スノーフォール市街戦
男達の体臭と輸送車特有の砂の降りかかった椅子や床に十人の兵士が敷き詰められている。車体を大きく揺らしながら彼らが向かうのはスノーフォール市、敵の要所となる地帯、その占領を課せられた彼はオアシスとも言えた街から一人残らず輸送車に乗り込み、目的地までの暇つぶしに興じていた。
ライアン少尉はニアへどんな内容の言葉を送るべきか悩んでいた。ろくな時間も作れず唐突に集合を課せられた彼らにはまともな家族や恋人との時間は与えられなかった。結局ライアン少尉は最後までニアとの関係を一歩進ませることが出来ないことに悩んでいた。
「少尉殿? 妹と寝たって本気ですか?」トミーが訊いた。
「いや、寝てないよ。同じ屋根の下に泊まりはしたが彼女が怯えていたんだ。無理にすることなんて出来なかった」
ライアン少尉の言葉にトミーは妹を案じることもなく、わかってないなと呆れ顔でライアン少尉の隣に立つ。
「そういう時こそ優しく肩を抱いてベッドへGOでしょう? 少尉殿は妙なところで真面目なんだから」
「トミーは少しは妹の身を案じたらどうなんだ? 家族だろ?」
「俺はいつだって案じてますよ? でも少尉殿なら任せられる。だから安心して任したのにこれじゃあ……」
結局なところ、トミーは本当にやってないか、妹の無事が心配でライアン少尉に探りをいれているようだった。無事だと分かると笑いながらライアン少尉の肩を叩く。わかりやすい男だ。
「なぁ、ライアン? もう送ったか?」
「まだ経って2時間だろ? 子供だと思われたくない」
「へんなところで意地はっちゃってー? 子供っぽいんだから」
「ローガンこそ、ジュリアとリアとキャメロンとけりをつけたのか?」
「もちろんだ。昨日4Pして大団円を迎えたよ」
「黙れよオナニスト」トミーが言った。
「少尉殿、俺たちが向かうのは……」
「スノーフォール市、シュバリアの南部に位置、重要な重工業都市として発展、その後は精密機械を主とした工業製品の開発や衣類のファッション、紙幣や紙類の製造業が増えた重要拠点だ。名前の通り、すぐ近くに崖があってそれが川に沿って流れてる。景色は絶景だけどとにかく寒い」
スノーフォールの歴史は長く伝統ある、川が流れることから主要な都市として常に発展の矢先として挙がった土地だ。今回はそれとは逆の意味で名が挙がったが、既に都市は見る影もないほどに廃れて人などほとんどいないだろう。
スノーフォールまであと少し、途中の仮説病院へ到着し、数分徒歩で移動した後に再度輸送車へ乗る。外は混雑して様々な部隊が入り混じった混乱状態だ。レオパルト2と空挺戦闘車用のヴィーゼル、戦車や戦闘用車両も多くがここで移動していた。そのため、病院内から外へ出た方が早いのだが、士気向上の面でこの判断は正しくなかったのかもしれない。病院内では包帯も巻くことさえできず、傷だらけの負傷兵が文字通り傷口を晒しながら横たわっているのだ。注意深く見れば死体もあるんだろうが、探す気にもなれない。
「酷いな……」トミーが口を開いた。
いつもジョークばかり言う彼もこの惨状を目の当たりにしてジョークをいう余裕はない。同じ第6師団の仲間が死に際にいるのに、家柄の良い部隊だけが軍服を血で汚すことなく歩いている。彼らにとっては仲間さえ憎かったのではないだろうか。ライアンの率いる小隊も外に出て、やっと息を休める。と思えば今度は捕虜が待ち受けた。およそ人としての扱いを受けている者はいない。鎖で繋がれたシュバリアの兵士はベルテンベルグの将校や下士官に鞭や棍棒で意味もなく殴打されている。
「ひでえな」ローガンが言った。
自分達も敵の捕虜になれば棍棒で叩かれ、鞭で叩かれ、なぜ叩かれるのか理由も分からず我慢するしかないのか。
「おい……おい! やめろ!」ライアン少尉が怒鳴った。
「何をしてる? こんな事をしていいと思っているのか?」
「うるせえんだよ! 豚に同情してんのか? おい!」
男は棍棒をライアン少尉に殴りつけようとする。
「おい、いい加減にしろよ」
寸前でローガンが棍棒を持つ男の腕を掴んだ。
「誰の命令でこんなことしてるんだよ」
「誰の命令でもどうでもいいだろ! あっちいってろ売国奴!」
男は棍棒を掴んだまま奥に消えたがあれで捕虜を殴るのをやめるとは思えなかった。もうここでは命令系統なんてものは崩れかけているのだ。下士官は相手が誰かも確かめずにただ自分の奥のストレスを捕虜にぶつけてしまうことでバランスを保っている。
「ローガン、PCあるか?」
「え? ああ、業務用なら輸送車に一台あると思うけど……」
ライアン少尉は無言で輸送車の人混みをかき分けて業務用のPCに電源をいれる。手短な報告書を書き上げてそれを本部へ転送した。




