宣戦布告
7月、日曜日。6月の陰鬱な空は消えた。首都の子供達は公園で温かな休日を過ごしている。元気のあり余っている子供は、プールへ泳ぎに行く者もいて、この国が戦争中であることを忘れさせるようだった。喫茶店では、大人達が集まり、子供が身体に向ける元気を口へ注ぎ込み、緊張状態になあるシュバリアと、祖国が戦争になるのではないかと様々な憶測が飛び交っていた。
ベルテンベルグの首都に建てられたシュバリアの大使館は、その噂が本物になるのではないかと緊張している。ベルテンベルグの偵察機が遥か後方とはいえ、戦闘機を護衛につけてシュバリアへ領空侵犯を繰り返していた。
ベルテンベルグの外相へもう何度か分からない程の電話を入れるが、以前電話に返ってくるのは「外相は現在留守にしています」との部下の声だけだ。時間だけが過ぎていく。シュバリア本土からは「納得できる形で速やかに情報をよこせ」と催促の電話を鳴り響き、ベルテンベルグ外相への通話口からは「外相は留守です」と返された。
同じころ、公然と領空侵犯を繰り返すベルテンベルグの偵察機を疑い深いシュバリアの首相、セクターはリヒト・ムーゲン(ベルテンベルグの首相)がこちらへ譲歩を誘い出そうとしていると睨んでいだ。
シュバリアのベルテンベルグ大使館ではシュバリア大使館のような焦りはない。ベルテンベルグ大使館全体の意見としてはベルテンベルグがシュバリアに宣戦布告するなんてことは考えられないというのだ。
それはある意味で当然の結論のようにも思える。ベルテンベルグはリスバニアやステリアに戦勝したばかりで疲弊も激しく、またシュバリアは歴史的に見ても極東での戦争以外では、無敗を誇る大国であった。
しかし、セクターや外務省はそうは思わなかった。大使達を拘束して、彼らから情報を引き出そうとした。大使達は言葉に詰まり、ベルテンベルグへ連絡をするが、電話に出る者はいない。大使達の額に汗が流れる。見捨てられたのだ。ベルテンベルグは大国シュバリアに宣戦布告する。噂は既に真実に近づきつつある。
シュバリアでは防空態勢が敷かれるが、シュバリア国民はまだ祖国が戦争の危機にあることを実感できてはいなかった。戦争がもし起きているならば、前線はどこなのかと不安になるものなのだが、誰も前線はどこにあるかは知らない。ベルテンベルグの偵察機が後ろに戦闘機をつけて領空内に侵入しているというのに、兵士は人だけが国境へ向かい、銃と弾丸なき睨み合いが行われているだけだ。ベルテンベルグの挑発行為を戦争とみるか、精神的揺さぶりであるかどうかは、セクターに託された。
十五分後、シュバリア国境近辺にある軍事基地が、ベルテンベルグの爆撃機に爆撃されたと情報が入る。シュバリアは極東で受けた奇襲攻撃を思い出す。宣戦布告もせずに下劣で卑怯な戦法を好んで行った民族を、そして長い戦争の末に味わった敗北を。
シュバリア西部国境線を守護する提督へセクターは一本の電話を入れる。誰に言わされたわけでもなく、この爆撃の報が真実であるのか。
2時間後、シュバリア大使館にベルテンベルグ外務省らが訪れる。情報を聞き出そうとする彼らに外務大臣らは一言、宣戦布告を通達した。




