第五十八話 レンガ・コンクリート式プレハブ工法?
2016/01/26 話数番号を変更しました。
前の実験でも分かったけど、化学式さえ知っていれば魔法で物を作る事が出来る事が分かった。
もちろん作るには元となる材料が必要なんだけど、逆に考えれば材料さえあれば難しい事なんてせずに色々作れてしまう。
もちろん魔法は万能じゃないけど、たしか『十分に発達した科学は魔法と区別がつかない』なんて言葉があったよなと思い出した。
魔法が先か科学が先か、まるで『鶏が先か卵が先か』みたいなことになっちゃうけど、使える物は何でも使いたい。
前世では本を読む事ばかりが趣味だったけど、そのおかげで色々と作れるのはやっぱり楽しい。
城壁の工事については、僕が手伝える所は一応終わった。真ん中に作る行政府の工事はまだ時間がかかるみたいだけど、城壁の工事で一段落したので今度は一般の建物の建設ラッシュ。
前にも伝えたとおり、今までのような完全に種族を区切った町作りはしていない。さすがにまだ種族間のちょっとした対立があるので、一応区画は多少分けてはいるけど。
それでも第二城壁と第三条壁の間には次々と家が建設されていく。あとお店なんかも次第に出来ている。働く人がいるんだから、当然お店が近くにあった方が良いからね。今は万屋的なお店だけど、工事の目処がついたらそれぞれ色々な専門店などに変わるらしい。
そんな中僕が手伝っているのは第一城壁と第二城壁の間にある区画。
ここにはお店や冒険者ギルドのほか、各種ギルドなどが作られる。それと兵士の訓練施設やその付随施設。どれも比較的大きな施設なので、僕はこっちの工事を手伝っている。
「それで、基礎はこれくらい掘れば大丈夫ですよね?」
魔法って本当に便利だと思う。今は冒険者ギルドの建設現場。建物を作るための基礎を埋めるために溝を掘った所だ。
「ああ、十分だと思う。それにしても申し訳ない。あちこち借り出されているんだろう?」
冒険者ギルドのアンカーソンさんは工事の進捗と見取り図を見た後に声をかけてくれた。
今回の冒険者ギルドは前回よりもさらに広く作っている。施設も受付や買い取り所などを充実させているし、鑑定所もある。その他に別棟で宿泊設備も作る。今は受付奥のギルド内部関係者が使う設備を作るための準備中だ。すでに受付などは基礎工事も終わり、手物の方を作り始めている。
「構いませんよ。魔力だってあるし、今後は僕もお世話になる事があると思いますからね。何より新しく作るんですから、居心地が良い設備の方が良いじゃないですか」
「確かに設備は大切だな。これだけの広さがあれば、もっと人員を増やす事も出来そうだ」
「それも考えての設計ですからね。現状の倍は人がいても十分広いはずです」
ちなみにギルドの本部施設は四階建てになる。一階で各種冒険者とのやり取りが行われ、二階は会議室や休憩所。三階は宿舎になっていて四階にはギルド長の部屋などが設置される予定。
ギルドの宿舎は他にもう一つあり、さらに別に一般冒険者の宿泊所が出来る。その一階は酒場も兼ねている。
「練習場の件は私も気がつかなかったな。まあ、今までそんな物は無かったんだが」
「まあ、無理もないでしょうね。でもある程度訓練をしてからの方が実戦でも生存率は高くなるはずです。前に聞いたんですけど、今まで初心者の死亡率が三割を超えていたって本当ですか?」
「ああ、その通りだよ。酷い時は五割という事もあったらしい。まあその時は大型の魔物に偶然遭遇してしまったようだが」
「なら、余計に必要ですね。あとこれは設備の問題ではないのですが、初心者に何回かベテランの人が付き添う制度も作った方が良いと思います。そうすれば初心者だけで危険を冒す事も減ると思うので」
「なる程。確かに言われてみればそうだな。今までは魔物の脅威ばかり考えていたが、確かにきちんと人を育てなければならないな」
ちゃんと理論立てて話せば分かってくれる人は楽だ。
「あと、ここだけの話なんですけどね……住民の皆さんが武器の訓練をしているじゃないですか。あれは止めた方が良いと思いますよ? 確かに訓練は大切ですが、下手な付け焼き刃ではいざという時に危ないだけだと思うので。それにもしやるとしても、全ての人たちをまとめて行った方が効率が良いです。それぞれの種族で大人の定義は異なりますが、訓練が必要な時期になったらまとめて訓練した方が効率が違いますから」
「なる程。確かに今までは種族別に全く違う訓練ばかりだったな。しかし訓練をしなくても良いとは思えないが?」
「人によって向き不向きってあるじゃないですか。向いていないのを無理にやらせても怪我をするだけですし、むしろ向いている事を積極的にしてもらった方が町の発展にも繋がると思います」
「確かに職人など不足しているのは間違いないな。全員が戦闘に向いている訳でもないし。それぞれの役目があるという訳か。そういう意味では納得が出来る。君らから新しい技術も教わったし、それを我々が活かさなければ意味もないな」
「まあ、そういうことです。でも全ての人たちに関わる事なので、皆さんとちゃんと話し合ってからで構いませんけどね」
何事も一方的に決めるのはよくない。ちゃんと話し合って、良い方法を見つけてもらった方が良いし。何より僕が常に正解とは思わない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ねえ、クラディ。何しているの?」
「ちょっとした思いつきだけど、最初に別の場所で壁を作ってもらってから、それを魔法で移動させて手間を省けるかの実験」
「でも、そんな量のレンガを運べるのって、私達だけじゃない?」
「うん。まあそうなんだけど、とりあえず出来るかの実験だし。レンガの裏側にはコンクリートと鉄筋も入っているからそれなりに重くなるしね。魔法で持ち上げた時に崩れないかの実験もしているんだ」
「呆れた。確かに成功したら工事は早くなると思うけど、出来るのは私達だけじゃない」
「この高さと幅だとね」
目の前にある壁になる予定の物は正方形で作った。大きさは僕の身長と同じくらい。レンガとコンクリートを合わせているから、重量はかなり重い。
「さすがにこのままでは無理だと思うけど、この四分の一の大きさにして、コンクリートの部分とレンガを別々に設置すれば良いと思うんだ。コンクリートが乾く前にレンガをはめ込めば、これと同じ事になると思うから」
「なんだか色々試しているのね」
「ほら、一つ一つ現地で積み上げていると大変でしょ? それならどこか一カ所で作ってから、それをくみ上げた方が楽だと思ってね。もちろん現地でしか出来ない事もあるけど、このレンガなんか特に飾りみたいな物だし」
「レンガは分かるけど、コンクリートは壁よね? それまで作っちゃうのって変じゃない?」
「一応継ぎ目はあるんだ。組み合わせる時にそこへあらかじめコンクリートを入れておけば、後は組み合わせるだけ。ただそれだと問題点があるかもしれないから、実験しているんだ」
「問題点?」
「主に強度だね。組み合わせた時に強度が落ちる心配はやっぱりあるから」
僕にそう言われエリーは作成中の壁を再度見る。一応設計通りなら問題ないと思いたいけど、前世では建築なんて見た事くらいだし。
「ところでクラディの言っている強度ってどれくらいなの?」
「ああ、それならこれに乗ってみてよ」
そう言って近くにある台を指す。台の下にはスプリングを含め色々細工している。もちろん乗っただけで動くような物じゃない。
「うーん、乗ったけど何もないわよ? 手すりが点いているけど、これは何のため?」
「今から動かすから、その手すりをしっかり持っていてね? 放すと危ないから。動かすよ」
そう言って僕は台の下に魔力を込めた。同時に台が縦に動き出す。
「な、なにこれ……ちょっと気持ち悪いわ」
「次第に強くなるから。危ないと思ったら言ってね。すぐに停止させるからさ」
エリーが乗っているのは所謂人工地震体験機。ただし動力は魔力。
「ちょ、ちょっと、何これ!」
すでに台はかなりの頻度で揺れている。地震計を早く作りたいなと思うけど、その為にロール紙を作るのが勿体ない。なので他の方法を検討中だ。
「危なそうだから止めるね」
すぐに魔力の供給を止める。台はゆっくりと振動を止めてゆく。
「なんだか凄いけど、一体何なの?」
「地震は知っているよね? 僕の前世でいた国は、その地震が国のどこかで毎日起きていたんだ。まあ、こんな大きな地震が毎日って事は無いけど。でもたまに大なのが来るんだよ。で、その地震の一部を再現したのがそれ。今体験してもらったのは縦揺れと言って、縦に振動するんだ。あとは横揺れもあるし、同時に発生させる事も出来る」
一応説明してみたけど、エリーはなんだかフラフラしている。後でもう一度説明しないと多分駄目かな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで、研究の成果がこれです」
台車に持ってきたのは実験してとりあえず合格だろうと納得出来たコンクリートとレンガが一緒になったパーツ。それを十点程第一城壁の検問所兼兵士宿舎に持ってきた。
「これを組み合わせていけば、造るのが楽になるか……話は分かるんだけども、我々の常識ではちょっと信じられないな」
すでに検問所には人が待機しているけど、今のところ魔物が現れた事は無い。
「耐久試験も色々行いましたから、簡単に壊れる事はないはずですよ。それにこれを量産すれば住宅を早く用意出来るようになるので、早急に必要な所にこれを使うだけでも違うと思いますが」
何で第一城壁の検問所兼兵士宿舎に持ってきたかというと、ここは応急的に造られた物で、後で建て直す事がきまっていたからだ。その際、門を囲むように三階建ての建物にする。魔物に曝される町の外側には向かないだろうけど、町の内側ならこれで大丈夫だ。全てを魔物に対して完璧な建材で造る必要は無いのだし。
「分かった。とりあえずここの設計担当者と話をしてみよう。我々が独自に判断出来そうもないからな」
「必要でしたら何枚か実際の衝撃を与えても良いですよ。ちょっとした魔物なら防げるはずです。さすがに大型となると無理ですが」
そもそも外側は分厚い石材と圧縮した土、コンクリートに鉄材や鉄板が入れられている。それと同じ強度はいくら何でも無理。ちなみに圧縮した土は剣で切りつけようが槍で突こうが先に武器の方が欠ける程の強度がある。
鉄板は何枚も入れているし、継ぎ目がその次の鉄板の継ぎ目と重ならないようにした。その鉄板は間にコンクリートと鉄筋も入れているので、これを突破するのは容易じゃないはず。
「分かったよ。強度に問題が無ければ、これを量産して欲しい。確かにこれで造れば普通の住宅を造るのも早くなりそうだ」
町の大型施設は大半が少なくとも外観は出来上がっている。内装などの細かい所は残っているけども、それよりも一般の住宅などを早く造る必要がある。
「了承が出たら知らせて下さいね。設計図はすでにいくつかの工房に回しています。それぞれの工房で同じ品質の物も出来る事が確認出来たので、後は必要なだけ作るだけですから」
「手際が相変わらず早い。まあ悪い事ではないが。分かった。早急にこちらでも採用出来るか調べてみる」
実際の所、プレハブ工法を少し変えただけなんだけどね。いきなりプレハブ工法と言っても分かってもらえないだろうし、ここで使っている素材で再現した方が納得しやすいと思う。
本当はもっと簡単に作る事が出来るんだけど、ほとんどの家はやっぱり魔物に対してもそこそこの防御力を持った構造になっているので、それはちゃんと尊重したいしね。
魔法で加工していたから実はこのパーツを一つ作るのに一時間もかからない。コンクリートの乾燥はもちろんだけど、レンガの配置やコンクリートを混ぜる作業、鉄筋などの加工も全部魔法だ。僕一人なら最初からそれぞれの壁などを最初に作って基礎に置くだけという簡単作業が出来るんだけど、さすがに普通は出来ないから作業しやすそうなサイズをいくつか用意した。事前に説明書も付け加えているので、実験にしても迷う必要はないと思う。
早く住宅を多くでも完成させて、僕らの家も作らないとね。
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