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第六十話 勝手に家が作られていた!?

2016/02/04 内容の一部修正を行いました

2016/01/26 話数番号を変更しました

「第一城壁内側の工事もだいぶ終わったわね」


 今日はエリーと一緒に休日。第二城壁の内側が工事の主体となってきていた。


 一般の住宅に関しては基本的な構造は同じだ。ただ種族によっては高身長や低身長などの事もあり、多少はそれに配慮した家を建てる必要がある。


 それと同時進行で、建設が終わった家から入居が始まっていて、残された旧住宅は取り壊しも行われている。取り壊された家のうち、まだ使用可能な物は再利用するためだ。


「僕たちが手伝える範囲は、第一城壁の内側は終わったみたいだし、次からは第二城壁の内側か第三城壁の内側かな? 大きな建物が出来る第三城壁の内側の可能性が一番高いと思うけど」


 僕らが第一城壁の工事を最優先で行ったのは、外から魔物などの脅威から町を守る施設を優先的に作っていたからだ。当然第一城壁の内側でも、それほど緊急性がない建物は後回しにされている。


「今までのように町の中で種族を区切る壁が無くなるんでしょ? 本当に大丈夫かしら? 私達にはみんな特に思う所は少ないみたいだけど、他の人たちは別よね?」


「一応大丈夫だと思うよ? 町作りで種族に関係なく手伝ってもらうようにしてもらったし、一応比較的友好的な種族同士で集まって家を作るから。もちろん多少は混乱だってあるだろうけど、それは今だってあるそうだし」


 どんな方法を選んだ所で、全ての対立を無くす事なんて無理だ。それぞれの許容範囲で納得するしか無い。


「まあ、私達があまり口出ししても仕方ないわよね。そろそろここに来て一年だけど、やっぱり私達はまだ部外者と思いたいわ」


「だね。助言をする事はあっても、深入りはしたくないし」


 すでにかなり深入りしている気がしなくも無いけど、今以上に深入りするのは止めたい所。


「その考えは分かるし、私もそうしたいけど、すでに手遅れな気もするのよね……」


「それは……」


「クラディ、考えてもみなさいよ。魔の森を排除して町の発展を促したのは私達よ。しかもその為の施設なんかも私達が手伝っているし、それ以前に前のハンターギルドだっけ? あれを冒険者ギルドにしてかなり感謝されているのよ。この町の人からすればもう部外者とは言えないのかなって思えちゃう。私だって嫌だけど、これからはここで私達も暮らすのだし、ある程度の事は受け入れないと」


「分かってはいるんだけどね」


 それでもあまり関わりたくないなとは思っちゃう。


「嫌でも受け入れるしか無いのが辛い所だね」


 現実ってやっぱり厳しいなって思う。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「今日は確認してもらいたい所がある。とりあえず私についてきてくれ」


 秋津族代表補佐のセーゲルストローレさんが朝から来たかと思うと、僕ら二人に確認してもらいたい所があるらしい。


 しかも朝八時からなので、この世界だとかなりの早朝だ。この町では一日を三十二時間としているので、朝八時は普通の人がやっと目覚めるくらいの早朝になる。


 こんな時間に来るのは余程重要な事だけど、今まで色々な工事をしてきたので朝早く起きる事自体は別に苦にならない。


「それで、どこに行くんですか?」


「第三城壁の中だ。場所としては中央広場の近くになるな」


 どの区画にも一定の間隔で公園や広場を設置する事になっている。広場ではそこを管理している人が必ず複数いる事になり、その人達の許可さえ取れば広場の中でイベントを行ったり、露店を開いたり出来る。


 原則的に広場は馬車の進入は禁止で、それ以外なら誰でも入れる憩いの場的な場所になるはずだ。


 今までは広場といえるようなのは町の中心だけだったし、半スラム化すらしている感じすらした。ここ最近の建設ラッシュで働き口が増えたので、スラムの問題は一時的に無くなったけど、いずれはまた復活する可能性が高いので何とかしないといけない。


 全部では無いけど広場や公園には噴水も設置される。噴水の水は魔石を用いているけども、噴水のある所にはあらかじめ水を用意しておく。魔石は噴水の形状を作るためと、水の浄化のため。


 道は歩行者専用と馬車、歩行者兼用の二つがある。兼用は一応歩道を設けて危なくないようになっているけど、さすがに信号などは無い。そもそも町中で馬車はゆっくりとしか走らないように決められているので、事故は最小限になるはず。


 第三城壁の近くまで来ると、城壁の仕上げ処理が行われているみたいだ。


 いくら城壁とはいえ、単に実質本位だけでは見栄えが悪いので多少の装飾はする。どのみちここが突破される時はこの町が滅亡する時だろう。だからここが突破されるとは皆思っていないし、僕もそのつもりで建造に携わった。見た目もやっぱり大切だ。


 城壁にある門をくぐる。ここにも非常時には強固な鉄板が降ろされる予定になっているけど、製造がまだ間に合っていない。まあ第一城壁だけでもかなり強固にしてあるので、どうしても奥にある城壁程後回しみたいだ。


 そもそも第一城壁を最も強固に作っている。城壁の中には実質装甲板と言える物も埋め込んであるので、前世でいう所の戦車の主砲でもある程度は耐えられるはずだし、この世界で見た銃では突破など無理だ。


 それでも相手が魔物となると話は別になる。重量を活かしての突撃などは繰り返されれば厳しいだろう。その為に城壁の上には迎撃出来る通路も作っているし、第一城壁の外側はわざと上部に反りを設けている。かなり長い梯子で無ければ反りで登れないだろう。


 それでも門の横には仮設の詰め所も建てられ、すでに警備の人が数名常駐している。まあ警備といってもほとんどが行き先案内らしい。まだ建造中だし、場所が分からない人も多いそうだ。それと城壁にある建造中の門をくぐる人もまだまだ多数。城壁の外側の工事が、まだ終わっていないため。


「結構奥まで行くわね? 確かこの先は会議場だったかしら? 手前には広場もあったわよね?」


 エリーは周囲の建物を見ながら建物の完成具合を見ている。僕も見ているけど、少なくとも外観はほぼ出来上がっているみたいで、一部では家具なども運び込まれていた。


 議会開催中の臨時議員宿舎などは、種族によって大きさは若干異なる事はあるけど家具は原則統一されている。一般家庭などの家具も、新規で購入する人に安価で提供出来るように同じ物が売られる予定だ。一応後で色を塗る事くらいは出来るけど。


 今は新しい町作りの真っ最中だから、ごく一部を除いて量産品を作る事が最優先になっているらしい。そりゃそうだとは思う。


「待たせた。今回はこれを見てもらいたい」


 セーゲルストローレさんが案内してくれた所は三階建ての家。ただし、『家』と言うよりは『屋敷』という表現が良いと思う。


 外見は三階建てで、周囲には壁が張り巡らされている。唯一の入り口には門があり、その隣に監視所なのか詰め所なのか分からないけど、小さな小屋がある。小屋といってもきちんとした石造りで、臨時に建てたとは思えない。


 門から屋敷までは石畳になっていて、その先には建物の中央に数段の階段と屋敷の入り口らしい扉があった。扉は木製で、ちょっと黒っぽいツヤのありそうな重厚に見える。両開きでガラスとかは無いけど、どう見ても高級品の風格。


「なんだか立派な扉がありますね。それに石畳とか普通の住宅じゃ無い感じがしますが。町長の屋敷ですか? 僕は第三城壁の中にある建物についてはほとんど携わっていないですけど」


 町長など一部の人が住む事になる家についてはほとんど口出しはしていない。


「違います。まあ、それについては後ほど。とりあえず本屋敷を案内します」


「え、本屋敷? この中に他の建物も? そこにあるのは小屋か何かよね? 人が一人か二人は入る事が出来ると思うけど、住む場所じゃ無いでしょ?」


 エリーがすぐに門のそばに合った小屋の事を指摘した。本屋敷があるとするなら、別の建物だってあるとは思うけど、それがこれとはちょっと思えない。


「これは警備のための小屋。常駐する予定になっているけども、まだ中が全て出来上がっていない。それに後でドアもつく」


「そう……まあいいわ。とりあえずその本屋敷を案内して」


 エリーが先に歩き出し、僕らはその後を追う。周囲には人は見当たらない。


 それにしても本当に立派な造りだと外観で分かる。


 外側はドア以外もしっかりとした石造りで、唯一の扉――玄関ドアの両側にはそれほど大きくないけどステンドグラスもある。


 多分なかの部屋のための窓だと思うけど、外側も装飾されているほど造りが丁寧。窓の枠は多分木製だけど、その周囲は石を削り出して作ったような動物などを象ったと思う装飾だ。


「凄い家――屋敷ですね。外から見るだけでもかなり凝った造りだと思います」


「職人達が張り切っていたと聞いている。まあそれよりも中を見よう」


 セーゲルストローレさんは玄関ドアにある握り手を掴み、両開きのドアを後ろに押すように開けた。


 中は磨かれた石で出来ていて、まるで顔が映り込むんじゃないかと思える。絨毯などは無いし、家具もまだ用意されていないみたいだ。


「ここがホールだな。それぞれ両側に部屋などがある。奥に見える階段の裏にも部屋がある。外から見たから分かると思うが、三階建てだ。ただし地下も二階まであるので実質五階建てだな」


 地下もあるんだ。そういえばこの家の外観はかなり大きかった。何部屋あるんだろう? この感じだと、食堂や厨房なんかも別にあるのかな?


「この階に厨房と食堂があるけども、この家の住人用は二階の厨房と食堂が使われる予定だ。一階は予備や何かの催し物……パーティなどを行った時に使えるように設置してあるそうだ」


 パーティーって、そもそもこの家は個人用なんだよね? だって住人用の厨房とかは二階とか言っていたし。じゃあここには一体誰が住むんだろう?


「一階はこの広間と奥にある部屋、それから隣接する厨房があり、その他に居住用の部屋が四つある。他に倉庫用の窓の無い部屋が三つあり、地下へ行くための階段部屋が一つある。地下はどの部屋も同じ構造で、大きめの部屋が一つ、その半分の部屋が二つ、小部屋……とはいっても、普通の寝室と変わらないが、それが四つあるそうだ小部屋二つで先ほど言った二つある部屋、四つで大きな部屋と同じになっている」


「結構広いんですね。倉庫が一階にもあるのに、地下にまでそんなにあるなんて、ちょっと多すぎませんか?」


「確かに多いといえば多いのかもしれないが、地下の部屋はもっと小さく区切る事も出来るらしい。家主次第で好きに使ってよいそうだ。後から作った壁は、その後に壊しても問題ないらしいのでな」


「ふーん。じゃあ非常時の倉庫としても使えるのね。それだけあればかなりの人数の食料を貯めておけるんじゃないの?」


「ああ、そうだろうな。ただ干物や燻製の物を除けば、日持ちがするような食材は少ない。なので食料庫としては限界があると思う」


 そういえばこの町で冷蔵庫かそれに似た物はまだ見た事が無い。氷を使った冷蔵庫くらいはあっても良さそうなのに。


「氷を使って物を冷やしておけば、もっと長く保存出来ると思うんですけど? ただこの町にはそういった物は無い気がしましたけど、似たような物って無いんですか?」


「うーん、あるにはあるがほとんど使われていないな。何より氷を魔法で作るのが難しい。君ら二人はどうだか分からないけども、氷の魔法を使えるのはこの町でも数人だけだと思う。あとは冬に氷を大量に保管して使う事も昔は行われていたらしいが、それは魔の森に囲まれる以前だったそうだ。一応冬はあるから冬場に氷は出来るが、今までの町だと大きな氷など用意出来なかったからな」


 なんだか納得。冬場は根野菜とかが多くて葉物野菜は少なかった。後は肉類だけど、これは冒険者が狩ってきた魔物や動物の肉。それだって今まではさほど用意出来なかったらしいし。


「前に君らが大量に狩った魔物や動物がいるだろう? 凍り漬けだったので、あれを地下に移して溶けないようにはしているが、それでも次々と燻製や干物に加工している。おかげでしばらくは肉類に困る事はないと思うが。その点は二人に感謝だな。ただ、君らがかけた氷の魔法もそろそろ限界らしいので、残った大半は保存用に加工されるそうだ」


 確かに言われてみれば、大量に動物や魔物を狩った。それで最近は肉料理が多く出ているんだ。それにしても魔法で氷が作れないのは食料の事を考えると良くないと思う。保存食に頼っているのは仕方がなくても、やっぱり新鮮な物を冬でも食べたいと思ったりするからね。


「二階に行こうか」


 セーゲルストローレさんに連れられて、ホールの奥に行くと階段が二つある。吹き抜け部分にある半円の螺旋階段で、手すりは木製。手すり部分は装飾がされているみたいで、どうも何かの植物を象ったように思える。


「立派な階段ですね。この模様は職人さんが作った物ですか? とても手が込んでいるみたいですけど」


「この手の装飾をする者が数名手がけたらしい。私も詳しくは知らないが。あと、この階段には絨毯も用意されるそうだ」


 なんだかどこまでもお屋敷だなって思う。しかも感じからして貴族のお屋敷にしか思えない。でも第三城壁内部は町長他限られた人の住居だけのはずだし、そもそも同じ人が使い続ける建物じゃ無いはず。


「ここが二階だ。手前の扉の奥がテラス付きの食堂で、その隣には厨房が設置されている。厨房の隣には数日分の食料庫もあるそうだ」


 基本的に食料庫は一階や地下の物を使って、二階や三階では最低限の物しか置かないのだろう。


「厨房は建物の正面から見た場合右側。ここからだと左だな。反対の右側にはサロンが設けられている。家具を配置すれば応接室にもなるし、そのまま使えばダンスホールになるそうだ。まあ使い方は住人次第だな」


 住む人にどうするかは任せてあるんだ。ということは、やっぱり町長の家みたいに何年かで家主が交代するんだろう。


「それぞれ左右に延びている通路沿いに部屋があり、部屋の数は全部で十六。それ以外に風呂と脱衣場、洗濯室。普通の部屋の大きさは統一されているそうだが、内側の壁はまだ完成していない。というより、複数の部屋を中で繋げた方が良いのか判断に迷っているそうだ」


「お風呂とか除いて普通の全部で十六って、建物の正面に八で、裏側に八でしょ? 外観から想像しただけだけど、それでも結構広い部屋になるわよね?」


「いや、表側に十で裏側に六だそうだ。裏側に風呂やその他があるそうだ。部屋だけでも一つだけ見ていこうか」


 セーゲルストローレさんはエリーの疑問を解消するためか、一番近い部屋に案内してくれた。ここもドアは内開き。部屋のドアは全部内開きなのかもしれない。確かヨーロッパなどでは、防犯のために扉を内開きにしていたと聞いた事がある。家具をドアの前に置けば侵入を防ぐ事が出来るとか何とか。


 部屋の中はまだ壁紙も貼られていないみたいで、真っ白な状態。漆喰のような物が塗られている感じだ。上には照明を取り付けるかぎ爪もある。


 この町だと照明はほとんど魔石を用いている。魔石を用いる事で照明部分になる宝石やガラスが光る仕組みだ。まあ普通はランタンのような物の中に置いておくだけなんだけど。大きな建物だとシャンデリアのような物に魔石を組み込んだ物がある。上の金具はそれを吊すのによく使われているタイプに思える。


 部屋の広さは秋津集落でいう所の十畳くらいかな? 縦長だけど、それほど縦に長い感じはしない。正方形ではないけど、正方形に近い長方形なんだと思う。


 両側にある壁は、片側は完全に塞がれているけど、もう一方は通路に近い側が三分の一程度塞がれていない。その奥を見ると、全ての部屋が同じ構造みたいで、残りの奥の四つの部屋が見える。


「使う人によって壁を塞いだりするのね? 例えばここはテーブルとかを置いて、隣を寝室にしたりとか。何部屋を繋ぐのかは自由という事かしら?」


「まあそうなるな。建物の構造としては廊下側の壁や柱、窓側の壁や柱、そして各部屋の壁一つにつき柱が二本入っている。なので強度は問題ないそうだ。それと言い忘れていたが、外壁も内壁も一応魔法防御がかけられていて、ちょっとくらいの魔法では傷はつかないらしい。まあ君らのような実力があれば関係ないのだろうが」


「え、魔法防御の壁なんて使ったの? ここって第三城壁の中よね? どう考えても必要ないじゃない」


 エリーの言うとおり、第三城壁の中の建物に魔法防御の壁を設置するなんて勿体ないと思う。


 第一城壁近くの建物で、城壁側を向いているような壁には一部そんな素材が使われているけど、それだって建物全体を覆っていないし、そもそも内側まで防壁は使っていない。


「私に言われてもな。まあこの階の案内はこれで良いかな? 後は三階なんだが、三階は家主の寝室と部屋、隣接して十人程が入れる応接室が一つ。もう一つ階段を挟んで応接室がないだけの同じ構造の部屋が一つ。まあ一般的に結婚していれば男性が応接室の方を使うだろうな。もう一つはその婦人用と考えれば良いと思う。どちらも表側に設置されている。応接室がない分、少し狭いが倉庫が一つあり、さらにその横に簡単な調理程度なら出来るスペース、そして風呂と脱衣所だ。裏側は応接室のある側は全て部屋になっていて、数はここと同じで構造も同じ。反対側は数が四で一番奥に屋根裏へと繋がる階段がある」


「あれ、この建物って上は三階建てなんですよね?」


 間違いなく上の部分は三階建てと聞いたはず。


「私も理由はよく分からないが、屋根裏は窓の数もあまり無く、仕切りの数も最低限で部屋と言うよりは天井の低い物置とでも考えた方が良いかもしれない。まあギリギリ人の身長よりは高いらしい」


 確かに今見ているこの部屋の高さは、僕らの身長の二倍くらいはありそうだ。その半分となればちょっと息苦しいと思う。あまり人が生活するような所じゃない。


「どちらにしても、地下も含めて屋根裏も家主の自由だ。それから地下は空気のよどみを防ぐため、換気用のトンネルがある。少なくとも窒息する事はないのだが、そこから人が出入りは出来ないように小さく作ってあるそうだ。空気の取り入れ口と排気口は別々で、それぞれ吸気口と排気口はそれぞれ壁の反対側に設置されているらしい。なので地下で火を使っても問題ないらしい。吸気と換気には、魔石を用いた小型風車を使っているらしく、その魔石も二階からでないと交換が出来ない。普段はその換気装置については扉で閉めているので、早々そこから換気口の空気が漏れる事も無いそうだ。少なくとも吸気口や換気口からの出入りは無理という事だし、そもそもどちらにも鋼鉄の柵が何枚か埋め込まれている。換気口は天井に設置されていて、雨除けなども設置した」


 なんだか聞いているとまるで地下牢で使う事すら考慮されている気がする。


「そこまで厳重な必要って……まあ僕らは関係ないと思うので別に良いのですが、これって町長の家じゃないんですよね?」


「ああ、その通り。聞いていて分かったかもしれないが、はっきり言うと町長の家よりも設備は豪華に出来る。暖炉も各部屋に設けているし、排気口はこの家の二カ所に風車で集められて、天井から排出される。外の排気口自体も直接雨や雪が入る事は出来ないそうだ」


「なんだか凄いお金がかかっていると思うんですけど、そろそろどんな人が使うのか教えてくれませんか? 多分僕らを呼んだのはこの家について何か意見を欲しいからだとは思うんですけど」


 どう考えてもそれ以外に答えはない。それに集会場としては設備が異なりすぎるし、仮に身分が高い人が宿泊するにしても大げさだ。


「うーん、まだ分からないか。そろそろ気がついて欲しいんだが」


 セーゲルストローレさんが僕らを交互に見る。なんだか嫌な予感がしてきた。


「まさかとは思いますが、僕らの家なんて言わないですよね?」


 最初に僕らは特別扱いしないで欲しいと説明したはず。でもこの家は明らかに特別扱いだ。


「その通りだよ。ここが君らの新居になる。それから二人もそろそろ結婚してはどうかという意見があってね。少なくともお互いに嫌いという事は無いのだろう? むしろバスクホルド君を見ればクラウディア君の事が好きだと思うのだが、クラウディア君はどう思っているのかな?」


「え……」


 いきなり言われてエリーを見る。恥ずかしかったのかエリーは俯いていたけど、顔は紅潮している感じだ。


「まあ、今すぐ結婚とは言わないよ。それにこの家も見たとおりまだ完成はしていない。むしろ君らの意見を取り入れたくて一部については工事待ちなんだ。いつまでも他の人の家に居候はよくないだろう?」


「確かにそうですけど……」


「それから君らは大夫慣れてきているとはいえ、まだまだこの町の事を知らない事だって多いはずだ。なのでこちらから使用人の推薦をしたい。君らの事だから、種族に関しては特にこだわりがないようなので立候補者に種族の制限は設けていない」


 いつの間にか外堀が完全に埋められているみたいだ。そもそも何でこんな屋敷が必要なんだろう? 僕らには明らかに必要がないと思う。そもそも広すぎ。


「我々各種族で話し合った。特にクラウディア君の過去の経歴も調べたが、生まれは貴族だそうだね? まあこれは最近になって分かった事だが。無論小さい頃に他人に引き取られているので、君が元であっても貴族という事はまるで気にしていないと思っている。しかしだ、君らはこの町に十分に貢献しているのは事実だし、それに見合った待遇を与えるべきだとほぼ満員一致で回答された。さすがに町の運営のほとんどは町長と議会が行うが、君ら二人にはこの町で王族としてこの町の発展に意見をして欲しい。その為に常時警備も付けるし、執事やメイドも補佐的な要因を含めて雇ってもらう事になるが、君らは今までの稼ぎでも普通の人が一生かかっても使い切れない財産もある。少なくとも君らの生活が悪いようになる事はないと思って欲しい」


 結局セーゲルストローレさんにほぼ従わざるを得ない状況で、僕らは新しい住居を手に入れる事となった。もちろん実際に引っ越す前に、執事やメイドといった人たちを選ぶ必要があるんだけど、それよりも僕らが『王族』なんて言われて、僕もそうだけどエリーもなんだか放心状態だ。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 二、三日程エリーの放心状態が続いてから、やっと僕らは新しい入居先の事で色々とやる事になった。


 本屋敷の他にも普通の家と変わらない家が二つあり、それ以外に鍛冶工房と錬金術工房まで備えてある。まあ、今のところ工房以外については考えていない。


 まさか専属の料理人からいくつもの役割に応じたメイドや執事なども選ぶ事になり、それだけでも二週間はあっという間に経過。


 それ以外にも部屋の配置や細かな模様替え、住み込みで働く人たちのための部屋の確保など。


 それでも大半の人はあの屋根裏で十分だと言ってくれる。ぼくとしてはもっとまともな部屋を用意したいんだけど。


 僕やエリーの側仕えに選ばれた人はさすがに専用の部屋を提供する事になったんだけど、それでも数人で一部屋。それぞれ担当も色々決める事になるらしく、僕としては悩みが尽きない。


 特に僕らの専属ともなれば、色々やる事は多いらしい。なので屋敷の二階部分を割り当てる事となった。三階も考慮したんだけど、僕ら付きの人たちとはいえ、同じ階に住むのはいくら何でも失礼だと念を押される始末。


 まさか急に王族だなんて、控え目に見てもやり過ぎだと思わざるを得なかった。

各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。


感想なども随時お待ちしております!

ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


更新速度からおわかり頂けるとは思いますが、本小説では事前の下書き等は最小限ですので、更新速度については温かい目で見て頂ければ幸いです。


今後ともよろしくお願いします。

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