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第四十九話 普通は逆の使い方をするんだけどね

2016/02/03 誤字修正を行いました

2016/01/26 話数番号を変更しました。

 一週間程狩りをして、その間に僕らの剣術スキルはあっという間に五になった。


 誰もが信じられないって顔をしているけど、一番信じられないのは僕らだ。


 ちなみに仕留めた獲物で結局金貨一枚分の収入になった。嬉しいのは嬉しいけど、正直僕らには使い道があまり無かったりするのが困る。あまりに僕らが大量に納入したので、しばらく中止して欲しいと言われたくらい。


 それで僕らは魔法の研究をすることにした。特に僕の場合は小さな魔法をどうやって使うか。


 面で制圧するような魔法なら意識せずに出来るけど、一般的なファイアボールのような簡単な魔法がまるで使えない。草食動物だけなら剣で倒せば良いかもしれないけど、肉食獣や魔物となるとやっぱり魔法で倒した方が安全というのもあるから、余計にどうしたら良いのか考えてしまう。


 ちょっと悔しいのはエリーは普通に使えること。一体僕とエリーで何が違うんだろう?


 エリーに色々と聞いてみたけど、結局エリーも分からないみたいだ。魔法使いのノルシュトレームさんに聞いてみたら、無意識で魔力を大量放出しているんじゃないかと言われた。それでも元々魔力が多いので、少量しか使っていないと勘違いしているんじゃないかというのがノルシュトレームさんの意見。


 ついでだから研究室の壁のことを聞いたら、表面のコンクリートを削るのに苦労しているらしい。ドリルのような物がなくて、元々コンクリートを削るという発想がなかったのか、そういった道具として何を使えば良いのか分からないと言っていた。なので太めの鉄のクイと金槌で叩けば少しずつ崩すことが出来ると教えてあげると、なんだか喜んで早速試すらしい。


 微妙に建築技術があるのかないのか判断に困る。地震が無い地域だから建物が崩れるという事がほとんど起きないのも理由かも。レンガや石でくみ上げた建物をコンクリートや石膏で繋げているらしいけど、かけたりちょっと崩れた所を補修するくらいで立て替えは基本ほとんど行われていない。


 もちろん劣化で補修出来ない状態になれば話は別だけど、気候がそれほど厳しくないのか、百年単位で建物が残っていたりする。ちゃんと四季はあるそうだけど、前に聞いた限りでは冬はちょっと寒いくらい、夏はそこそこ暑くなるくらいで、基本的には過ごしやすい場所らしい。


 建物の例外として立て替えが多いのは秋津集落やウルフの集落。こちらは建物が木造建築の場合が多く、当然傷みが早いので四十年もすれば建て替えるのだとか。そういえばその為の木材はどうやって確保していたんだろう? 前まで魔の森に囲まれていたのに。


 そんな事より今は目の前の問題に集中。僕の場合はとにかく魔力を抑制しなきゃいけない。それは分かっているんだけど、僕だけじゃどうも出来ない気がするので色々な人に聞いているんだけど、今のところ参考になるような意見はなかったと思う。


「ベルナル君、いるか?」


 自宅で考え事をしていると、この家の長男であるラッセさんが訪ねてきたみたいだ。


「どうぞ。何かご用ですか?」


「ほら、確か魔力の調整が出来ないって言っていたよね? それで考えてみたんだけどさ、魔法を使う時にこれを使ってみたらどうかなと思ってさ」


 ラッセさんが取り出したのは使い切った空の魔石。魔石は使い切ると透明になる。用途は色々あるので魔石は誰もがいくつか持っているし、少なくともこの町では生活必需品だ。当然容量の小さい魔石はすぐに空になって、そういった魔石はゴミとして捨てられるんだけど、魔石の外郭は燃えるので燃料代わりに使われているらしい。


「えっと、空の魔石をですか? 魔法を使う時にって、具体的には?」


「魔法を放つ時は魔力を放出するんだったよな? 俺は使えないしあまり関心がなかったんだけど、妹が余力のある時に空の魔石に魔力を溜め方法が昔あるって言っていたんだ。今は失われた技術らしいんだが。だったら、使う瞬間に余計な魔力を魔石に吸収することが出来れば、解決するんじゃないかと思ったんだけどさ。まあ、俺自身魔法使えないから分からないんだけどね」


 なる程。確かに一理あるかも。


「ただ、君らって普通に使う魔法でもかなりの魔力を使っているそうじゃないか。だから元々大きな容量でないと無理かな? 詳しくないからこれは捨てるはずの魔石なんだ。元々の容量も分からないし、試しに使ってみたらどうかと思ってね」


「なんだか有り難うございます。確かに出来れば小さな魔法も使えそうですね。ちょっと色々実験してみます。ちなみにこういった空の魔石で、いらなくなった物が大量にあるような所ありますか? 実験するのに数があった方が良いと思うので」


「魔法の研究所とかにあるんじゃないかな? もしくは鍛冶場とか。あそこではいつも魔石を使うはずだし、それなりに量があると思う。空の魔石なんか本来ゴミでしかないから、多分いくらでもくれると思う」


「有り難うございます。それならちょっと聞いてきますね。今日はお店の手伝いは大丈夫ですか?」


「大丈夫、大丈夫。元々君らがいなくてもやっていたからね。それに聞いたけど色々と町の事で役立っているらしいじゃないか。そんな君が困っていることがあったら、俺だって多少は協力したいさ」


 そう言ってラッセさんは笑ってくれた。


 あまり実感はないんだけど、みんなそう思ってくれているのかな?


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ラッセさんに言われて、先に鍛冶場へ行く事にした。最初は研究所も考えたんだけど大きな魔石を使うことが多いのは鍛冶場だって事を思い出したからだ。


 鍛冶場は普通の薪を使った鍛冶も行っているけど、ほとんどは魔石を用いて高温を作り出している。魔石の場合は薪よりも簡単に温度調整ができるからだ。


 この前自分で色々な装備を作った結果、薪だとどうしても温度管理が難しいと実感した。でも魔石だとその管理がとても便利になる。当然ほとんどの鍛冶が魔石で行われていて、木材などを利用した鍛冶はほとんど行われていない。


 もっと温度を分かりやすく計測出来れば良かったのだろうけど、生憎温度を測るという概念がまだ未発達みたいだ。熱すぎると火傷をするとか、火の中に手を入れてはいけない程度の認識はあるのだけど、沸騰するのはなぜかといった事が一般には認識されていないらしい。


 流石に魔法を研究に用いるような人ともなれば、条件下での沸騰や物の違いによる沸騰や融解などを研究しているようだけども、多分結論が出るのはまだ先だろう。


 それよりも鍛冶場に来た最大の目的は、使いきった魔石を入手すること。大きさよりも、蓄えることの出来る魔力が大きい程良い。ただ使っている側はそんな事を気にしていないので、廃棄処分予定の魔石の山から探すことになる。


 使いきった魔石はゴミとして処分する際に燃料として使われる。中に魔力がそこそこ残っていると問題なんだけど、鍛冶場の場合は実験用の鍛冶施設ならまだしも、通常の鍛冶であれば専用の魔石入れに大量に入れておく。鍛冶が終わって炉の温度を落とす際に、使い切った魔石も取り除かれる。使い切ると魔石は色をなくして、透明になるので分かりやすい。逆に少しでも魔力が残っていると、何らかの色がついている。


 使いきった魔石はある程度貯めてから魔石を用いない溶鉱炉の燃料として使われたり、長時間火を使うような暖炉やストーブの燃料として用いられている。


 この世界の魔石は石炭と似た性質があり、火を点けると徐々に燃える。しかも石炭と違ってススが出ないのが利点だ。


 使用済みの魔石を保管している所に行くと、山のように積み上げられた空の魔石があった。空の魔石は燃料として使われていることはあっても、それほど頻繁じゃない。なので需要が少ないし、暖炉やストーブで使うのは数個程。常時余っているそうだ。


 空の魔石をいくつも手に取りながら、一つ一つ魔石に一瞬だけ魔力を通してから吸い出す。元々の蓄積量が少ない場合はあっという間に色が変わる。これで魔石の本来の蓄積量が分かる。


 ちなみにこの事は最近になって分かったそうだ。それでも魔石に魔力を蓄えるにはかなりの魔力を必要とするらしく、ほとんどの人は出来ないのだとか。僕のような存在が希らしい。


 いくつか試してから、元々の蓄積量が高そうな魔石を十個程手に入れた。それを鞄に入れて外に向かう。鞄といっても布製でさほど頑丈でもない。適当に何か入れることが出来ればと買った物で、金額にして銅貨五枚。一日の食事分よりも安い。


 そのまま町の外へ向かい、門にいる衛兵さんに挨拶する。理由は良く分からないんだけど、いつの間にか僕やエリーは顔パスで外に出ることが許されていた。ちなみに顔パスで出入りが出来るのは町の有力者と言えそうな各集落の代表とその補佐をしている人くらい。なぜ僕らがそれと同じ扱いなのかが疑問だったりする。


「さてと。高すぎる魔力を、放つ際に魔石へ移すか……言われて見たけど、やっぱり魔法を放つ際に使うべきだよね。問題はタイミング……」


 魔石を一つ取り出してからどう使うか考える。


「まあ、考えても仕方がないし、やるだけやるしかないよね」


 もし周囲に人がいたら、一人言の変な人と思われたと思うけど、周囲に人がいないことは確認済み。もちろん魔法を放つ方向にも人はいない。間違って巻き込んだら間違いなく殺してしまうし、そんな事で犯罪者はごめんだから。


 左手に魔石を持ちながら最も弱いファイアボールを放つ。放ったファイアーボールは直系にして一ガル程。普通は直系十ガラム程度という話だから、大体十倍の大きさだし、飛距離は分からない。普通なら五百ガルも飛ばすことが出来れば大魔法使いと言われるそうだけど、地平線の向こうまでいってしまった。左手に持った魔石は少し赤い色がついているけど、恐らくほとんど役に立っていない。


「まあ、最初から成功なんかしないよね……」


 とは言いつつ結構ショックだったりする。色々とやり方が間違っているのは分かっているけど、出だしからこれだと時間がかかりそう。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 夕方になった所でやっと普通よりも威力は高いけど、大きさは予定通り、距離も千ガル――一キロガル程度に抑えることがやっと出来た。その間に満タンになった魔石は五個。それでも僕自身の魔力は減った気がしない。


 一応冒険者カードで残りの魔力を確認してみる。カードには残りの魔力を表示する機能もついている。


「えーと……元の魔力が十一万二千百五十三って、増えてるよね!? 確か前回見た時九万くらいだったはず……。訓練で増えた? で、残っている魔力が九万五千百六十八。増えながらも減ったって事だろうから、実質どのくらい使ったんだろう? 元の数値はっきり覚えていないんだよな。受付で調べられるのかな?」


 とりあえずそのまま町へ戻る事にした。まあ、魔法そのものは一応解決しそうだし。


 ちなみに使った方法は、魔石を魔法で放つ手の指で挟みながらやった。これ以外に数百回はやったはず。威力が強いのはもう仕方がないと正直諦めている。それでも普通にやるよりはずっと弱いけど。


 翌日冒険者ギルドで確認したら、元の魔力が書類で残っていた。九万八千七百五十一が元の魔力だから、ざっと一万四千くらい増えたのかな? 


 もちろん何でって周囲に言われたけど、練習をしていたらとしか答えられなかった。もちろんその練習方法も嘘はついていない。周囲からは唖然とされたけど、僕だって答えられないし分からないので仕方がないと思う。


 ついでに魔石は充電式の電池みたいに使えることが分かって、容量が大きな魔石を使いきったら僕にくれるそうだ。元々捨てる分だし、それを有効利用出来るとなったらこっちとしても嬉しい。


 それと満タンになった魔石を買い取ってくれた。五個で金貨十五枚と青銅貨三枚って話だけど、金貨だけ受け取ることにする。


 実際僕は魔石を買い取ってもらえるとは思っていなかったし、そもそも本来はこんな用途で使えるとは誰も思っていなかったらしい。魔石に蓄えられた魔力もかなりの物らしく、大型の魔物を狩っても中々手に入らないような魔力をため込んでいるそうだ。


 青銅貨を受け取っても良かったんだけど、正直お金はだぶついている。エリーと半分にしても金貨だけで五百枚くらいあるはず。これ以上お金を増やしても、ここじゃあ使い道がない。なので、周囲にいる人に夜のお酒代にでもしてあげてと言ったら、みんなが喜んでくれた。余ったら冒険者ギルドに寄付するらしい。人数としては十五人くらいなので、夜のお酒代にしても間違いなく一枚もいらないそうだ。


 お金を持ちすぎて変に恨まれるより、周囲にも恩を売っておいた方が良いよね? 争いごとは正直嫌いだし。

※一般的には冒険者が魔石を用いる時、魔力切れから回復するために魔石を用います。主人公が行うようなことはエリーを除いて出来る人は数人です。


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。


感想なども随時お待ちしております!

ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


更新速度からおわかり頂けるとは思いますが、本小説では事前の下書き等は最小限ですので、更新速度については温かい目で見て頂ければ幸いです。


今後ともよろしくお願いします。

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