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魔導書と歩む異世界ライフ  作者: ムラマサ
ファウード騒乱編
24/78

作戦開始

 「いいか。作戦はシンプルだ。まずガーディアンの大半のメンバーには陽動を担当してもらう。モンスターを引き寄せる魔集香を使ってゴブリンを森の外へと誘い込むんだ。陽動組はやってきたゴブリンをひたすら倒してゴブリンの数を減らすのと、ゴブリンの注意を引き付けろ」


 ゴブリンの大群を迂回して森の近くまで来た俺たちは、アルネロさんから作戦の内容を聞いていた。

 迂回したことで予定より数時間遅れての作戦開始となってしまっている。


 「陽動組が動いたら、それに合わせて突入組が森に入ってトレントの殲滅を行う。道案内はヘイスが担当する。これから名前を呼ばれた奴が突入組。呼ばれなかった奴らは陽動組だ。まずは」


 突入組に選ばれているのは当然ランクの高いベテランばかりだ。

 俺の名前が呼ばれるはずはないよな。

 俺と同じようにランクの低いガーディアンたちは、馬車に積んである物資の積み下ろしをしている。

 俺とキャロスティもそこに混ざって、積み下ろしを手伝った。


 「キャロスティ、そっち持ってくれ」

 「分かりましたわ」


 何が入っているのか分からないが、思い木箱を俺とキャロスティの2人がかりで運んでいると。


 「最後に、CランクのキャロスティとEランクのソーマも突入組だ。お前ら荷物運んでねえで作戦をちゃんと聞け」

 「「は?」」


 俺とキャロスティは同時に間抜けな声を出してしまった。

 今、俺とキャロスティの名前が呼ばれたような?

 いやいや、さっきからBランク以上のガーディアンしか名前を呼ばれてないのに、俺たちの名前が呼ばれるわけが。


 「おら! さっさとこっちこい」

 「「はい!」」


 やっぱり呼ばれてた!?

 えええ!? なんで? キャロスティはCランクだからまだわかるけど、なんでEランクの俺まで呼ばれてるの!?


 「突入組の指揮は俺がとる。陽動組の指揮はサブマスターのレオナルが担当する。今回の作戦の成功は俺たち突入組にかかってる。失敗は許されねえ。いいな?」

 「「おおおおおーー!!」」

 「よし。準備に取り掛かれ」


 まずは陽動組の準備を整えてから作戦が開始されることになった。

 それはいいけど、なんで俺とキャロスティが突入組なんだ?

 俺とキャロスティはアルネロさんに直接聞きに行った。


 「あん? お前らを選んだ理由?」

 「はい。俺らだけ突入組の中でランクが低いじゃないですか」

 「選ばれたのは光栄ですが、理由が分かりませんわ」

 「そんなの、あれだよ。消去法だ」

 「「消去法?」」

 「魔法使いは戦士よりも殲滅力がある。だからランクの高い魔法使いほど陽動組に入れておきてえ。だが突入組に魔法使いがヘイスだけなのは心もとない。だから、陽動組に入れなくても困らない低ランクで、尚且つ突入組についてこれる奴を考えた時に浮かんだのがおまえら2人だからだ。お前らなら、ランクが低くても付いて来れると判断したんだ。まあ、期待してるってことだ」

 「まあ! マスターがそんなにわたくしたちのことを高く評価していて下さってたなんて。わたくし頑張りますわ。マスターの期待に必ず応えて見せますわ」

 「俺もやりますよ、アルネロさん。そこまで言われたら、役に立って見せます」

 「おう。その意気だ」


 アルネロさんの言葉で俄然やる気の出た俺たちは、陽動組の準備に張り切って取り掛かった。


 森から少し離れた所に仮設テントを立て、負傷者を治療する救護室や運んできた物資を保管する倉庫、監視用の物見やぐらなどを立てた。


 仮設テントを立てた所より少し森よりの場所が陽動組の戦場になる。

 あらかじめ、土魔法で落とし穴を掘って置いたり、据え置き型の弩砲であるバリスタを設置したりもした。このバリスタは馬車で運べる小型のバリスタで、連射性はかなり低い。ゴブリンとの戦闘ではそれほと役には立ちそうにない。


 何度かゴブリンがやってきたが、それほどの数ではなかった。

 見張り担当のガーディアンたちがすぐに始末していた。

 やっぱり街に向かったゴブリンが多すぎて、この森にはあまりゴブリンが残ってないのかもしれない。

 まあ、その方が作戦の成功率が上がるから困りはしないが、作戦が終わった後、街がゴブリンに占領されてないといいけど。


 あらかた準備が終わった後は、運んできた物資の分配が行われた。

 体力回復アイテムのポーションや、魔力を回復させるマジックポーションが、1人5本ずつ支給された。

 俺は一度も使ったことがないのだが、ポーションは水色で、マジックポーションは赤色の液体で出来ている。

 これ、味大丈夫かな?


 支給が終わった後、これからの作戦に備えて英気を養うために、軽く食事をすることになった。

 こんなのんびりしていていいのか不安な気持ちもあるが、万が一にも失敗の許されない大事な作戦だからこそ、準備を怠るわけにはいかない。


 俺が一人で食事をしていると、キャロスティが隣に来た。

 キャロスティは真剣な眼差しで、森を見ている。


 「作戦は上手くいくかしら? 陽動が成功しなければこの作戦は失敗ですもの」

 

 上手く陽動組にゴブリンが集中してくれるか心配なようだ。

 たしかに、陽動組にゴブリンが集中してくれなければ今回の作戦はいきなり失敗することになる。

 だが、今回は魔集香を使うから大丈夫だろう。


 ちょうど俺たちの食事をしている場所の左側に、これから使う予定の魔集香を保管している仮設テントがある。

 俺はそのテントを見ながらキャロスティに魔集香の説明をした。

 

 「魔集香でゴブリンを集めるから大丈夫だよ」

 「わたくし、魔集香という名を今日初めて聞きましたの。どういうものなんですの?」

 「導火線に火を付けて、本体の筒に火が引火すると赤い煙が出るんだよ。その煙の匂いがモンスターを引き寄せるのさ。効き目が強いから今回みたいな場合じゃなければ、ギルドが使用を禁止しているほどのアイテムだよ。個人で勝手に使用したのがばれると厳罰に処されるよ」

 「まあ! そんなに強力なアイテムでしたの。わたくし知りませんでしたわ」

 「滅多に使われない物だしね。俺だって使われてる所は見たことないよ。本で読んだから知識があるだけ」


 


 その後もキャロスティとの雑談は続いた。

 俺が最近格闘術の訓練をしていることを話すと、キャロスティも自分の近況報告をしてきた。


 「わたくしもソーマを見習って、クエストを受ける回数を減らして、苦手な火属性魔法の練習をしていますの」


 なんでもキャロスティは、水属性の練習を集中的にしてきたせいで、火属性と風属性の魔法はあまり覚えていないらしい。

 風はまだましな方で、火属性はほとんど使えなかったらしい。


 「最近火属性初級魔法のフレアランスを使えるようになりましたの」


 火属性初級魔法フレアランス

 ファイヤーボールよりも貫通力を高めた魔法で、槍型の火を撃ち出す魔法だ。

 俺の魔導書も、取得可能状態ではあるのだが、MDが足りなくて習得していない。


 今回の相手は植物型モンスターのトレントだ。

 当然弱点は火だ。

 森の中だから、延焼しないように気を付ける必要はあるが、効果は抜群のはずだ。

 俺もいくつか火属性の魔法が取得可能状態なのだが、習得しているのはいまだにファイヤーとファイヤーボールだけだ。

 少し心もとない。


 「そうですわ! ソーマにわたくしの練習の成果をお見せしますわ」

 「え? 成果を見せる?」

 「地面に向かってフレアランスを放ちますわ。見ていてくださいませ」

 「これから作戦が始まるんだから、魔力は温存しておけよ」

 「大丈夫ですわ。フレアランスの一回分の魔力なんてすぐに回復しますから。ぜひ、わたくしの練習の成果をソーマに見てもらいたいのですわ」


 んー。そこまで言われるとちょっと見てみたいな。

 まあ、本人が大丈夫って言っているんだからいいか。


 「じゃあお願いするよ」

 「了解ですわ。ではあそこの地面に目掛けて放ちますわね?」


 俺はキャロスティが指さしたあたりの地面に視線を移した。

 俺の隣で、立ち上がったキャロスティが魔法の発動準備を始めた。

 

 「フレア」


 キャロスティが魔法を放とうとしたタイミングで、数人のガーディアンが、狙っていた地面の近くに歩いてきた。

 なんでこんなタイミングで人が来るんだよ!


 「キャロスティ! 人が来たぞ!」

 「え? 危ないですわ!」


 キャロスティは魔法を発射する瞬間に、とっさに腕を振って、フレアランスを左側へと打ち出した。

 なんとか人には当たらずに済んだようだ。

 まったくキャロスティのトラブル体質には困ったものだ。

 まあ、今回は未然に防げたみたいで良かったよ。


 「危なかったですわ。魔法を撃つときはもっと周囲に気を配らなければいけませんわね」

 「そうだね。まあ今後気を付けてって、ええええーーー!!!」

 「なんですの?」


 突然大声を上げた俺に驚いて、キャロスティが俺の見ている方向に視線を移すと。

 そこには、キャロスティのフレアランスが当たって、勢いよく燃えるテントがあった。


 「きゃあああああーーーー!!!! 火事ですわ!!」

 「全然防げてなかったーー!!」

 

 騒ぎを聞きつけて、周りのガーディアンたちが集まってきた。


 「どうした!? ってテントが燃えてる! なんでだ!?」

 「しかも魔集香の入ってたテントじゃねえか!」

 「急いで火を消せー! 水だ水!」

 「バカやめろ! 魔集香が湿気ったら使えなくなる!」

 「んなこと言ったって」


 あー。残念ながらもう手遅れだ。

 テントの煙の中に赤い色が混じりだした。中の魔集香に火が引火している証拠だ。


 「やべー! 魔集香に引火してるー!」

 「ゴブリンが来るぞー!」

 「しかも、テントに入ってた魔集香全部が燃えてるっぽいぞ! 赤い煙の量が半端ない!」


 今回の作戦のために、用意していた魔集香は全部で4つ。

 1つでも効果は抜群なのだが、念のために予備として4つ用意していたのだ。

 それが一度に全部燃えたら、どれだけの効果が出るかわからない。


 「どうした!? なんの騒ぎだ!?」

 

 遠くからアルネロさんも駆けつけてきた。

 終わった。やっちまったなキャロスティ。

 

 「マスター、大変だ! 魔集香が燃えてる!」

 「なんだと!? 誰が火を付けたんだ!」

 「ソーマとキャロスティが火魔法で遊んでいたみたいだ」

 「あの2人かーーー!!」


 えー! 俺も共犯なの!?

 やばい、殺される。

 俺とキャロスティは互いに無言で頷き合って、その場から逃げることにした。

 姿勢を低くして、そそくさとその場を離れようとする俺とキャロスティ。


 「そこの2人。逃げられると思ってんのか?」


 はい見つかりましたー。

 仁王立ちして俺たちを睨みつけているアルネロさんの後ろでは、テントがよく燃えている。

 今のアルネロさんの気持ちを表しているかのようだ。

 

 「作戦が終わったら覚えてろよ? たっぷりと説教してやる」

 「「はい! お手柔らかにお願いします」」

 「するわけねえだろ!!」


 まあ、燃えてしまったものは仕方ない。開き直ろう。

 予定より少し早いが、陽動組は急いで陣形を組み出した。

 突入組も、急いで準備を整えて出発した。

 突入組は森の縁に沿って時計回りに進み、陽動組から離れた所から森の中へ突入する。


 「いきなり幸先の悪いスタート切らせやがって!!」

 「「すみませんでしたー!!」」


 やっぱりキャロスティと一緒にいると碌なことがない!


 -----


 「見えて来たな」


 ファウードに侵攻しているゴブリンの姿が、外壁の上に立っているドクたちの目にも見えるところまで迫っていた。

 緑の草原が、大量のゴブリンによって染められていく。

 時間が経つごとに、その数は減るどころかどんどん増していき、南側の外壁の外はゴブリンで埋め尽くされようとしていた。


 「うろたえるな! 今こそ訓練の成果を見せるときだ!」

 「我々が最後の希望なのだ! ファウードに一匹たりともゴブリンどもを入れるな!」


 外壁のすぐ外側には、すでにファウード常駐軍が陣形を組んで、ゴブリンを待ち構えている。

 しかし、外壁の上から全体を見下ろしているドクたちには、戦力の差が一目でわかる。


 「分かっていたことだが直に見ると、絶望的な戦力差なのがまるわかりだな」

 「あら? もしかしてビビっているの?」

 「バカ言え。楽しくて武者震いしてんだよ!」

 「殲滅し甲斐があるわね。ふふ。昔を思い出すわ」

 「クーティの昔のスイッチが入ったわね」

 「味方の兵士を巻き込むなよ?」

 「分かってるわよ」


 蒼真たちのノラの森での作戦が始まるとほぼ同時刻、ファウードでも絶望的な戦いが始まろうとしていた。


 




 

 

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