第七十九話 僕らの謎
2016/02/07 誤字修正及び内容の一部修正を行いました
2016/01/26 話数番号を変更しました
第八話から十一話までを同時に修正しました。
内容がそれなりに追加されているので、ご覧頂ければ幸いです。
その日の夕方、僕ら二人は夕食を前に会議室へと呼び出された。呼び出された理由は、僕らの魔法についてだ。どうも他の人とは何かが違うらしい。一応騎士団の設備に設置されたお風呂で汗は流しておいた。
会議室はいくつかあるんだけど、僕らが来るように言われた会議室は防諜設備が整っているらしい。この世界では初めて防諜設備があるというのを聞いた。
「防諜設備なんてあるのね……」
それに頷きながら通路を進む。通路は半分板の壁で、残りは石を積んだ通路だ。今のところこの通路を改修する予算はないらしい。まあ街には城壁もあるし、早々簡単にはこの場所まで攻め込まれる事は無いだろうから、予算が後回しなんだと思う。
「ここだね。僕らに一体何を聞きたいんだろう? しかも防諜設備完備だなんて……」
「私は聞いてみるしかないと思うわよ。悩んだところで解決しないし」
確かにエリーの言うとおりなんだけど、やっぱり何か不安になる。
僕らは扉の前に立ってからノックする。ちなみに扉は金属製。見た目でもそれなりの重量がありそうだ。これも防諜対策なのかもしれない。
少しして扉が奥側に開いた。そこにいたのは僕らの魔法部隊指揮官であるエリク・デザルグさん。その後ろにはさらに扉があって、奥にはさらに人気がある。扉が二重構造だし、扉の分の通路があるので人数までは分からない。
「さあ、入ってくれ。大丈夫、君らの話を聞きたいだけだ」
おとなしく従って奥に入ると、通路の扉ともう一つの部屋の扉が閉められた。内側から鍵もかけられたみたいだ。
「連日すまない。今回は特別でね。君らの過去が知りたいんだ」
最初に話しかけてきたのは、騎士団の総隊長であるエヴァリスト・バンジャマン・ニコラ団長。周囲には第一騎士団の団長や副隊長、よく見ると女性騎士団の隊長と副隊長もいる。さらに第二騎士団の体長や副団長、魔法部隊の指揮官と副隊長まで同席している。
「立ち話には時間がかかると思う。君らの食事は我々のも含めて別に用意しているので、そのあたりは心配しないで大丈夫だ。そこの空いている席に座って欲しい」
返事をしてから言われるがままに僕らは座る。全員普段着とはいわないけど、略装の装備だし武器も所持はしていない。
「さてと……デザルグから話は聞いたのだが、君らは魔法を使うのに杖を使わないと聞いた。一応そこのモニチェッリやディンガー、ヒルディングソンにも確認済みだ」
モニチェッリさんは人族で、第一騎士団の魔法部隊隊長、ヒルディングソンさんはクーシー族で女性騎士団の魔法部隊副隊長との事。僕らの事を観察していたそうだ。
「あなたたちの魔法は、私達から見ても素晴らしいの一言よ。しかも杖を使わずに、詠唱さえなくあの威力。正直驚きを隠せないわ」
ヒルディングソンさんの言っている意味が正直分からない。僕らは魔法を使うときに杖も使わなければ詠唱だってしない。
「普通は魔法使いだと杖は必須。詠唱もなく唱えるのは我々も初めて報告を受けた。にわかに信じられないが、複数の証言から間違いないだろう。その上で聞きたいのだが、君らはなぜそういったことが可能かという事だ」
ニコラ団長の話によると、今の世界で魔法使いが杖を使うのは当然であり、詠唱無しで魔法を唱えるなど不可能との事。むしろそれを聞いて僕らが驚いたくらいだ。
「そう言われても、私達はこれが普通だし、そもそも杖なんて使った事は無いわ。それに詠唱って何?」
さすがに僕は前世の記憶から詠唱の意味くらい走っているけど、魔法を使用するときに魔法名を言うくらい。それも相手に何の魔法かを伝える手段であって、別に必須じゃない。
「一応資料を調べてみたのだが、ここ数百年間君らのような存在は初めてらしい。そうなると、君らが生まれた時代と今の時代とでは何かが違うという結論になる。君らが過去に色々な事に巻き込まれているのは把握しているが、それでも理由の解決にはならなかった。なので君らから直接話を聞きたい」
モニチェッリさんが補足するように説明してくれた。そして机の上に一冊の本が置かれる。
「これは我々が使用している魔法の解説書で、当然詠唱などの事が記載されている。しかし君らはそれを一切使わずに、かなり高い難易度の魔法を使っているようだ。他の資料を調べてみたが、君らの威力を説明出来る魔法は残念ながら見つからなかった」
モニチェッリさんは魔法書をめくりながら僕らに説明してくれる。基本的な火球魔法――今ではファイアボールと呼ばれている物でも、三つの単語を組み合わせた詠唱が必要と説明を受ける。高威力ともなれば、簡単に見た限り詠唱だけでも二十個以上の単語が必要らしい。それでも僕らの魔法については説明がつかないと補足してくれた。
ちなみにファイアボールの詠唱は『リスゥ バゥラ ヴィリ』となるらしい。また『リスゥ』に魔力を込めて発音し、『ヴィリ』をさらに強く魔力を発音する事で、ファイアボールの威力が上がるのだとか。他にもいくつか聞いたけど、正直今まで馴染みがなかったので、すぐに覚えられるほど簡単じゃない。
練習場で後日試すという事になったけど、まずは詠唱の基本的な手順書などを借りる事になった。ところで言葉に魔力を込めるってどうやるのかさっぱりだ。
「杖には汎用と特定魔法に特化した物がある。汎用はどの魔法でも対応出来るが、特化した杖に比べて威力は若干落ちる。それでも普通に使用する分にはまず問題はない。特化した杖は杖の特長を活かして、その時に最適な魔法を使うための補助であって、一般的には使用しない。特化型は扱える魔法の系統が一種類で固定されるため、運用が難しい。研究は重ねられているが、ここしばらくは大きな成果と呼べる物はないな」
ドレヴェスさんが補足するように説明してくれ、その間に汎用品と特化型の杖が目の前におかれた。どちらも金属製らしく、若干の魔力を感じるのでミスリル系統の材質だと思う。銀色をしているので、ミスリル銀製だとは思うけど。
長さは手首から肘くらいまで。太さは親指ほどなのはどちらも変わらない。それに魔石なども付いていない。
「あれ、そういえば魔方陣を使用した物はないんですか? それと召喚術とか」
最近全く使っていなかったけど、魔方陣を用いた魔術や召喚術の事を思い出す。そもそも魔方陣は魔道具や魔法具の絶対的基本だ。
するとエリーを除く全員が首をかしげた。
「ベルナル君は何を言っているんだ? 魔方陣は過去に失われた魔法だし、召喚術など我々は知らないのだが。そもそも君らが行っている事は正直理解に苦しむのだが……」
ニコラさんの言葉に今度は僕らが驚く番。正直なにを言っているのか分からず、言葉が出ない。静寂が会議室を包む。エリーは唖然としたように口を半開きにしている。
少し時間が経ってから静寂を破ったのはモニチェッリさんだった。
「言い伝えでは、魔方陣を作って魔法を発動させるという記録は残っているわ。でも肝心の魔方陣については、何のヒントもないの。召喚魔法というのは、何かを呼び寄せるという事かしら? そんな魔法は資料もそうだけど、言い伝えでさえ残っていないわね。ちなみに召喚魔法で、どんな物が召喚出来るの?」
「色々な物を召喚した事がありますよ。召喚と言っても、実際にいる動物とか魔物をその場に呼び寄せるんじゃなくて、えーと……精霊とでも言った方が良いのかな? 召喚した人の命令を聞く動物とか魔物のような物を召喚した事があります。小さい物だと狼とか、大きい物だとドラゴンとかですね」
「ど、ドラゴン!?」
シュナーベルさんが驚くと同時に、他の人たちまで絶句している。なぜかエリーまで僕を見て『信じられない』って顔をしている。
「あれ、エリーは召喚術やった事が無いの?」
「そうよ? やってみたいと思った事はあるけど、やる機会がなかったし」
言われてみれば僕の場合はお母さんが魔法の講師をしていたから機会があったのであって、そうでなければ確かに無いかも。それに召喚術なんて、普段は使い道が無いし。まあそれで今まで口にもしていなかったんだけどね。
シュナーベルさんが召喚術について聞いてくるので、僕の知っている範囲で答える。とはいえ使ってからだいぶ時間が経っているし、今使えるかどうかも分からないけど。もちろんそれについてもきちんと話す。制御が上手く出来なくて、またドラゴンをいきなり召喚したら大変だろうからね。
そして一通り説明が終わると、エリーも含めてみんなが絶句している。エリーまで絶句しているのは正直予想外だったけど。
ただ魔法はともかく魔方陣による魔法の発動と召喚術が失われているのは驚きを隠せない。とくに魔方陣は信じられない。
使い方にもよるけど、魔方陣を上手く用いれば色々な事が出来る。それこそ鍋を温めたりする事も出来るし、もちろん武器として使う事だって出来る。なので魔方陣くらいは普通に今でも使っていると思っていた。
そういえば一ヶ月ほど借りて実質住まなかった家は、魔方陣を使ったコンロなど無かった気がする。あったのは薪を使った物だ。
「私から質問するけど、魔方陣や召喚術はとりあえず後にしましょう。それよりも気になるのは、魔法を使うのに杖を使ったり、詠唱を行う事ね。私達が生まれたときにはそんな事をする必要なんて無かったわ」
僕が混乱している間に、エリーが質問する。確かにどちらも必要なかったし、必要だと聞いた事もなかった。
「それは……説明した方が良いのでは?」
デザルグさんが他の人たちを見渡すと、ニコラさんが頷いた。
「説明が長くなるがいいかな? そもそもは約百年前に起きた――」
ニコラさん他が教えてくれた事は、正直僕らには衝撃だった。
約百二十年ほど前、正確な年数や月日は不明らしいんだけど、その時全世界を覆った魔力災害が起きたらしい。その規模は常識では考えられない規模で、今でもその原因は分かっていないのだとか。
魔力災害は魔力を全ての人から奪っていく物だったらしく、それは数年続いたらしいんだけど、それも正確には分かっていない。ただ十年程度は続いたらしく、その影響で火山の噴火もあったのだとか。一応世間的には火山活動が一時的に増大して、その影響と公表されているらしい。
そもそも年数がはっきりしないのは、その間に時計がきちんと作動しなくなったそうだ。その点は言い伝えらしいんだけど。
その間に魔力が元々低い人たちは次々と死亡し、この大陸だけでも分かっているだけで人口の七割が死亡したという話だ。
生き残った人たちも魔力がそれまでよりも下がったらしく、時間が経過すると共に魔法が使えなくなった人が増えていったらしい。今でもその影響は若干続いているらしく、場所はまだ分かっていないらしいけど、どこかに魔力が吸われていると専門家が指摘しているのだとか。
それでも魔法が使えるのと使えないのでは能力として圧倒的な差がある。その苦肉の策として、少しでも素質がある人のために開発されたのが杖と詠唱だと言われる。
僕らが普通に魔法を使えるのは、前の町からここまで移動する際に、時間のずれが影響したのでは無いかとの事。それでも元々魔力が高かったので、その為に魔力を失わなかったのではと言われた。もちろん仮説なので確証は無い。だけど、今のところそれ以外に説明がつかないらしい。
どの動物や魔物も、その時の影響で魔石の大きさが著しく小さくなったそうだ。それでも森の中などには魔素が充満しているところが存在していて、そういった所の影響を受けた魔物などが強くなっている可能性があるらしい。
前に僕らを検査したところ、体内の魔石は他の人たちと比べて著しく大きいそうだ。今の人たちの大きさはせいぜい小指の爪程度で、大半はその半分もあると大きいと見なされると言われる。
そんな理由もあって、僕らは『生きた伝説の存在』らしいのだけど、僕らとしてはもちろんそんな意識は無いし、そもそも言われたところで実感なんて無い。
そもそも人や動物、魔物の魔力流出は僅かだけど今でも継続されているらしく、もちろんその原因は不明。
さらに体内の魔石に関しては、今でも少しずつ小さくなっているのが分かっているけども、対策は全く取れていないし、もちろんその原因も不明。
さらに悪い事に、魔力災害で多くの遺跡が失われたらしく、それで各種魔法関連の技術が失われたとも言われた。特に魔方陣の技術は再現出来ておらず、召喚術が失われたのもそれが原因ではないかと推測される。
実際僕らがこの町に来るとき、途中で表現出来ない違和感が何度か襲ったりもしたけど、それについてはその時はあまり考えてもいなかったし、その程度と言っては何だけど、あの時は前に進む事の方が重要だった。時計も持っていた訳じゃないので、その間に時間軸の波へ一時的に巻き込まれた可能性もあるそうだ。もちろんそれを証明出来る物は何もないそうだけど。
当然巻き込まれた影響で、僕らの魔力が衰えている可能性はあるらしいけど、体内の魔石がこの時代にしては有り得ないほど大きいため、一時的に衰えている可能性はあっても、時間と共に回復する可能性もあると言われた。もちろん保証なんてないけど。
大きな魔力災害の影響が終息したのは三十年ほど前であり、当時はまともに魔法を使った建築は当然出来なく、その為にこの城を含めて、特に内部などの建築が遅れているらしい。
そもそも住人がいての国なので、最低限の城壁と民家や商店などの復旧が最優先で行われたため、城などの建築は今でもかなり遅れてしまっているとの話。それなら城の設備が中途半端なども分かる気がする。
そもそも魔力災害がなぜ起きたのかも不明で、その後の魔力の減衰についてもほとんど分かっていないため、現状対策など皆無らしい。
ただ、魔力災害が起きた中心はだいぶ分かってきたらしく、この町から徒歩で三ヶ月程度の場所ではないかとされている。調査を行いたいらしいが、何が起こるのか分からない事が多すぎて出来ずにいるそうだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「何だか凄い話だったね」
エリーと部屋に戻って、先ほどまでの話を考える。
分からない事が多いのは事実だけど、それでもいくつか分かった事は確かにあった。
確かに魔力災害で多くの人が死んで、さらに魔力が落ちているとなれば早々には公表出来ないのかも。ただ、それだっていつまで隠せるかははっきり言って疑問。
かといって僕らで出来る事は今のところ無さそうだし、試したら確かに詠唱は効果があった。なので一部は真実だとは思える。
「私はその『魔力災害』が起きた場所に行ってみたいわ。どこか正確に分かっていないみたいだけど、何だか私達と関係がある気がするの」
「どうして?」
「確かに私達も影響を受けているかもしれないけど、それにしてはここにいる他の人たちとの差がありすぎるわ。なら、私達だけ影響が少なかった理由があるはずよ」
確かにエリーの言っている事はさほど間違っていない気がする。それでもここから徒歩で三ヶ月というのはかなりの距離だ。途中まで馬車で行ったとしても、大半が徒歩になるだろうし、そもそも往復を考えたら食料が足りない。
「クラディは興味ないの?」
「あるにはあるけど……実際そこまで行くのに手段が無い気がするよ? 普通に考えて六ヶ月分の食料を持って行くなんて、どう考えても現実的じゃ無いし」
「そう言われるとそうなのよね……」
「もう少し何かヒントになるような事が分かれば、それだけでも違うとは思うけど、今は訓練に集中しようよ。僕らだけで出来る事じゃ無いと思うから」
エリーはそれに納得して、そのまま僕らは寝る事にした。
毎回ご覧頂き有り難うございます。
ブックマーク等感謝です!
各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。
また、今後以前まで書いた内容を修正していますので、タイトルに一部齟齬や追加が発生する可能性があります。本文内容の修正が終わり次第、随時修正していきますので、ご理解いただきますようお願いします。
今後ともよろしくお願いします。




