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第六話 これで良かったかも?

ついに主人公であるクラディこと「クラウディア・ベルナル」の魔力が明らかに!


2014/09/18 誤字修正しました

2014/11/01 誤字修正しました

2015/03/31 一部内容修正しました

 この世界に来てから三年経った。


 いきなり二年目で本当の家族というか、両親から捨てられたわけだけど、まあ本来二歳なら早々記憶があるわけでもないはずだし、少なくともこの一年は満足。


 それに前の家族の事を注意深く聞いていると、少なくとも良い噂はほとんど無い。というか、悪い噂の方が多すぎる。


 元の家族はこの街の領主だそうだ。まあ、普通に考えればあんなに大きな家だから納得出来る。


 そうそう。ここはファラト大陸という場所で、その中のイルシェス王国という国らしい。位置としては大陸の西部で、機構は比較的安定しているのだとか。ここはピリエストの街といって、副都にあたるらしく、そのためなのか『町』ではなく『街』と呼ばれているそうだ。王都イルシェスはここから馬車で一週間ほどかかるらしいけど、鉄道があるらしくてそれなら一日。鉄道があるのはちょっと驚いた。


 今のところ領主の確実に良い噂は、あの領主達はあまり税金を取っていないらしい。なので街は発展しているし、表立っての文句も少ないみたいだ。他の町では人頭税などもあるらしいのだけど、この街では法人税のような物と所得税のような物があるらしいのだけど、どちらも税率は低いらしい。


 悪い噂というか、悪い所はかなりある。


 まず前世で言う所の公共工事がほとんど無い。何をするにも基本的に住民任せらしい。道路の修繕とか、新しく井戸を掘るとか、とにかく何でもだ。


 この世界全体がどうなのかは分からないけども、少なくともこの街には上下水道がある。ただ、下水道は垂れ流しのようだ。


 上水道は川上から引き込んでいるらしいが、前世の時のような浄水場はない。ただし各家庭やお店などの中で、魔法というか魔法の道具による浄化を行っているようだ。


 じゃあ魔法だけの文明かと言えば、どうも違う。


 なんだか中途半端に科学的な事も行われている。ただ科学的な事の多くは、武器などに応用される事が多いみたいで、普通の人が恩恵を受けるのは三十年遅れのようだ。


 実際前世の世界でも同じような事は歴史的に普通だと思うし、それ自体は別に驚かない。


 一応蒸気機関もあるようで、鉄道はそれを利用しているようだ。だけども魔法による鉄道もあるらしく、その辺の差が分からない。


 何でこんな事が分かるかというと、新しい母親――ブーリンが家の一部を改造して、塾というか、寺子屋の様な物をやっているからだ。


 黙って大人しくしていれば、中に入っても怒られない。


 基本的には魔法塾の様な形なんだけど、それ以外にも基本的な事を教えている。最近になってだいぶ言葉も分かるようになって、子の国の事なども分かるようになってきた。


 しかし困ったのは、やっぱり僕が小さいからだと思う。他の人が休憩中にやたら触りに来る。迷惑なんだけど、いたずらされない限りは喜んでいる事にした。どうせ相手だって子供だし。


 三歳になって発音はほとんど問題ない。多少だけど書く事も覚えた。少なくとも自分の名前は書く事が出来るようにはなっている。


 アルファベットとは違うけども、ここの住人は三十一の大文字と小文字で単語を構成していて、文の並び方は日本語にかなり近いと思う。もちろん発音は全く違うし、日本語にはない発音もある。


 こっちに三年もいれば、日本語の事なんて正直どうでも良いけど。


 日本語が全く使えない以上、こっちの言葉を最優先で考えないと。どうせ戻る事なんて有り得ないし、郷に入れば郷に従えって言うしね。


 不便だと思うのは漢字に該当するような文字がない事。なので普通の日本語よりも文字にした文章は長くなる。


 多分それを解決するためだと思うけど、どうも単語の省略した文字があるようだ。まだよく分からないけども、本来三十近い名前のものを四つの文字で代用する事が出来るらしい。その場合は単語の頭と最後が大文字になるようだ。


 食べる物は前世で経験したものなど何も役に立たない。どう見ても色つきや形はリンゴなんだけども、大きさがスイカのような物があった。ちなみに味はイチゴに近い。他にも例を挙げれば切りが無い。


 肉にもかなり種類があるようで、この前食べたのはオレンジに近い味がした。


 料理は前世と同じように焼く、煮る、蒸すなど普通に行われていたし、食用油も普通にあるみたいだ。


 まあでもそんな事は些細な事に思える。


 さすがに慣れたけど人が人の形をしていないというか、前世での人の形など些細に思える。何というか肌の色で人種を分ける事すらばからしい世界だ。


 一般的に僕が思い浮かべる人の形をしているのは、全体の三割から四割程度。しかもよく見ると微妙に違う。まあ多少の差は仕方がないのかもしれないけど。そもそも生命の発生が地球とは確実に違うみたいだから。


 その他は前世で言う所の獣人って人たちだ。それも種類がかなり多い。そして見た感じでは差別も無いように思える。


 ちなみにエルフと狼種のハーフである僕は、姿こそ人に近いけど細かい所が違う。


 耳の形はエルフに近いけど、爪は狼に近いらしい。尻尾は無いけども、胸辺りの筋肉はかなり丈夫みたいだし、何より胸の青い体毛が胸に目立つ。


 耳はちょっと他の人たちよりも大きいのだけど、横に長い三角形に近い。鏡で見た限り二等辺三角形に近いと思う。


 じゃあハーフとかクォーターの人が差別されているかというと、それも無いみたいだ。


 ただし、前世で言う『人』は混血の最終形らしく、あまり好まれない地域もあるらしい。


 信じられなかったのが前世で『モンスター』って呼ばれるようなのも人扱いだって事かな。


 どう見てもゴブリンだとかトロール、鬼みたいのが普通に歩いているし、他の人と普通に話をしたり商売をしている。ファンタジーと言えばファンタジーなんだけど、何か違う気がする。


 それから名前はヨーロッパ風。名字が後ろに来る形だ。人によってはミドルネームの様な物があるのだけど、その人が貴族とかお金持ちって事でもないらしい。ミドルネームの有無はよく分からない。


 歴史も少しだけ分かってきた。


 今から三万年くらい前までは、種族別に暮らしていたらしい。それが三万年前にあった大戦争――第一次種族戦争に始まって、五回の戦争を経て今みたいになったそうだ。


 それと後から聞いた話では、一応怪物だとか魔物と呼ばれるのもいるらしい。ただ、それは外見が基本的にここで暮らしている『人』と変わらないのだとか。


 あえて違いを指摘すると、文明的な生活をしていないのが怪物や魔物で、集落までは作る事があっても所構わず人や動物を襲うといった所。あと服を着ていないか、ほぼ裸同然の場合が多いって聞いた。


 そういえば前に見たトロールの人は、まるで女性用の和服のような着物を着ていたけど、あの人って女なのかな? はっきり言って外観だけではよく分からない。


 魔物がいるから魔王って存在がいるのかと思うと、どうもそれはいないらしい。まあ正確には「いるかどうか分からない」って事らしいけど。


 あ、そういえば前に見たサキュバスみたいな人は、本当のサキュバスだったそうだ。日本語では淫魔とか訳されるけど、ここの世界ではサキュリアと呼ぶらしい。男性型のサキュバスであるインキュバスもサキュリアと呼ぶ。


 前世で人を魅了して精気を云々の話は、こちらでもあるそうで、実際子供のサキュリアは悪気も無く使う事もあるとか。大抵は被害に遭う前に大人が止めるから問題にはならないらしい。


 ただ大人になれば使う事はほとんど無く、使っても夫限定だとかでとても限られる。無闇に使うと犯罪では無いらしいけど、周囲から白い目で見られて相手をされなくなるらしい。


 そんなわけで恋人であっても魅了するような魔法は使わないのが大人の世界。その辺はきちんとしているみたいだ。


 ここの街は広いかららしいけど、一部に種族街ってのがあるらしくて、どうもこれは日本で言う所の中華街とか同じ形に近いらしく、大抵の所は他の種族が入っても問題にはならない。


 例外としてさっきのサキュリア族とか一部の種族では、その中で魔法を使われて無理矢理夫や妻にさせられたり、奴隷化される事があるので要注意。


 でもそういう所はちゃんと注意書きがあるので、ちゃんと見ていれば問題ないのだとか。それに種族街でも中央通りにあたる所は、さすがにそんな事はないそうだ。裏道とかで犯罪の温床になりやすいところ限定なのだとか。


 やっぱり驚いたのは結婚制度。


 一夫一妻制だけじゃ無いだろうと思っていたら、一夫多妻はもちろん、多夫一妻制、多夫多妻制なんてのもあるのだとか。


 その辺は種族的な問題もあるらしくって、その人の好みの問題だという。


 何せ多夫一妻制では、女性が数日で子供を産むなんて事もあるらしいから。可哀想なのは、そんな種族だとちゃんと育つのは十人に一人以下らしいけど。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 この世界の全体が分かってきて、僕はいつの間にか四歳になっていた。


 ちなみに僕みたいなエルフのハーフだと、普通よりも育つのが早いらしい。エルフは寿命が長い分成長が遅いと思っていたら、そんな事はないそうだ。むしろ成人までの成長は早い部類に入るのだとか。


 身長とか体重だけなら、すでに前世での中学生くらいはある。それに物覚えも普通の人より早い。


 それでも純粋なエルフの人に比べると、ハーフの僕なんかはかなり遅いそうだ。大抵は五歳で成人するらしいから。


 ちなみに純粋なエルフだと、事故や病気でもない限り三百年は普通に生きるとか。長寿だと千年を超えるらしい。そこまでだとさすがに伝説上になるらしいけど。


 僕みたいなハーフでも、大抵は二百年くらい生きる事が多く、例え二百歳で寿命だとしてもほとんど外見どころか肉体の老化もないのだとか。それがエルフやエルフのハーフの特徴らしい。なのでエルフ系統の年齢は外見で分からない事が多いのだとか。


 多少個人差はあるみたいだけど、ハーフエルフは十歳でほぼ成人になるとか。早い場合は六歳って前例があると聞いた。何が基準なのかはまだ分からない。


 それで今日は僕の誕生日。


 元の親の事なんてもうどうでもいいから、育ててくれている二人の親に感謝。


「やっぱりエルフのハーフだから、育つのが早いな」


「そうねぇ。そろそろ本格的に魔法とか色々覚えた方がいいかも」


 ちなみに簡単な魔法なら、もう十分使える。エルフ系統の種族なら当たり前だとか。


 それから僕が捨てられた事もちゃんと話てくれた。


 そもそもエルフやハーフエルフだと、育ち方が違いすぎるので隠す事自体が無理らしい。それに僕には胸に体毛がある。だから教えてくれた。まあ気にしていないからどうでもいいけど。それにそのこと自体も知っているし。もちろん新しい両親には話していない。


「それでクラディ。何か欲しいものは?」


 父親であるカルロが聞いてくる。尊敬はしている。


 何より元ハンターだったらしくて、とにかく実践的な力とか刃物の扱いが上手い。


 ちょっと前に教えてもらったけど、正直なにがなんだか分からなかった。


 ちなみにすでに僕には妹がいる。


 今は三歳で、クォーターのエルフ。母親のブーリンがエルフと人のハーフで、カルロは純粋な普通の人だから人族――この世界では前世で言うところの人は『人族』っていわれる――だからクォーターになる。


 名前はリアーナ。髪の色は栗色で、僕と違いちゃんと瞳孔は黒で光彩の色は藍色をした眼だ。


 普段は物静かだけど、たまに僕に甘えてくるのが可愛かったりする。そして良く一緒にお風呂にも入る。


 僕はまだ四歳だし、社会的にも問題ないよね?


 それでもさすがにエルフの血を引くためか、言葉を覚えるのも早いらしい。それにエルフのように少し耳が横に細長くて、耳も長めだ。


 そんな妹は、両親の間で絵本を読んでいる。僕らの会話には興味がないらしい。


 妹はとにかく絵本が好きだ。


 普段は両親が読んでいたりするけど、僕も読み聞かせた事が何度もある。


「クラディの場合は、魔法とか魔術の方が似合っていると私は思うわ。あと難しいけど召還術なんかも覚えられるかも」


 この世界には大きく三つの魔力の使い方がある。


 魔法と魔術、そして召喚術の三つ。基本的にはそれなりの魔力さえあればどれも使えるらしい。後は個人差になるそうだ。


 心臓の中は五個に分かれていて、五個目を魔心室と呼ぶ。


 魔心室には血液そのものは流れていないけど、その魔心室に血管が一本通っていて、そこを通過する間に血液中に魔力を補充するそうだ。


 その他に魔力石ってのが心臓のすぐ下にあり、魔力結晶と言うらしい。


 魔力結晶は人によって形も色も結構違うらしく、同じ種族でも米粒大からこぶし大まで幅広いって聞いた。魔力結晶はその人の魔力の傾向を司っているらしく、大抵は二種類くらいの属性があるそうだ。


 魔心室が体全体に魔力を行き渡らせる働きで、魔力石が魔心室に魔力を供給する役割だって聞いた。


 魔力は属性があって、多いのが火と風の組み合わせ。あと水と風も多いらしい。


 ちなみに炎の属性がどんなに強くても、それ単体だと指先や手の平から炎を立ち上らせるだけで、薪に火を点けるとかそんな用途にしか使えない。


 ほとんどの人は風の属性も一緒に持っていて、風の属性で火や水を遠くに飛ばす。


 よく言われる四大属性とかそういう関係はあまり重要では無く、強い炎には水の魔法がかき消される事も多いのだとか。なので属性に対しての防御だとかその辺はかなり難しい分野らしく、恐ろしく強い風で火を消すとか、土の魔法を使うとか色々。


 そもそも同時に複数の魔法を使う事が基準で、それが出来ないと魔法使いとは呼ばれる事がないらしい。そして魔力は十分にあっても、ほぼ一つの系統しか使えない人たちが全体の半分ほどだとか。


 魔法に比べて分かりやすいのが、魔術と召喚術。


 どちらも魔方陣を用意する必要があって、そこに魔力を供給する事で魔法を放ったり召還する。魔方陣さえ分かれば、魔力を供給するだけなので誰でも使える。


 魔術の場合はあらかじめ魔方陣さえ用意しておけばよいので、突然の襲撃にも使いやすいらしい。旅の人とか商人の人は簡単な魔方陣をいくつか持っていて、盗賊や魔物から身を守るために使うのだとか。


 召還は何か精霊的なものを呼び出して、その人の魔力か契約時間だけ働いてくれる便利屋さん的な存在。


 もちろん戦う事とかも出来るし、強い魔力があれば強い精霊を呼び出す事も可能。凄い人だと大きな巨人を召還して、それで家を作る仕事をしているのだとか。


 ただファンタジー感が無いなって思うのはここだけの話。


「魔力が強い事は、前にお母さんから聞きました。でも、正直どれくらい強いのか実感出来ません。それに僕はまだ四歳。ちゃんと訓練すれば、武術も出来そうな気がします」


 そう答えたら両親が互いに見つめ合っていた。


「うーんとな。ハーフエルフとはいえまあまだ四歳だし知らないと思うから言うが、お前は体力的に武術は無理だ。一応今度検査に行くが、体力はかなり低いと思う。基礎体力が無い以上、力関係の仕事はキツイと思うぞ?」


 いきなりショック……。


「それでね、クラディ。前に確認した限り、あなたは魔力を使った仕事が向いていると思うの。別に魔法や魔術だけが魔力の使い方じゃないし、例えば錬金術や魔法、魔力の研究をしてもあなたなら十分にその能力を発揮出来ると思うわ。どうしてもと言うなら止めないけど、正直体力が必要な仕事には向いていないわね」


 うーん、ここまで言われるとは思わなかった。


「そうですか。分かりました。でも今度の検査結果を見てから、色々と考えたいと思います」


 ちなみに検査というのは、身体測定みたいなものだ。


 通常の身体測定はもちろん、魔力や魔力の系統などを検査してもらう。そこで向いている所を伸ばして、将来の仕事などに役立てるのが目的らしい。


「それから誕生日おめでとう。これプレゼントよ。二人で悩んだんだけど、多分クラディならこれをしっかり理解しておいた方が良いと思うの」


 四年というのは、この地方では重要。基本的には四年で一つの区切りがあるそうだ。一般的には十六歳で大人と見なされる。


 もちろん種族によって成人するまでの差があるので、エルフの場合は遅くとも八年で大人扱い。サキュリアだと六年。トロールだと二十歳らしい。


 言われて渡されたのは一冊の本。表紙は黒で、上側にタイトル、真ん中辺に魔術で用いられる魔方陣が銀色で描かれている。大きさは前世でいう所の辞典ほどあるし、厚さもかなりある。


 ちなみにこの世界、活版印刷じゃないけど似たようなシステムがある。魔力印刷という方法で、あらかじめ魔法で薄い金属板に文字を彫る。技量が高い人なら、写真や絵みたいな物まで可能だ。それを紙に魔法で転写する。


 紙はパピルスみたいな物で、この世界ではパイラーと呼ばれている。羊皮紙も普通に使われているんだけど、羊皮紙は長期保存用らしい。またパイラーはパピルスよりも植物繊維が細かくて、和紙みたいな感触がする。


 渡されたのは『魔力の正しい知識から応用まで』という本だ。はっきり言って辞書そのものだ。裏を見ても価格は書いていない。


 印刷技術が一応あるためか、本そのものはそれほど高くないのだけども、こういった辞書みたいな物だと物凄く高価な場合が多い。


「ありがとう。お父さん、お母さん」


 ここは素直に感謝、感謝。高価な事は分かっているんだしね。


 どちらにしても、魔法や魔術があるなら魔力の事は知っておいた方が楽だろう。魔力が高いのは自分でも分かっているし、すでにそそれなりの魔法は使える。


「それとだな……」


 カルロがなにか恥ずかしそうにしている。それにブーリンも下を向いてしまった。こちらも恥ずかしそうだ。この流れって……。


「お母さんが妊娠した。生まれるのはもう少し先だが、お前にまた兄弟が出来る」


 おぉ、やる事はちゃんとやっていたんだ。まあ普通の家庭では夜遅くまでいくつもの明かりを点ける事何てしないし、そのほとんどがランプ。出来る事は限られているよね。


「まだ男の子か女の子かも分からないが、医者の話だと三ヶ月ほどで出産らしい。忙しくなるから、お前もお兄ちゃんとして面倒を見てくれると助かる」


 ウンウン。それくらいやりますよ。って、出産早くない? お腹大きくないよ?


 それにしても、エルフの血が混じっていると出産までが早い。理由がよく分からないのだけど、やっぱり種族的な遺伝子とかがあるんだろうね。妹のリアーナは出産までたった四ヶ月だったそうだ。これも種族の差なのかもしれない。


 そんな会話をしながら、僕の四歳の誕生日が過ぎていった。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 誕生日から五日目。


 今は黄兎の月と言って、一年が十四ヶ月あるうちの六番目。気候的には春に近いと思う。一年は四百九十日もある。


 一つの月は三十五日で固定されていて、五個の週に分かれている。一つの週は七日に分かれていて、今日は真ん中の緑の日。


 一年こそ数字で表すけど、月や週は文字が当てはめられている。ちなみに特定の休日はない。それぞれの家庭の事情などで休みが決められている。


 まあさすがに覚えたけど、最初は訳が分からなかった。


 今いるのは身体の測定などをするための病院のような所。見た目は前世での診療所って感じで、二階建て。ただし結構大きな敷地がある。


「体の検査はこれで終わりですね。ではこの後魔力検査を行うので、待合室で待っていて下さい」


 体の検査と言っていたので、握力とか背筋とかを計測するのかなと思っていたら、全く違った。


 この世界には体の状態を簡単に計測出来る技術があって、それは大抵魔法や魔術が応用されている。今回は魔術に近い方法だったみたいで、魔方陣の中央に立っているだけで終わった。時間にして一呼吸。あまりにあっけなくて、正直戸惑ってしまう。


「大丈夫? ちょっと顔色が悪いみたいだけど?」


「あ……うん、大丈夫」


 いい加減、母親の事を内心名前で呼ぶ事は止めようと思う。事情はどうあれ、きちんと育てている事には変わりがないのだし、血縁の有無なしに接してくれているのは妹の存在で分かった。


「ちょっと疲れた?」


「大丈夫。初めてだったから……緊張して」


「あ、そうか。二歳じゃ覚えているはずないものね。二歳の時に同じような検査を受けているはずよ。クラディがもっとエルフに近かったら、普通は二歳で読み書きどころか魔法だって扱えるの。まあ妹のリアーナはあなたよりもエルフの血が薄いから、クラディのようになるまでは六歳くらいにならないと無理だと思うけど」


「え? 何で?」


「はっきりとした理由は分からないけど、そもそも純粋なエルフの人たちは成長が早いのは教えたわよね? エルフと他の種族の間に生まれた子も成長が早いのだけど、それはかなり個人差があるの。クラディの場合は正直かなり早い方よ? 私もエルフとのハーフだから最初は気にしていなかったんだけど、色々な人に聞いたら早い方ってみんな言ってたわ」


 単にエルフのハーフと言っても、育ち方にはかなり差があるみたいだ。混血相手にもよるのかも。さすがにこの世界に遺伝し技術はないみたいだから、その辺は解明されていないみたいだ。


「クラウデア・ベルナルさんと保護者の方はいらっしゃいますか?」


 ドア二枚離れた所で、女性が呼んでいた。狐みたいな顔をしているけど、手足は人と同じだ。


 獣人と一言に言っても色々と差がある。今回の女性のように顔だけが狐の場合もあれば、ほとんど全身が狐の場合もある。だからといって、体の一部が獣人の人だけが混血という事でもないみたいだ。


「はい、今行きます」


 母さんがそう言うと、僕の手を取って歩き出す。


「お待たせしました。これから魔力の検査を行います。同時に属性の検査も行いますが、魔法や魔術関連のアイテムはお持ちですか? 身につけたままですと検査に支障が出るので、検査の準備を行っている間に外していただきたいのですが」


「大丈夫です。何も身につけていません」


 はっきりと返事をすると、女の人はちょっと驚いていた。


「あ、なるほど。エルフの方の血が混じっていますね。そうなると、ちょっと検査方法を変えないといけないですね」


 今度は僕らが驚く。


「あ、ご存じありませんか? 人にもよりますけど、クォーターくらいまでのエルフの血が混じっている方は、かなり高い魔力を持っている事があるんですよ。なので計測に使う魔石も強力な物が必要なんです」


 ちなみに魔石は魔力を中継するための道具の場合もある。色々種類はあるみたいだけど、一番使われるのが属性魔石。人によって魔力は大夫違うから、魔石によってその魔力を補うために使う。


 特に火の魔石は一般的で、ほとんど火の魔法が使えない人でも薪に火を点けるくらいの補助をしてくれる優れものだ。


 基本的には親指の長さくらいの魔石が一般的だけど、使用者の魔力が高いと魔石が砕けてしまう事があるらしい。なので魔力が高い人は大きな魔石を持つ傾向にある。


 魔力の計測も結局は同じで、魔力が高い人に小さな魔石で計測すると、一瞬で割れる事がある。なのであらかじめ大きな物を用意する。特に魔力が高い人の場合、割れる程度では済まなく、砕け散る場合も少なくないのだとか。


 魔石と言っているけども、元々は殺した魔物の魔力石や死んだ人の魔力石だ。天然の魔力石もあるらしいが、かなり希少で滅多に見つからない。


 ところがある程度の大きさを持つ人や魔物なら、確実に魔力石がある。魔物から常に調達出来れば簡単なのかもしれないが、実はこの魔力石は案外脆い。剣で心臓を突いたと思ったら、実は魔力石を砕いていたなんて事は当たり前らしい。なので魔物を狩る時は頭を切り落とす事が推奨されているそうだ。


 当然魔物から十分な魔力石が確保出来るはずもなく、亡くなった人から魔力石を回収する事はかなり昔から行われているそうだ。前世の基準で言うとおかしいと思う人もいるかもしれないけど、この世界というかこの国では当たり前に行われている。


「お待たせしました。それからこれに着替えて下さい」


 渡されたのは前を二カ所紐で縛るだけの簡単な布。袖は一応付いている。


「希になのですが、織物職人が意図せず魔力のある糸で刺繍などをしてしまう事があるんです。そうなると検査結果に影響が出てしまいますので。あ、それと申し訳ございませんが下着等も全てお脱ぎになって下さい」


 そういえばこの世界の下着は刺繍があったりする物がある。しかも特にパンツなどの下着そのものは男女兼用となっている場合が多いので、男性でも普通に刺繍入りのパンツを穿いていたりする。当然そこに使われた糸が分からないので、検査前に脱いで欲しいと言う事だろう。


 ちなみにパンツの形はブリーフタイプが一般的で、一部の種族では褌も使われている。尻尾がある種族は褌を使う事が多いらしい。今のところトランクスタイプは見た事がないし、カボチャパンツもないみたいだ。


「着替えはそちらのカーテンがある所でお願いしますね。終わりましたらこちらに来て下さい」


 検査用の服を渡されると、カーテンのある隅の場所を指さして教えてくれた。


 着替えをする場所は部屋の角に設けてあり、上からカーテンを吊している。その一角だけカーテンを閉めれば三角形の小部屋が出来る仕組みだ。着替え専用なので一々小部屋を用意などしていないらしい。


 着替えてみると、正直肌触りは最悪。下着が無いせいもあるのだけど、そもそも渡されたのはかなり荒く織った麻か何かの着衣で、体を最低限隠す事以外は何も考えられていない。なので繊維が体にチクチク刺さったりする。検査着なので最低限でしか作っていないのだと思う。


「それではこれから魔力の検査を行います。少し冷たいですが、そこの床にある魔方陣の中で仰向けに寝て下さい」


 魔方陣の形は五角形が四つ角度を変えて組み合わせた物で、その周囲には二重の円が描かれていた。円の中には魔力解析に必要だと思われる文字などが刻まれている。その円の中に魔石がいくつもはめ込まれていた。


 おとなしくその中心に行って、ちょうど人が寝る事が出来るようになっている場所に仰向けになる。


 僕がそこで寝た所で、さっきの人が頭の方に一つ、首や肩の両側に一つずつと魔石を置いていく。魔石の配置が終わったら、すぐさま女の人は魔方陣から出ていった。


「それでは測定を始めますね。体内から魔力が一時的に流れるので、人によっては気持ち悪くなる方がいらっしゃいますが、体に影響はありません。すこし魔力を消費したのと同じ事ですので、安心して下さい。それでは始めます」


 お母さんがちょっと心配げに魔方陣の外から見ていた。まあ心配になるよね、普通は。


 そんな事を思っていると魔方陣が淡く緑色に輝きだした。気持ち悪くは無いけども、ちょっとむず痒い感じがする。人によって感じ方が変わるのかも。


「魔石は大丈夫そうですね。これから検査に入るので、気持ち悪くなった場合はすぐに言って下さい」


 そう言われてすぐに、体から力が抜ける感じがする。でも気持ちが悪くなる事はない。見える範囲で魔石に様々な色が灯っているけども、そもそもその意味がまだ分からないのでおとなしくする。


「はい、ご苦労様でした。検査終了です。着替えてから廊下でお待ち下さい。検査結果がまとまりましたら、総合的な結果を医師の方からお伝えします。遅くとも半刻はかからないと思いますので」


 この世界の一時間は、どうも前世の一時間とは違う。


 正確に計る事が出来ないので何となくだけども、地球での一時間よりはずっと長い。ただし二時間は無いと思う。おそらく一時間半前後なのではと思っている。仮に一時間半として、半刻だと四十五分程度だ。


 待合室という名前の廊下で待っていながら、お母さんと色々話す。


 人に物を教えているからだと思うのだけど、普通の人よりは知識が豊富だ。もちろんその為の本もかなりある。前に見せてもらった書棚には百冊くらいの本が置いてあった。ただ片付けは苦手みたいだ。


 魔法を得意としているからだろう。魔法関係の本が三分の二を絞めている。その他はこの国や地域に関する事、通貨の数え方や一般常識の類い。少しだが剣術の本もあった。こっちは父親の本だと思うが、最近は誰も使っていないようだ。それもそのはず、積み重ねられた本の一番下にあるか、埃を被っているかのどちらかだからだ。


 剣術の入門書のような物があって、一度読んでみたけどもはっきり言って理解出来なかった。まあ前世でも剣を使う事なんて有り得ないし。


 一応その後に剣について教えてもらおうとしたら、いきなり父親から実剣を渡された。両刃でかなり身が太い。そしてまともに持ち上げる事も出来なかった。


 後で聞いたら『あのくらいの剣を持てないと、剣術は教えようにも教えられない』と言われて正直ショック。


 その後に細身の剣を持たせてもらったが、言っている意味が分かった気がする。


 確かに細身なら扱えるのだけども、剣に振り回されている感じがしてならない。思った所へまともに剣を振れないのだから、軽ければ良いというわけでもなさそうだ。


 そもそもこの世界では細身の剣は人気が無いらしい。森の中などで魔物を狩ると、細めの剣ではダメージを十分に与えられないのだそうだ。例外があるとすれば魔法剣の類いで、その場合は使用者の魔力が高い事が要求される。そもそもそんな高い魔力があるなら、魔法で攻撃した方が安全かつ効率的なので、魔法剣を覚えようとするのはほとんど趣味らしい。


 それでも魔法剣のような物があるのは、近づかれた際の最後の武器という意味合いが多くて、そもそも魔法剣などを使う状況があるようでは駄目なそうだ。


「でも、あの人だって魔法剣は使えるのよ? ただ魔法を使いながら剣を使うのは結構ハードなの。魔力は体力にも関係しているみたいで、魔力も体力も無ければ魔物の良い餌食よ。だからあの人は魔法剣を使わないし、他の人も大体そんな理由ね」


 魔法剣の話をお母さんにしたら、そんな答えが返ってきた。


「それに魔法メインの攻撃でも、先頭に立って戦う人もいるわ。ちょっと条件が難しいんだけど、身軽で相手の動きに対して即座に反応し、急所に魔法を撃ち込む方法ね。でも私はお勧めしないわ。相手の動きって言っても、集団で襲われたら終わりだから。だったら後方から攻撃したり支援した方が生存率も高いもの」


 なるほど。確かに言われて見ればその通りだ。一対一ならともかく、それ以外ではどこから攻撃が来るか分かったもんじゃ無い。


「お待たせしました。クラウデア・ベルナルさんとご家族の方、こちらへどうぞ」


 すぐ近くの扉が開き、今度は普通の人が呼んでいた。


 どうも前世で言う所の獣人と人の区別が抜けない。やっぱり慣れるしか無いんだろうとは思うけど。


 通された部屋には、熊の顔をした医者がいた。一瞬『森の熊さん』なんて事が頭に思い浮かんだのは秘密だ。


「検査ご苦労様でした。こちらが結果の表になります」


 母親に渡されたのは数枚の紙。内容を見ようとしたけど、どうせ説明があるんだろうと思い医者の方へむき直した。


「結論から言わせていただくと、肉体労働には向きません。その代わり、膨大な魔力をお持ちのようですので、魔法や魔術関連のお仕事を将来されるのがよろしいかと」


 あー、やっぱり体力駄目なんだ……。


「この表では体力についてはさほど悪いとは思えませんが?」


 え? それどういう事?


「確かに体力は本来のエルフ族などと比べれば落ちます。ですがこの子の場合だと『人』よりもはるかに上ですよ。まあ確かに私としてもこの子が力仕事に向かないというのは納得ですが、魔力が高いからといってそれ以外を否定するのは度が過ぎるかと思いますが、先生」


 な、なんだこの状況?


「お母さんの仰りたい事も分かります。ですがこれだけの魔力。彼には魔力を活かした人生を考えた方が良いと思います。まあですが、最終的に決めるのはお子様ですから、その結果を参考に今後をお考えになったらよろしいかと。ただ過信はしないで下さい。体力はあくまで普通の『人』より強い程度ですから」


 その言葉に母親は納得したらしい。


「それよりも魔力の方に注意があります。この子はまだ本格的に魔法の訓練を行っていないようなので、早急に訓練を始めるべきですね。ここまで強い魔力を持っていると、潜在的な魔力はどの程度なのか分かりかねます」


「どういう事ですか?」


「お母さん、良く聞いて下さいね。この子の場合まともに訓練もせずに魔法を使用すると、街の一区画が消滅しかねないような魔力をすでに持っています。ごく希にある事なのですが、それを知らずに放置した場合に『暴走』する事があるんですよ。本人に自覚が無いので完全な事故なのですが、被害は事故で済みません。この子の魔力よりも小さな魔力を持った子で、以前暴走事故があったそうです。その時には家三軒とそこに住む家族全てが亡くなったそうです。なのに中心にいたその子は無事だったとかで。調査の結果事故だという事は証明出来たのですが、その子はそれ以来心に傷を負ってしまったようです」


 おぃおぃ。三軒吹っ飛ばすってどれだけだよ……。


「今回お渡しした資料は、数値化出来る最大の物も含まれております。特に水系統の魔法に関しては計測値を振り切っていたようです。正直この子が暴発を起こした場合は、どのような被害になるのか想像出来ません。我々はそういった事を事前に調べて、事故を未然に防ぐ事も仕事に含まれています。魔力のコントロールから始める事になると思いますが、何か問題があればすぐにお知らせ下さい。我々も可能な限りお手伝いしますので」


「そ、そうですか……」


 母親の顔を見ると、どこか青ざめていた。まあ確かにそんな事を言われたらそうなるよね。


「話は脱線しますが、先ほど言った暴走した子なんですけどね。その子は今でも魔力暗室で拘束されていると聞いた事があります。この子には同じ思いをして欲しくありませんから……」


「魔力暗室とは? この子の将来もありますから、知っておくべき事は出来るだけ知りたいのですが」


 なんだそれ? 暗い部屋に閉じ込めるのか?


「簡単に言えば、その人の持つ魔力を死ぬまで永遠に吸い続ける部屋です。その中にいる限りは滅多な事で魔法を使用する事も出来ません。ただし人間らしい生活が行えるかと言えば無理ですね。魔力暗室などと言ってはいますが、実質的には魔力が高い者のための牢獄です」


 おいおい、洒落になっていないぞ?


「魔力に関しての注意点など、後で資料をお渡ししますので、良くお子さんと考えてからどうするか決めて下さい。何かあればすぐにご相談を。出来るだけの事はこちらでも致しますので」


 そんなこんなで僕の検査は終わった。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「……と言うわけだったの」


 帰ってからの家族会議。


 正直空気が重い。まあ、仕方がないとは思うけど。僕だって気が重い。


「でも確か、簡単な魔法は使えていたよな?」


 正直に頷く。


 魔力が高そうなのは実は分かっていて、使う時はかなり気を使っていた。まさかこんな結果になるとは思えなかったし。


「クラディ、ちょっと試したい事があるの。あなたも良いかしら?」


「あ、ああ」


 なんだかお母さんは考えがあるようで、僕の手を引っ張りながら裏庭の方へ行く。着いた場所は裏庭の一角に設けられた魔法の訓練場だ。


「クラディ、良く聞いてね。あなたがどれくらい魔法を使えるようになったのか、この目で見たいの。でも検査結果を見ると、クラディの場合はどの魔法も無理なく使えそうなのよ。そうなると、安全を考えながら魔法の威力を見て、私達がこれからどうするか考えないといけないわ」


「はい」


「それでね? やってもらいたいのは火の魔法。火の魔法を上空に放つように魔法を使って欲しいの。そうね……指先でいいから、その指先から火の柱を立ててみて。できる?」


「は、はい。多分出来ると思います」


 薪へ火を点けるのはよくやっているので、それ自体は難しくない。ただ、なんとなく最低限の魔力でしか着火させていないので、本気で使った場合の威力は僕も知らない。


「なんで火の柱かというと、その方法が一番安全だと思うからなの。魔力が高いと、当然威力も高くなるわ。下手にここで水の魔法を使うと、この家どころか周りの家にも被害が出るかもしれない。でも火の魔法を真っ直ぐ上に立てるだけなら、被害は無いわ。周りの人がビックリするとは思うけど、それは私達に任せてまずはどのくらい使えるか見せて」


 確かに強力な魔法を下手に使えば、街に被害が出てしまう。その意味では真っ直ぐな火柱を上に伸ばすだけなら、せいぜい被害は空を飛んでいる鳥が巻き添えを食らう程度だ。


「分かりました。でも、本当に最大の魔力でやるのは怖いです。今まで使った事が無いので」


「そうね……じゃあ、薪に火を点ける時を思い出して。その火をクラディの思う最大の力で空に向けて放って欲しいの。ただし、指先からは火が離れないようにね? それなら出来るでしょ? いきなり難しい事を言われたって、出来ないわよね」


 おとなしく頷いた。


「やってみます」


 そう言って、右手の人差し指を見た。魔力を集中させ点火する。まずは今まで薪に火を点けていた時と同じくらいだ。


「普段はこれくらいです。僕でもよく分からないので、徐々に魔力を上げていきます」


 そう言うと二人とも僕の後ろに下がった。本当は横にいて欲しいけど、威力が分からないので仕方がないとは思う。


 火に送る魔力を上げてゆくと、指先の炎が次第に大きくなってきた。ほんの数秒で建物の高さを超えている。


「すごいな……」


「え、えーと、本気でやっていいんですよね?」


 一瞬の沈黙。何か変な事言った?


「ええ、いいわ。でも危ないから指を頭の上に持っていった方がいいわね。腕を真っ直ぐに伸ばして、耳にピッタリと付ける感じで」


 言われたとおりにしてから、再度魔力を徐々に増やしてゆく。


「な、なぁ……」


「え、えぇ……」


 どうしたんだろう?


「今その状態で、魔力をどの程度指先に集めているか分かる?」


「本気でやった事が無いので分からないです。でもまだまだ余裕はあります」


「そ、そう……分かったわ。一旦止めて」


 そう言われてすぐに魔法を中断した。上を見ると少しだけ黒い煙のような物が見える。


「凄かったな」


「私もビックリよ。魔法の事をもっと早く学習させるべきだったのかも」


「俺もそう思う」


 あー、何かこの流れって悪い流れだよなぁ……。


「とりあえず家の中に入りましょう。クラディも変な所とかは無いわよね? あったらすぐ教えて」


「大丈夫です」


 結構大きく魔力を消費したのが原因か、それ以外が原因か分からないけど、ちょっとだけ心臓がドクドクしている。でもそれ以外は何ともない。


 連れられて戻ったのは家の居間だった。お母さんが医者から渡されていた紙を僕に見せる。


 専門用語のような物もあったので全部分かったわけじゃ無いけど、一応分かった事は属性など関係無しに全ての魔力の属性が高い事だ。


「クラディの魔力は、どの方向に使っても十分すぎる威力があるはずよ。基本的な使い方はここで教えるけど、その時は出来るだけ魔力を抑えて欲しいの。クラディの場合本気で魔法を放ったら災害で済まない可能性もあるわ。だからちゃんと私達が安全な所に連れて行ってあげるから、そこで練習しましょう。他の人が迷惑にならないようにしないとね?」


「はい。でも、お母さんもお父さんも怖くないんですか?」


「うーん……怖くないと言えば嘘だな。だが何もしないとお前のためにならないし、ちゃんと使いこなせれば仕事も選び放題だと思う。それに魔力が高いからって、子供を俺たちは捨てないさ」


「ええ。だからクラディは安心していいのよ。その代わり、ちゃんと約束は守ってね?」


「はい!」


 あの捨てた親よりも、きちんと理解してくれるこの二人に感動しちゃった。


 これなら魔力が高くても、安心して生活出来ると思う。

まあ高すぎる能力は本人も扱いきれないという事です。


その状況にあった使い方をしなければならないのは現実でも同じ。


次からは魔法の訓練が始まります!

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