ブラックバード(虹色幻想2)
それは遠い昔の話でした。
一羽の黒い鳥が人間に恋をしました。傷ついて、疲れていた鳥を助けてくれた心優しい人間。その人間に恋をしたのでした。
はじめ、黒い鳥は人間を恐れました。しかし優しい人間の心に触れ、黒い鳥はだんだんと心を開いていったのです。
そうして傷が癒えた頃には、鳥は人間に懐いていました。
鳥は願いました。
人間になりたい、と。そうしてずっと一緒にいたい、と願ったのです。
やがてその願いが天の神に届き、鳥は一人の女性になったのでした。
「私はあなたが助けてくれた黒い鳥です。あなたに助けられ、あなたを好きになりました。そうして人間になりたいと願い、叶いました。どうか私を傍においてください」
人間は驚きました。始めはその言葉を信じることはありませんでしたが、助けてくれた様子や看病の様子を話すと信じてくれました。
「君は本当にあの黒い鳥なのかい?そうだったら、こんなに嬉しいことはないよ。黒い鳥が急にいなくなってしまって、心配していたんだ。無事で良かった」
そうして二人は死ぬまで一緒に暮らしました。
遠い昔のことを覚えている?
ずっと昔、今の自分の前のことを。
私は覚えている。
かつて自分が黒い鳥であったことを。一人の人間に恋をして、人間になったことを。
そうしてその人間と添い遂げ、幸せな人生を歩んだことを。
今、私はまた人間となって生きている。
そうして一人の男と出逢った。彼は覚えていないだろう。かつて私を助けたことを。
「黒須さん」
彼は私のクラスメイト。この私立和泉高等学校の同級生。
「何?相原君」
彼は私を見て優しく微笑む。そうして恥ずかしそうに下を向いた。
「話を聞いてもらいたいんだ。突拍子もない話なんだけれど、聞いてもらえるだろうか?」
「ええ、いいわよ」
それは放課後だった。教室にはもう誰もいなくなっていた。彼は私の前の机に座り込み、遠くを眺めながら言った。
「遠い昔、一羽の黒い鳥を助けたんだ」
そう言って彼は私を見て微笑んだ。
それは、かつての自分。
私は息をするのも忘れて彼を見つめた。
彼は気づいたのだろうか?
その事実を確認するのには、勇気がいる。私は震える拳を握り締めて、口を開いた。
「それって…!」
彼は頷いて口を開いた。私は次の言葉を待っていた。
私は一人の人間に恋をした。
その恋は永遠だと、確信した。