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宿らされた者  作者: 鋼矢
第二章
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42 救出

 無事にクフォンと合流したルークたちは、子供たちが監禁されていると思しき村はずれへと向かう。

 彼女の動きは非常に洗練されたもので、物音ひとつ立てず、ともすれば傍にいるルークたちですら見失いかねないほどだった。


「……あそこ?」

「ああ、おそらくな」


 物陰に隠れ窺う四人の視線の先には、ルークたちが寝泊まりしていた家屋とそう変わらない、古びたみすぼらしい小屋があった。

 すぐ傍には見張りと思われる二人の男が佇んでいる。


「こんな時間にこんな場所で見張りをしていたら、逆に怪しんでくれって言っているようなものなんだけどね……」


 やはり本質的に彼らはただの村人なのだろう。行動の端々に悪事に不慣れな様子が見て取れる。

 そんな彼らを目を鋭くして見ていたクフォンが一歩前に出た。


「……片付ける」

「クフォン、殺しはなし――だよ」


 短剣を握ったクフォンの片手を掴みを制止する。彼女は異議を唱えるかのようにじっとルークを見据える。

 暗闇の中、瞳孔の開いた彼女の瞳が色もなく見つめてくるが、ここで引くつもりはなかった。

 暫くすると、この場で押し問答しても埒が明かないと判断したのか、不承不承といった様子でクフォンは頷いた。


「俺も手伝うよ」


 それを確認したクロエが剣を片手に立ち上がり、二人は見張りの背後へと回り込む。

 抵抗の真似事すらできず、見張りはあっさりと無力化された。彼らは最後まで何が起こったのかさえ把握できなかったことだろう。


「……すげーな、おい」


 二人の見事な手際にコルネリアが感嘆の声を上げた。

 ルークも同意見だったが、今はとにかく時間が惜しい。意識を失った見張りを手早く縛り上げると、そのまま小屋へと侵入する。


「――誰もいない?」


 クロエの疑問の声が明かりもなく締め切られた小屋の中に零れた。

 彼女の言葉通り、小屋の中には人っ子一人おらず、物置でさえないのか閑散とした様を晒していた。


「おい……まさか外れだったのか?」

「いや、それならこんな小屋に見張りを立てている理由に説明がつきません」


 そう、この小屋が見た通りの古びた小屋であるならば、わざわざ見張りを立てておく意味などない。

 ルークたちが注視することもなかっただろう。何らかの秘密があるのは確かなのだ。

 すると、小屋を歩き回っていたクフォンが何かに気づいたのか、激しく耳を揺らした。


「……この小屋……地下室がある」


 床を険しく睨み付けて彼女は告げる。先程合図に使った子笛もそうだが、どうやら『リヴェルの民』は人間よりも感覚が鋭いらしい。


「よし、そういうことなら……ちょっと下がってろ」


 一々調べるのも時間が惜しいとばかりに剣を抜いたクロエが三人を下がらせる。


「――シッ!」


 一閃――魔力を込められ硬度と鋭さを増したクロエの剣は、床をバターのように容易く切り裂いた。

 バラバラになり原型を失った床はそのまま暗がりの中に落ちていく。

 そして四人の前には地下へと続く階段が姿を現した。


「よし、それじゃあ僕とクフォンで奥を調べてくるから、クロエとコリィ先輩は外を見張っておいて」

「わかった。気を付けてな」

「手早く済ませろよー」


 クロエとコルネリアの返事を確認し、ルークは地下へと通じる階段に足をかける。

 すでにクフォンは先行しているようだが、暗闇で足元が見えず難儀しているようだ。


「【導灯】」


 魔術で灯りを生み出し、暗闇を照らす。階段は見るかぎりそれなりの年季を経たもので、元々この小屋は別の用途に使われていたのではないかと感じた。

 クフォンは闇を裂いた光に目を細めて一言呟く。


「……便利」

「そういえば『リヴェルの民』には魔術を扱う文化はなかったんだっけ?」

「……うん……ない」


 そう言ってこれ以上は余分な会話だと足を進める。ルークもまた黙ってその後ろに続く。

 こういった状況でなければ色々と訊きたいこともあるのだが。


 階段はそれほど深いものではなかった。さしたる時間もかからず地下室へと至る。

 地下特有の澱み湿った空気。衛生面への配慮など感じさせず、長らくまともに使われていなかったことが察せられる。

 ――そして、そんな場所に彼女たちは蹲っていた。


「……だれ?」


 強引に増設されたと思しき牢の向こう側、部屋の片隅で一塊になった彼女たちは傷つき震える小動物を連想させた。

 襤褸(ぼろ)のような衣服から覗く手足も細く、食事も満足に与えられていないのではないかと思われた。


「……イル。……私……クフォン」

「……クフォン? ……クフォンお姉ちゃん!?」


 前へと進み出たクフォンが名乗ると、初めは彼女が誰だかわからず戸惑っていたようだが、状況が飲み込めたのか目を見開き身を乗り出す。

 イルと呼ばれた少女の周囲に集まっていた他の子供たちも、俯いていた顔を上げ視線を向けてくる。


「ク、クフォンお姉ちゃん……わたし、わたし……っ!」

「……もう大丈夫。……皆で……助けに……来た」


 牢の格子越しにクフォンがイルの頭を撫でると、感極まったのか嗚咽を漏らす。

 彼女に釣られて他の子供たちも泣き出しそうになるが、それは何とかクフォンが抑える。


「……すまないけど、話を進めていいかな?」


 かなり空気が読めない行動だとさすがに自覚するも、クフォンと子供たちの再会に割って入る。

 できれば彼女たちには時間をあげたいのだが、そういうわけにもいかないのだ。

 すると――


「ひっ!? に、にんげん……!?」


 こちらに気づいた子供たちは怯えた様子で後退(あとじさ)る。

 わかってはいたことだが、中々にきついものがある。


「……大丈夫。……彼は私達の味方……協力者」


 クフォンが補足することでどうにか落ち着きを取り戻す子供たち。


「……何かしてきても……私が潰すから……絶対大丈夫」

「……その言葉で安堵してほしくはなかったかな」


 クフォンが平坦な声で続けた言葉に表情を輝かせる子供たちを見て思わず愚痴が零れる。

 仕方がないことだとわかってはいるものの、こうも露骨に邪険にされると普通に傷つくのだ。


「……ふぅ。――【刃裂】」


 軽く息をついて意識を切り替え、魔術でもって片手に刃を生み出す。

 騎士適性の者が刃物を魔力で強化した物には及ばないが、それでもこの程度の牢であれば問題はない。


「少し下がってて」


 まだ怯えた様子は見せているものの、子供たちはルークの言葉に従い格子から離れる。

 躊躇することなく刃を振るう。軽い手応えとともに子供たちを捕えていた牢はその意味を失った。


「……よし……脱出するから……皆……静かに……ね?」


 牢から解放された子供たちにクフォンが注意する。この中では年長者らしいイルが頷き他の子供たちも続く。

 肉体的疲労、あるいは精神的疲労によるものか、衰弱して満足に歩けない子供はルークとクフォンが背負う。

 こうして彼女たちは外へと足を踏み出したのだった。




「おっ、上手くいったみたいだな」


 地下室を出た先の小屋ではクロエとコルネリアが待っていた。

 コルネリアが安堵の声を上げ、クロエも強張っていた表情を緩める。

 増えた人間の姿に子供たちが怯える場面もあったが、それはクフォンがどうにか抑えた。

 元々こうした事態が想定できたからこそ、少し無理をして彼女に合流してもらったのだ。


「――急ごう。できるだけ早く村から離れるんだ」


 子供たちが落ち着いたのを確認してクロエが発した言葉に従い、一行は村を囲う防壁へと近づく。


「【掘岩地】」


 魔術でもって防壁に人一人通れる程度の穴を穿つ。本来こういった魔術の使用は法に触れるのだが、ルークは躊躇わなかった。


「【壁土】」


 全員が村の外へと出たのを確認し、今度は逆に穴を塞ぐ。その際、コルネリアから渡された『斥化石』を構築中の壁に組み入れるのも忘れない。


「【硬土】」


 最後に土を硬化させ、防壁を元に戻す。別にこの村に悪意があるわけではないのだ。

 誘拐に加担した者はともかく、他の者まで危険に晒されるのは忍びない。


「……それじゃあ……キトゥたちと……合流する」


 全ての作業が終わったのを察したクフォンがそう言い、皆がその指示に従おうとした時――


「……ッ! おいっ、どうした!? なにがあったんだ!?」


 村の中から野太い男の声が響いた。

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