異世界に来れて
気が付くと、すっかり見慣れた天井が視界に入ってきた。
俺が貸して貰っている師匠の家の一部屋だ。
この部屋の匂いか嗅ぐと心が落ち着く。
この家は、俺にとっては第二の実家と言えるぐらいに親しみ深いものになっていたんだな。
確か、俺はノラの森で戦っていたはず。
その後気を失ったんだっけ。あの後誰かが俺はここまで運んできてくれたのか。
ベットから上半身を起こしてみたが、まだ少し筋肉痛のような痛みが全身に残っている。
だが動けないほどではないな。
俺がベットから降りようとしていると、部屋のドアが開いた。
ドアの向こう側には水の入った桶とタオルを持ったリンカちゃんがいた。
「ソーマさん! 気が付いたんですね! よかった!」
リンカちゃんは手に持っていた桶のことなど忘れて、俺に抱き着いてきた。
あーあ、落とした桶の水で床が水浸しになっちゃった。
「よかったです! ソーマさん全然目を覚まさないから、もう起きないんじゃないかと思って怖かったんですよ!」
俺の胸の中に顔をうずめるリンカちゃんの目には涙が溜まっていた。
相当心配させてしまったみたいだな。
「心配させてごめんね、リンカちゃん」
「本当ですよ。本当に心配だったんですからね? この埋め合わせはしてもらいますからね?」
「埋め合わせ!?」
な、何を要求してくるんだろう?
常識的な範囲にしてもらえるといいけど。
「おう、ソーマ。目覚めたのか?」
「あ、師匠。はい、先ほど目が覚めました」
リンカちゃんが開けっ放しにしたドアから今度は師匠が顔を出してきた。
俺に抱き着くリンカちゃんを見て、額に青筋を浮かべているが、流石に今の俺に襲い掛かっては来ないようだ。
「体の調子はどうだ?」
「まだ少し体が痛いですが、動くことは出来そうです」
「ち、そうか」
今舌打ちしたよねこの人?
まあ、深くは考えないでおこう。
「俺、どのくらい寝てたんですか?」
「3日ぐらいだな」
「そんなに」
3日も寝てたのか。
そりゃあリンカちゃんが不安になるわけだ。
その後、落ち着いたリンカちゃんには席を外してもらい、師匠から詳しく話を聞いた。
スピリットイーター撃破後、仮面の男は姿を消してしまい捕まえることはできなかったらしい。
ゴブリンもほぼ駆逐することが出来たので、すぐに街に帰ったとのこと。
驚いたのがファウードの方。
負傷者の手当てをしていたリンカちゃんが、仮面の男の仲間と思われる黒いローブを着た男と戦ったとか。
その後、その男が戦場にドラゴンを召喚したとか。
俺の思っていた以上にファウードでの戦いも激戦だったようだ。
オリガンさんが駆けつけてくれたおかげでなんとかゴブリンを撃退することが出来たと師匠は言っていた。
上級魔法を連発してゴブリンを殲滅したとか、何その非常識?
オリガンさんは怒らせないようにしようと心に誓った。
ゴブリンを殲滅した後、神滅教? とか言う宗教の司祭を名乗るクロウウェルと言う男が襲撃してきたらしい。
せっかく捕えた黒ローブの男を殺された上に死体まで回収されて逃げられたとか。
オリガンさんは今屋敷でその神滅教とやらについて調査しているそうだ。
その後は特に問題もなく、街の復興は順調とのこと。
と言うかゴブリンは街の中には入れなかったので、街の被害は最小限で済んでいた。
ただ、クーティ先生のお店が黒ローブの男に壊されてしまったらしい。
倒壊している我が家を見て錯乱したクーティ先生が、町中で魔法を連発しそうになったとか。
それを止めてくれたのが、なんとファウードの領主のアレン公爵だったらしい。
アレン公爵は王都ジンからガーディアンを大量に引き連れて、アルネロさんたちの予想よりだいぶ早く駆けつけてくれたそうだ。
なんでも、兵を動かすには時間がかかるため、フットワークの軽いガーディアンにファウードの防衛を依頼して、アレン公爵自らガーディアンたちを引き連れて真っ先に帰って来たらしい。
兵の派遣はアレン公爵の実の兄にあたるグレン国王に丸投げした上に、勝手に会議を抜け出して来たのだそうだ。
なかなか破天荒な領主様だな。
そのアレン公爵はクーティ先生の悲鳴を聞きつけてやってきて、お店の修理代は全額アレン公爵のポケットマネーから出すと約束してくれたらしい。
それでようやくクーティ先生の怒りは収まったとのこと。
今はアレン公爵が連れてきた王都のガーディアンたちが街の復興と街の周辺の治安維持、並びにノラの森の監視を行ってくれているそうだ。
なんでも、ファウードのスラム地区から避難した人たちのなかに、盗賊などの犯罪行為に及ぶ者が続出しているそうで、現在治安が悪化中とのこと。
だが、いい報告も聞けた。
俺と同じ突入組だった魔法使いのヘイスさんが所属していたCランクパーティ・フォレストハンターのメンバーが生きていたのだ。
死んだものと思われていたヘイスさん以外のフォレストハンターのメンバー3人は、ノラの森の中にある洞窟に身を隠していたらしい。
全員深手を負っていたが、命に別状はないらしく、回復したらまたガーディアンとして活動できるそうだ。
街の大半の人が避難してしまったため、現在あちこちで人手不足が起きているらしいが、逆に人が少ない分食料の供給は行き届いているらしく、街の被害も最小限に食いとどめることが出来たので特に大きな問題は起きてないとのこと。
と言うか師匠の話ではアレン公爵が辣腕ぶりを発揮しているおかげらしい。
グレン国王から半ば強引に許可を取り付け、王都から人と資材と食料をかき集め、避難した人たちが街に戻ってこられるように回収班を結成して各地に散った街の人たちを無料で街まで運んでもいるとのこと。
俺は面識がないのだが、アレン公爵はなかなかの傑物のようだね。
街の公共機関はほぼすべて通常業務に復帰したらしく、お店を再開する人も増えてきているそうだ。
師匠の薬屋も現在注文が殺到中とのこと。まだ怪我が治りきっていない兵士も多く、薬が品薄状態らしい。
「あ、そうだ。おまえせっかくこのタイミングで目が覚めたんだから明日の表彰式には参加しろよ?」
「表彰式? なんのですか?」
「今回の騒動で活躍したやつらを表彰すんだと。お前も活躍したってアルネロから聞いてるから、アレン公爵様がぜひ表彰したいってよ」
「ええー!? 嫌ですよそんなの! はずかしい」
「いいから参加しろ。俺も表彰される予定なんだよ。お前も俺と一緒に恥ずかしい思いをしろ。つーかリンカも表彰される予定だぞ」
「この家の住人全員表彰されるんですか? それはそれですごいですね?」
「アレン公爵様が奮発して、結構な人数を表彰するらしい。副賞として金も貰えるってよ」
「それは嬉しいですね」
じゃあお金だけ頂けないかな? ・・・無理だよね。
とりあえず表彰式には強制参加させられることになった。
その日のリンカちゃんは俺が起きたのが相当嬉しかったようで、師匠との話が終わった後はずっと俺のそばから離れなかった。
ちなみに、監視のために師匠もずっと俺から離れなかった。薬を作らなくていいのだろうか?
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次の日、表彰式はゴブリンとの戦闘があった北側外壁の外で行わることになった。
俺と師匠とリンカちゃんが来た頃には、既に大勢の街の人たちが集まっていた。
ここでこれから表彰されるのか。・・・逃げよう。
「どこに行くんだソーマ? 受賞者の控室はあっちだぜ?」
「いやー! 話してくださいアルネロさん!」
こっそり逃げようとした俺は、たまたま近くにいたアルネロさんに捕まった。
そのままアルネロさんに引っ張られて控室まで連行されてしまった。
「はあああ」
「そんなに緊張すんなよ。自然にしてりゃあいいんだよ」
「そもそもアルネロさんが俺のことを変に持ち上げて報告したせいでこうなったんでしょう?」
「何言ってんだよ? お前はよくやったよ。表彰されるだけの仕事はした。間違いなくな。自信を持て」
表彰式が始まる時間が迫り、控室には徐々に人が集まってきていた。
まあ、基本知り合いしかいないけどね。
ラインベルさん、クーティ先生、ダリアさん、ガンズさん。師匠にオリガンさん、アルネロさんにレオナルさん。リンカちゃん。あとハドルさんもいた。
ハドルさんの診療所には何回か薬を運びに行ったことがあるから、ハドルさんとは顔見知りではあったけど、師匠からハドルさんが元騎士だと聞かされた時はおどろいた。
師匠は知っていたみたいだけど、ハドルさんに余り言いふらさないように言われていたらしい。
まあ、元騎士が医者を務めているなんて言われたら、腕を信用出来るのか出来ないのか判断に迷うよね。
全員顔見知りと言うことで、控室の中ではみんなで気軽に雑談をしていた。
この時、リンカちゃんが固有魔法を使えるようになったと初めて聞いた。
昨日はその話は聞いていなかったな。俺の方の話ばかりしていたし。
リンカちゃんの固有魔法は結界魔法と言うそうだ。
まだ1つしか魔法が使えないらしいが、回復効果のある魔法らしく、クーティ先生やオリガンさんがその魔法の効果を聞いて少し驚いていた。
上級の回復魔法に匹敵する回復量の上に、結界の範囲内にいる全員に効果が出るといことで、結界と言うよりも、範囲回復魔法に近いらしい。
クーティ先生とオリガンさんが何やら話し込みだしたが、リンカちゃんの次は俺の固有魔法に話が移った。
「ソーマがあの時俺の魔法を強化したのも、お前の固有魔法なのか?」
「そうですよ。俺の固有魔法は増加魔法です」
「「増加魔法?」」
まあいまいちピンとこないよね?
話し込んでいたクーティ先生とオリガンさんも俺の話を聞いていたようだが、いまいちよくわからないと言う顔をしていた。
俺の増加魔法は、その名の通り様々なものを増やせる魔法だ。
俺がノラの森で発動した固有魔法マキシマイズは、魔法の威力を増加させる魔法になる。
アルネロさんの上級魔法ヴォルカニックキャノンに、マキシマイズの魔法を重ねがけしたことで、威力が増加されて進化したスピリットイーターでも防ぐことが出来ないほどの威力にまで上がったのだ。
「リンカちゃんの魔法も強力だけど、ソーマ君の魔法も大概ね」
「そうね。魔法の威力を格段に引き上げる魔法なんて脅威ね」
クーティ先生とオリガンさんの師弟コンビは俺の説明を聞いて、俺の固有魔法の恐ろしさを理解したらしい。
と言っても、アルネロさんの上級魔法に1回かけただけで3日も寝込むことになったんだけどね。
おそらく、固有魔法は属性魔法よりも体への負担が大きいのだと思う。
一度使ってみて何となくわかったのは、属性魔法を使ったときは魔力を消費するだけだが、固有魔法のときは体にも負担を感じたのだ。
魔力と一緒に体力も消費したような感じがした。
マキシマイズを発動した後に来た全身の筋肉痛の正体は、固有魔法を発動したことで体力を大きく消耗したせいだと思う。
特に、あの時は初めての使用なのに上級魔法を強化したものだから特に反動が大きかったのだろう。
そんな話をしていたら、表彰式の時間が来てしまった。
役場の職員が控室にいた俺たちを壇上に呼びに来た。
うあー、緊張する。平常心を増加させる固有魔法はないのかな?
俺たちが壇上に上がると、溢れんばかりの歓声が巻き起こった。
壇上で俺たちを待っていてくれたアレン公爵様は、立派なカイゼル髭を生やした壮年の男性だった。
立派な体格の渋いおじさん、いや、おじ様って感じかな。
1人ずつアレン公爵様に呼ばれて表彰状と副賞を頂いて行った。
常駐軍を代表してラインベルさんが賞状を受け取り、師匠、ダリアさんクーティ先生は街の防衛に大きく貢献したことを評価され、ガンズさんとアルネロさんとレオナルさんは、困難な仕事を無事にやり遂げ、事件の終息に大きく貢献したことを評価されていた。
リンカちゃんとハドルさんが賞を受け取ったときは特に大きな歓声が上がった。
リンカちゃんが街のみんなに大人気みたいだ。隣のハドルさんは少し気まずそうにしていたけどね。
最後に呼ばれたのは俺だった。
「ソーマ殿、今回のノラの森での貴殿の働きを高く評価し、この賞を授ける」
「謹んでお受けいたします」
先に受賞した他の人のセリフをまるパクリして、俺は賞状を受け取った。
賞を受け取った俺が後ろを振り向くと、大勢の人が俺に拍手を送ってくれた。
俺はつい足を止めてその光景に見入ってしまった。
この異世界に来てから、俺はちゃんと前に進めているのか正直不安な気持ちもあった。
でも、今日まで努力した日々は決して無駄ではなかったと、今なら胸を張って言えそうだ。
こんな大勢の人に感謝されるようなことを自分がしたなんて、今一つ実感がないが、それでも、俺はこの世界に来れて幸せだと、心から思った。
地球にいる家族や友達のみんな、俺はこの世界で楽しく生きてるよ!
皆さま、新年開ける前におめでとうございます!
今回で第一部、リンカちゃんヤンデレ化編(仮)は終了になります。
最後の方は投稿が出来ない日が多くなったりとグダグダになってしまいましたが、なんとかここまでこれました。感想を書いて頂いた皆様、ここまで読んでくださったみなさま、本当にありがとうございます。
来年からは第二部、蒼真修羅場編(仮)が始まります。
週2回、月曜と金曜の投稿に変更致しますので、よろしくおねがいします。
最後に、来年の目標を発表したいと思います。
来年はブックマーク登録者数50人と総PV数10万越えを目標に頑張りたいと思います。
皆さま、来年も「魔導書と歩む異世界ライフ」をどうぞよろしくおねがいします!
ちなみに、1月1日が月曜日なので、明日も投稿いたします。
ぜひ見に来てください。
新キャラも出るかも?




