表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/331

第五話 新しい家族

2016/01/28 誤字修正しました

2015/03/31 内容修正

2015/06/01 内容等修正しました

 どのくらい馬車で移動したのかは分からない。


 馬車の窓から見える太陽が、次第に建物の影に沈んでいく。どうも僕がいた家は、このやっぱり辺の領主だったらしい。なるほど。立派な建物だと思う。まあ、今後は縁がないとは思うけどね。


 まあでも、それももう過去の事。理由は分からないけども、売られたのであればもう家族とは思いたくない。


 子供を買う方にも問題がある場合があるけど、今回は領主の命令だろうという事くらいは簡単に想像が付く。売られた先の人たちがどんな身分か分からないけど、相当の実力がなければ、断る事など出来ないはずだし。それに、どうも封建社会みたいだからね。


 そして隣にいる女性――ブーリン・アウリンという人は、さっきの家で教師をしていたみたい。住み込みの家庭教師であったと、馬車の中でいっていた。


 ただ、今回結婚するらしく、その為お屋敷勤めを辞める事にしたみたい。まあ結婚して仕事を辞めるのは、前世の世界でもあったと思う。それ自体は珍しい事じゃないはず。


 でもねぇ……子供の魔力が高いから、それを理由に子供を捨てるの?


 この世界では、これが普通なのか疑問に思う。そうなると、魔力以外でも家族から捨てられる要素があるって事? これはこれで結構シビアだ。


 横にいる彼女もそうだし、本来の両親も知らないとは思うけど、ある程度の状況はこっちも理解している。


 発音がまだ上手に出来ないので、周囲の人に伝える手段が実質無いのだけど、いきなり出だしからくじける要素満載?


 捨てた両親の事は忘れよう。あんまり考えても今の状況が良くなるとは思えないから。


 それに、隣にいる人は魔法だか魔術のプロらしい。家で魔法を教えられるくらいだから、アマチュアでは無いと思う。今まで住み込みだったのは、それなりの事情があったのだろうし。その辺は、別に僕が気にする事じゃない。


 魔力があるって事は、魔法とかあるって事だよね? 魔法が使えるなんて、まさにファンタジー! やっぱり心が躍るよね!


 よし。気持ち切り替えて、新しい世界をエンジョイしないと! まあ、どうエンジョイするのか、正直分からないけど。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 周囲が大夫暗くなってから、どうも目的地に着いたみたいだ。抱きかかえられながら、家の中に入っていく。


 これが新しい家……まあ、大きすぎる家なんて前世でも経験してないし、手頃な広さが一番。不安が無いといえば嘘にはなっちゃうけどね。それでも、パッと見た感じは前世の自宅よりは大きい。


「カルロ、帰ったわよ」


 ブーリン・アウリンは結婚しているらしいし、きっとこの人の夫なんだと思う。カルロって名前なんだ。愛想良くしていた方が良いかな?


 この世界では、家の中でも靴を履いたままらしい。予想はしていたけどね。日本みたいな家の中みたいに、靴を脱ぐ風習がある方が少ないのだから。


「おかえり、ママ」


 ママって……ラブラブだねぇ。まあ、喧嘩している人よりも、ずっと良い事だけどね。そういえば二人の年齢はいくつなんだろう?


「もう……恥ずかしいわよ。それに、まだ子供はいないんだから」


 お、ちょっと意外。でも、そんな事だってあるよね。


「でも、その子を引き取ったんだろ? だったら、ママでいいじゃないか」


 カルロって人が、笑いながら僕をのぞき込んだ。うん、普通だ。どこまでも普通の人間に見える。


 黒髪でちょっとやせ形だけど、どこにでもいそうな人。まだ若そう。目はサファイヤみたいな色をしていて、モテそうな顔をしている……と思う。とはいえ、前世で考える基準なのだから、この世界での基準は不明。


「分かっているけど、まだ私も戸惑っているのよ。大体、自分の息子の魔力が高いからって、それを理由に手放すのは最低よ」


 成る程。魔力が高いから子供を捨てるのは普通じゃないらしい。確かにそうだよね。うん、安心した。簡単に子供を捨てるような人よりも、この人達の方が良いと思う。


「それで、その子なのか。そんなに魔力が高いのか? 俺はその辺分からないだが?」


 ん? この人魔法が使えないのかな? 夢の中で、確か神様は『魔法はみんな使える』って言っていた気がするけど?


「カルロ……あなた基準じゃ無理よ」


「そりゃ、ブーリンには敵わないけど……」


 うーん、どういう事? 魔法は使えるけど、得意じゃないとか? 確かに個人差はあっても良さそうだし。


「いつも練習サボるから、魔弾で壁だって撃ち抜けないでいるじゃない」


 おぃおぃ、壁撃ち抜くって何だよ? 壁撃ち抜くって凄すぎるぞ! 前世でもそれなりの道具が無きゃ無理だ。


 たとえ薄いベニヤ板であっても、それを打ち抜くとなるとそれなりの威力が必要だ。『割る』や『壊す』と違って『撃ち抜く』には、一点に集中した力が必要。後は厚さとかが関係してくるけど、どちらにしても道具無しで『撃ち抜く』のは無理だと思う。


「そりゃ、練習すればお前みたいに十枚抜きとか簡単かもしれないけどさ、普通はせいぜい二枚が限度だぜ? 俺は剣術がメインだから、相手をビビらせれば構わないんだよ」


 え、十枚抜き? 壁を? それおかしいでしょ! この家族何なの? もしかして戦闘狂とか、そんな事は無いよね?


「それに魔法剣なら俺の方が上だ。岩だって一撃で切れるんだから」


 この二人、怖い……。単純に喜べないかも。


「あら? それなら私だって出来るわよ? 私くらいの力があれば、一ケイリくらいの岩を消滅する事何て簡単よ?」


「す、素手では無理だろ……」


 ケイリって何だ? 長さ? 重さ? うーん、その辺りも早く知りたい。早くちゃんと言葉を覚えないとね!


「私は魔道術士よ? 当たり前よ、当たり前」


 まどうじゅつし? 『まどう』って、魔法を使う人? 『じゅつ』は多分『術』だよね? さっきの言い方だと、多分クラス分けとか、そういうのがあると思うんだけど、どのくらいの実力?


「ほら、そんな事言っているから、この子が変な顔してるじゃない」


 そう言いながら、ブーリンさんが僕の顔をのぞき込んできた。


 いやいや、あなたの言動もおかしいですから……って言いたいけど、まだまともに話せないんだよなぁ。


「あぅ……まぁ」


 とりあえず喋ってみた。意味なんてないけど。


「ほら、この子が呆れてるわよ?」


 そうなんだけどさ。二人に対して呆れてるんだよ? それに、今回はただ言葉を出してみただけだしね!


「そんな事より、早く奥に行こう。こんな所で話をしていたら、この子が風邪引いちゃうから」


 そんな会話が続きながら、僕は部屋の奥へと連れて行かれた。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 とりあえず、リビングのような場所に連れて行かれると、ブーリンさんはどこかに行ってしまう。


 そんな僕は、ソファ越しにカルロさんを見ていた。剣を使うような事を言っていたけど、正直言ってそう見はみえない。


 思い違いでなければ、普通剣を使うような人って腕の筋肉がモリモリって感じなのを想像するんだけど、はっきり言って腕は普通だ。別に剣術なんて見た事も無いし、前世の剣道だってまともに知らない。当然そんな知識は欠片も無い。そもそも剣道だってやった事がない。


「にしても、面倒な事になったなぁ」


 それは、こっちの台詞でもあるんだけどね。ただ、それが言えたとしても、言うつもりはないけど。


「領主様に言われたら、断る事なんて出来ないのは当たり前だろうに。相変わらず、押しつける事だけは素早いんだからなぁ」


 あぁ……やっぱりそうなんだ。だよねぇ。普通は領主の子供なんて、引き取らないよねぇ。つまり捨てられたんだよねぇ、僕。考えないようにしても、周囲が話せば当然思い出しちゃうし……。


「まあ、毎月の収入が確保出来ただけでも、良しとするしかないか」


 えっ、いいの? それでいいの? 確かに収入が安定するのは良い事かもしれないけど……。


「これで、塾の経営も安定するし、子供一人を育てるだけなら、安いと考えるしかないか」


 なるほど。この世界では人身売買は結構ありそうだ。となると、奴隷とかもありそう。少なくとも、奴隷の身分にはなりたくない。この世界の身分制度がまだ分からないけど。


 それに、塾とか言っていたから、頭は悪くないはず。


 塾があるとすると、学校もあるのかな? 生前では学校に良い思い出なんか一つも無かったし、今回はちゃんと友達を作りたい。


 前はボッチどころか、学年のイジメの対象だったし。


 ボッチの方がまだ救いがあるよね。学年全体からイジメられるって、今考えたら、色々と有り得ないよ、全く。一部だったけど、上級生や下級生からもイジメられていたからね。それならボッチの方が数段マシに思う。


「お茶淹れたわよ。今日はガレンド産のイエローティね」


「あれ? そんな茶葉、いつ買ったんだ?」


 お茶にも産地で何か違うのかな? それより、どんなお茶だろう。


「前に、市場で一緒に買ったじゃない。忘れたの?」


「……忘れてた」


 大丈夫なのかな、この二人……?


「二歳だから、この子も飲めると思うの。健康にも良いし、魔力回復の効果もあるから、魔力が高いこの子なら一番よ」


 魔力の回復効果……こんな所が、やっぱりファンタジーの世界だなって思う。


「そんなに高いのか?」


 ブーリンが、どこからか紙のような物を取り出した。あれ? 紙とは違うかも。まあ、僕が知っている紙なんて、和紙とコピー用紙くらいだけど。そういえば、小学校の頃に和紙の作成をやったのは、ちょっといい思い出かも。


「どれどれ……って、おぃ!」


「ビックリでしょ? 私も、最初見た時は信じられなかったもの」


 うーん、アレには何が書いてあるんだろう?


「魔力もそうだが、魔心室の大きさが普通じゃない。それに魔力結晶が二歳でこんな大きさだなんて……」


 ましんしつ? まりょくけっしょうって、多分『魔力結晶』って書くのかな? ましんしつって、前世の記憶だとなんだか機械を想像しちゃう。魔力結晶は魔力の源? とにかく今は情報収集だ。


「このサイズだと、ちゃんと訓練すれば期待出来るわ。あの領主は、せっかく世界に名を残せるかもしれないこの子を、簡単に諦めるんだもの。やっぱり馬鹿領主よね」


 馬鹿領主呼ばわり……領主ではあるが信頼が無いと言う事だと思うけど、馬車で走った距離を考えればそこそこ発展している町。馬車で走っている間に時折人の声とかも聞こえたし、当然それであれば町の中からは出ていないはず。


 そんな馬鹿領主が、広い街を治める事が出来るのかな? それとも優秀な部下がいるとか?


「ただなぁ……こっちの数字は、問題があると思うぞ。何より今の体力値が低すぎる。二歳なら種族として、この三倍は普通あるはずだ。しかもあの領主の子だぞ? 常識的に考えて、この五倍あっても俺は驚かないが、その分が魔力になったって事か?」


「そうなのよねぇ……そこが不安なの。まあでも、私達が引き取るのは決まった事だし、出来る部分を伸ばしてカバーすれば、ある程度は何とかならないかしら? 基礎魔力量がこれだけあれば、それでカバー出来ないかしら? まあ、私も手伝うから、あなたもね?」


「う、うーん……」


 体力低いの? しかも普通の人の三分の一? それ話にならないよ……。


「それにまだ二歳なんだから、体力面はあなたに任せるわ。私は知識の方を担当するから、そうすれば負担も減るでしょ? どうせ、あなた今暇なんだから」


「そ、そりゃ俺の所に習いに来る奴は、い、今はいないけどさ……」


 あ、尻に敷かれてるんだ。まあ、この夫婦の場合は、仕方がないのかもしれないけど。


「そんな事より、名前考えてあげないと。元の名前がクロードなんだけど、男の子の名前だと、どんな名前がいいかしら?」


 お、名前付けてくれるんだ。うんうん、大事だよね。覚えやすいのにしてね。あと、書きやすいので。


 そこそこ文字も覚え始めたけど、まだ年齢的な事もあるので書く事は正直無理。でも、名前はその人の将来すら決める事もあるし、ここはそれなりの名前にして欲しい。そう思うのは贅沢?


「クラウドだと、名前よりも名字だよな……。クラウデとかは?」


「悪くないけど、それはちょっと駄目よ。私の知っている人で、その名前で失敗している人がいるから嫌だわ」


 あー。そんな名前は確かに嫌。他のにして。


「じゃあクラウデアはどうだ? ちょっと女の子の名前に近いって言えば近いが、男でも通用する名前だ。それにエルフとのハーフだったよな? 確かエルフ族は男でも、女性名に近い名前を付ける事があると聞いた。悪くは無いと思うぞ?」


 クラウディア……って、それってやっぱり女性名に近いというより、女性名そのものだと思うのは、異世界から生まれ変わったから?


「そうねぇ……クラディアよりは男性名として多いらしいし、悪くないかも」


 え、そこなの? それでいいの? なんだか適当な感じが……。


「愛称は、クラディになりそうだがな。それだと、女性と間違えられる可能性はあるが、クラウディアは確か、エルフ族の神に由来する名前の筈だ。ハーフエルフとはいえ、見た目はエルフ族に近いから、問題ないと思うぞ?」


 はぁ……そんな決め方でいいのかなぁ。後々苦労しそうだけど。


「じゃ、名前はクラウディアに決定で。どうせ金もあるから、ハーフと分からなければ大丈夫だと思うし、ばれたところで本人の努力だ。それくらいは自分で解決しないとな。ハーフエルフなのだから、ある程度は納得もしてくれるさ」


 何だかすでに前途多難……。それでも前の名前を名乗るのは正直嫌でもある。


 状況を整理すれば、はっきり言って実家から捨てられた身。拾ってくれた人に感謝しないとね。


「なあ。ところで俺たちの実子の件だけど……」


「もう……仕方ないわね。この子も一人じゃ可哀想だし、今日辺り暇だからどう?」


 カルロが何だかノリノリ。夜の主導権はこっちかな?


「ところでイルエッタは?」


 おや? 新しい名前。


「少し前に夕食の買い出し。そろそろ戻ると思うぞ」


 多分、この家に住み込みのメイドさんとか、そういった人なのかも。道場を経営しているらしいし、お手伝いとしての役割もあるんだと思う。


 そんな、たわいも無い話がしばらく続く。


 クラウディアって名前は決まったみたいだし、今のところ拒否する事も無理。その名前が嫌という訳じゃないけどね。


 まあ慣れるしかないよね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ