第五十三話 それだけはやりたくなかったのに!
2016/02/03 誤字修正を行いました
2016/01/26 話数番号を変更しました。
前に森で初めての狩りをして、しばらく狩りはしなくて良いと言われてしまった。どうもやり過ぎたらしい。
それで僕らは前に行った薬の研究所へ行った。壁のことがどうしても気になっていたからね。今まで事故が無かったから良かったんだろうけど、何かあってからじゃ遅いし。
「お久しぶりです、ノルシュトレームさん」
「ああ、久しぶり。壁のことを見に来てくれたのかな?」
「ええ、流石に気になっていたので。それで、実際どうですか?」
壁の所まで案内される。そんなに大きくないけどコンクリートの内側にあるミスリルと思われるものが見えた。ただ色がおかしい。
「色、おかしいですよね?」
「ああ、その理由を調べていたんだが、まだ結果が出ていなくてね。それで君たちへ報告出来ずにいたんだ」
「ちょっと私が調べてみるわ」
エリーは剥き出しになっているミスリルを触る。何か違和感があるようだ。
「これ、魔力が尽きているわ。それに元々ミスリルじゃ無いんじゃない? 銀の反応もほとんど無いもの。ちょっと待って」
エリーは意識を集中して壁の中を探っているらしい。
「うん、やっぱり魔力は壁全体からほとんど失われているし、そもそもこれはミスリルじゃないと思うの。流石に鉄板じゃないけど、魔力を失った魔鋼ね。多分銅を多く含んでいる何かよ。それに鉄もかなり多い感じ」
「魔鋼でしかも魔力を失っている? それじゃあただの金属では?」
「そうね。少なくとも魔法系の爆発に耐えられるとは思わないわ。正直言うと鉄や銅を適当に混ぜた金属を重ねているだけだと思う」
ノルシュトレームさんはショックを受けている。
「エリー、ちょっと僕にも調べさせて」
すぐに僕も調べることにする。もしミスリルなら魔力を簡単に通すはずだし、魔力の流れでミスリルの性質も分かる。
魔力を色々調整しながら調べたけど、確かにミスリルは全く感じない。普通の金属に思えるし、途中で魔力が拡散している感じがする。こういう時は大抵金属の空箱を積み重ねただけだ。
「多分ですけど、これは中身が空洞の金属の箱です。ここは上に建物がないので、重さで歪むこともなかったんだと思います。それに魔力の流れが不規則なので、中で錆びていたりしているんじゃないかと思います」
実質壁としては機能していないと思う。何かあっても役に立たないだろう。
「とにかくこの壁は何の役にも立たないと思います。一度完全に撤去して、もう一度作り直した方が良いです。材料とか何か質問があれば出来るだけお手伝いするつもりなので、まずは撤去してから考えましょう。それと同時に設計図も今度はちゃんと作った方が良いです。多分それが今後役に立つと思うので」
ノルシュトレームさんは溜息をつきながら僕の意見を聞いてくれ、壁を新しく作り直すことになった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで、どうして僕らなんですか?」
今いるのは秋津集落の集会場。メンバーは僕ら二人の他にエルフやその他友好関係が強い人たちが二十人程。
「君が研究施設の設備で色々と意見を言ってくれたおかげで、我々も根本的に町について再考しようと考えたんだ」
答えてくれたのはウルフ族代表のヨシハラ・クリストフ・アイダさん。アイダさん曰く、色々調べたら町の設備の大半に老朽化が見つかったらしい。それで町自体を全面的に再開発するそうだ。
ちなみに再開発で今までのような円の中に扇形で配置する集落構成を止めて、出来るだけ四角形に近い形で開発するらしい。
再開発する際に、前に焼き払った魔の森の跡地を利用して、順次住民を移動させるのだとか。もちろん今ある集落も最終的には取り壊して、新しく作る町の一部に組み込むらしい。
そもそも人の数が多くなり、今の町の形だと今後の人口増加にたえられないらしい。どちらにしても町を大きくしなければならず、その為には無くなった魔の森の跡地を利用するしか無いという。
「話は分かりますよ? でも僕らはこの町全体について知らないことが多いし、家を作る人がいますよね? そういった人たちとは話したんですか? もちろん町全体のことだから、ここにいる方々以外の種族の方ともですが?」
「ここにいる者は全員賛同している。今も他の種族に対して協力をお願いしている所だが、すでに半数以上の集落から了解はもらった。その他の種族も今のところ大きな反対は出ていないそうだ。なので町作りに協力をお願いしたい君らにも先に話をしなくてはならなくてな」
エルフ代表のカルロッテ・ハンナ・フェーストレームさんが付け加えるように教えてくれる。
「そして君が色々と変えてくれた冒険者ギルドの件も好評なんだ。我々では分からないことを君らが指摘してくれたおかげで、トラブルが激減した。それで、是非君たちに協力をお願いしたいんだ。もちろんそれ相応の報酬も払うし、君らの意見を優先しよう」
フェーストレームさんが追い打ちをかけるように、前に行ったことを例に説明された。だんだん外堀が埋められていく気がするのは気のせい?
「もちろん君たちにも優先順位があるだろう。その辺はちゃんと調整するつもりだし、受けてくれれば君ら二人の自宅も用意する。いくら何でも仮住まいは問題があるだろうし、特にバスクホルド君は君に思う所があると聞いている」
ちょ、ちょっと……エリーはなんだか顔を赤らめているし、どう考えてもそれって……。
「それから君らのことを考えた結果、我々秋津族――エルフの成人年齢を大幅に引き下げる。今のところ十五歳を目安にしている。バスクホルド君はその意味が分かると思うし、君だってそこまで無知ではないだろう? もちろん我々が色々とお願いするのだから、家を含めその辺は我々が全面的に支援する。お金の方は心配しなくて良い」
「い、いえ、問題はそこじゃないかと思いますが?」
「バスクホルド君の気持ちは知っているだろう? きちんと答えを出してあげなさい」
どこまでも続くフェーストレームさんの追い打ちに、僕は逃げ場を潰されている思いだ。そしてエリーは顔を赤くして俯いているし、さっきから一言も発しない。それがなんだか怖い。
周囲の人を見ているとどう考えても拒否出来る状況じゃない。いや、出来るかもしれないけど、それをしたら後が怖い。
「分かりました。出来るだけ協力はします。でも僕らはあくまで町の運営に関わるつもりはありません。それだけはお願いします」
僕らは協力することはあっても、町の管理なんてどんな類いでもお断りだ。大体僕らなんかが町の運営に関わる能力がないのはエリーだって知っている。この人達はそれを分かってくれているのか正直疑問だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
まあ、協力するのは仕方がないのかもしれない。元々僕が転生者だって身分証にも書かれちゃったし、書かれなくても多分いずれ分かったと思う。
「ねえ、クラディ。本当に引き受けて良かったの?」
集会場から出て、町の比較的人が少ない所に移動していた。誰もいない訳じゃないけど、人は少ないのであまり気にしないことにする。
「どうせいずれこうなったと思うよ? ただ、僕が思っていたよりもずっと早かったかな。出来れば数年は関わりたくなかったんだよね。この町の事なんていまだに知らないことが多いんだし」
「そうよね……でも、あの人たちが言いたいことが分からない訳じゃないわ。私がクラディにどう思っているか別にしても」
「あの時は正直焦ったよ。でも、エリーは本気なんだよね? こんな事僕が言っていいのか分からないけど、本当に僕なんかで良いの? 僕が頼りない部分があるのは知っているでしょ?」
エリーは少し考えるようにしてから僕を見つめた。
「それを含めてよ。知り合って確かにそんな時間はないけど、それでも私達は同じ境遇でしょ? それにクラディはあなたが思っている程弱くはないわ。魔法とかそういう意味じゃなくてね。もちろん今すぐ答えなんか求めないわよ。そんな場合じゃないってのは分かっているわ。だから答えは急がないで」
こんな時にエリーの優しさが身に染みる。もちろんエリーが酔った時は要注意だけどね。
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