力にまで膨れ上がったフレイムウェアーは、地下訓練場を真っ赤に照らした。
前回ノラの森で使ったときのように、体力が奪われるような感じはあったが、初級魔法のフレイムウェアーを強化するだけならそこまで体力は奪われない。
この数日間でそれは検証済みなのだ。
「なにそれ!? そんな威力のフレイムウェアー見たことないよ! それがソーマ君の本気?」
俺の強化されたフレイムウェアーを見て、リンダさんはおもちゃを貰った子供の様にはしゃぎだした。
いや、そこは喜ぶところじゃなくて怯えるところでしょうが。
「そうですよ。これが俺の本気です」
「確かに、防具も着ていない今の状態でそれを食らったら普通はタダでは済まないだろうね。でも、私の皮膚はその程度の炎で火傷するほど弱くないよ?」
え? そうなの!?
いやいやいや! 薄着でこの炎を食らって火傷しない肌ってなんだよ!
どんだけ常識が通用しないんだよこの人!
でも、リンダさんはまだ気づいていない。俺の真の狙いに。
「ふっふっふ。確かにリンダさんの肌は無事かもしれない。でも、その服はどうでしょうかね?」
「服?」
「そう! この火力を前に、その薄着が燃えないと思いますか?」
「っ! ま、まさか、ソーマ君の本当の狙いは」
「そう! 俺の本当の狙いはリンダさんを裸に引ん剝くことだ!」
「「・・・・・・」」
静まり返る訓練場。
いや、俺だって自分が人として最低なことをしていることは分かっているよ?
でもさ、俺は基本何でもしていいんだもんね? そんなことを言われたら、俺は勝利を得るために一切手段は択ばないよ?
「さあ! どこからでもかかってきてください! その瞬間あなたはこの大勢のギャラリーの前で素っ裸になることになりますがね!」
「くっ! なんて卑劣な手を!」
「フハハハハハハ! なんでもありと言ったのはそちらですよ!」
俺は一歩一歩リンダさんの元へ近づいて行った。
俺の歩調に合わせて、自分の体を抱きしめているリンダさんも後ろに下がっていった。
しかし! それ以上後ろに行くと境界線の白いラインを越えてしまいますよ?
俺のこの起死回生の一手に、周りからは苦情が殺到した。
「汚ねぇぞソーマ! まともに戦え!」
「見損なったぞ!」
「人でなし!」
「好きに言うがいい! 俺はルール違反は一切していないけどな! そうですよね、ガンズさん?」
俺の問いかけに、ガンズさんは俺を巻き込むなよ、と言った表情を浮かべたが、きちんと返答はしてくれた。
「まあ、確かに。ルール違反ではないな」
「審判からお墨付きを頂いたところで、リンダさん?」
「ひ!」
「さあ! 選択の時です! 大人しく降参するか、大勢の前で裸になってでも俺と戦い続けるか! 10秒以内に答えてください。答えがない場合は攻撃を開始しますよ? 10、9」
「ひいいいい!」
勝った! 現役のSランクガーディアンに勝ったぞ!
もう俺の勝利は確実だ! ひゃーはっはっはっはっは!
「3、2、1、0。残念です。答えはいただけませんでしたね」
「ちょ、ちょっと待ってソーマ君! 私が悪かったから許して!」
「じゃあ降参しますか?」
「それは・・・・・やだ」
「じゃあ仕方ないですね!」
「いやああ!」
俺はうずくまるリンダさんに一気に近づき、両手がリンダさんに当たる直前にフレイムウェアーを解除した。
最初から本当に裸にするつもりなんかなかったからね。裸にするぞと脅してリンダさんに降参してもらおうと思っていたけど、リンダさん強情なんだもん。
でも、ラインぎりぎりにいる今のリンダさんをこのまま手で押し出せば、俺の勝ちだ。
俺の両手がリンダさんに触れた。後はこのまま押し出してしまえば。
「夫以外に裸を見せるのはいやあああ!」
「ぐへえ!」
うずくまっていたリンダさんが突如両手を俺に突き出してきた。
その威力たるやすさまじく、俺は訓練場の天井にめり込んだ。
天井に深くめり込んだ俺は身動きが出来なくなり、天井から抜けなくなった。
下の方では、リンダさんがギャラリーから拍手喝采を浴びていた。
俺を吹き飛ばしたことに気づいていなかったリンダさんは、最初状況が理解できないでいたが、天井にめり込んでいる俺を見つけて自分が勝ったことを理解した。
「やったー! 勝った勝った!」
大喜びしてはしゃぐリンダさん。
それはいいけど、誰か早く俺をおろしてくれよ!
天井にめり込んだ俺を忘れたまま、みんながリンダさんの勝利を祝っていた。




