伝説の戦闘種族・クゥパピー
「卒業、ですか?」
「ええ。ソーマ君は今日で、わたしの弟子を卒業よ」
今日のクーティ先生の講義が終わった後、俺は唐突に弟子卒業を告げられた。
え? そんなすぐに卒業できるものなの、弟子って。
俺の中では、もっと何年も修行とかして、師匠に勝てるぐらいになってから卒業ってイメージだったのだが。
「もちろん、そういう師弟関係もあるわよ? でも私は、弟子には魔法の基本しか教えないの。魔法の道は人に言われた道を進むものではなく、自分で道を作りながら進むものなのよ。って私の師匠の言葉なんだけどね。ソーマ君みたいな才能のある子をいつまでもここに閉じ込めておくのも、もったいないしね」
「そうですか。・・・卒業」
嬉しくはあるが、同時に寂しくもあるな。
こんな唐突にクーティ先生との師弟関係が終わるなんて。
「そんなに落ち込まないの。別に会えなくなるわけじゃないんだから」
「そう、ですね。分かりました。クーティ先生、いままでお世話になりました」
俺は、これまでお世話になったクーティ先生に心からの感謝を込めて、頭を下げた。
「クーティさん。私はまだ卒業じゃないんですか?」
「リンカちゃんはもう少しかな? 基本は教え終わっているけど、まだ幼いリンカちゃんはもう少し鍛えておきたいの。ソーマ君みたいにガーディアンとして実戦をあまり積んでないしね」
「わかりました。ソーマさんに先を越されてちょっと悔しいですけど、クーティさん、これからもよろしくお願いします」
「ええ。もちろん」
リンカちゃんはまだ卒業しないのか。
クーティ先生の講義が終わるなら、これまでより自由な時間が増えるから、本腰を入れてDランクを目指すのも悪くないな。
「そうそう。実はね、ソーマ君のことを私の師匠に話したら、ぜひ会ってみたいって言ってるの」
「え? クーティ先生の師匠ですか?」
「実は数年前にファウードの近くに引っ越してきたの。それから、ときどき師匠に会いに行ってるの。その時にソーマ君の話をしたら興味を持たれたみたい。4つも属性を持っている子は珍しいから、師匠が興味を持つのもわかるけどね」
クーティ先生に師匠がいたなんて初耳だ。
考えてみれば当たり前のことではあるのだが、まさか近くに住んでいたとは。
「暇な時にでも師匠に会いに行ってもらえない? 街から出て10分ほどにある丘の上に住んでいるの」
「どんな人なんですか?」
「とっても優しい人よ。でも魔法の腕は超一流よ。元エクス・クウォード王国筆頭魔法使いだもの」
「筆頭魔法使い!? それって、この国で一番の魔法使いってことですか?」
「元、が付くけどね。今は一番弟子のハリルさんに筆頭の地位を譲って隠居暮らしをしてるわ」
すごい人の弟子だったんだな、クーティ先生は。
そんなすごい人に会いに行くなんて、ちょっと緊張するな。
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弟子を卒業して数日、俺はクーティ先生の師匠に会いに行くことにした。
と言うか、早く行けとクーティ先生に叱られた。だって元王国筆頭の魔法使いに会いに行くなんて緊張するんだもん。
俺はクーティ先生に教えられた丘にたどり着いた。
そこには立派なお屋敷が立っていた。
西洋風のお屋敷は、どの窓も曇り一つなくピカピカで、手入れが行き届いているのがわかる。
とんでもない所に来てしまった。粗相をしてしまったらどうしよう。
屋敷の周囲には警備をしている兵士も何人かいるようだ。
俺はクーティ先生からもらった紹介状を兵士に見せて、中に通して貰った。
応接室と思われる部屋まで案内されたが、正直もう帰りたい。
床に敷いてあるカーペットすらふかふかで、踏むのが申し訳ないぐらいだよ。
胃が痛くなりそう。
「クゥ~?」
「ん? なんだ、今なんか変な音が聞こえだぞ?」
今確かに鳴き声のようなものが聞こえた。
俺は応接室のテーブルの下をのぞいた。
そこには、全身を桃色の体毛で覆われた可愛らしい動物がいた。
「パピ?」
俺に気づいたその子は、首をかしげながらもゆっくりと俺に近づいてきた。
「クゥパピ~」
独特な鳴き声をあげながら、その子は俺の膝の上に乗ってきた。
何かのマスコットキャラクターのようなかわいい生物が俺の膝の上でぴょんぴょん跳ねている。
身長は20㎝ほどで、熊をデフォルメしたような容姿をしており、頭にはウサギのような長い耳が付いている。
「パピー!」
「おわ!」
俺の膝の上で跳ねていたその子が、今度は俺のお腹に抱き着いてきた。
そっと頭を撫でてあげると、気持ちよさそうな顔をしてくれた。
「あら? シャンディがそこまで懐くなんて珍しいわ」
いつの間にか部屋のドアから、高齢の女性が入ってきていた。
俺はお腹に抱き着いている子をソファに置いて、急いで立ち上がった。
「はじめまして。クーティ先生の弟子の蒼真といいます」
「そんなに硬くならなくていいのよ。初めまして、クーティの師匠のオリガンよ。この子はツヴェイト。よろしくね」
オリガンさんは、桃色の子と同じ容姿をした子を抱えている。
こっちの子は体毛が赤い。
オリガンさんはしゃがんで、その子を床に卸した。
「パピ!」
赤い子は、あいさつのつもりなのか俺に向かって右手を上げてきた。
「ツヴェイト、シャンティと部屋の奥で遊んでらっしゃい」
「パピー」
2匹はそろって部屋の奥へと移動した。
オリガンさんは俺の対面のソファに座り、俺の顔をじっと見てきた。
「あの。なにか?」
「ふふ。ごめんなさいね。面白い子だと思ってつい」
「面白い、ですか?」
まだ特に会話もしてない内に面白いなんて言われたのは初めてだ。
「あなた、魔力を持ってないわね。体の構造自体がこの世界の人間のものと違うみたい。それに面白い指輪をしているわね」
「!っ」
いきなりの爆弾発言に、俺はどう答えるべきか言葉に詰まった。
なんでいきなり魔力のことがわかったんだ。それに、指輪のことはどこまで見抜いたんだ?
「そんなに警戒しないで。あなたに危害を加えるつもりはないわ」
「その言葉を信じろと?」
「そうね。私が悪かったわね。信用して貰うためにネタ明かしをするわ。私は鑑定スキルを持っているの。今あなたをスキルで鑑定してみたら、ほとんど情報が出なかった。こんなの初めてよ? 魔力を持っていないことと、あなたの本名がテンジョウソウマという勇者様と似た名前なのには驚いたけどね」
やばい。筆頭魔法使いをなめてた。
鑑定スキルの存在は知っていたが、他人の情報を見ることが出来るのは相当スキルLevelが高くなければできなかったはず。一体何Levelの鑑定スキルを持っているんだこの人は!
俺の習得しているスキルや魔法は、ガーディアンギルドの時のようにバレてはいないと思うが。
ここまで見抜かれるなんて想定外過ぎる。もう下手に誤魔化すのさえ難しそうだ。
どうすればこの状況を打破できる?
「私はあなたを詮索するつもりはないわ。かわいい愛弟子の教え子だもの。それに、シャンティが懐いた子なら、悪い子ではないはずだしね」
「・・・・・そうしていただけるとありがたいです」
「ふふ。まさかここまで異質な子だとはね。クーティから聞いていた以上だったわ」
「俺に会いたがっていたと聞いてきたのですが」
「ええそうよ。お話をしてみたいと思ったの。でもだめね。あなたは秘密が多すぎる。あなたが私に話せることはそう多くはなさそうね。」
確かに、この人相手にどこまで話していいのかが俺には分からない。
素性が大体ばれているから全部正直に話すか? でもしつこく聞かれているわけでもないのに自分から話すのもな。
神様のこととか迂闊に話していいことではないと思うし。
ここは話題を反らそう。
「あの子たちは何て言うんですか?」
「シャンティたち? あの子たちはクゥパピーと言う種族なの。初代勇者様がこの名前を付けたと言われているわ」」
「クゥパピーですか?」
「初代勇者様の時代、魔王討伐のために魔族の大陸に乗り込んだ勇者様は、魔王軍幹部との戦いで負傷して、傷を癒すために大陸奥地に逃げ込んだの。そこで見つかったのがこの子たち。驚くことに、勇者様が見つけるまでは、魔族たちですらその存在を知らなかったらしいの。彼らは負傷した勇者様を助けてくれて、傷を癒し、追手の魔王軍を蹴散らしてくれたの」
「魔王軍を蹴散らす!? この子たちそんなに強いんですか?」
「強いわよ。クゥパピーは戦闘種族だもの。体毛の色ごとに特殊な力を使うことが出来て、勇者様の魔王討伐に大きく貢献したと言われているわ」
「とてもそうは見えませんね」
部屋の奥で仲良く遊んでいるクゥパピーたちを見ていると、とても強いようには見えない。
あ、シャンティが転んだ。
「この子たちは格闘戦のプロフェッショナルよ。シャンティは戦いは嫌いだけど、ツヴェイトは1人でもBランクのモンスターを倒せるわよ」
それって俺より強くね?
俺、こんな可愛いモフモフアニマルより弱いのか。
「はあ。何というか。すごい子たちですね」
「ふふ。そうね。すごい子たちなのよ。私の古い友人の魔族から世話を任されたの。今クゥパピーは数が少ないから」
魔族に知り合いがいるのか。交友関係が広いのも流石元筆頭魔法使いだな。
魔族以外の種族の殲滅をもくろんだ初代魔王は、女神アルテイシア様が召喚した初代勇者に打ち取られた。それが約8000年前。
その後、長い年月をかけて魔族は他の種族に溶け込んだ。
今の魔族は他種族を侵略するようなことは一切せずに、四大魔王と呼ばれる4人の魔王が、魔族の大陸ディアロスを統治している。
「そうなんですか? でもこの子たち強いんですよね?」
「初代勇者様が魔王を討伐した後、この子たちが勇者に協力したから、魔族がこの子たちを絶滅させようとしたことがあるの。今はそんなことはされてないんだけど、この子たちは1人1人が強いからか、なかなか子供を産まないのよ。数千年立った今でも数が少ないの」
「そうだったんですか。この子たちも苦労しているんですね」
「パピー」
「とてもそうは見えないけどね。ふふ」
仲良く遊ぶクゥパピーたちを見ながら、オリガンさんとの話は続いた。
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「そう言えば、ソウマさんはガーディアンだったわね」
「ええ。そうですがなにか?」
「魔法の他に、武器などは持っていないの?」
「ないですね」
「護身用にナイフぐらいは持っておいた方がいいわよ? ソウマさんはどういう戦闘スタイルなのかしら」
「戦闘スタイルですか? うーん。今のところは、火属性魔法で遠くの敵を、近くの敵は雷属性の魔法と、肉弾戦で戦ってますね」
「あら、ソウマさんは格闘戦の経験があるのね」
「いえ、素人がただ殴っているだけですよ。この辺のモンスターは弱いのでそれでも十分に戦えてます」
「ソウマさんはずっとファウードから動かないつもりなの?」
「いえ。旅に出たいと思っています。今はそのために色々と活動しているところで、クーティ先生の所で魔法を教わっていたのもそのためです」
「なら、戦闘スタイルをきちんと決めないといけないわよ? いつまでも曖昧なままではいけないわ。使ってみたい武器とかないの? この屋敷にも兵士用にいくつか武器はあるわよ?」
うーん。武器か。
確かに、言われるまで気が付かなかったな。魔法があるから武器のことは頭から抜け落ちていたな。
でも、いまさら武器を装備するのもなんか違和感を感じるな。
雷属性は接近戦や中距離戦に向いている魔法が多いし、いざという時のために剣とか使えるようになった方がいいとは思うんだけど。
オリガンさんの質問にどう答えたものか。
俺はクゥパピーを見ながら答えを考えた。
ん? クゥパピー? そうだ!
「オリガンさん! お願いがあるのですが」
「使いたい武器が決まったの?」
「いえ。俺は格闘戦でいきたいとおもいます」
「格闘戦? うーん、確かにガーディアンには護身のために格闘術を身に着けている人もいるけど。格闘術をメインにしている人は私は見たことがないわ。本当にそれでいいの?」
「はい。魔法と格闘術を組み合わせた戦闘スタイルが、俺には合ってると思うんです」
「そう。・・・確かに面白い発想ね。でも、それじゃあお願いってなにかしら?」
「クゥパピーに格闘術を教えてもらいたいんです」
「ええ!?」
俺の発言に驚くオリガンさん。
思いつきで言ってみたのだが、難しいかな?
「ふふふ。そんなこと言われたのは初めてよ? クゥパピーを譲ってほしいと言われたことならあるけど、鍛えてもらいたいだなんてね」
「やっぱり無理ですかね?」
「そんなことはないわよ? クゥパピーは人の言っていることを理解できますからね。本人にお願いしてみてはどう?」
それもそうだな。ますはクゥパピーに聞いてみないと。
桃色の体毛のシャンティは戦いが好きじゃないとのことなので、オリガンさんが連れてきた赤い体毛のツヴェイトに聞いてみた。
「ツヴェイト、お願いがあるんだ」
「パピ?」
「俺に格闘術を教えてもらえないかな?」
「パピー!?」
ツヴェイトもまさか人間に鍛えてもらいたいなんて言われると思っていなかっただろう。
俺の言っていることを理解できているからこそ、ツヴェイトは慌てだした。
「パピ、クゥパピー」
「パピィ?」
慌てふためいているツヴェイトに、シャンティが何か話しかけている。
説得でもしてくれているんだろうか?
シャンティとツヴェイトはしばらく話し合った後、俺の方を向いた。
はたしてどんな結論になったのか。
「パピィ! パピパピ!」
「うん、なるほど。・・・・・何を言ってるかわからない」
「パピイイ!」
「弟子にしてあげるって言ってるのよ」
ツヴェイトの言葉が分からずに困っていると、ソファに座っていたオリガンさんが通訳してくれた。
「言葉がわかるんですか?」
「長いこと一緒にいるからね。ツヴェイトはあなたを弟子にしてくれるそうよ」
「ありがとうございます。ツヴェイト師匠!」
「パピィ!」
「モンスターに教えを乞うなんて、本当に面白い子ね」
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クーティ先生の元で魔法の基礎を学んだ俺は、新たにクゥパピーのツヴェイト師匠の元で、クゥパピー流格闘術を学ぶことになった。
今までクーティ先生の講義を受けていた時間帯を、新たに格闘術の講義の時間に変更した。
これで俺の戦闘スタイルも決まったな。
格闘術と魔法の融合が、俺の戦闘スタイルだ。
まあ、体長20㎝ほどのクゥパピーに鍛えられている俺の姿は、阿多から見ればかなり滑稽だろう。
それでも、魔王軍を蹴散らしたというクゥパピー流格闘術、絶対にものにして見せる。
「これからお世話になります。ツヴェイト師匠」
「パピー!」




