生きた伝説 リンダ登場
表彰から数日後、体調も完全に回復したある日、ついにあの人が来た。
「ソーマ、今日は店の掃除当番お前だろ? 玄関掃除してこい」
「はーい」
まだ寝起きで眠いけど、玄関掃除で目を覚ますか。
俺は少しふらつきながら、店の外に出た。
朝の冷たい空気が肌を撫でて、意識が一気に覚醒していく。
が、気持ちよく朝日を浴びていると、明らかに違和感のある物を見つけてしまった。
店の前に、甲冑が置かれてあるのだ。
朝日を反射して神々しい雰囲気すら感じさせるその甲冑は、素人の俺から見ても、かなり高そうに見える。
宝石などで装飾されてるわけではないが、その細かな造形と美しい純白は、見る者全てを引き付ける。
腰に差してある剣も、宝石のように透き通った高品質の魔石が装飾の様に施され、刀身を見なくてもこの剣が並みの物ではないのがわかる。
誰かのいたずらか? いや、それにしては手が込みすぎだよな?
甲冑の中からは人の気配などは感じない。というか、こんなすごい甲冑を着ている人なんているのか?
俺は甲冑に近づいて至近距離からまじまじと眺めた。
「あんまりじろじろ見られると緊張しちゃうんだけど?」
「しゃべった!?」
突然しゃべりだした甲冑におどろいて、俺は腰を抜かしてしまった。
さっきまで棒立ちだった甲冑は、倒れた俺の顔を覗き込むように顔を近づけてきた。
「ちょーっとだけ気配を出してたんだけど、気づけなかった? まだまだ精進がたりないよボク」
「あああ、あなた誰ですか!?」
「それはむしろ私が聞きたいんだけど? なんで私の家から出てきたの君?」
「私の家?」
「おい、ソーマ! 朝からうるせえぞ。何してんだ」
騒ぎを聞きつけて師匠が店の中から顔を出してきた。
「し、師匠! 変な甲冑が店の前にいて、話しかけてきて家が私のとか言ってきて」
「ああ? 何言ってんだおまえ?」
「ドクー! 久しぶりー! 帰って来たよー!」
「ぐお!」
店から出てきた師匠に、甲冑がいきなり抱き着いた。
え!? 知り合いなの!?
「私がいなくてさみしかったー? リンカも家にいるー?」
「ちょ、まておまえ。一旦甲冑を脱げ! 痛いんだよ!」
「あ、ごめーん。今脱ぐね!」
師匠に抱き着いた甲冑は、師匠に言われて頭のヘルムを脱いだ。
中から出てきたのは、綺麗な赤いロングヘアーの美女だった。
いきなり師匠に抱き着いたりして、子供っぽい言動などをしていたが、中に入っていた女性はとても色っぽいお姉さまだった。
「ただいまー! ダーリーン!」
「おかえり、リンダ」
お姉さまは師匠に軽く口づけをして、また師匠に抱き着いた。
ていうか、え!? ダーリン!? といことは?
「ソーマ。紹介するぜ。こいつが俺の嫁のリンダだ」
「よろしくー!」
ええええええええ!?
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「お母さん!」
「ただいまー、リンカ! こっちおいで、抱きしめてあげる!」
「うん!」
甲冑を完全に脱いだリンダさんと師匠に続いて、生活スペースである店の2階に上がると、朝食の後片付けをしていたリンカちゃんがリンダさんにすぐに気づいた。
リンカちゃんはリンダさんの胸の中へダイブして、抱っこしてもらっている。
こんなに子供っぽいリンカちゃんは初めて見た。
「もう! 帰ってくるときは必ず先に連絡してって言ったじゃん!」
「ごめんねー。急にこっちに来ることになったから連絡する暇がなかったのー」
「まあいいじゃねえかリンカ。こうして久々にリンダの顔が拝めたんだから」
「もー今回だけだよ? ちゃんと連絡してくれればごちそう作ってあげれるんだから!」
うん、逃げよう。
無理無理無理。なにこのアットホームな空間。そして俺の場違い感。
このほのぼのとした家族の幸せなひと時に水を差すように俺がこの場に立っているのが非常に痛い。
玄関掃除してガーディアンギルドに行こう。
「おいソーマ。どこ行くんだ。まだお前の紹介をリンダにしてねえだろうが」
「そうだ! ソーマさんの事お母さんに紹介しないと!」
俺が逃げようとするとすぐさま師匠とリンカちゃんに見つかってしまった。
突っ立ってた時は気づかなかったくせに、逃げようとすると気づくんだな。
「リンダ、こいつは今面倒見てやってるソーマってんだ。一応ガーディアンにも登録してるぞ」
「私ソーマさんに森で助けてもらったの! そのお礼に家に案内したんだよ!」
師匠とリンカちゃんが同時に俺のことを説明するものだから、リンダさんが理解するのに少し時間がかかったが、なんとか一通り説明が終わったところで自己紹介をした。
「初めまして、蒼真と言います。ドクさんとリンカちゃんにはお世話になってます。Dランクのガーディアンです」
「初めまして。リンダよ。ところであなた、ガーディアンに登録したばかりって今聞いたけど、もうEランクからDランクに上がったの?」
そうなのだ。実はこの間のゴブリン騒動での俺の功績が認められて晴れて一番下のEランクからDランクへと昇格したのだ。
ギルドに登録して1か月やそこらでDランクに昇格したのはかなり珍しい事例らしい。
まあそのせいでこれまで以上にキャロスティに振り回されて困っているのだが。
「へー、もう昇格するなんてやるねー。将来有望だねー。リンカもなかなか隅に置けないなあ」
「え?」
「ちょっと、お母さん! 私とソーマさんはそういう関係じゃないよ!・・・まだ」
「あれあれー? 顔が赤くなってるぞ。リンカー?」
「もう! からかわないで!」
気が付けばリンカちゃんとリンダさんが2人で仲良く遊び始めてしまった。
やっぱり今日はもうガーディアンギルドに行ってようかな。
家族水入らずの時間を邪魔するほど俺は野暮じゃないし。
俺の後ろで俺目掛けて鉈を振り下ろそうとしている師匠に気づかないほど俺の危機察知スキルは鈍くないし。
俺は何度目かになる2階の窓からのダイブを決めて部屋から逃げ出した。
今日はリンダさんがいるからか、師匠も逃げ出した俺を追ってはこなかった。
俺を追い掛け回すことより、家族みんなで仲良くすることを優先したみたいだ。
俺が2階の窓から飛び降りたのに、師匠が追ってこないのを見て、ご近所さんたちが驚いたり、残念がっているように見えるけど、きっと気のせいに違いない。
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「「なにー! リンダさんがファウードに来てるだとおおおおおお!」」
「うるせえな! そう言ってるだろうが!」
ガーディアンギルドに着いた俺は、現役のSランクガーディアンであるリンダさんが来ていることをみんなに話してみたのだが、俺の予想以上にみんなの反応がでかい。
「今日はクエストの受注は中止だ! リンダさんがギルドに来るまで待機するぞ!」
「リンダさんの好きなデスホーンブルの肉用意しておけ!」
「俺、鎧にサインしてもらお!」
「あ、ずりーぞてめえ! じゃあ俺は背中に書いてもらお!」
なんでこんなに元気なんだこいつら?
確かにリンダさんはすごい美人だけど、人妻だぞ?
これが現役のSランクのカリスマ性なのかね?
俺は引退した元Sランクの所へ行って一緒に酒を飲むことにした。
「そりゃあリンダはあの気さくな性格だから人気も高いんだよ。お前も少し話したんだろ?」
「ええまあ。たしかに人懐っこい感じでしたね」
「ここはリンダの生まれ育った街でもあるから特にリンダはこの街で人気なんだよ」
ガンズさんからリンダさんの人気の理由を少し聞いてみたが、つまりは地元出身の芸能人が地元に凱旋してきたような感じなのかな?
リンダさんの帰還を聞いて騒いでいた連中は誰が先にリンダさんにサインをしてもらうかでまた乱闘を始めていた。
アレン公爵様から頂いた副賞のおかげで懐が暖かい俺は、今日はクエストの受注をやめて、このお祭り騒ぎを楽しむことにした。
ガンズさんから聞ける昔の師匠やリンダさんの話も面白いしね。
その内キャロスティもやってきたが、ギルドの盛り上がりっぷりを見て少し驚きながら、いつもの場所で酒を飲んでいた俺とガンズさんに盛り上がっている理由を聞いてきた。
「ええ!? あのリンダ様がファウードに来てますの?」
「お前もミーハーの仲間か」
「ミーハー?」
「なんでもないよ。気にするな。それより、そんなにリンダさんが来てるのが嬉しいのか?」
「当たり前でしょう!?」
俺の何気ない質問に対して、キャロスティは何言ってんだこいつ? と言わんばかりの表情で説明しだした。
「白騎士の異名を持つ現役のSランクガーディアンですのよ!? 作った伝説は数知れず、救った人は星の数と言われている生きた伝説ですわよ!?」
「いくら何でも言い過ぎじゃない?」
「もう! ソーマは分かってませんわ! そもそもリンダ様は」
俺の反応が気にくわなかったのか、キャロスティはリンダさんについて熱く語り始めた。
俺とガンズさんは酒の肴にキャロスティの話を適当に聞き流していた。
酒もいい感じに回ってきて、いい加減キャロスティの話にも飽きてきたころ、念願の思い人がギルドにやってきた。
「失礼するわよー」
「「来たああああああああああああああ!!!!」」
頭が痛え。大声が頭に響くわ。
ずっと乱闘していた連中はリンダさんが着た途端、ボロボロの恰好でリンダさんの前に駆けつけた。
俺の隣で熱弁を振るっていたはずのキャロスティも、いつの間にかリンダさんの元へと駆け出していた。
祭りの主役のご登場に、ギルドの中のボルテージも最高潮に達していた。
「はいはいみんな騒がないの! え? サイン? 後でしてあげるから、ね? はい通して通して」
駆けつけたファンたちを押しのけて、リンダさんはギルドの奥で飲んでいた俺の元へとやってきた。
あのー、あなたのファンたちが俺を睨みつけて来るのでこっち来ないでください。
俺の気持ちは届かずに、リンダさんは俺のいるテーブルへ一直線にやってきた。
「やっとみつけた。ソーマ君ここにいたんだ? まだお昼前なのにもうお酒なんて飲んじゃって。そのドワーフのおじいちゃんに悪影響受けちゃってるんじゃないの?」
リンダさんはガンズさんのことをおじいちゃん呼ばわりしてさっきまでキャロスティが座っていた椅子に座った。
遠目に顔を真っ赤にしたキャロスティの姿が見えた。同じ椅子に座ったってだけだろうが。
おじいちゃん呼ばわりされたガンズさんは少し不機嫌そうにリンダさんに文句を言った。
「誰が悪影響を及ぼしてるだ。こいつは元から酒好きだよ!」
「ええ! どこに食いついてるんですか!?」
誰が元から酒好きだ。俺に色んな酒を強制的に飲ませてきたのはガンズさんだろうが。
今は確かに少し酒好きだけど。昼前から普通に酒飲むようになったのはこのギルドの影響かな?
「相変わらず元気だねー。ガンズさん。まだ毎日お酒飲んでるの?」
「酒は百薬の長って初代勇者様も言ってたろうが」
何でその言葉を後世に残してるんだよ初代。もう少し勇者らしい言葉を残せよ。
リンダさんはがぶがぶお酒を飲むガンズさんのことを少し窘めながらも、ガンズさんのグラスにエールを注いでいた。
この2人も仲はいいみたいだな。
「で? なんか用か? 用がねえんなら後ろにいるお前のファンの相手をしてやれよ。ギルドの外からもどんどん人が集まってきてんぞ?」
おわ! 本当だ。
気づけばガーディアンじゃない人たちまでギルドの中に集まってきてる。
ガンズさんに指摘されたリンダさんは、なぜか俺の方を見てきた。
その顔はニヤニヤと笑っていて、ろくでもないことを言いそうな顔だ。
「ソーマ君! 私と決闘しよう!」
「は?」
突然現れたこの台風のような人は、まだまだ旋風を巻き起こし足りないようだ。
あー、今すぐにでも逃げたいけど、人が邪魔で逃げらんない!
もう勘弁してくれ!
新年あけましておめでとうございます!
今年からは投稿回数を減らしていきますので、よろしくお願いします。
その分、定期的にちゃんと更新していけるように頑張ります。




