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第六十五話 暇だから魔物退治。そして……。

2016/02/04 誤字修正等を行いました

2016/01/26 話数番号を変更しました


おかげさまで96,636アクセス、ユニークPV16,048人になりました!

 急に貴族や王様と言われても正直お断りなんだけど、昨日文句の一つも言ったのでしばらく暇になりそう。


 大体他人に任せすぎるのが良くないと思うんだよね。


 それで気分転換に魔物退治でもしようかと昨日エリーに相談したら、すぐに了承してもらえた。エリーもストレス発散をしたかったみたいだし。


 ついでにエリーは魔法についてちょっと実験をしたいらしい。エリーが知っている魔法と、ここで使われている魔法にあまりに差がありすぎるからって言ってた。まあ、僕もそんな気はしているんだけどね。


 そもそも魔法は使う人のイメージが反映される。もちろん外的要因――地形や天候その他はそれなりに影響するけど、基本はイメージだ。


 まあ、そのイメージをちゃんと固定させる前に、僕の場合は魔力が強すぎて散々な目に遭ったんだけど……。


「それで魔物狩りをしながら訓練するの?」


「ええ、そのつもりよ? 正直この町の人たちがおかしいと思うのよね。だって一応魔法は使えているのに、私達の時からしたら初心者以下の威力ばかりじゃない。アレを魔法なんて言っていたら笑っちゃうわ」


 まあ確かに僕らが暮らしていた時代だと、普通の人でも火属性が得意なら魔法でプール程の水を瞬間沸騰させるくらい出来ていたりした。


 それに四属性全て扱えるのは常識で、それを使った魔法の花火なんてのもあった。だから魔法が一つの属性しか扱えないというのが信じられない。


「それで、どこで実験するの? この近くは前に僕らが焼き払っちゃったよね。それなりの魔法を試すとなると、やっぱり遠くに行った方が良いと思うんだけど?」


 そうすると急にエリーが僕の片手を取った。


「最近試していなかったから、ちょっと不安なんだけどね?」


 瞬間、視界が歪む。しかも息が出来ない!


「っと、これでいいかしら?」


 窒息するかと思ってエリーの手を放し、慌てて息を大きく吸う。ちょっとしてやっと息が整ってから、周囲を見た。すると目の前には森がある。


「風魔法での瞬間移動みたいな物かしら。実際には飛んでいるんだけどね。私も息が続かないからこの距離が限界かな? 空気を後ろに押し出して一気に進むの」


 確か一番近い森まで一日や二日はかかるはず。しかも徒歩でだ。その距離を一気に魔法で飛んだらしい。


「クラディにも後で教えてあげるわ。それで、ここなら誰にも邪魔されないでしょ?」


「た、確かに邪魔されないかもしれないけど、ビックリだよ。何をするか言って欲しかったな」


「驚かせたかったからね。でも安心した。クラディがこの魔法を知らなくて」


 エリーは嬉しそうに笑っていた。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「で、森の奥まで来たけどどうするの? 周囲に魔物とか動物はそこそこいるけど」


 すでに全ての探知魔法で周囲を偵察中。ちなみにこの魔法のことはエリーに教えている。ただまだエリーは上手に再現出来ないみたいだ。


「大きめの相手はいない? 一撃で終わっちゃうと、成功したか分からないのよね」


「何するつもり?」


「私ってあまり火属性は得意じゃないのよ。それで練習したいわけ。大型の魔物なら多少強いのを放っても簡単には死なないと思うのよね」


「強力な魔法なんて使ったら森が焼けちゃうんじゃ?」


「大丈夫よ。ファイアーアローの魔法を数で撃つから。それなら大した被害も起きないし。ファイアーアローなら普通の木に当たっても燃えることはまず無いから」


 エリーの魔力とかそういう事を考えると、正直不安なんだよね。かといってそれを真っ向から否定するのは可哀想だし。


「まあ、最初は実験だし中型の魔物を狙うつもりよ。威力だって調べる必要があるんだから、いきなり大物を狙って失敗はしたくないから」


「分かったよ。で、中型となるとハイハベリーナあたりかな? ハベリーナでもいい気もするけど、多少が大型の魔物が良いんだよね? ハベリーナは大型のイノシシみたいな魔物だけど、エリーなら瞬殺しそう」


「うーん、そうかしら? 正直実感がわかないわ。まあ、ハベリーナ種で試してみましょう」


 僕は探知魔法を駆使して、それらしい魔物を探す。魔物は多くの場合特殊な反応を示すんだけど、多分それは体内の魔石が関連しているんだと思う。それでも同系統であれば比較的見つけるのは難しくない。


「南東にしばらく行った所に反応があるね。大きさはちょっと大きいけど、普通のハベリーナだと思う」


「分かったわ。それで試しましょう」


 こうして僕らは最初の実験をする事になったんだけど……。


「ねえ、エリー。これってちゃんと魔力を制御したの?」


 目の前にあるのは五頭に及ぶハベリーナの死体。どれもかなりの大型だ。ちなみに真下である地面以外、全ての方向からファイアーアローで串刺し? 状態。間違いなく表面の皮は使い物にならない。


「ちょ、ちょっと調子に乗ったのは反省するわ……」


 ちなみにハベリーナの他にも、近くにいた魔物や動物が多数巻き添えになっている。


「練習したいのは分かるけど、ちょっとこれは……」


「そ、そうよね。反省しているわ」


 まあ、あまりエリーを責めても仕方がないとは思うけど。


「で、これどうするの? 持ち帰るにしてもちょっと色々問題があるんじゃ?」


「持ち帰れないわよ。全部燃やすわ。これじゃあ肉だってまともに取れないだろうし、大丈夫よ。ちゃんと私がやるから」


 そう言いながら倒した魔物を一体ずつ火魔法で焼いてゆく。単に焼くというより、実際は完全焼却だけど。


「でもおかしいわね。昔はこんなに威力は強くなかったのよ? もちろんそれなりの魔法を使えば倒すこと何て難しくないと思うけど、ファイアーアローは初歩魔法よ。それでこうなるなんて考えてもいなかったわ」


 そう、色々おかしいと思う。確かに魔法はあるのに僕らだけが全種類使えると言われるし、一年程いただけで王様になって欲しいとか。一千四百年経過しているのが本当だとしても、辻褄が合わないことが多い気がする。


 確かにあの町の人たちに助けられたのかもしれないけど、どこか打算的な物がある気がして仕方がない。


「ねえ、エリー」


「ん、どうしたの、クラディ?」


「僕らは生まれ育った町、連れ去られた町、今の町しか知らないよね。その上で本当に僕らが生まれた時代から一千四百年経過しているとして、一年もいるのに他の町のことを知らないよね? 普通なら町の名前くらい聞いても言い気がするんだけど」


「そうね。確かに多少離れていても、隣にある町の名前くらい聞いてもおかしくないわ。そもそも何で魔の森に囲まれていたのかしら?」


 後で魔の森が広がったにしても、それなら別の土地に移る手段があったはず。なのにそれをしていないのはおかしい。


「あの町って、本当に外の町と交流していたのかしら? 私達が見ていた限り、他の町の人の事なんて聞いたことがないわ」


「それは僕も。でも、道を作ったっていってたよね? 一応エリーがその石材を集めていたって聞いていたし、僕も城壁の外に延びる一本道は見たけど」


「確かめましょう。道まで飛んで、跡は歩けば良いわ。どうせここらの魔物なんて弱いもの」


 確かにこの辺の魔物は弱い。正直弱すぎると思えたりもする。剣の性能が良いのは分かるけど、あそこまで強くなるのか疑問。


「じゃ、飛ぶわよ?」


 僕はエリーに掴まって新しく出来たという道に急いだ。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 エリーの魔法で飛んで、さらに歩いてからどれくらいたったんだろう? まだ太陽が真上に来ていないから午前中という事は分かる。道は途中まで石畳で、その先は草が刈ってあった。ただ、そこに新しい石材を持ち込んでくる人の姿はない。


「さっきから誰も見かけないね?」


 いくら隣の町まで離れていたとしても、途中で誰かとすれ違っておかしくないはず。何よりちゃんと道があるのだし。


「それにしても真っ直ぐな道よね。確かに周囲は草原だけど、普通は町に近いように曲がっていたりするでしょ?」


「確かにそうだね。所々小さな丘もあったし、そういう所は直線で道を作らないことだってあるし」


「でも、真っ直ぐだったわよね?」


 そうなんだよね……。そこそこ小高い丘だったのに、それを真っ直ぐって普通あるのかな?


「あ、森……」


 歩いていると遠くに森がうっすらと見えてきた。さらに歩いて行くとそこそこ深い森らしいことくらいは分かる。ただ……。


「道、切れている?」


「そう……みたいね」


 そう言いながらも森にどんどんと近づいて行く。


「行き止まり……。しかも先は森が鬱蒼と茂ってる……」


 目の前にはもう道はなかった。道どころか森の木々がそのまま。


「これじゃあ、誰も来ないわね」


 エリーもちょっと唖然とした様子。


「なんか、色々駄目だね。道どころか多分ここって僕らが森を焼いた一番奥だよね?」


「多分……そうよねぇ」


 エリーは森を見るのを止めて空を見上げる。


「あれ? あれって何かしら?」


 それを聞いて僕も空を見た。かなり上空に何かの影が見えた。


「あれって、近づいてきていない? 何かしら?」


 確かに影がだんだんと大きくなってきている。って、あれ? どこかで見たような……。


「ねえ、あれってドラゴンじゃない?」


 近づいてくる影がはっきりしてきて、それがエリーの指摘通りドラゴンだと分かった。それがどんどん近づいてくる。


「ここだったか。まあ、予想はしていたが」


 姿を現したのは緑色のドラゴン。どこかで見たことがあるような……。


「久しぶりだな」


「あなたは……」


 エリーは思い出したのかな?


「たしか、私達をあの人族の町から救ってくれたドラゴンの方ですよね?」


「良く覚えていたな。あれ以来特に接触していなかったから、忘れられていたかと思っていたんだが」


「私も名前までは覚えていませんけどね。あの時は私も危なかったみたいですから」


「そうだな。そこまでは期待していない。ああ、一応名乗っておかないとな。私はケイル・ラクスホルズ。それで、君らはこの後どうするんだ?」


「どうするって……。僕らは魔法の練習ついでに道の確認をしてきただけですけど」


「本当にそうか?」


「え?」


「それだけでここに来たとは思えないが。そもそも、あの町に失望しているんだろう?」


「そ、それは……」


「隠さずともいい。そもそも私もあの町で行っていることは納得がいっていないからな」


「え、なんで? 私達を助けてくれたじゃない」


「それはそれ、これはこれだな。君らを助けたのは別にあの町で利用しようとか考えた訳じゃない。定期的に人族の町には間諜が潜入している。その中で君らのような者たちを助けるのが私に出来る数少ないことだ。別にそれを盾に何かしろというつもりは、少なくとも私はない」


「では何故? 僕らはあの町のことを思って色々やりました。でも、正直あの町の人たちは僕が考えるに利用しているようにすら思えて……」


「ああ、それはあの町の連中……というよりも、あの町を仕切っている連中に原因がある。君らも見てきたと思うが、種族間の対立は表だってはさほどだが、裏ではかなり激しいし、混血種となるとはっきりと差別している。しかし町の発展はさせたい。矛盾しているだろう? 対立はしているのに発展させたいとか。皆自分勝手なのだ」


 確かにそう言われればそんな気がする。


「そんな中で君らが現れた。町の住人よりも高い魔力。そして相手をさほど疑わない親切心……私からいえば甘いが、思うに君らは安定した生活をしたかっただけのはずだ。彼らはそこにつけ込んだ」


「やっぱりそうなのね……。薄々はそんな気がしていたわ。でもどうして?」


「君らが作った資料があるだろう。あれはあの町の将来をそのまま描いている。種族間の静かな対立で、彼らは自分の首を絞めていることに気がついていても、誰もそれを考えないようにしている」


「そんな事をしても解決しませんよね? 僕らは結局なんだったんですか?」


「疲弊した町を変えるための道具といった所だな。自分たちでは責任を取りたくない。そこで君らに全部任せて、何か問題があったらその責任を君らに押しつけるつもりだろう。私から言わせれば愚かだとしか言えないが」


「私達にそんな話をしていいのかしら? そんな話を聞いたら、町には戻りたくないわ」


 するとラクスホルズさんはその大きな首を横に振る。


「君らはこのまま町を離れるべきだ。こんなことで利用されるべきじゃない。この森を左手にしばらく行くと海が見えるだろう。そこから海岸線に二週間程行けば別の町がある。その町でならもっとまともな生活が出来ると思うし、あの町のことを話せばすぐに受け入れてもらえるだろう」


「そんな都合良く受け入れてくれるとは思えないですが。そもそも僕らは……」


「浮いた存在? それは違う。あの町が浮いているんだ。確かに君らの魔力は高いが、先にある町でならその意味が分かるはずだ。本当なら我々のような事情を知っていて、尚且つ町を離れたいものはそれなりにいる。しかし色々な縛りを設けて町を事実上出られないようにしている。細かいことを話すつもりはないが、君らはまだそのような立場にいない。なら尚更あの町から離れるべきだろう。君らは実力もあるようだし、この先にある町まではさほど苦労しないはずだ」


「でも、私達は食料とかは持ってきていないわ。いくら力があっても食べ物無しでは無理よ」


 するとラクスホルズさんが二つの大きな背嚢を僕らの前に置いた。


「さすがに二週間は無理だが、一週間分の食料と水はある。君らなら途中の動物や魔物を狩る事も出来る。申し訳ないが足りない分は自前で用意して欲しい。私からの選別だ」


 置かれた背嚢を見る。大きさからそれなりに色々入っているのだろう。


「いくつか狩りに必要な物なども入れておいた。私にはこれ以上は無理だ。申し訳ない」


「い、いえ……。でもラクスホルズさんはこんなことをして大丈夫なんですか?」


「問題はないさ。君らが町を出たことはまだ一部の者しか知らない。屋敷の連中は気がついているが、彼らもそのうち町から逃げ出すつもりだ。あの町では混血程待遇が悪いからな。機会があれば逃げ出す者は多いんだよ。そして誰もが先ほど紹介した町に向かう。当然全員がたどり着ける訳ではないが、それでも半数以上はたどり着く。もし再び彼らに会うことがあれば、出来るだけ協力してやって欲しい。君らのような若者に責任をなすりつけて我関せずといった者たちなど、私は滅ぶべきだと思っている」


 そこまで普通言うのかな? 正直かなり疑問。


「私が言っていることに疑問があるだろうが、それは次の町に行けば自ずと分かるだろう。悪いがそろそろ私も戻らなくては。一応君らを探してくると言っているが、見つからなかったと報告するのでな」


「それでいいの? 私達は少なくともあなたには感謝しているわ。でもあなたが救われるとは思えないのよ」


「これも宿命だろう。あと百年もすればあの町は廃墟となっていても不思議ではない。そんな所に君たちを縛り付けたくないのだからな。私からの最後の思いやりと思ってくれれば良い」


「そうですか……分かりました。色々と有り難うございました」


「気にするな。私も時期を見てあの町から離れるつもりだ。もし再び会うようなことがあれば、その時はよろしく頼む」


「分かりました。僕らで何が出来るか分かりませんが、出来るだけやってみます」


「では、またいつか会えることを期待している」


 そう言い残してラクスホルズさんは一気に上空へ飛び立った。僕らは彼が見えなくなるまでその姿を追う。


「行っちゃったね。次の町に行こうか?」


「ええ、そうしましょう。あの人は善意でこうしてくれたと思うわ。なら、それを無駄にしたくないわ」


 僕はそれに頷くと、それぞれ荷物を背負って歩き出した。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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