ガーディアンの洗礼
その日俺は、全身ボロボロで家に帰った。
誰にも見つからないようにそっと家に入って。
入った瞬間、在庫確認をしていた師匠に見つかった。
「何があったらそんなことになんだよ」
「いやー、その、色々ありまして」
「お前、今日はガーディアンギルドに登録に行ってたんじゃなかったのか?」
「はい。行きました。そしてボロボロになりました」
「・・・・・まあ、全部話せよ」
「はい」
俺は師匠に事のあらましの説明を始めた。
-----
遡ること今日の昼過ぎ。
いい加減どこかのギルドに入らないと金が底を尽きそうだった俺は、師匠の助言に従い、ガーディアンギルドに向かっていた。
師匠曰く、旅に出るならガーディアンギルドに登録しておくのがいいとのこと。
ガーディアンギルドとは、一言で言うなら「何でも屋」だ。
依頼を引き受け、依頼に不備がないか査定して、問題がなければクエストとして発注して、ギルドに所属しているメンバー、通称ガーディアンが、好きな依頼を受けて、無事依頼を達成できれば報酬がもらえるという仕組みのギルド。
初代勇者が提案して、このエクス・クウォード王国から大陸全土に広まったギルドらしい。
その性質上、荒くれ者が集まりやすく、仕事も命がけのものが多いので、ギルドに入る条件は緩いが、生死は自己責任と言うギルドだ。
まあ今の俺向きのギルドではある。
俺はガーディアンギルド・ファウード支店の前まで来た。
この時点で、店の中からはおっさんどもの大声と、酒の匂いがプンプンする。
中の人たち、昼過ぎから完全に出来上がってるよ。
俺は勇気を出してギルドの門を開けた。
案の定、中はカオスだった。
ジョッキでビールを飲んでるおっさんどもが溢れていた。
俺はなるべく、誰とも目を合わせないように、店奥のカウンターまで行った。
カウンターには若い女性が立っていた。
眼鏡をかけた、茶髪のショートヘヤーの女性だ。
ギルドの制服と思われる、青を基調とした白のラインの入った服を着ている。
「いらっしゃいませ! 本日はどうようなご用件でしょうか?」
見事な接客スマイルで、女性の方から俺に話しかけてきてくれた。
「ギルドに入りたいのですが」
「ギルドへの入団希望ですね? わかりました。ではいくつか質問にお答えください」
名前や年齢、犯罪歴の有無など、簡単な質問にいくつか答えた後、真っ白いカードを出された。
「ではそのカードに手を置いてください」
「はい」
言われた通りにカードに手を置くと、そのカードに何かかが表示されてきた。
「はい。もう結構ですよ。ありがとうございました」
カードになにが表示されたのか分からない内に、受付女性がカードを回収してそこに表示されたものを読んでいる。
しかし、次第に受付女性の顔色が悪くなっていった。
何か問題でもあったのだろうか?
「ちょっと失礼します」
受付女性はカウンターの奥に引っ込み、奥で作業をしていた先輩と思われる女性と何か話し始めた。
周りのおっさんどもの声で、何を話しているのかはさっぱり聞き取れない。
やがて受け付け女性はカウンターに戻ってきた。
「あのー、ソーマさんの取得しているスキルの数がゼロになっているのですが。それにカードの色が、ソーマさんの体内魔力量がゼロと示しておりまして、そのう、大変言いずらいのですが、ソーマさんにこのギルドはちょっと難しいかと」
「へ?」
スキルゼロ? 魔力ゼロ?
受付女性の話では、真っ白いカードに俺の取得しているスキルが表示されて、カードの色で、俺の体内魔力保有量がわかるらしい。
しかし、俺が触ってもカードにはスキル取得数ゼロと表示され、カードの色は変化しなかった。
そうか! 俺は魔導書のおかげでスキルを取得しているし、魔法も魔導書に蓄積された魔力を使って発動しているからカードに変化がなかったんだ。
厳密には、俺がスキルや魔法を習得したわけじゃないもんな。
「原則、ガーディアンギルドは15歳以上で健康な体の方ならだれでも入れますが、ソーマさんのご年齢でいまだにスキルを1つも取得していない方は滅多にいなくて。大抵の方は戦闘に関係するスキルを2~3個取得していることが多いんです。それにソーマさんは魔力がゼロで魔法も使えません。とても命がけな仕事であるガーディアンが出来るとは思えません」
「いや! でも条件は満たしてますよね? 入るための条件」
「しかし、すぐに死ぬと分かっている方を入れるのは申し訳なく」
「なんで死ぬって決めつけるんですか!」
俺と受付女性は互いに譲らず、5分ほど言い合いが続いた。
すると、先ほど受付女性が相談していた女性が奥からやってきた。
「あんたいい加減にしなさいよ! 帰れって言ってんのがわかんないの? あんたみたいな弱い奴にガーディアンは務まんないのよ!」
いきなり怒鳴られた。
その声で、騒がしかったギルドが騒然となった。
「おい? ミランダちゃん? どうした?」
「その坊主がどうかしたのか?」
ギルドにいた人たちがカウンターに集まってきた。
いきなり怒鳴ってきた女性。ミランダさんは俺のことをギルドにいるみんなに言って聞かせた。
こんな弱い奴はこのギルドに入れられないと。
「そりゃそうだ。諦めて帰れよ」
「スキルも魔力もねえようなカスに用はねえよ」
「スキルなんてこれから取得すりゃあいいだろうが」
「条件は満たしてるんだし、本人がその気なんだから入れてやればいいだろうが」
気が付けば俺の周りは、俺がギルドに入るのに賛成派の人と、反対派の人で分かれていた。
「そんな役立たずギルドに入れて何させんだよ! 一生皿洗いでもさせんのか?」
「誰だって最初は弱いだろうが! ギルドに入ってから鍛えたって遅くはない!」
「無理無理。どうせゴブリンにでも殺されてお終いだろ!」
「俺だって魔法なんて使えねえよ。適正がねえからな。だが健康な体さえあれば誰だってガーディアンになれるさ!」
俺は終始無言で突っ立っていたのだが、周りは次第にヒートアップしていた。
ミランダさんは反対派の人たちを煽っている。
何が何でも俺を追い出したいらしい。
「おう、てめえら! いつからそんなデカい口叩けるほど偉くなったんだ!」
「うっせーんだよ!爺どもはさっさと引退しろ!」
「ひよっこが! 調子に乗んなよ!」
「んだこらあ! やんのか爺!」
ついに乱闘まで始まりだした。
ギルドの中では、大勢の人が暴れまくっている。
どうすればいいのか分からずに棒立ちになっていた俺のそばに、立派な髭を生やしたドワーフと思われる男性が近づいてきた。
「お前さん、腕に自信はあるかい?」
男性は乱闘など気にした風もなく、落ち着いた口調で俺に質問してきた。
さっきから散々な言われようだが、俺だって実践は積んでいる。
「無抵抗にやられるつもりはありませんよ。俺は魔法使いですから、邪魔する奴は魔法で蹴散らしますよ」
「ほう。いい度胸だ。ただのボンボンじゃないな。いい目をしている」
俺の返答に満足したのか、その男性は何度か頷いた後に、乱闘をしている人たちに向かって大声を上げた。
「いいかお前ら! こいつがギルドに入るのに文句のあるやつは自分の腕でこいつを叩き伏せてみろ! ギルドの地下訓練場に移動するぞ!」
骨にまで響くような男性の大声で、またしてもギルドの中は騒然とした。
「おい兄ちゃん。こっちだ。ついてきな」
俺は男性のあとに続いて、カウンターの脇にあった地下への階段を降りて行った。
さっきまで乱闘していた人たちも、渋々といった感じで、俺の後ろに続いて階段を降りだした。
階段を降りると、石壁で覆われた巨大な四角い部屋があった。
俺の正面の壁には、ミランダさんを筆頭に、反対派人たちが並んでいる。
俺のすぐ後ろには、賛成派の人たちが並んでいる。
「ガンズさん。正気ですか? 本当にその子に、現役のガーディアンをぶつける気ですか?」
ミランダさんは、俺をバカにするように見下した後に大声を出した男性に問いかけた。
「本人が戦えるって言ってんだ。問題ねえだろう。魔法で蹴散らすって言ってんだからよ」
「はあ? アッハハハハハハ! 魔力がないのに魔法で蹴散らすー? ここは宴会芸の会場じゃないんだよ? 手品ならよそでやりな!」
「ぎゃははははは! 魔法で蹴散らすだってよ」
「撃ってみろよ! 出来るんならよ」
さすがに切れてもいいよね?
こんだけバカにされたらブチ切れてもいいよね?
初対面の人間にここまでコケにされたのは初めてだ。
「いいからかかって来いよ! 俺の魔法が怖いのか?」
俺の挑発で反対派はブチ切れた。
「上等だ!ほら吹き野郎。ぶっ殺してやる!」
「前に出ろや!」
言われた通りに俺は前に出てやった。
「ここは俺に任せてください。あんな小僧、5秒でミンチにしてやりますよ」
反対派からは細身で長身の男が出てきた。
完全に俺をなめ切っている表情で、こっちに近づいてきた。
「やっちまえケイン!」
「そのガキぶっ殺せ!」
「気張れよ坊主!」
「ケイン程度なら楽勝だ!」
反対派と賛成派の壮絶なヤジが終わると、ケインがその場で両手を広げた。
「先手は譲ってやるよ、ぼくちゃん。大人の余裕を見せてやるよ」
本当に頭に来るな!
遠慮なんかしねえかんな!
俺は先手を譲るといったケインにわざとゆっくり近づいた。
ケインの目の前まで近づいて、奴の腹に手のひらを当てた。
「なんだあ! なんかのおまじないか? ぜんっぜん痛くねえぞ?」
「ファイヤー」
「あちいいいいいいいい!!!!」
ファイヤーで腹を焼かれたケインは床を転げまわって暴れ出した。
手加減してやったんだけどな。
俺が魔法を使ったのを見て、両陣営ともに、静寂に包まれた。
唯一大声を出したのはケインだ。
「てっめえええ!! 手品なんか使いやがって! 殺してやる!」
床を転がって熱が冷めたケインは、腰のナイフを取り出して俺に向かって走ってきた。
「ファイヤーボール」
「ぶあっちいいいいいいいいいい!!!!!!!」
俺の放ったファイヤーボールでまた腹を焼かれたケインは、ファイヤーの時以上に悲鳴を上げて床を転げまわった。
「こ、このくそ野郎! 今殺しに行ってやる!」
「その必要はないよ」
「へ?」
ケインが転げまわっている間に、俺はケインのすぐ隣まで近づいていた。
敵が無防備に転げまわっているんだから、近づくには絶好のチャンスだよね?
「ひい! ちょ、ちょっと待て。待ってくれええ!!」
「サンダーショック」
「あばばばばばばばばばばーーーー!!!!」
ケインの頭を掴んでサンダーショックを食らわせてやった。
ケインは完全に気を失ってその場に倒れた。
「俺の勝ちだな」
一拍の間をあけて、賛成派から雄たけびが上がった。
「よっしゃあ! よくやったぞ」
「やるじゃねえか、坊主」
俺の後方に控えていた賛成派の人たちは俺を胴上げしてくれた。
スカッとしたぜ。
「ふ、ふざけんじゃねええ!!!」
「こんなの何かの間違いだ!」
「魔力がねえ奴が魔法使えるわけねえだろうが!」
「「こんなの無効だあああああ!!!!!」」
予想外の結果に反対派は大激怒。
一斉にこっちに向かって来た。
「上等だ! 返り討ちにしてやる!」
「負け犬どもが! 結果を受け入れろ!」
結局また乱闘になってしまった。
今度はもちろん、俺も乱闘に参加した。
「あのガキを狙えー!」
「ファイヤーボール!」
「おわああ!」
「坊主に続けー!」
「うおおおおお!」
ギルドの地下訓練場はカオスと化した。
乱闘の最中、訓練場の隅で、ミランダさんが膝を抱えて震えているのが一瞬見えた。
もはや収集がつかないと思っていたその時。
「うるせえええええええ!!!!!」
訓練場へと降りる階段の方から、今日一番のすさまじい大声がこだました。
その謎の大声で、乱闘は一時中断になった。
「なんの騒ぎだ! 誰か説明しろ!」
声のした方を見てみると、1人の男性が立っていた。
その全身からはこの場の全員を黙らせるほどの気迫がみなぎっている。
その男性は訓練場を見渡し、震えているミランダさんを見つけた所でその目が止まった。
「ミランダ、説明しろ。このバカ騒ぎはなんだ?」
「ひゃいいい!」
名前を呼ばれたミランダさんは、震えながらもその場から立ち上がり説明をした。
「ほう? スキルも魔力もねえ小僧がうちに入りてえと来たと? で、危険だから考え直すように説得したと。そう言うことか?」
「はい! そうです」
「ふざけんなああ!」
「ひいいいいい」
「ギルドに入れる条件を満たしている奴を追い返せんのは、ギルドマスターの俺だけだ! いつからてめえ、俺と同じ立場になったんだ!」
「ごめんなさいいいい!!」
「その小僧はどこだ!」
ギルドマスターが俺の居場所を聞くと、その場の全員が俺の方を向いた。
「お前か。名は?」
「蒼真です」
「そうか。ソーマお前、この乱闘で何人倒した?」
「7、8人ほど」
「聞いたかお前ら! 現役のガーディアンを倒せるこいつが、ガーディアンギルドに入れない理由があるなら言ってみろ!」
誰からもギルドマスターへの抗議の声はあがらなかった。
「よし。じゃあ文句ないな。今日からこいつもガーディアンだ」
ギルドマスターの宣言で、ようやくこの騒ぎは収まった。
「ちっ、ギルマスが認めたんじゃ仕方ねえ」
「まあ楽しめたからいいか」
「ソーマつったか? 喧嘩売って悪かったな」
「俺らも熱くなりすぎたよ。すまなかったな」
「歓迎するぜ。ようこそガーディアンギルドに」
さっきまでの喧騒が嘘のように、みんな階段を昇って行った。
-----
「その後、無事ギルドカードを発行してもらえました」
「そりゃ災難だったな。その時の乱闘でボロボロになったのか」
「いや、ボロボロになったのは違います」
「違う? じゃあなんだよ?」
「その後、みんなで俺の歓迎会を開いてくれて、盛り上がったところでまた乱闘になって、ブチ切れたギルドマスターが乱闘していたメンバー全員ぶちのめしてギルドから追い出したんです。俺もぶちのめされました」
「自業自得じゃねえか」
「でも」
「ん?」
「結構楽しかったですよ」




