決着
「素晴らしい。素晴らしい進化だ」
スピリットイーターの進化を木の枝の上から見ていた仮面の男は、スピリットイーターの進化に感激していた。
弱点である火に対する高い耐性。
リーゼアイヴィゴーレムを一撃で倒す威力の攻撃に耐える物理防御力。
進化前とは格段の防御力を身に着けた進化を果たしたスピリットイーター。
まさに、追い込まれたこの状況だからこそ至ることのできた進化だろう。
窮鼠猫を噛むのごとく、追い込まれたときだからこそ至れる強さもある。
今のスピリットイーターなら、集まった敵どもを単騎で全滅できる。
仮面の男はそう確信していた。
「さあガーディアンども、早く抵抗して見せろ。お前たちで進化したスピリットイーターの実力を試させてもらう」
防御力の飛躍的な向上は確認できた。
では、攻撃の方はどうか?
それを確認するためのちょうどいいモルモットがこの場には大勢いる。
「さあ見せてくれ、スピリットイーター。進化したお前の力を」
スピリットイーターの新たなる可能性を前にして、仮面の男の興奮は最高潮に達していた。
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「わしに続けえええ!」
ガンズさんを先頭に、スピリットイーターの作り出した大量の茨へ向かって俺たちは突撃を開始した。
この茨がアルネロさんの攻撃の邪魔をしないようにするのが俺たちの仕事だ。
だが、この茨が強すぎた。
「くそ! この茨硬すぎるぞ! 刃が食い込まねえ」
「抑え込め! 攻撃が無理でも抑え込んで無力化するんだ!」
「無理だ! 力も強い! 数人がかりでも抑え込めない!」
進化して蔦から茨になったことで、さっきまで効いていた攻撃は一切効かず、抑え込むこともできない。
更に厄介なのは茨の棘だ。
茨に付いている棘も頑丈で、茨の攻撃を防御しても、盾や鎧を棘が削り取ってくる。
何度も防御を繰り返せば、その内盾や鎧が使い物にならなくなる。
俺のガントレットもそうだ。
茨の攻撃をガントレットで防御したら、茨の棘がノコギリの様にガントレットの表面を削ってしまった。
あと数回同じことをしたら完全にガントレットが壊れてしまう。
攻撃は効かず、抑え込むことも出来ず、下手に近づけば盾や鎧を壊される。
いくらなんでも凶悪に進化しすぎだろう。
まさに武器や鎧を無効化することに特化した茨だ。
「どっせい!」
みんなが茨に手こずる中、ガンズさんは茨に果敢に攻撃を繰り返していた。
茨を切断することは出来ていないが、茨を吹き飛ばすことは出来ている。
ガンズさんの巨大なハルバードが、襲い掛かってくる茨を片っ端から吹き飛ばしていった。
ガンズさんの後ろを追って走っているのは、アルネロさんだ。
ガンズさんが茨を吹き飛ばすことで作った道を通り、魔法の発動準備を整えている。
このままスピリットイーターのところまで行ければいいが。
「ソーマ! 茨が来てるぞ!」
「やば!」
アルネロさんたちに気を取られている内に、一本の茨が俺目掛けて一直線に向かってきていた。
茨は俺の正面から迫って来ているが、これなら魔法を当てるのも簡単だろう。
「ファイヤーボール! フレアランス! サーペントフレイム!」
俺の使える火魔法を3連発でぶつけたみたが、茨はびくともしない。
やはり火力が足りないか。
ガントレットにフレイムウェアーを纏わせて殴ってみても、ガントレットが壊れるだけだろう。
俺の使える火魔法で最高火力を誇るサーペントフレイムが効かない時点で、初級の火魔法はすべて効かないと考えるべきだな。
「アースピット!」
火魔法を放っている内に、茨はすぐ目の前まで来ていた。
俺は前に使ったのと同じ手で、足元に穴を掘ってそこに逃げ込んだ。
俺の頭すれすれを茨が通過した。危なかった。
どうしても火力が足りなくて、俺の魔法では茨にダメージを与えられない。
俺と同じく、中級までしか火属性の魔法を使えないヘイスさんも同じだろう。
中級の火魔法をまだ覚えていないキャロスティにも、茨を燃やすのは無理だ。
本当にアルネロさんの攻撃は効くのか?
だんだん不安になってきた。
だが、今はアルネロさんを信じてがんばるしかない。
せっかく火属性に適正を持っているのに、火力不足で手が出ないのは悔しい。
しかし、ゴブリンもいなくなった現状では、ゴブリンを倒してMDを稼ぐことも出来ない。
そもそも、今のスピリットイーターに効きそうな上級の火魔法など、あといくらMDをため込まないと習得できるか分からない。
どうにか、どうにかして火力を増やせないか?
今だ俺の頭上を通過中の茨が通り過ぎるまでの間、俺は穴の中で思考を巡らせた。
俺にこの茨は倒せないのか?
その時、指輪に変形している魔導書が、一瞬光ったような気がした。
なんだ? でも特に変化は感じられない。新しい魔法を習得したわけでもないようだ。
でも、魔導書から何かを感じる。俺と魔導書の繋がりが強くなってきているような気がする?
「茨を抜けたぞ! 後は頼んだ、アルネロ!」
遠くからガンズさんの声が聞こえた。
大量の茨を通り向けて、スピリットイーターの元までたどり着いたようだ。
もう頭上の茨も消えていた。俺は穴から外に出て、ガンズさんとアルネロさんを探した。
大量の茨を抜けた先、スピリットイーターの近くにガンズさんとアルネロさんの姿があった。
本体であるスピリットイーターを守ろうと、茨が一斉にアルネロさんの方に向きを変えた。
おかげで今なら俺でもスピリットイーターに近づける。
今の俺に何が出来るか分からないが、俺は全力で2人のいる方向へと走った。
スピリットイーターと対峙しているアルネロさんの手のひらの上には、溶岩を丸く押し固めた様な球体が浮かんでいた。
あれがアルネロさんの切り札か。
「こいつで決まりだ! くらえ、ヴォルカニックキャノン!」
スピリットイーター目掛けてアルネロさんが魔法を放った。
スピリットイーターに動く様子はない。避けるのを諦めたのか?
アルネロさんの放った火属性の上級魔法は、すごい速さでスピリットイーターへ迫った。
これなら当たる!
俺がそう思った瞬間、スピリットイーターの足元から、新しい茨が出てきた。
その茨は、地面から5本ほど生えてきて、スピリットイーターを包み込んだ。
茨がスピリットイーターを包み込んだ直後に、アルネロさんの魔法が直撃した。
戦場に凄まじい轟音が響き渡った。
魔法が当たった場所は煙が立ち込めて様子がうかがえない。
だが、周りの茨は動きを止めている。
倒したのか?
薄っすらと煙の中が見えて来た時、煙の中から茨が飛び出してきて、アルネロさんを貫いた。
「ぐはっ!」
アルネロさんのお腹を茨が貫通している。
アルネロさんはその場で片足を地面に着けて、口から血を吐いた。
「アルネロー!!」
アルネロさんに一番近い位置にいたガンズさんがすぐさまアルネロさんの元に駆けつけた。
ガンズさんが駆けつけるよりも先に、アルネロさんを貫いた茨は再び煙の中へと消えていった。
そして、煙が完全に晴れると、そこには五体満足なスピリットイーターがいた。
茨はアルネロさんの魔法の高熱でいくらか溶けていたが、茨に包まれていたスピリットイーター本体にはダメージが届いていなかった。
あと少し、あと少しだけ火力が足りなかったのだ。
「あれでもダメなのか!」
無事な姿のスピリットイーターを見て、ガンズさんが叫んだ。
ガンズさんは負傷したアルネロさんを後ろに隠し、その手に持ったハルバードをスピリットイーターに向けて構えた。
アルネロさんをかばいながらスピリットイーターと戦おうとするガンズさんだったが、戦場で武器を構えているのはガンズさんだけだった。
アルネロさんの魔法でスピリットイーターを倒せなかったこと、そのアルネロさんが重傷を負ったことで、残っていた僅かな希望が潰え、みんなの心が折れてしまったのだ。
もう勝てない。
唯一の希望だったアルネロさんの上級魔法はスピリットイーターに届かなかった。
俺の心を絶望が黒く染めていくのを感じた。
その時、俺の心に温かい光が届いてきた。
これは、魔導書?
魔導書が俺の心に光を届けてくれているのか?
指輪状態の魔導書が薄っすらと光り、俺の心を温めてくれているのがわかる。
俺にまだ戦えっていうのか? でも俺の攻撃ではあの茨は突破できない。
魔導書から送られてくる温かい光と一緒に、何かが俺の頭の中に入って来た。
俺はその何かが何なのかすぐには理解できなかった。
が、少しづつ、魔導書が俺に何を伝えようとしているのかが分かって来た。
これは、この情報は、俺の固有魔法だ!
魔導書は俺に、俺の固有魔法の使い方を教えてくれているんだ。
俺の頭の中に送られてくる情報が整理されていく。
俺の固有魔法の正体がわかった。
この魔法なら、勝てるかもしれない!
「みんな! まだだ、まだ手はある!」
俺は絶望して死を受け入れようとしている仲間たちに声をかけた。
まだ、最後の希望が残っている。
俺の声を聴いて、みんなの視線が俺に集まる。
「俺に手を貸してくれ! 俺に作戦がある!」
俺の言葉を聞いて、みんな半信半疑と言った反応を示した。
今更お前に何ができるんだと、みんな思っているのだろう。
どうすればみんな俺に力を貸してくれるんだ?
みんなの心を動かすにはどうすればいいのか?
俺がみんなに声をかけようとすると、みんなの方から俺に声をかけてくれた。
「しょうがねえな。手を貸してやるよ!」
「失敗したら許さねえからな!?」
「ヘマすんじゃねえぞ!」
「我々はソーマ殿を信じます!」
「パピ-!」
「みんな!」
みんな俺の言葉を信じてくれた。
みんなの目には希望の光が戻っていた。
こりゃあ何が何でも成功させないとな!
俺たちが息を吹き返したのを察知したのか、動きを止めていた茨が動き出した。
俺が何かしようとしていると察したスピリットイーターが、俺に向けてすべての茨を向けてきた。
ちょっ! これは流石に避け切れない!
「走れ! ソーマ!」
「道は俺たちが作る!」
みんなが俺に向かってくる茨の前に立ちはだかってくれた。
「うおおおおおおおおおお!」
「受け止めてやるう!」
「ソーマの邪魔はさせねえぞ!」
みんなのおかげで、俺の元まで茨は一本も来なかった。
俺はみんなが作ってくれたこのスキに、アルネロさんとガンズさんの元まで一気に近づいた。
「アルネロさん! 魔法、まだ撃てますか?」
アルネロさんはお腹を押さえながら俺の質問に答えてくれた。
「当たり前だろう。俺をなめんじゃねえ」
俺はアルネロさんに肩を貸して、アルネロさんを立たせた。
「アルネロさん! さっきと同じ魔法をまたスピリットイーターに撃ってください」
「でもそれじゃさっきと同じじゃねえか」
「俺を信じてください! 今度は上手くいきます」
「よく分らんが、分かった」
アルネロさんは再び右手にさっきの魔法を作り出した。
俺たち目掛けて来る茨は全部ガンズさんやみんなが命懸けで止めてくれている。
「いいか? 撃つぞ?」
「はい!」
「ヴォルカニックキャノン!」
アルネロさんの魔法が打ち出された。
今だ!
「マキシマイズ!」
俺の固有魔法が発動し、ヴォルカニックキャノンのサイズがどんどん大きくなっていった。
最初のサイズの3倍近い大きさまで膨らんだヴォルカニックキャノンがスピリットイーターへと飛んで行った。
スピリットイーターは、すかさず自分の体を茨で包み込んだ。
しかし、今度の攻撃はそのぐらいでは防げない。
大きく膨らんたヴォルカニックキャノンがスピリットイーターにぶつかった瞬間、まばゆい光が戦場を包み込んだ。
「これで終わりだ」
光が収まると、スピリットイーターのいた場所にはクレーターが出来ていた。
クレーターの表面はガラスになっている。
ヴォルカニックキャノンの高温で地面がガラス化したのだ。
そして、クレーターの中心には、真っ黒に焦げたスピリットイーターだったものが倒れていた。
俺たちの勝利だ。
大分遅れましたが、なんとか急いで仕上げました。
最近投稿休みがちですみません。
明日も投稿休みます。
すみません!




