第五十五話 現実は甘くない
2016/02/03 誤字修正を行いました
2016/01/26 話数番号を変更しました。
「やっと大まかな町の図案が出来てきたわね」
さらに一ヶ月程経過して、やっと町の全体像が掴める青写真が出来つつあった。
「みんな要求が違ったりするから仕方がないよ。むしろ今まで良く町として成り立っていたと思う」
「そうね……」
この一ヶ月はほとんど休みがなかった。おかげで疲労がかなり溜まっている。前世で言えばブラック企業に勤めているのと同じ感じかも。朝早くから夜遅くまで会議ばかりだし。
ただある程度概略が出来つつあったので、町の中心をどこに置くのかや、資材の確保など進んでいることも多い。
「やっと建設を開始出来るって建設関係の人が喜んでいたわ。ここ最近新規で住宅を作ることが少なくて困っていたそうなの」
「色々あるんだね。また手伝うことになるかな? 魔法で石運んでとか?」
「ありそうよ。特に行政地区は最初に作るらしいし、急いで作らないとって言われたから。多分物を運べる魔法使いは大量動員ね。それからコンクリートや石膏を固めるのに、火魔法が得意な人も動員するって話だから」
なにげにコンクリートの概念はあった。ただ鉄筋コンクリートの概念までは発想出来なかったみたいだ。
「そういえば家が崩れにくくするように言っておいた骨組みや鉄筋は大丈夫なのかな? 工房で作っているのは聞いたけど」
「足りないわよ。だから現地に臨時の工房を作るんですって。それと鉄の採掘も急いでいるそうよ。それを運ぶのに馬車はもちろん魔法使いまで動員しているらしいし。クラディは前にドラゴンやオークを一人で持ってきているのが知られているから、そのうち呼び出されるわね」
エリーの言い方は確実に呼び出されるといった感じだ。まあ何もせずに眺めるつもりはなかったけど。
「ただ致命的に馬車が足りないそうよ。正確には馬ね。なので輸送が捗っていないって」
なんだか簡単に想像出来るし、それを手伝うのがほぼ確定していると考えるとちょっと溜息でもつきたくなる。
「私はさっそくコンクリートの急速乾燥をする事がきまっているわ。もちろん現地で石材を積んだりとかも。またしばらく会えないのかしら?」
事実上僕らは結婚することがきまっていた。まあエリーとなら僕としては問題ないし、好みのタイプだから良いけど。
ただ前世では結婚どころかまともな恋愛経験すらないので、あまり実感がなかったりもする。デートだってしたことがないから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それでここ一帯に行政府を作るんですね? 建物の設計図は出来たんですか?」
まだ実質的に草原状態でしかない場所で、僕は行政府の建築担当者達と話をしていた。魔の森を焼き払った後、次第に自然が戻りつつある。
「まだ全てではないですね。言われたとおりの仕様で設計図を書くのに時間がかかっているんですよ。それでも会議場と町長が一時的に住む家だけは終わりましたけど」
アドバイスとして鉄筋コンクリートで壁を作るように以前伝えた。そのうえでタイルなどを貼ったり石材で覆う処置を行うそうだ。地震はほとんど無いらしいけども、建物をある程度は頑丈にしておいた方が災害対策になる。
「僕もいくら多少知っているとはいえ、専門家ではないですから。そんなにすぐに設計図が出来るとは思っていませんよ。それに鉄筋コンクリートの強度試験も行ったそうですね? きちんとそれを踏まえていれば大丈夫だと思います。それとどうしても新しく色々作らないといけないので、十年くらいかかるかなと思っていますが?」
「今までの建築方法でも問題ない施設があるので、そちらはもう建設をはじめています。主に簡易倉庫などですが。今はここから距離を測って、一番外側に作る城壁の位置も確認中です」
「分かりました。城壁はしっかりした物を作るようにして下さい。町の人たちを守るための物ですし、実際役に立たないでは僕らも困りますから」
「それはもちろん。一番外周の城壁は厚さ四ガルで外側には二重の石を使います。石も厚い物にするので、飛行型のドラゴンはともかく陸型のドラゴンが激突しても簡単には突破されないはずです。城壁の内側にはコンクリートはもちろんですが、土魔法で圧縮した強固な材料も使いますから」
まあ四ガルの厚さなら簡単に突破はされないと思う。城壁の上には歩哨が歩けたり、弓などで攻撃出来るようにもしているし。さらにその外側には深さ十ガルの堀も作る。幅も通りになる場所を除いて六ガルも幅があるので、普通の魔物なら飛び越える事は無理だ。
本当なら上げ橋などに出来れば一番なんだろうけど、それはある程度町が完成したらという事で保留になった。今のところ利便性を優先しなきゃならない事も多いそうだし。
「問題は魔法使いです。土魔法の使い手はいますが、これから作る規模を考えると到底足りません」
「手伝いますよ? それに堀であまった土を城壁の中で再利用すれば材料の節約にもなりますからね」
行政府の建造は早めに行うけど、一番最初に行わなくてはならないのが一番外側の城壁建造だ。それを作らないと安全が保てない。
「行政区の方は我々の方でとりあえず何とかします。なのでベルナルさんは城壁の方をお手伝いして頂きたく」
まあ、そうなるよなと思いつつ、しばらくは家に帰れそうもないなと思う。城壁の建設を行っていれば当然かなりの魔力を使用するはずなので、自宅に帰って寝る程体力も残らないはずだから。
エリーは風魔法で資材運搬などを手伝うことになっているし、今は城壁に集中しよう。
「分かりました。では僕はこれで」
そう言い残して城壁の建設現場に向かう馬車に向かう事にした。
建設現場に向かうといっても、馬車での移動でないと大量輸送出来ないし時間がかかる。もちろん馬車には工事に必要な機材も積まれているし、工事関係者も乗っている。
今後は建設資材も運ばれてくるだろうけど、今は魔法が得意な人を優先で運んでいた。細かい調整などは普通の人に任せるとしても、堀の掘削を含めて魔法使いが担当した方が早い。馬車には僕以外の魔法使いが全部で十二人。それと設計担当が二人乗車して、測量などの担当者も三人いる。機材は足下に載せるだけ載せて、実際かなりの重量になっているはずだ。なので馬車に使う馬は四頭。
「ベルナルさんが協力して頂けるので、予定よりも早く完成すると思います。色々ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
測量担当かつ現場指揮兼任をしている人から声をかけられた。本当はうんざりしたいけど、まだ始まったばかりだ。こんな所で何か言っても仕方がない。
馬車に揺られながら三十分程。やっと目的地に到着。堀を作る場所や壁の場所にはロープが張られている。僕らはそれを目印に穴を掘ったり城壁を作るだけだ。
僕らを降ろした馬車は、すぐに次の人や物を運ぶために町へと戻っていった。当分あの馬車はここを往復する事になるのだと思う。
「外側の石は後日届きます。今日は主に堀の製作をお願いします。同時に掘りから出た土で城壁内部に使う材料も製作するので、ある程度土が集まったらそちらもお願いすることになります。風魔法の担当者は、掘った土の回収をお願いします。ベルナルさんは申し訳ありませんが、掘削と土砂の移動を同時に行って下さい」
最初からそのつもりだからその点は問題ない。むしろ深さ十九ガルで城壁側は十一ガルの傾斜した堀を作りつつ、ここだけでも全長三キロガルの壁を作らなくてはいけないことだ。魔力は問題ないけども、時間がかなりかかりそうだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「助かります、バスクホルドさん」
風魔法で鉄鉱石の塊を近くの保管所に移動させながら、鉄のインゴットが次々と作成されてゆく。
最初は普通に掘っていた鉄の鉱山だけど、今は露天掘り。調べたらかなりの量の鉄があるって言っていた。
「私に出来る事をしているだけなので気にしないで」
露天掘りは採掘が早いけど、それを近くに作った精錬所に運ばないと意味がない。それで私も含め風魔法で物を移動出来る人が集められている。
最初は石材の運搬予定だったけど、急に鉄が不足して今はその手伝い。
クラディの所にもそういった人たちが行っているそうだけど、今はこっちの方が重点的だ。新たに作る町の城壁は、その前に深い堀を作るらしくって、そっちの方にまず時間がかかるって聞いた。なので土魔法の方を使える人の方が重要らしい。
それに大量の土砂が出てもクラディなら数回で持ち上げてしまうだろう。私も魔力は高いけど、クラディのような使い方が出来ない。
まあそれでも私はクラディより楽が出来ていると思う。
クラディは掘削と壁の製作など一度に色々しなきゃいけないと聞いた。しばらくはそこで寝泊まりしなきゃいけないらしくて、私は四日に一回は休日が取れる。クラディの休日がどうなっているかまでは知らない。無理しすぎなきゃ良いけど。
出来れば会いたいけど、今の私達はこの町で必要とされていることくらい知っている。我が儘を言っても多少は聞いてくれると思うけど、それが良い事とも思えないのが残念。
それでも周囲の人から感謝されるのはやっぱり嬉しい。何もしないでいるよりも健康的だし。
「ご苦労様です。精錬所の方で資材置き場が一杯になったそうですから、しばらく休憩して下さい」
ちょっぴり休憩が出来そう。別に魔力が不足してきたなんて事は無いけどね。
やっぱり私やクラディがおかしいのか、他の人は長くて二時間もすれば魔力が枯渇するみたい。その点私は一日作業していても魔力が尽きることはない。なのでどうしても周囲からは畏怖の念でみられているみたい。あんまりいい気はしないけど、これも慣れないと駄目なんだよね?
それに比べてクラディの魔力が尽きるなんてのはみたことがないと思う。私もあまり人のことは言えないけど、クラディってやっぱり何か違うのかな?
とにかく今はちゃんと休憩。魔力に余力があっても、精神的な疲れがない訳じゃないから。私だって女。正直男性の方が多い鉱山とかだと、どこかで疲れちゃう。
クラディといる時はそんな事ないのに、なんで他の異性だとこうなっちゃうんだろう?
そんな事を考えつつ、眠りにつく事にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「想像以上の早さじゃないか」
まさか一日で予定した城壁の工事が四日分も前倒しになるとは思わなかった。
「まあ、彼がいますからね、アンカーソンさん」
「それは分かっているが、正直信じられない」
隣で城壁の工事を共に見に来た竜人族のルヴォアを見る。
私は冒険者ギルドの責任者として城壁工事の進捗を見に来ていた。偶然竜人族の方からも状況確認のため来ていた彼に、現地で出会った形だ。
「まあ、予定より早いのは嬉しい誤算ではあるが、彼に頼りすぎでは?」
「それを冒険者ギルドの責任者が言いますか? これがないと町の開発は進みませんし、あなた方の仕事も減らないでしょうに」
確かに彼の言うとおり、城壁が早く完成すれば現在城壁建造の先で魔物や動物を間引いている我々の仕事は減る。
「それは分かるが……彼は本来ここまでの事などしなくても良いと思う。確かに彼は色々な知識を持っているようだし、それは彼が転生者という事もあるのだろう。しかし今の状態は健全とは思えないぞ」
「なら、すぐにでも彼を工事から外しますか? 出来ませんよね」
ルヴォアの言うとおり、ベルナル君を外すことは難しい。それは別の所で協力をしてもらっているバスクホルド君にしてもそうだ。
良くも悪くも、二人の活躍で周囲に良い影響を与えている。何よりこれまで町の発展を阻止してきた魔の森が無くなったことにより、人口の頭打ちからようやく新たな発展が出来る。
「冒険者ギルドとしても、二人を今さら外すなど出来ないのでしょう? 私だって確かに彼らの協力には頭が下がりますよ? しかもそれを鼻にかけることもない。むしろ町を良くしようと頑張っている。私からすれば、二人はこの町の発展を阻害してきたあらゆる懸念を取り除く存在ですね。正直悪いとは思いますが」
彼らに我々はきちんと報いることが出来るのだろうか? 冒険者ギルドの責任者という立場を抜きに、二人にはきちんとした名誉を与える必要があると思えてならない。
「ところで、ある程度目処がついた所で二人への貢献を形にして返すという話はご存じですか?」
急にルヴォアが私の知らないことを言いだした。
「何かあるのか?」
「二人には内密に願いますよ。前に貴族制を立ち上げる話があったではありませんか。今のところ現在の集落長は伯爵、補佐人は士爵、それ以外を男爵か準男爵とし、冒険者で功績がある人間は騎士爵を与えるとなっています。それと町長に任命された時は、その間だけ侯爵扱いになる案も」
「初耳だぞ? ちなみに私はどうなるのだ?」
「暫定ですが士爵か男爵どちらかですね。まだ全体的に決定はしていませんし、貴族のあり方を一から研究している所ですから」
「だろうな……」
急に貴族制といわれてもそう簡単に物事は進まない。
「それで、その話が彼らとどう繋がる?」
「まだ暫定意見ではありますが、最低でも男爵位、多くの意見では子爵、ごく一部に伯爵位の話があります」
「待て……彼らは何も知らないのだろう? それに町の運営には関わりたくないと、再三言っているではないか」
彼らはまだ若い。エルフやハーフエルフという事を考えれば、一般的な種族と比較して子供の年齢になる。もちろん長寿だからとはいえ、知識は他の種族と大差なく吸収する。いや、それ以上に早いとすら言われる。なので肉体年齢と精神年齢が一致しないのがエルフ族だと言われている。
「私は流石に伯爵はやり過ぎだと思いますよ? 正直彼らの思いを尊重して、それでも爵位というのであれば騎士爵か妥当かと。それに各爵位にはそれぞれ一つ下の準爵を設ける話もあるので、せいぜい準男爵が妥当な線でしょう」
個人的には爵位を勝手に与えるのは、彼らに対する冒涜のような気がしてならない。
「私だって最初に聞いた時は驚きましたよ。しかし、爵位はほぼ間違いなく決定されるようですね。問題はその階位になります」
「君も賛成はしたくないのだろう? 止められないのか?」
「無理ですよ。二人の功績はあまりに大きすぎます。当初は二人に王位を与えるなどといった話すらあったんですから。流石にそれは立ち消えましたがね。それでも公爵などと言う者もまだごく少数にいます。事実上の町のトップです。しかし彼らはそんな事は望んでいないし、二人はそれが出来る程の能力も無いと言い切っています」
「当たり前だ。まだ二十そこそこの二人に町の運営を任せる? 正気の沙汰ではない」
「私も同意見ですね。二人にはもっと色々な経験をしてもらいたいですし」
なんとも勝手な所で勝手な話ばかり進んでしまうものだ。これを言い出した連中は、二人のことを考えていないとしか思えない。
「一応私の方で手を打ってみますが、恐らく難しいでしょう。なので、あなたの方からも別口で手を打てるならお願いしたいのですよ。無論勝手な言い分だとは思っていますよ?」
「全くだな。しかし私にまで声をかけるというのは、それなりに事態が動いているのだろう?」
「ええ、もちろんです。それでも、二人にはもうこれ以上の負担はかけたくありませんから……」
どこまで本気で言っているのだか怪しいものだ。
「まあ聞いたからにはそれなりの事はしてみよう。しかし期待はしないで欲しいな」
厄介ごとは正直ごめんなのだが、あの二人に関してはそうも言えない。私も甘いとは思う。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
町の図面を見ながら思わず唸ってしまった。
行政の施設に関しては問題ない。その近くに建造する町長の家についても。これは代々使い回しになるはずだし、秘密裏の会議をする場にもなる。それなりの大きさなのは分かる。門の入り口には警備隊の詰め所も設置され、安全確保がされるのも当然だろう。
行政区の中に建てる貴族用の家も仕方がないだろう。もちろんこれは行政区が忙しい時に使う物であり、さほど豪華な作りにもしない。行政区で忙しい時だけ使う屋敷であり、程々の施設しか設置しないと聞いている。
しかし、居住人不明で記載されているこの建物だけは正直何事かと考えてしまう。
誰が住むのかも明らかにされていないのに、その広さは町長の屋敷よりも広い。しかも設備も町長の設備と遜色ないか、部屋によってはそれ以上だ。
そして不可解なのが、明らかに個人の住居だと思われる設計。しかも敷地内には専用の魔法錬金工房や魔法調剤工房まである。魔法錬金工房は防音設備付きという徹底さだ。
調理場は二つあり、食堂も二つ。風呂も二つある。特に食堂の一方は一度に二十人は食事が出来るはず。その他に三つの応接間や四つの書庫、書斎らしき物が三つに寝室らしき物が五つ。うち一つの部屋は大きな食堂と同じ面積になっている。
さらに不可解なのが防諜設備だと思われる部屋が二つ。地下室もあり、地上三階建てで地下一階の四階構造。
さらに離れもあり、通常の一軒家とほぼ同じ構成の物が二つある。建物の位置は行政区にあり、敷地内にはこの家専用と思われる警備の詰め所まである。
一体何のためにこのような家を作るのか?
行政区全体の監督などにも問い合わせてみたが、答えは返ってこなかった。ただ何かを知っている様子はある。
工事そのものは最優先ではないが、それでもこの謎の個人宅は優先度が三位。一位が議事堂であり、二位は町長の屋敷と他の貴族用の屋敷。そしてこの建物がそれに続く順位だ。ただし他の議員などが寝泊まり出来る集合住宅建設よりは優先度が高い。事実、この建物の優先度は周囲を繋ぐ道路や水道などと同じ扱いを受けている。
道路は早めに完成させねばならないし、今後の作業から考えても優先度は高くなる。それと同じ優先度というのがどうも納得出来ない。
図面を見つつ、一体この屋敷は誰が所有する事になるのか首をかしげるばかりだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「え、家をですか?」
久々にエリーと共に夕食をしていると、ペッレルヴォ・ルフタネンさんが急に言い出した。
「工事としては一般住宅は後回しで、先に三段階の城壁と行政府、それと必要な物を現地で加工するための工房が優先でしたよね?」
前にもそれは確認した。だから僕らが将来住む事になる住居に関しては、当分先になるはず。
一応行政関連の建設に目処が立った所で、一番外側の城壁入り口に検問所や詰め所なども建造する。それから比較的安価になる予定の宿もそこに作られる予定だ。
「私も聞いていないわ。何かあるんですか?」
エリーも不思議そうな顔をしている。
「いや、私もまだ噂でしか知らないんだ。ただ君らの家について、事前に必要な設備がありそうならくらいはもちろん聞いているが、まだ正直その段階ではないと思っている」
「僕もそう思います。確かに家具とかそういった調度品はそれなりに必要ですが、それは建物の建造が始まってからでも良いと思ってますし。まだ間取りすら決めるのも早いですよね? 何より他の人たちと建物は同じで構わないんですけど……」
今後の事を考えて空き地はそれなりに多く取っているし、住宅街や商業区になる場所には公園などの設置も提案している。
水については実は簡単に解決した。水属性の魔石を定期的に交換する事で、井戸や水道をまかなえるそうだ。今までもそうしてきたらしい。こんな時に魔石は便利だと思う。普通なら町作りで重要なのは水資源の確保なんだから。
もちろん新しく作る町の中に、小さいけど小川も流れている。幅は約三ガルで、深さは一番深くても一ガル。
先日調査隊が上流を調べた所、大きな湖が発見されたそうだ。魔の森に埋もれていて分からなくなっていたらしい。
当然その湖の周囲にはまだ魔の森が残っていたらしいけど、火魔法で除去してきたと聞いた。湖の上流には魔物化した木々はなく、水は普通に飲用可能だそうだ。
湖自体はかなり大きいらしく、現在建設中の町よりも数倍大きい可能性があるとか。なので川幅を倍程度にして流量を多くし、町の中で三つの川に分岐させる事になると聞いている。
一本は現在の物をそのままで、残り二本をどの位置にするか検討しているらしい。
貯水池としての湖があるのは嬉しい誤算だけど、急に流れをそんなにしても大丈夫なのか不安になる。周囲が一部湿地帯になるくらいに水が多いらしいのですぐに水が枯渇する事はないと思うけど。
それに川の水は今のところさほど飲用などの期待をしていない。魔石で作られた水で今までも大丈夫だったらしいから。
「まあ、本当に君らの家の事で計画があるなら、そのうち話が行くと思う。一応覚えておいた方が良いかもしれないな」
ペッレルヴォさんに頷きながらも、なんだか嫌な予感しかしないのは気のせい? エリーもなんだか納得いっていないみたいだし。
「私達も何か分かったら知らせるわ。だから今は工事の方を頑張って」
アヌさんが心配させまいと声をかけてくれた。こういった配慮が出来る人って案外いなかったりするので、本当に嬉しく思う。
「まあ、私達が何かしようとしても、現状何も出来ないわよね……」
エリーの言うとおり、噂話程度でしか分からない以上は何も出来ない。多分誰かが動いていそうだけど、誰に聞いても知らないと言うだろうし。
まさか勝手に貴族とかにしないよな? と思うけど、前に『功績が大きすぎて……』って言われた事もあるから不安なんだよね。
各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。
感想なども随時お待ちしております!
ご意見など含め、どんな感想でも構いません。
更新速度からおわかり頂けるとは思いますが、本小説では事前の下書き等は最小限ですので、更新速度については温かい目で見て頂ければ幸いです。




