新たなスタイル
予想外の展開で始まったノラの森での最後の戦いは、ガーディアンの優勢で進んでいた。
「ゴブリンどもを蹴散らせー!」
「「おおおおおーー!!」」
一気呵成に攻め込む突入組の勢いは、溢れかえる大量のゴブリンを次々と蹴散らしていった。
今回の大騒動も、この戦いで勝利出来れば落ち着くことだろう。
もう魔力の温存はなし! アルネロさんから全力で暴れろとの許可が出た。
と言うわけで、俺はさっき習得した新魔法を惜しみなく披露することにした。
「サーペントフレイム!」
火属性中級魔法サーペントフレイム
蛇の形をした炎の塊が、空を泳ぐように飛んでいき、対象を燃やす魔法だ。多少の追尾性能もある、使い勝手のいい魔法だ。
「いつの間に火属性の中級魔法を使えるようになってたんですの!」
ついさっき覚えました。なんて言えるわけないよな。
キャロスティは、俺が火属性の中級魔法を使えるのが羨ましいみたいだ。
まあ、火属性が苦手って言ってたもんな。
「ですが! わたくしだって負けませんわよ! くらいなさい、アイスガイザー!」
キャロスティが魔法を発動した直後、ゴブリンが特に密集していた場所に水が噴き出し、その直後ゴブリンごと水が凍り付いた。
アイスガイザーは確か水属性中級魔法だったはず。
指定した場所から水が噴き出し、その噴き出した水が対象ごと凍って、砕ける魔法だ。
今のアイスガイザー、20匹近い数のゴブリンを凍らせてたぞ。
こりゃあ、調子に乗っていると俺もキャロスティに引き離されちまうな。
だが! 俺の新魔法のお披露目はまだあるぞ!
「フレイムウェアー!」
新しい魔法を発動すると、俺の両手のガントレットが炎に包まれた。もちろん、腕が燃えているわけではない。
火属性初級魔法フレイムウェアー
指定したものに炎をまとわせる魔法だ。今は自分の両手を指定しているから、俺の両手のガントレットが炎を纏っているのだ。この状態で
「スマッシュブロウ!」
ツヴェイト師匠の元で訓練して習得した格闘術のアーツ、スマッシュブロウ。
殴る威力を増加させるこのアーツに、フレイムウェアーを合わせれば、殴られたゴブリンはあっというまに火だるまになって吹き飛ぶ。
格闘戦主体の俺にはぴったりの魔法だと思って真っ先に取得してみた。
これこそ俺が考えていた魔法と格闘術の融合だよ! やっぱり自分の手で殴り飛ばすとスカッとするね。
今後も、格闘術と相性のよさそうな魔法は優先的に取得して行こう。
俺の周りでも、みんなアーツを使いまくってガンガン押しまくっている。
ゴブリンの数は多いが、突入組はその名の通りゴブリンの群れの中へどんどん突入して行っている。
目指すは広場の中央にそびえる巨大な木だ。
そこに、今回の騒動の原因と思われる仮面を付けた黒ローブの男と、スピリットイーターと言う名のモンスターがいる。
まだ魔力には余裕があるし、このままガンガン押していくぞ!
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巨大な木の枝の上で、フクロウの仮面を付けた黒ローブの男が、下で戦うガーディアンたちを眺めていた。
「連中の戦力は想定以内だな。スピリットイーターの餌に丁度いいだろう」
蔦が絡まって人の形になっている少女のようなモンスターが、男の周りをせわしなく動き回っている。
表情豊かなそのモンスターの今の顔は、まるでお預けをくらっている子供のようだ。
下で戦っているガーディアンと、近くにいる男を交互に見てはそわそわしている。
「わかったわかった。食べていいぞ。連中の程度は知れた。お前が負けることは万が一にもないだろう」
「フフフフ」
男の許可を得たモンスター、スピリットイーターは嬉しそうな表情を浮かべた。
プレゼントを貰った子供のようなその表情は、これからガーディアンたちを食べられる嬉しさから出てきたものだ。
スピリットイーターは、蔦で出来た両手を下に向けて伸ばした。
ゴムの様に伸びる両手はやがて地面に当たり、そのまま地面の下まで潜っていった。
スピリットイーターの参戦により、戦場はより混沌を極めていく
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スピリットイーターが何かを始めたようだ。
突然上空から何かが落ちてきたと思えば、それは上空にいるスピリットイーターの両手だった。上空から何十メートルも伸びた腕は、地面に潜っていった。
「気を付けろ! 敵が何か始めたぞ!」
異常に気づいたアルネロさんが、すぐさまみんなに注意喚起を行った。
あのスピリットイーターとかいうモンスターに関する情報は全くない。
その実力は未知数だ。
アルネロさんが注意喚起した直後、地面が少し揺れ出した。
まるで何かが地面の中を移動しているようだ。
まあ、この状況じゃ移動して来ているのはスピリットイーターの腕だろうけど。
両手を使っているから、2本の蔦が地面から出てきそうだな。
だが、蔦で出来た腕など火で燃やせばお終いだろう。
地面の揺れはどんどん大きくなっていき、揺れの原因が地下から出てきた。
俺は地面から蔦が出てきたらすぐさま火で燃やしてやろうと思って、サーペントフレイムを撃つ準備をしていたのだが、俺の予想はかなり甘かったらしい。
地面から一斉に出てきたのは、2本どころじゃない、尋常じゃない数の蔦だった。
数百本はあるぞ、これ。地面から空へ向かって伸びていく蔦は、やがて先端部分が折れ曲がって俺たちの方を向いた。
戦場を取り囲むように現れた大量の蔦は、俺たち目掛けて襲い掛かってきた。
「ぐああ! この蔦硬いぞ! 防具を貫通して刺して来やがった」
「くそ! ぶった切ってやる!」
先端が尖っている蔦は、槍のような動きで次々と飛んできた。
襲い掛かって来る無数の蔦を切り落とそうとみんな剣で切りつけているが、蔦と剣がぶつかった時の音は、まるで鉄と鉄を激しくぶつけたかのような甲高い音だった。
「なんだこの蔦は!? 鉄みてえに硬い。切れねえぞ」
「防具を貫通するわけだ。こんな硬いのが勢いよく突っ込んできたら、盾でも貫通されるかもしんねえぞ」
植物とは思えない硬度を誇る蔦は、その硬さからは想像できないぐらい柔軟に動き回り、剣を当てるのも難しい。
硬くて速くて数が多い。悪夢みたいだ。
さっきまでの破竹の勢いはもう残っていない。みんな蔦から身を守るので精一杯だ。
「マスター! この蔦はやばいぜ! どうする?」
「こういう時のために、火属性の魔法が使える魔法使いをメンバーに入れておいたんだろうが! ヘイス! ソーマ! キャロスティ! この蔦を燃やせ!」
アルネロさんからの蔦の焼却命令が出たが、ヘイスさんとキャロスティの反応は悪い。
2人は火属性の魔法をいくつか蔦目掛けて放ったが、全くかすりもしない。
「だめです、マスター! こんな細くてすばしっこい蔦に魔法を当てるなんて無理です!」
「申し訳ありませんわ! 動きが速すぎて当てられません」
「くそ! だめか」
ここは俺の出番かな?
俺は襲い掛かってくる蔦をぶん殴った。フレイムウェアーで炎を纏った俺の拳で殴れば、あら簡単。
たちまち火が引火して蔦が燃え出した。
「ソーマがやったのか?! よくやった! その調子で燃やして行けえ!」
「いいぞソーマ! どんどん燃やせえ!」
「おっしゃあああ! 厄介な蔦は俺に任せろおお!」
「やっちまえ! ソーマ!」
俺は襲い掛かって来る蔦をことごとく殴り飛ばして燃やしていった。
ツヴェイト師匠に鍛えられた俺の背後を簡単に取れると思うなよ?
俺は下手に動かずに、蔦が襲い掛かってくるのを待ち、襲ってきたところをカウンター攻撃で燃やしていった。
「すごいですわ、ソーマ! 次々と蔦が燃えていきますわ!」
「やれやれ! 燃やし尽くせ!」
俺は次々と襲い掛かって来る蔦を燃やしていったが、段々襲ってくる蔦の数が増えてきた。
数が多すぎて、対処するのが難しくなってきた。
スピリットイーターは俺を危険と判断したのか、蔦が一斉に俺に襲い掛かってきた。
四方八方から俺を刺し貫こうと蔦が迫ってくる。数が多くて避け切れない!
「うわあ!」
「ソーマ!? 大丈夫ですの!?」
「・・・なんとか」
俺は地面の中からキャロスティに返事をした。
とっさに土属性初級魔法のアースピットで、自分の足元に落とし穴を作って、蔦を回避したのだ。
やっぱり、数が多すぎるな。俺1人じゃ捌ききれない。
「キャロスティ! 俺が蔦を抑えるから、そのすきに蔦を燃やせ!」
「ええ! それなら出来ますわ」
「ヘイス! 蔦の根元だ! 蔦が飛び出している所なら魔法を当てられるだろう!」
「その手がありましたか! 誰か護衛をお願いします。ゴブリンを突っ切って蔦の根元へ行きます」
徐々に落ち着いてきたみんなが、蔦の対処法を思いつきだした。
数人が蔦を抑え込んで、そのすきにアーツで蔦を切断している者もいる。
みんなで連携して行動することで、蔦への対処も落ち着いて出来るようになってきた。
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「・・・・・」
「どうした? いつもの笑い声が止まっているぞ?」
「・・・・・」
ガーディアンたちの抵抗が、思いのほか強く、蔦がどんどん破壊されていくことに、スピリットイーターは不快感を感じていた。
自分は捕食者で、ガーディアンたちは自分の餌。そう思っていたのに、食事が思うように進まないことが、スピリットイーターを苛立たせていた。
「確かに、予想より抵抗が強いな。特に、腕に炎を纏っている奴は相性が悪そうだ。変わった戦闘スタイルのやつだな」
「・・・・・・」
仮面の男の言う通り、一番蔦を破壊しているのは腕に炎を纏っているガーディアンだった。
スピリットイーターは、その男を憎らし気に睨んでいる。
「そう怒ることもないだろう? あんな蔦をいくら燃やされたところで、本体のお前にダメージなどほとんどないのだから」
スピリットイーターは、蔦を破壊されることに不快感を感じてはいても、とくに痛がっている様子はない。
スピリットイーターにとっては、あの程度の蔦はいくらでも作れるのだ。
それでも、自分の思い通りに進まない現状に、スピリットイーターの苛立ちは積もっていく。
それを見かねた男は、軽い溜息をついたあと、更なる許可をスピリットイーターに与えた。
「このままでは時間がかかりそうだしな。いいだろう。本気を出してやれ。あいつらにお前の本当の実力を見せてやれ」
「・・・フフフ」
男からの最後の許可を得たスピリットイーターは、再びその顔に笑みを浮かべて、ゆっくりと下へ降りて行った。
ノラの森での戦いも、最終局面へと向かっていた。




