第七十七話 やっぱりこうなるのか
2016/02/08 一部内容の修正を行いました
2016/02/07 誤字及び内容の一部修正を行いました
2016/01/26 話数番号を変更しました
現在最初の話から修正を行っているので、本編の話が若干後回しになっています。ご了承いただければ幸いです。
話し合いの翌日から、僕らは騎士団の宿舎で寝泊まりする事になった。もちろん今日から試験があるので、今は僕らの実力がどの程度かが気になる。いくら冒険者ギルドからそれなりの評価を受けていたとしても、常駐の騎士団ともなれば話は別だと思うし。
借りた家はほとんど何もしていなかったのと、当然目立った汚れがあるような状態でもないので、冒険者ギルドでの訓練期間の一ヶ月分と数日分の費用だけで、残りは現金で返還された。この辺はかなり良心的だと思う。まあ、あまり使えなかったのは残念だけど。
おかげでお金は当面問題ないんだけど、むしろこれからの生活の方が問題。そもそも騎士団の生活というのがいまいち分からない。
とりあえず騎士団の宿舎に案内されたけど、案内されたのは二人部屋。普通は四人や六人程度で共同生活を送るらしいのだけど、今回は僕らの事情を考慮してくれたらしい。まあ悪い気はしない。
僕らの能力判定は実戦形式だ。木刀ですら無く、刃を丸めた普通の長剣。無論既製品なので、普通の鉄製? の剣だけど。
当然刃が無いとはいえ当たり所が悪ければ死ぬ事だってあるといわれた。まあ、その前に大抵治療魔法で何とかなる場合が多いので、ここ十年くらいは死んだ人はいないらしいけど。
途中休憩を何度か繰り返しながら、騎士団の人たちに剣の腕前を見てもらった。
騎士団の人たちは基本僕らの剣を受けるだけで反撃はしてこないけど、それでも相手が剣を持っていればやっぱり怖い。ちょっとした事で何度か返り討ちにも遭う。相手が人なので当然とは思うけど、人に剣を向けられるのはやっぱり怖い。
魔物に剣を向けるのは怖くないけど、人に向けるのもやっぱり怖い。この差は何だろうと思うけど、実際今までまともに他の人に向けて剣を向けた事が無いし、冒険者ギルドでも対人戦闘は無かった。
「全くないわけじゃ無いけど、やっぱり人に刃物を向けるのは怖いわね。やっぱり冒険者の方が気楽だったかしら?」
「さあ、どうだろう? 冒険者は冒険者で苦労が多そうだし」
実際の所、冒険者としてまともに活動した事は実質的に皆無だ。前に魔物を大量に狩ったりもしたけど、あれが本当の事だったのか実は悩んでいたりする。
そもそも急にあれから百年以上経過していると言われても納得出来るほど簡単な事じゃない。それはエリーも感じているみたいで、時々悩ましい顔をしている事がある。
騎士団の能力判定では、もちろん魔法も行った。無論実際に人に向けるわけにはいかない。魔法はどんな弱い物であっても、火の魔法系統であれば火傷くらいは簡単にするし、水魔法系統の氷の魔法であれば凍傷だって起こる。
「凄いな君は……あれだけの岩を一度で溶かしてしまうとは」
火魔法の判定だったけど、まずは小手調べという事で、前の方に置かれた岩に対してどのような魔法でも良いから使ってみてくれと言われた。
最近冒険者学校の訓練でやっと使えるようになった火の矢の魔法などもあるけど、とりあえず普通に岩に対して火の矢などを放つ。
この魔法は純粋に外から火を浴びせるのと違い、岩の表面から熱を伝えていく魔法だ。当然岩だから火は燃え移らないけど、そんなに時間が経過せずに岩が溶けてしまう。
なぜ火が見えずに岩が溶けたのかと言われたので簡単に説明したけど、どうも理解はされなかったみたいだ。なので見える形で火魔法を使って欲しいと言われてしまう。
「えーと……周囲に燃える物は無いですよね? 多分危ないので先ほどの岩の周囲に近づかないでください」
一応注意をしてから周りに人がいない事を確認する。間違って巻き込まれたら骨すら残らずに燃えてしまうだろうから。
それからすぐに火の柱を魔法で作り出した。今使われている単位だと分からないけども、昔練習したときよりも高いと思う。ただ高さを重点的に考えたので、範囲はかなり絞ったはず。実際中型の魔物よりも範囲としては小さい。
周囲から声が聞こえないのでとりあえず魔法を維持しながら教官役の人の方を見る。するとただ唖然とした形で目の前の火柱を見ていた。
僕が何度か声をかけてやっと気がついたらしく、火の魔法の実演はこれで終了。
実際にはもっと大規模な火魔法も出来るけど、火魔法については判定終了だとの事で終わりにした。
他にも水魔法や風魔法、土魔法の系統を全て終わらせたら、結局能力判定だけで三日もかかってしまった。
後で聞いたら、普通はそれぞれを数日かけて行うところを、短期判定のためにちょっと無理をしていたらしい。
おかげでこの三日ほど僕もエリーも疲れてすぐに寝てしまう始末。どうせ判定結果が出るまでは何も出来ないらしいので、僕らはそれまでやる事は無いはず。
そして翌日になり、僕らは近衛騎士団の団長であるアイッシュさんに呼ばれた。
「君らの成績は我々が想像していた以上だった。普通なら数ある騎士団の中でも下の方から経験を積み上げてもらいたいところなのだが、君らの実力を考えると無駄な時間を過ごしてしまうだろう」
なんだか嫌な予感がするし、エリーを見るとあからさまに嫌な顔をしていた。
「無論最初から近衛騎士団という訳にはいかないのだが、それでも君らの実力を考えると、第一騎士団でまずは経験を積んでもらいたい。君らが人を相手に躊躇うところがある事も聞いているが、世の中それだけで済まない事くらいは分かっていると思う。もちろん第一騎士団なので、他の騎士団よりも遙かに待遇は上だ。特に君らは魔法が得意と見える。なので第一騎士団の魔法専属部隊の一員として迎え入れたい」
その他色々聞くところによると、一応最初は予備兵力扱いのような部隊に配置されるそうだ。その上で経験を積んでから部隊に配置されるらしい。
またエリーの場合は女性なので、場合によっては女性王族守護担当専門部隊である女性騎士団に配置転換も考慮して欲しいとか。
僕らの魔法や魔力としての技術は一流レベルにあるそうで、予備兵力なのに正規騎士団と同じ給与待遇となると言われた。他にも現在使っている部屋をそのまま継続利用して良いそうで、実際案内された部屋は第一騎士団の一角にあるらしい。
後で第一騎士団その他を紹介してくれるそうで、そのまま一旦部屋で待っているように言われる。部屋の中で必要な備品一式を届けてくれるらしい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「今日から入団する事になった二人を紹介する」
僕らは淡い緑色に輝く甲冑に身を包んだ人たちの前にいる。第一騎士団のシンボルカラーらしい。
僕らの隣で紹介してくれているのは第一騎士団の団長であるバルドゥイーン・シュナーベルさんで、ウルフ族。かなり背が高い部類だと思う。実際僕よりも頭一つ大きい。
シュナーベルさんは銀色に近い毛の色をしていて、巷では『銀の疾風』の二つ名があるらしい。第一騎士団の訓練場に来るときに教えてくれた。
剣による高速戦闘が得意だそうで、武器は細身の長剣を使うらしいのだけど、大型の長剣も扱えるらしいし、普段から二本の細身の長剣を帯刀している。二刀流で戦う事も出来るのだとか。それだけ剣の扱いに対してはかなりの実力があるらしく、本来なら近衛騎士団にいてもおかしくない人材らしい。
なぜこの人が第一騎士団の団長をしているのか聞いてみたら、単に隊長職が楽だと真面目な顔をして言われたときには驚いた。元々指揮官タイプの人なのかもしれない。
僕らの紹介が一通り終わり、それぞれの団員と握手をしていく。
てっきりウルフ族の騎士団だからウルフ族ばかりと思っていたら、第一騎士団だけでもウルフ族の割合は六割程度。残りは別の種族だし、男女も関係ない。
第一騎士団の副団長であるカロリーネ・ミヒャエラ・ドレヴェスさんが教えてくれた。彼女もウルフ族だけども、元々この国の貴族で次女だという。腕を買われて騎士団入りし、二十五歳の時に第一騎士団入り。二十九歳の今は副団長になっているくらいの実力があるらしいのだけど、見た目はそれほど強いのかは分からない。
「まあ、私の場合は魔法も同時に使えるから、普通の剣だけの人たちより強いのは当たり前かな? それと元貴族だといっても、変に気を使わないでね? 騎士団に入った時点で実家の事は忘れる事にしたから」
とは言え、騎士団入りのきっかけの一つに実家の後押しもあったらしい。やっぱりある程度はコネも必要なんだと思う。
「そりゃそうよ。純粋に騎士になる方法だってあるけど、それだと一兵卒からよ? 早くに見込まれれば良いけど、そんなに世間は甘くは無いわ。それに全く実力が無い人を推薦しても、騎士団は受け付けてもくれないわよ? あなたたち二人だって冒険者ギルドからの推薦があったからここに来れたのだし。ここにいる大半の人はそうね。みんなそれぞれ何かの推薦とか紹介とかを受けているからいるのよ。でも腕前が落ちれば引退するしかないし、そんな楽な商売という訳でも無いわ」
確かに実力が衰えた人がいても仕方がないのかも。
「でも、若くても力が衰える人もいるんじゃないの?」
「そうね。ただ騎士団を普通に退職した人なら腕は確かだから、貴族の私兵として雇ってもらう事もあるし、近衛騎士団とは別の王直属部隊もあるの。そこは事務的な事もする必要があるので、必ずしも力だけが必要とはされないわ。なので仕事には困らないわね」
エリーの問いに分かりやすい回答をしてくれた。それにしても、今の言い方だと失礼にならないのかな? 一応相手は騎士団の副団長なのだし。
「いいの、いいの。経緯はどうあれ、ここではみんな家族みたいな物よ。形式に拘って士気が低下するくらいなら、普段はこのくらいで接してもらった方が私も楽だしね。もちろん騎士団以外の人の前では駄目だけど」
そう言いながらドレヴェスさんは笑っている。それと同時に周囲の人も頷いていた。
アットホームとは違うのかもしれないけど、これはこれで悪くはないのかなと思う。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで二人の様子は?」
「私が見た感じではとにかく素直な子達ね。まあ、実際の年齢は私達よりもずっと上らしいけど、普通の新人と大差ないわ。それにあの感じだと他の隊員の受けも良いと思うわよ?」
「何でだ、カロリーネ?」
「ちょっと、ここでは名前不味いんじゃないの? 誰かが聞いているかもしれないわよ?」
「おっと、済まない。で、理由は?」
「お隣の傲慢エルフと違って、二人とも素直だもの。エストニアムアの連中は何でも私達を下に見るのよね。あの傲慢な態度、一度地に伏せさせたいわ」
「そうか……」
「ん、どうしたの、シュナーベル?」
「近々あの国と戦闘があるかもしれないと連絡があった。すぐにではないが、一応対人の訓練をあの二人にもきちんと教えておいてくれと伝えてくれ」
「そう。じゃあ仕方ないわね。何なら私がしましょうか?」
「任せるよ。しかし程々にな? 壊しては勿体ない」
分かっているという笑顔をしながらドレヴェスは微笑んでいるのに対して、シュナーベルの顔は優れなかった。
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