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魔導書と歩む異世界ライフ  作者: ムラマサ
ファウード騒乱編
37/78

大きな誤算と勝利の反動

 「茨の棘は触れた物を削り取るのか。これでは近づくのも容易には出来ないな。よくできているじゃないか。やはり、人の近くにいることで知性の向上が図れるかも知れないというあの方の予想は正しかったようだな」


 枝の上から戦場全体を見下ろしながら、仮面の男は進化したスピリットイーターの観察をしていた。

 眼下の戦場では、スピリットイーターが敵を蹂躙していた。

 唯一の不安要素としては、元Sランクだと言うドワーフが茨を薙ぎ払いながらスピリットイーターに向かっていることだ。


 「だが、奴の武器では進化した今のスピリットイーターの茨には勝てない。あのギルドマスターの魔法とて効きはしないだろう」


 ギルドマスターのアルネロの考えは正しい。

 いくら進化して弱点を補おうとも、弱点を完全になくすことはそう簡単には出来やしない。

 しかし、今のスピリットイーターを倒せるだけの火力となると、上級の火属性魔法でも厳しいだろう。


 「スピリットイーターの勝利が揺るぐことはない」


 ガンズの活躍によってスピリットイーターに接近することに成功したアルネロたちだったが、結果は仮面の男の予想通りだった。

 アルネロの放った上級魔法は、スピリットイーターに届かなかった。


 「火属性の上級魔法の中でも特に高火力を誇るヴォルカニックキャノンを選択したか。火力の高さを最優先に選んだのは正解だろう。だが、ヴォルカニックキャノンでは少し火力が足りなかったな。やはり、今のスピリットイーターを倒すには極大クラスの魔法が必要か」


 一般的に、極大魔法でなければ倒せないモンスターは最高ランクのSランクに該当する。

 進化した今のスピリットイーターは最高ランクのモンスターに匹敵するということになる。

 仮面の男の見ている先では、アルネロの腹を茨が貫通していた。


 「ふむ。ギルドマスターが負傷したことで奴らの気力も尽きたか。もう少し観察したかったが、奴らではここまでが限界か」


 ここまでみんなをまとめ上げてきたギルドマスターの負傷により、敵の戦意はほぼなくなった。

 今だ戦意を維持しているのはガンズのみであった。

 これでここでの戦いも終わったか。仮面の男がそう思った時、ガンズ以外に1人だけ、まだ戦意を失っていない者がいた。


 「みんな! まだだ、まだ手はある!」

 「ん? 炎を手に纏わせていた小僧か。お前に何が出来ると言うんだ」


 仮面の男には、蒼真の言葉は強がりにしか聞こえなかった。

 だが、蒼真の言葉信じて、みんなの目に再び気力が戻ってきた。

 

「どうせ無駄だ。存在しない希望に縋りつく哀れな奴らだ」


 まだ戦おうとする蒼真たちの姿は、仮面の男には哀れな存在にしか見えなかった。

 蒼真は、最後の力を振り絞った仲間たちのおかげでアルネロの元へとたどり着いた。

 どうせ無駄に終わると思いながらも、蒼真がどんな手を使うのか、仮面の男は少しだけ興味を引かれた。


 「アルネロさん! さっきと同じ魔法をまたスピリットイーターに撃ってください」

 「ふん。何をするかと思えば。2発目なら効くとでも思ったか? 無駄に決まってるだろうが」


 蒼真の発言を聞いて、仮面の男の興味はなくなった。

 結果は分かり切っている。そう仮面の男は思った。

 だが、蒼真を信じたアルネロは、もう一度ヴォルカニックキャノンを撃ってきた。


 その光景を見た仮面の男はやはりただ2発目を撃っただけかと落胆した。

 先ほどとまったく同じ魔法をただ撃っただけでスピリットイーターに傷を負わすことなどできるはずがない。


 「マキシマイズ!」

 「ん? なんだ!? ヴォルカニックキャノンが膨張している!?」


 蒼真が何かの魔法を発動した途端、ヴォルカニックキャノンがどんどん膨張していき、最初の3倍近いサイズにまで膨れ上がった。

 茨で身を固めたスピリットイーターに当たったヴォルカニックキャノンは、先ほどとはけた違いの威力を発揮した。


 直撃したヴォルカニックキャノンの閃光で、とっさに目を閉じた仮面の男は、閃光が収まったのを確認して、ゆっくりと目を開けた。

 ヴォルカニックキャノンの当たった場所はクレーターになっていた。

 そしてその中央には、スピリットイーターと思われる黒焦げになった物体があった。


 「何が起きた? やられたのか? そんな、そんな」


 仮面の男には目の前の現実が受け入れられなかった。

 先ほどのヴォルカニックキャノンの威力、極大魔法にも匹敵するものだった。

 そんなことがありえるのか? 魔法の威力を上げた? あの小僧の固有魔法か?

 仮面の男の頭の中を様々な予測が飛び回る。


 しかし、いくら考えてもスピリットイーターがやられた事実は変わらない。

 少しして現実を受け入れた仮面の男は、この場からの撤退を決めた。

 スピリットイーターがやられた以上、この場に残る理由はない。


 「大丈夫だ。やられはしたが、データは取った。手塩にかけたスピリットイーターがやられたのは残念だが、スピリットイーターの量産にはすでに成功している。ゴブリンの増加と操ることにも成功した。ここでの実験はおおむね成功と言えるだろう」


 自分に言い聞かるように呟いた後、仮面の男はシャドウゲートの魔法で木の枝の上から消えた。


-----


 成功した。スピリットイーターを倒した!

 俺の固有魔法がうまくいったんだ!


 「やったー!」

 「おおおおおお!」

 「やりやがった!」



 クレータの中央で横たわるスピリットイーターの残骸には、動く気配がない。

 ガンズさんが近づいて確認したが、間違いなく死んでいた。


 戦場は勝利の雄たけびに包まれた。

 絶望的な状況から、俺たちは勝利をつかむことが出来たのだ。

 俺の近くにいたアルネロさんが、勝利に喜ぶ笑顔で俺に話しかけてきた。


 「やったなソーマ。お前の手柄だ」

 「はりがとうございまふ」

 「おい、どうした?」

 「体にひからが入りまふぇん」


 やっぱり上級魔法にマキシマイズの魔法をかけたのは無謀だったか。

 せっかくスピリットイーターを倒せたのに、今の俺は指一本動かせないぐらい疲弊していた。

 魔導書から魔力を供給してもらっている俺は魔力切れを起こさないはずなのに、全身酷い筋肉痛になってしまった。


 「あ、だめだ。もう意識が保てない」

 「寝ていいぞ。後は俺たちに任せろ。お前はよくやったよ」


 アルネロさんのその言葉を聞いた直後、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 


 

今回は内容が短く成ってしまいました。すみません。

年末年始は忙しくてなかなか時間が取れません。

やっぱり来年からは週2回にします。

無理せずのんびり投稿を続けたいですから。

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