ヤギさんのひげ
昔々、あるところにとてもあごひげが立派で、自慢のヤギのおじいさんが居ました。
今日もヤギのおじいさんは、いつものようにあごひげの手入れをしていました。
今日は一体、誰に自慢しようか。その様なことを思いながらあごひげの手入れをしていましたから、手元が狂ってしまいました。
チョッキン!
「あっ!」
ヤギのおじいさんは立派で自慢のあごひげを切ってしまいました。
「あぁ、なんてこった!」
ヤギのおじいさんは自分の失敗をとても悲しく思い、その場でおいおいと泣き出してしまいました。
おじいさんの泣き声を聞いて、他のヤギさんたちも集まってきました。
「おじいさん、なぜ、泣いているの?」
皆が聞きますので、おじいさんは訳を話します。皆がおじいさんのあごを見ると、確かに立派で自慢のひげがぱっさりと切れています。
それを見て、皆も悲しくなりました。
「おじいさんが長年、丁寧に手入れをしてきた、あごひげが無くなっているよ」
「おじいさんの自慢は、僕ら皆の自慢だったのに」
ヤギさんたちは皆、とても悲しくなりまして、おじいさんと一緒に、声を合わせて泣き出しました。
すると近くを歩いていた、ヒツジさんたちがヤギさんたちの泣き声を聞いて、心配して近寄ってきました。
「やぁ、ヤギの皆さん、どうして皆揃って、声をあげて泣いているのでしょう?」
1頭のヤギさんが答えます。
「私たちの自慢でありました、おじいさんの立派なあごひげが、切れてしまったのです。これが、とても悲しくて悲しくて」
ヤギさんたちの真ん中で、1番大きな声で泣いている、ヤギのおじいさんを見て、ヒツジさんたちも悲しくなりました。
ヒツジさんたちもしくしくと泣き始めますと、その中の1頭が「ポンッ!」と手を叩いて「ちょっと、待って!」と言いました。
「どうしたんだい。急に?」
他のヒツジが問い掛けます。
「良い方法があるよ!」
そう言いますと、ヒツジさん、自分の毛を一握り、ハサミでチョッキン、切りまして、糸でしばりますと、おじいさんのあごに結び付けました。ヒツジさんの毛はちょっとだけカールしていますけど、右から見ても、左から見ても、立派なあごひげに見えます。
「おぉ、これはすごい!」
ヤギのおじいさんは、涙をふきながら、鏡に映ったあごひげをまじまじと眺めています。
周りにいる、ヤギさんたち、ヒツジさんたちはヤギのおじいさんの顔が明るくなっていくので、一緒に嬉しくなってきました。
ヤギのおじいさんは嬉しさのあまり、踊り始めました。すると、ヤギさんたち、ヒツジさんたちも一緒に踊りました。
その内に、ヤギさんたちはおじいさんのあごひげを見ていて、うらやましくなりました。
「いいなぁ、うらやましいなぁ」
「私たちも、同じように、あごひげを付けたいねぇ」
それを聞いたヒツジさんたちは、もこもこした毛を一握りずつ、ヤギさんたちにプレゼントしました。
ヤギさんたちは皆、おじいさんと同じように、ちょっとカールしたあごひげを付けて、嬉しくなって、また踊りました。
こうして、ヤギさんたちは皆、あごひげを付けるようになったそうです。
おしまい。