第五十二話 お金があっても使い道がないので
2016/01/26 話数番号を変更しました。
初めての森探索から戻った僕らは、狩りの成果を換金するために待っている。
でも正直お金はもういらないんだよね。だってこの町の中で生活するには多分困らない額を十分持っている。
それに時々依頼される様々なことをする度にお金はもらっているし、どうもその金額もかなり高額らしい。僕らがしているのはそんなたいした事じゃないはずなんだけど。
今回の狩りでドラゴンが丸々一頭手に入った。多少ダメージを与えた際に表皮などが一部剥がれ落ちたりもしているけど、ドラゴンに与えた傷としてはかなり少ないらしい。翼の半分ほどを燃やしてしまったのが勿体ないと言われたけど、相手はドラゴンだ。手加減する必要は無かったと思うし、翼以外でも色々と役立つ物が手に入るのと言われた。
まあ一番驚かれたのは持ち込んだ量だったんだけどね。荷車三台分満載に、僕が風魔法で軽量化させて持ってきたドラゴンとオーク数百匹。町に入る際に色々と驚かれた。
こんな時に魔法の袋みたいな大量の物を一度に収納出来る物があればと思うけど、無いものは無いので仕方がない。
結局一日では評価不能と言われちゃって、鑑定が終わったら呼んでくれるという話になった。大体一週間くらいかかるらしい。
それで僕らは今回お世話になった冒険者の人たち四人と酒場に繰り出す。エルフ族の大人は四十歳だけど、お酒に関しては十五歳から大丈夫だというなんだか良く分からない制度。
とりあえず人数分のエールを注文する。エールと言っても前世のエールとはちょっと違う。冷やして飲むことは無いし、そもそもホップを使っていないようだ。その代わりにハーブか何かで味付けをしている。お酒のことは詳しくないけど、確か古いタイプのエールじゃないかと思う。
冷えていないから美味しくないかというと、はっきり言って美味しい。大体お酒は何でも冷えていれば良いなんて嘘でしかない。それぞれのお酒に適した温度があるのだし、その中で美味しい飲み方をすれば良いだけだ。
「かんぱーい!」
なぜかエリーが乾杯の音頭を取っているけど、これは気にしたら駄目だと思う。同じ席にいる他の四人はなんだか申し訳なさそうな顔をしているのが謎だけど。
「何しけた顔しているのよ。せっかくいっぱい獲物を狩ったんだから、ここは喜ばなくちゃ!」
多分だけどこの人達が気にしているのは違うと思う。
「大量なのは認めるが、そのほとんどは二人が倒した物だろう? 当然二人に利益のほとんどの権利があるんだ。二人とも大金持ちだな」
斥候役だったシーラッハさんがなんだか浮かない顔をしながら言う。
「何言っているの? 私達六人で行ったんだから、当然山分けよ! みんなお金持ちになって良かったじゃない!」
「ちょっと本気なの? 普通は功績者が多く配分を取るもんよ。ほとんど何もしていない私達に権利なんか無いわよ」
今回のリーダーとして来てくれたヴォンドルシュコヴァーさんが真顔で否定している。多分それが一般的なんだろうな。
「ああ、そうだ。私なんか回復役で同行したのに、一度も役立ってない。ルールはルールだぞ」
リズローさんの反論にエリーが首を振っている。
「今回はたまたまよ! ちゃんと回復出来る人がいるから私も攻撃に専念出来たのよ?」
確かに回復役が別にいるだけで安心感が全然違う。
「クラディもそう思うでしょ?」
「う、うん。まあね……」
でもエリー、この人達はかなり気にしていると思うんだ。かなりの熟練者って聞いていたし。そんな人たちがまるで活躍出来なかったら、普通は落ち込むよね。
「それに私達は十分にお金を持っているわよ? これ以上あっても使い道が分からないし。壁作ったり魔の森を排除したりで、私自身信じられないようなお金があるもの。私達だけ持っていても役に立たないわよ。あなたたちの方が町には詳しいし、当然お金の使い道もあるんでしょ? 武器防具だって私達は今ので十分すぎるし、装備でも買ったら良いじゃない」
確かに僕らの装備は自作したものだし、そもそもこれを超えるような装備はまず無いと思う。
「ちょっと聞きたいんだけど、あなたたちのその武器は一体どうなってるの? 六ガルもの大熊を一刀両断なんてあり得ないわ」
「自作した武器ですからね。説明すると長くなります。それに今回持ってきた武器以上のものもあるので。ただ使い勝手が悪いんですよ」
「おい、使い勝手が悪いって、何が問題なんだ?」
ダビーノさんが興味深げに聞いてきた。
「基本的にはオリハルコンの剣です。ただ、僕らが使うと魔力が高すぎて普通に使えないんですよ」
「普通に使えない? ただの剣だろう?」
「簡単に言うと、振った先まで一気に切ってしまうんです。前に実験したら、最低でも一キロガル先まで木々を倒してしまって……なので周囲に人がいたら危なくて使えないですよ」
僕の言葉に四人とも唖然としていた。まあそうなると思う。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ちょっと、エリー。飲み過ぎだよ!」
あれから四時間僕らはずっと飲み食いしていた。特にエリーは強いお酒もどんどん飲む。しかも始めて知ったけどエリーは酒癖が悪いみたいだ。何かというと絡んでくる。
「五月蠅いわね、クラディ! このくらい普通よ、普通。クラディこそもっと飲みなさいよ!」
ちなみにエリーに絡んできた他のテーブルの人たちは死屍累々。お店の人が慌ててどこかに運んで行っている始末だ。
「クラディは大体おとなしすぎるのよ! 本気出せばあんなドラゴンなんて一撃でしょ! ドラゴンの腹ぶち抜いてやれば良かったのよ!」
その言葉に残りの四人は何とか意識を保ちつつも、ギョッとした目をして僕を見る。
「魔物に遠慮なんていらないのよ! あんなのいても害にしかならないんだから!」
ちなみにエリーは大声で叫ぶように言っているので、お店の仲の人たちは戦々恐々としている。すでに逃げ出した人もいる。お店の邪魔をしているんじゃないかと思うけど、エリーに近づきたくないのか注文とそのしなを持って来る時以外はすぐに僕らのテーブルから離れてしまう。当然注意してくれる人はいない。
「エリー、飲み過ぎだよ。そろそろ終わりにしよう? どうせ鑑定するまで時間もあるんだし、明日もあるんだから」
今の時間は二十六時。早い人なら寝る時間だ。
「じゃあ、クラディが私を送ってよ。もちろんおぶってね?」
急にエリーの声色が変わって、僕に甘えるような声を出してきた。
「お前さん、モテるな」
シーラッハさんがからかうように言ってきた。
「違うわよー。私はクラディが好きなの! 結婚したいの! でもクラディが意気地無しだから、私のこと分かってくれないの!」
突然の爆弾発言に僕は驚いて声を無くした。
「なあ、クラディは気がついていなかったの? 私からみてもエリーがあなたのことを好きなのは分かったわよ?」
追い打ちをかけるようにヴォンドルシュコヴァーさんが言うと、他の三人も頷いていた。
「ちょ、ちょっと。僕は……」
「ここまで言われたらちゃんと考えてあげなさいよ? エリーに失礼よ。お酒が入っているとはいえ、彼女多分本気だから」
なんだか頭がクラクラするのは気のせいかな?
結局そのやり取りでお開きになり、迷惑料込みで金貨一枚を支払っておいた。店主は流石に金貨一枚は多すぎると言っていたけど、正直色々と迷惑をかけたと思うから必要な出費だと思う。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで今回の鑑定額なんですが、全部で金貨二千五百六十七枚と青銅貨七枚。青銅板四枚に大銅貨八枚と銅貨四枚でした」
受付の人は顔を引きつらせながら金額を伝えてくれた。
ちなみにあの飲み会以来、エリーは色々と僕に甘えてくる。僕もあまり断れないので、結局流されちゃっている気がする。まだ一線は越えていないけど。
「では、僕とエリーはそれぞれ金貨五百枚ずつで、残りは同行して頂いた方で分けて下さい」
僕がそれを言うと、受付の人が唖然としている。
「前に話し合ったのよ。そしたら今みたいな配分で良いって。正直私としてはもらいすぎなのよね……」
横にいたヴォンドルシュコヴァーさんが申し訳なさそうにしている。
「僕たちは換金札で良いです。そんなに金貨をもらったとしても邪魔なので。後で届けて頂ければ。あとヴォンドルシュコヴァーさん他、今回は有り難うございました。また機会があったらよろしくお願いしますね」
このままいるとヴォンドルシュコヴァーさんたちに何か言われそうなので、すぐに冒険者ギルドを退散する事にした。
後ろで何か色々騒ぎが起きているみたいだけど、あまりに多くもらいすぎてもひんしゅくを買うだけだし、ただでさえ今でも金貨にして九百枚を超えるお金がある。これ以上増やしても問題ばかり出てきそうだしね。
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