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第七十四話 冒険者登録したばかりだよね!?

2016/02/08 誤字修正及び内容の一部修正などを行いました

2016/02/07 誤字修正及び内容の一部修正などを行いました

2016/01/26 話数番号を変更しました

 やっと過酷な訓練の最終日、僕らは前にいた会議室のような所に座っている。


 さすがにあれだけの訓練をしてきたので、今ではみんなが得意とする分野の戦士といった感じだ。


 ただ悲しいかな。エルフやエルフの血がある程度濃いと、訓練をしてもそれが見た目にはあまり反映されないみたいだ。なので僕らは悪い意味で目立っている。


 ただそれに文句を言う人はいない。種族的な事はすでにみんな理解しているし、こればかりは僕らが努力しても、他人がどうにかしようとしてみても解決しないから。


「今日までご苦労だった。君らはこれから冒険者としてしっかりと働いてもらいたい。数名の脱落者はいたが、その程度は毎度の事だ。思う所もあるかもしれないが、彼らは冒険者に向いていなかっただけだ。無理に冒険者になろうとして早死にするよりもよっぽどいいだろう」


 副ギルド長のフェレールさんが言ったとおり、合計で三名が途中で脱落した。


 力が比較的あると思っていた竜人族の人もその中に含まれていたのは意外だったけど。それだけ冒険者はリスクもあるって事なんだと思う。


 それと後半徹底的に教え込まれたのが、何かに特化するという事だ。僕とエリーは比較的マルチファイター的だけど、こういうのは珍しいらしい。


 今部屋の中にいる人の半分は前衛職で、剣や槍、斧で戦う事になると思う。中には防御特化の人もいるけど、その人だって十分に戦える。所謂盾職だけど、原則的には前衛に混じって味方の防御を受け持つらしい。場合によっては、魔物とかを自分に集中させる事で、攻撃手の手助けをしたりとか。確かこれってヘイト技能って何かで聞いた事があるけど、流石に詳しくは知らない。


 残りは中衛と後衛。ちなみに中衛や後衛だからといって近接武器は持っている。ただし最低限身を守るための物でしかないけど。


 中衛や後衛は弓や投擲武器、魔法が多い。それと中衛に多いのが指揮官的立場の人。前衛と違って戦場の様子を把握しやすいので、周囲に対して指示をしやすいからみたいだ。


 後衛職は魔法使いが大半だけど、もちろん魔法使いでも前衛はいる。放出系の魔法は後衛になりがちだけど、魔法で身体強化や武器強化などを行える人は後衛や中衛もやりつつ前衛も出来る訳だ。


 僕らの場合はまたそれと違って、色々と訓練をしていたら放出系、強化系共にかなり高ランクの魔法を扱えるようになれた。


 この訓練で初めて習ったけど、短距離転移の魔法も習得出来た。なので後方から最初に大きな魔法を放った直後に、前衛として敵に切り込み殲滅なんて荒技も出来るようになった。


 ただそれでも俗に言うアイテムボックスのような魔法は覚えられなかった。というか、やっぱり存在しないみたいだ。なので討伐した際には、その魔物にある一つしか無い物を持ち帰るのが基本になるらしい。十人程度で馬車や荷車を用意して倒した魔物を持ち帰る事も出来るけど、僕らの場合はちょっと無理だと思う。教官で指導してくれた人には『仲間を助けながら戦闘が出来たのだから、十分に出来るのでは?』なんて言われたけど、正直あの時は必死だったし、ちょっと買いかぶりすぎだと思っている。そういえばエリーをどうやって運んだのか、実はあまり覚えていなかったりする。多分風の軽減魔法を使ったんだとは思うんだけど、正直自信が無い。


「君らにはすでに四級相当の実力があるはずだが、規則により五級からとなる。しかし君らならすぐに四級へなる事が出来るはずだ。また魔物の素材はあらゆる部位が使用出来る。出来るだけ人数を集めて魔物討伐を行って欲しい。以上だ」


 副ギルド長の挨拶が終わって、僕らに新しい冒険者ギルドの身分証が渡される。まあ僕たち二人の場合は、単純に内容を書き換えた物だけど。


 何人かに『仲間としてチームに加わらないか?』って何度か言われたけど、決心出来なかった。いつも僕らは二人だったし。声をかけてくれたヒトは、誰もが残念がっていたけど。でも、僕はエリーと二人がいい。


 そういえば一ヶ月近く借りた家を留守にしたままだ。家は大丈夫かな? それに家賃を無駄にした気がする。


「それでは解散だ。君らには期待しているからな。ああ、それとクラウディア・ベルナル君、エリーナ・バスクホルド君は後ほどギルド長室へ来てくれ。ギルド長が二人に話があるそうだ」


 そう言い残してフェレール副ギルド長は部屋を後にしていった。


 うーん、でも僕ら二人だけって何だろう? この中でエルフとその眷属は僕ら二人だけだけど。


「エリーは何でだと思う?」


「さあ、私も分からないわ。でも行かないと不味いわよね?」


「そうだね。まあ訓練は厳しかったけど、これでやっと生活出来るかな?」


 僕はそんな淡い期待を持ちながら、訓練で支給されていた防具などを袋に詰めた。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 王国の城にある一室で、ウルフ族の男二人が話をしている。


「引き取ったらどうするつもりだ? 調査した所によると、かなり二人は苦汁を舐めているようだ。我々が下手な事をすれば、取り返しのつかない事になる可能性も高いぞ」


「別に強制はしない。そもそもこれは王室側からの要請だ。可能なら取り込めという程度でしかない」


「確かにそうだが、場合によっては禍根を残すぞ?」


「それは王国側が負うことだ。我々は命令に従っただけ。それ以上は今は関わらない方が賢明だろう。私は王室側に説明に行く。後のことは頼んだぞ」


 そう言い残して彼は部屋を後にした。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ギルドから手紙を受け取って、僕らはバーレ王のいる城に向かっている。もちろん王様に会うためなんかじゃない。そもそも顔どころか、この国のことだってまだ知らない事の方が多いのだし。


 行き先は王城にある近衛騎士団の所。冒険者ギルドに登録する前にお世話になった騎士の人たちから僕らの事を聞いたらしく、それで興味を持ったので会いたいのだとか。


 正直なんだか面倒なことになりそうなんだけど、断ったら断ったでまた面倒事に巻き込まれそう。そういった事は、出来れば避けたいんだけど……。


「ギルドの人によると、この紋章は国王の紋章と近衛騎士団の紋章なのよね? やっぱり行かないって選択肢は駄目よね……」


「さすがに無理だとは思うよ? 僕だって行きたくないけどね」


 良かった。エリーも心配だったんだ。


「そうよね、行かないと駄目よね。でも、何か変だったら逃げましょ?」


「もちろん……って、お城に着いたね。この手紙を見せればって言ってたけど」


 いくつかの通りを経由して、僕らはやっと城の前に来た。


 さすがに城と名前が付くだけあり、外見はヨーロッパ風の建物なんだけど、実は中が未完成だったりする。


 何でそんな事を知っているかというと、もちろん前に来たからだ。見た目がとりあえず大事なので、まずは見た目ということらしい。


 もちろん城壁とかはきちんとしているそうだけど、中は案外工事中の所も散見する。町の外から見えた塔も実はそんな物の一つだ。中は空洞らしく、窓に行くのに梯子を使うそうで、当然階段なんて物はなくて、見張りをするのも無理な代物だとか。


 確かに出来て百年も経過していない国なら、巨大な城を作るのだって大変だとは思う。どうしても他国に対抗するのであれば、外見を優先するしかなかったのかも。


「すみません。ギルドから来たんですが、これをお城の人に見せろと言われて」


 城壁にある検問所にいた兵士に、受け取っていた手紙を見せた。兵士はそれを受け取ると、急に振り向いて近くにいた別の人を呼ぶ。


「どうした、何か問題か?」


「これを提示されたのですが、本物でしょうか?」


 ちなみに二人ともウルフ族の男性。最初に手紙を渡した一人は、なんだかオロオロしている。


 どちらの男性もプレートメイルというかプレートアーマーを着ているけど、完全に全身を覆うような物ではない。どちらかというと動きやすさを重視しているのか、一部にチェーンメイルと同等の箇所もある。


 二人の動きは阻害されていないみたいだし、鎧はさほど重くなさそうだ。多分最低限の厚みしかないのかも。それでも重要な部分が守られていれば十分なのだし、城の入り口を守るにはこの程度で良いのかもしれない。


 僕が渡した手紙をもう一人が受け取ると、その人も唸り始めた。


「ちょっと待ってくれ。連絡を取ってみる」


 ちなみに手紙には『この手紙を持つ二人を、城の近衛兵舎まで案内せよ』と短く書いていて、その下に三つの著名がある。一つはこの国の王様らしく、次に近衛騎士団の団長、そして最後がギルド本部のギルド長だ。


 そして国王の名前と近衛騎士団長の名前の横には朱印が押してあり、どうもこの二つは国王の印と近衛騎士団の印らしい。


 らしいというのは、冒険者ギルドの人から聞いたから。元々そんなものは知らないから、本物かどうか何て僕らも知らない。


 しばらく待たされていると、また別の人が出てきた。今度はまた別のタイプの鎧だ。


 二人のプレートアーマーに似ているけど、その上にコインのような物を何枚も連ねている。確かスケイルアーマーって名前だと思ったけど、さすがに具体的には分からない。


「お待たせしたね。私はエヴァリスト・バンジャマン・ニコラ団長。一般の騎士団をとりまとめている。ちなみに似てはいるがウルフ族ではなく犬族だ」


 正直あまり差は分からない。でも確かウルフ族が治める国なので、そんな中でウルフ族以外の人が騎士団の団長なんて驚きだ。


「ちなみに我々の他に近衛騎士団がある。我々は町や周辺の警護などが担当だが、近衛騎士団は主に国王の警護をしている騎士団だ。他にも女性騎士団があるが、これは王族の女性専任だな。君らはこれから近衛騎士団の所に行ってもらう。まあ私はただの案内役だ」


 彼はそう言うと早速付いてくるように言った。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 お城はこれで二回目だけど、実際に奥まで行くのは初めて。


 僕とエリーは通路を歩きながら『これがお城?』って感じになっている。


 今までお城というと内部も石材などで造った後に、そこへ補強材やモルタルのような物を使うことが多かったけど、ここの中はほとんど壁が木材だ。多分木の板だとは思うけど、さすがに確認するほど間抜けなことはしない。


 壁には所々腰よりも少し高い台があって、そこにランプが置かれている。見たところ魔法ランプとかではなく普通のランプのようだ。それだからかもしれないけど、あまり通路は明るくない。


 ドアにはいくつか印が付けてある物があり、さすがに印の意味までは分からないけど、同じ物が複数あったりもしたのでトイレの印もあるのかも。


 二人でそんな事をコソコソ話しながらしばらくすると、石材で出来た通路になった。ランプの数も多く、白い石材だからかもしれないけどさっきより明るい。


「この先が近衛騎士団の居住区と詰め所だ。専用の訓練場もある」


 ニコラさんはそう言った後に、一つのドアの前で止まってドアをノックした。


「連れて参りました」


「ああ、空いているよ。入ってきてくれ」


 扉の向こうから男性の声がする。ドアが開けられると、中には三人のウルフ族が待っていた。一人はちょっと立派なテーブルの奥に座っていて、もう二人はその横に並んで立っている。


 三人とも鎧とかは着ていないけど、一目で立派な服装だというのは分かった。服の輝きが違うし、質もだいぶ違うと思う。一人は女性かもしれない。ほとんど似たような格好だったけど、髪に髪留めがあった。


 その手前にはクリーム色のソファーセットが置いてあり、壁にはいくつか書棚のような物もある。


「その二人か? 案内ご苦労だった。後は任せてくれ」


 座っている人がそう言うと、僕らを部屋の中に残してニコラさんは扉を閉めて去っていった。


「初めまして、クラウディア・ベルナル君とエリーナ・バスクホルド君。私は王国で近衛騎士団の団長をしているノルベルト・バジーリウス・アントン・アイベンシュッツだ。名前が長いので周囲からはアイッシュと呼ばれている。横にいるのはジギ・アマデオ・ミューエ副団長。さらにその横は女性騎士団団長のマルガレーテ・ハイデマリー・リンハルトだ。まあ、立って話していても仕方がない。そこのソファーに座ってくれ」


 言われるがままにソファーへと移動して座る。見た目よりもちょっと硬めだけど、むしろ座り心地はいい。


「それで、どんな用件でしょうか? 私達のことは一応調べているんですよね? 正直私やクラディがここに来る理由が思いつかないんですけど」


 最初に話し始めたのはエリーだ。その間に立っていた二人が向かいのソファーに座る。


「一言で言えば勧誘だな。訓練の結果を受け取ったのだが、冒険者でいるよりも騎士団で働いてもらった方が収入も安定するし、危険度も少ない。もちろん一攫千金は無理だが、冒険者では中々覚えられないようなことも覚えられる……というのは建前だな。正直君たちの力が欲しい。資料を見るに、君らは並の騎士よりも力がある。さすがに熟練の者と比べれば別だが、鍛えればかなりの力を得ることが出来るだろう。有用な人材は種族に関係なく欲しいのだ」


「正直なんですね。でも僕らが? 僕も正直に言いますけど、僕よりも強い人はいましたよ? 当然エリーよりもです。なので理由としてはちょっと疑ってしまいます」


 僕がそう言っても、三人は動揺すらしなかった。


「我々が探しているのは成長の余地がある人材なんだよ。確かに他の者たちも魅力的な者は何人かいたが、その中でも君らは群を抜いていた。中途半端な実力よりも、確実に成長が見込める人材が欲しいんだ」


 どこまで本当か知らないけど、それでも正直に言っているようには思える。ただ、以前からの事を考えると正直どうすればよいか分からない。


「君らの経歴は一応調べさせてもらったよ。色々と大変な体験をしているようだね。確かにその経験から疑い深くなるのは仕方がないと思う。我々もそれを踏まえて協力をお願いしている。決して命令ではない」


「命令じゃないの? まるで命令に聞こえるけど? 私達だって底抜けのバカじゃ無いつもりよ?」


「当然それは理解しているつもりだが、出来ればお願いしたい。でなければここには呼ばないよ。最初から命令するつもりなら、そもそも訓練が終わった段階で君らを強制的にここへ連れてくることも出来た」


「確かにそうね。でも信頼は私は出来ないわ。理由は分かるでしょ?」


 やっぱりエリーは最近少し変わったと思う。前はこんなにはっきりと自分の意思を伝えることが出来なかったと思うから。


 それに比べて僕はどうだろう? どちらかというと流され気味。本当はよくないって分かっているんだけど、ここぞっていうときに自分の意思がちゃんと伝えられない。それで色々損もしていると思う。


「まあ、見学だけでもどうかな? 見学も無理にとは言わないよ。ただはっきり言えることはある。先ほども言ったとおり、普通の冒険者は色々と危険が伴う。確かに騎士団では新しいダンジョンの発見や一攫千金などという事は無理だ。しかし冒険者よりも安全な生活と安定した収入は保証できる。君らはここに来て間もないと聞く。なら、変に不安定な冒険者よりも、まずは安定した仕事をするべきだと思うが?」


 確かにアイッシュさんの言っている事は正しい。この話に裏がなければだけど。


「まあ、急に呼び出してこんな話をされても困るだろう。一応我々近衛騎士団や他の騎士団の資料をまとめておいた。家を借りていると聞いているので、そこでゆっくりと検討してくれ」


 この日は結局これで終わったけど、なんだか嫌な予感がするのは気のせい?

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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