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魔導書と歩む異世界ライフ  作者: ムラマサ
ファウード騒乱編
26/78

変化する戦場

 ファウードでの戦闘が開始されてから、約3時間が経過。

 空はどんよりと曇り、辺りは夕方と同じくらいの明るさしかない。

 

 血を吸って真っ赤に染まった包帯の入ったタライを運んでいたリンカは、その途中で思わぬ知り合いを見つけて、つい話しかけてしまった。

 

 「ハドル先生!」

 「おや? リンカちゃんじゃないか! どうしてここに? 非難しなかったのかい?」


 リンカが話しかけた人物は、白衣を着た初老の男性だった。

 リンカに話しかけられ、驚きながらも優しそうな笑顔を向けてくれたその男性は、ドクの薬屋がいつも薬を卸しているハドル診療所の医師、ハドルであった。


 「ハドル先生も街に残ったんですか?」

 「ああ。私も医者の端くれ。怪我人が出ると分かっていて、避難することが出来なくてね。その様子じゃ、リンカちゃんも残ったのか」

 「はい! 私も自分に出来ることをやりたくて」

 「そうか。リンカちゃんは強い娘だね」


 2人が話していると、遠くの方からハドルを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 「やれやれ。ゆっくり話している時間はないか。じゃあまたね、リンカちゃん」

 「はい。先生も頑張ってください」


 ハドルは次の怪我人の元へと向かって行った。

 リンカの他にも、街に残って頑張っている人は何人もいた。

 みな、リンカと同様に、自分にできることに全力を尽くしていた。


 包帯を捨てるために、仮設テントが立ち並ぶ一帯から少し離れた所に作られたゴミ捨て場に着いたリンカ。

 穴を掘っただけのそこには、すでに様々なゴミが捨てられていた。

 丁寧にゴミを捨てている余裕などない今は、この穴にゴミを捨てて放置している。


 ゴミを捨て終わったリンカは、仮設テントに戻って次の指示を仰ごうとした。

 しかし、仮設テントに戻る途中に、民家の屋根の上に立っている不審な人物を見つけた。

 黒いローブを身にまとっているその人物は、ファウードの北門を見ているようにリンカには見えた。


 黒ローブは、リンカに気づいた様子もなく、ローブの中から右手を出した。

 その右手には黒い球体が浮かんでいた。

 黒ローブは右手を北門に方角に向けた。

 リンカには、黒ローブが何か良くないことをしようとしているように見えた。


 「そこで何をしているんですか!」


 リンカに話しかけられて、黒ローブは慌てたような様子を見せ、右手の球体を消して、民家の屋根から降りた。

 屋根から降りた黒ローブは、自分に話しかけた人物を探し、リンカを見つけた。


 「なんだガキか。脅かしやがって」


 黒ローブからは男性の声がした。

 黒ローブの男は、再び右手に黒い球体を作り出して、リンカ目掛けてその球体を飛ばしてきた。


 「・・!? ファイヤーボール!」


 リンカは驚きながらも、飛んできた球体に向かってファイヤーボールを放った。

 空中でぶつかった2つの球体は、互いにはじけて消えた。


 「いきなり何をするんですか!」

 「ちっ! その年で魔法を使えるのか。面倒なガキだ」


 男はリンカを殺そうとしたことを謝罪するでもなく、今度は両手に黒い球体を作り出した。

 リンカは身の危険を感じて、仮設テントの方に逃げ出した。


 「逃がすかよ!」


 逃げるリンカの後ろ姿目掛けて、男は両手の球体を投げてきた。

 リンカは何とか球体を回避したものの、黒ローブの男は、次々と両手に球体を作り出して投げつけてきた。

 リンカは仮設テントの方に走ったが、黒ローブの攻撃が道を塞いでくる。仕方なくリンカは、仮設テントのある方ではなく、街の中心部の方に逃げ込んだ。

 黒ローブの男は、リンカが仮設テントではなく街の中心部の方に逃げるのを見て、殺すのは失敗したが、自分の存在をばらされるのはとりあえず阻止できたとほくそ笑んだ。


 街の中に逃げ込んだリンカを追って、黒ローブの男は走り出した。

 後ろから迫ってくる敵に怯えながらも、リンカは慣れ親しんだ街の中を走って逃げた。

 黒ローブの男と、リンカの命がけの鬼ごっこが始まった。


 -----


 「踏ん張れええ!」

 「魔法を撃つ! 下がれ!」

 「落とし穴にはまった奴から仕留めろ!」


 ノラの森の外で、大量のゴブリンと戦闘しているガーディアンたち。

 すでに魔集香の煙は消えていたが、それでも迫りくるゴブリンの数が減ることはなかった。


 決死の覚悟で戦闘を続けるガーディアンたちを、森の木の枝の上から観察している者がいた。

 黒いローブを身にまとい、フクロウを模した仮面で顔を隠したその男は、ガーディアンの戦いぶりを観察していた。

 

 「本当によくねばるな。このままでは、撤退に追い込むまでに時間がかかるか。やはり、ここはあいつらを投入するとしよう」


 男は森の中へ入っていき、姿を消した。

 男が森の中へ消えた数分後、戦場に新たな脅威が表れた。


 「「ギギャアアア!!」」

 「なんだ!? あの色違いのゴブリン」

 「あんなの見たことねえ!」


 森の中からあふれ出てくるゴブリンの中に、黒い皮膚をした異形のゴブリンが混ざっていた。

 その黒いゴブリンはどんどん森の中から現れ、その数を増やしていった。

 左手にラウンドシールド、右手にショートソードを持ち、完全に武装している黒いゴブリンは、他のゴブリンを蹴飛ばしながら、ガーディアンたちに迫ってきた。


 「なんなんだ、こいつら! 普通のゴブリンより力が強いぞ!」

 「気を付けろ! この黒いゴブリンども、全員剣と盾を装備しているぞ!」

 「どこで武器を用意したんだこいつらは!」


 通常のゴブリンの倍近いパワーとスピードの黒いゴブリンは、装備している剣と盾を使いこなし、ガーディアンたちを苦しめた。

 すでに疲労困憊だったガーディアンたちにとって、黒いゴブリンはまさに死神の様に見えた。

 負傷して戦線を離れるガーディアンの数が一気に増してしまった。


 「なんだ、こいつらは」


 後方から黒いゴブリンを見ていた指揮官のレオナルは、突如現れたこの脅威を前に、撤退すべきかどうか迷っていた。

 しかし、いまだ突入組からの合図はない。

 突入組が森の中でまだ戦ってるはずだ。仲間を見捨てて自分たちだけ逃げることなどできない。

 レオナルはガーディアンたちに指示を飛ばし、自らも武器を手に取り前線へ赴き、戦闘を続行した。

 

 新たな脅威を前にしても戦闘を続けるガーディアンたちを、先ほどと同じ所で、また黒ローブの男が観察していた。


 「まだ戦うか。結果は見えているだろうに、無能な指揮官だな。まあいい。この戦場はもうこれでお終いだ。もう一つの戦場をこれから盛り上げるとしよう」


 この戦場での勝利を確信した男は、再び森の中へと消えていった。


 -----


 「はあ、はあ。どれだけいますの! このゴブリンは!」

 「まあまあ。短気を起こすなキャロスティ。出てくるなら戦うしかないだろう」


 俺たち突入組は、一向に終わる気配のない戦いを継続していた。

 俺としては、おかげで新魔法をいくつか取得できたし、うまみのある戦いではあるが、体力の消耗は無視出来ない。

 

 突入組はアルネロさんの指示に従い、円陣を組んで、円の外側の人だけが戦い、内側にいる人は休めるように戦っていた。

 効率のいい戦い方だ。流石アルネロさん。

 それでも着実に疲労は溜まっていた。


 「おいソーマ、キャロスティ。交代だ」

 「了解」

 「もううんざりですわ」


 俺とキャロスティは、陣の内側で体力を回復した他のガーディアンと交代して、陣の内側に入った。

 長引く戦いに、キャロスティの集中力は切れかかっていた。

 

 陣の中央では、ヘイスさんとアルネロさんが今後の相談をしていた。

 周りのガーディアンたちも、顔に疲労に色が見て取れる。


 「もう魔力を惜しんで戦うのは無理か。一気に行くしかない」

 「でも、トレントの数は尋常ではありませんよ! ここで魔力を消費したらトレントを殲滅出来ないかも」

 「このままじゃいずれ潰される。やるしかない」


 どうやら、ついに魔法とアーツの使用許可が下りるようだ。

 ヘイスさんの言う通り、魔力切りが心配ではあるが、ここは一気に力ずくで突破するしかないだろう。


 アルネロさんが指示を出そうとしたその時、森の中に笛の音のような音が響き渡った。


 「なんだこの音は!? ここは森の中だぞ!?」


 理解不能な現象に、みんな慌てだした。しかし、俺たちとは逆にゴブリンたちの動きはなぜか鈍りだした。

 不思議なメロディを奏でるその音に魅了されたかのように、俺たちを囲んでた大量のゴブリンたちが、音のする方へと走り去っていった。

 後に取り残されたのは、突然いなくなったゴブリンに拍子抜けした俺たちだけだった。


 「何だってんだ? 一体この森はどうなってやがんだ」

 「さっきの音、笛の音に聞こえたが、誰かがこの先にいるのか?」

 「アルネロさん。ゴブリンが走り去っていった方角が、トレントの巣のある方角です」

 「本当かヘイス? じゃあ結局さっきのゴブリンどもとはまたやり合うことになりそうだな」


 敵がいなくなったことで休憩したいところだが、今は1分1秒も惜しい。

 俺たちは休むことなく先に進んだ。

 せめて、進むスピードを少し遅くして、体力の回復を図った。


 しばらく進むと、ヘイスさんが何か異変に気付いたようだ。

 

 「おかしい。もうトレントの巣に入っているはずなのに、どこにも姿がない」

 「間違いないのかヘイス? ここがトレントの巣なのか? 枯れた木しかないが」


 俺たちの周りには、枯れ果てた木々があるだけで、聞いていたような緑の生い茂る木など見当たらない。


 「間違いなくここのはずです。でもどこにも姿が見えない。あの、この先に広場のような場所があって、そこに大量の木の実があるはずです」

 「よし。そこを目指そう」


 ヘイスさんの案内で森を進むと、ヘイスさんの言っていた通り、広場のようなところに出た。

 一本の巨大な木を中心とした広場には、先ほどまで戦っていたゴブリンたちが整列していた。

 知能の低いゴブリンが大人しく整列しているなど、明らかに異常な光景だ。


 俺はその異常な光景に目を奪われていた。

 するとアルネロさんが何かに気づいたようだ。


 「木の上に誰かいるぞ!」

 「流石はギルドマスター。もう気づいたか」


 俺が視線を向けると、中央にそびえる巨大な木の枝の上に、黒いローブに何かの仮面のようなものを付けた人物が立っていた。


 「待っていたぞ。お前たちは今日の食事のメインディッシュだからな。せいぜいあがいて俺を楽しませろよ」

 「誰だお前は!」

 「これから死ぬお前たちに名乗る名などない。スピリットイーターよ、食事の時間だ」


 黒ローブの男の声に反応して、巨木の上空から何かがゆっくりと降りてきた。

 それは、いくつもの蔦が絡まって少女の形を成しているように見える。

 一本だけ、尻尾の様に伸びて地面に刺さっている蔦もある。

 あれがヘイスさんの報告にあった少女型のモンスターだろう。


 「フフフ」


 スピリットイーターと呼ばれた少女型のそのモンスターは、楽しそうに笑いながらこちらを見ている。

 しかし、大量にいたはずのトレントはどこに消えたのか?

 同じ疑問を抱いていたアルネロさんが、黒ローブの男に問いただした。

 

 「トレントはどこにいる? 大量にいたと報告を受けてたんだがな」

 「フフ。気になるかね? まあそのぐらいなら教えてあげよう。ここにいたトレントなら全部スピリットイーターの餌にしたよ」

 「な!? そのモンスターがトレントを全部食っただと!?」

 「この森での実験もあらから終了したから、新しい実験として全部食わせてみたんだよ。そしたら面白い変化をしてね? 君たちを食べれば、次はスピリットイーターも進化しそうなんだよ。そのためにこの場を設けたのさ」


 黒ローブの話では、俺たちはまんまとおびき出されたということみたいだ。

 だが、これは俺たちにとってもチャンスだ。

 この場の敵を全て倒せば、今回の異変も終わりが見えてくる。

 ここからが本番みたいだな。

 


 



 

 


 


 



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