第四話 そりゃないよ!
2016/01/30 誤字等の修正を行いました
2016/01/28 誤字修正しました
2015/03/26 内容修正しました。
2015/06/01 内容修正等行いました。
いつの間にか家に戻ったみたい。気を失っていたので、どうやって戻ったのかは分からない。
ベッドにいるし、横には病院に着いてきたメイドさんがいる。
僕がメイドさんを見ると、ちょっと笑顔になってから複雑そうな顔をしていた。
ちなみにこのメイドさん、は普通の人間みたい。黒髪だけど白い帽子が可愛かったりする。染め上げた物ではない、元々の金髪に近い茶色い髪の毛。髪の長さは多分セミロング? 恋愛経験が皆無な僕にとっては、一般的な容姿ですら綺麗に感じてしまう。
それにしてももしかして、病院で何かがあったのかな? 状況証拠でしか無いけど、うーん、考えられる事はそれしか無い。
そもそも、アレは何だったんだろう。
診察台なのかどうかは分からないけど、そこに寝かされて光に包まれて……。それ以上は覚えていない。
そういえば、神様って人が夢の中? に出てきた。かなりはっきりした夢だ。いや、アレは夢だったのかな? あまりに鮮明に覚えていて、夢とは思えない。
メイドさんの眼に、うっすらと涙が浮かんでいる。何があったのか分からないけど、こういう時は大抵悪い事が起きた後だ。こんな事は前世でも何度か経験しているし、今は赤ん坊だから特に僕ができること何て無い。その意味では、赤ん坊なんて無力だと思う。
ドアを誰かがノックすると、返事も待たずに誰かが入ってきた。見ると母親だ。かなり泣いていたのか、眼が赤く腫れている。
「ごめんなさいね、取り乱してしまって」
「いえ、奥様。ですが、どうなさるのですか?」
「さっき相談したんだけど、私たちではこの子を育てるのは無理。きちんと魔法が分かる人の所で育ててあげないと、この子が可愛そうって事になったの……」
「ですが!」
「決まった事よ。今、夫が心当たりになる人を探しているから、それまでは待たないと……」
な、何だこの流れ?
育てられないから、他の人にって? それって、要は育ての親を探しているって事?
ちょ、ちょっと! 勘弁してよ!
そうは思っても、それを伝えるだけの言葉が出てこない。だから、母親とメイドさんを交互に見る。
それに気がついたのか、メイドさんの方が僕を抱き上げてきた。
「心配しなくても、大丈夫ですからね。病院で疲れちゃったかな? もう少し眠ろうね」
メイドさんが、右手の手のひらを僕の額に当てると、急に暖かくなって眠気が……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「―・―ので、申し訳ありませんが……」
ん? 何を話しているんだろう?
話しているのはお母さん?
「仰りたい事は分かります。ですが、本当によろしいのでしょうか? 私には、その子のためになるとは、どうしても思えないのですが」
誰だろう、この女の人は? はっきりとは見えないけど、声だけで女性と分かるし、少なくとも優しい人みたいに思える。
「君が言いたい事は分かるが、これは半ば決定事項なのだ。出来れば強制はしたくない。それに、この子の力を無駄にもしたくない」
力とか強制とか……一体何のこと?
今話しているのは父親だけど、何だか変だぞ?
「あくまで『お願い』という形を取られるのですね?」
んんん? なんか、ややこしい事になっている気が?
「君ら家族には、本当に済まないと思う。もちろん、こちらからの支援は可能な限り行うつもりだ。聞けば、君の所も大変だと聞く。どうかこれを受け取ってくれないか?」
誰かが何かを持ってきて、それをどこかに置く音がした。それなりに重い音で、金属音がした気がする。
「これは……」
「君たち家族への支援だ。建前はだが。毎月、これとは別に銀二十枚用意させる」
周囲が静まった。
こういう時って、大抵よくない徴候なんだよね。前世での記憶でも覚えがある。なんだか、そんな事が少しの間に立て続け。
「分かりました。お引き受けいたします。私も領主様とは良い関係でいたいですから。ただ、後からこの話は『無かった事に』と言う事だけは、決して認められませんよ?」
「もちろん、そのつもりです。その覚悟の上で、このようなご無理をお願いしているのです。必要があれば、他にも出来うる限りの支援は行いましょう」
相手の女性に対して、多分母親が受け答えしたみたいだ。
また静寂だ。何度も繰り返されると、さすがに不安も大きくなる。
にしても、たぶんお金渡しているよね? 誰だか分からない女の人に。まあ、領主が信頼しているみたいだし、悪い人じゃないとは思いたいけど……。
騒ぐと面倒そうだし、起きた事まだ分かっていないみたいだし、ちょっと寝たふりを続けよう。起きているのはバレているかもしれないけど。
「ではお引き受けします。後でその子をお迎えに上がりますので、赤の刻の四時までにはお迎えに上がります」
「分かりました。こちらでも準備しましょう。帰りはうちの馬車で送らせます。そちらのお宅にも、赤の刻の二時に馬車を迎えにやりましょう。少々早いかもしれませんが、馬車は待たせて構いませんので」
母親が告げると、これっきり会話が終わった。
それにしても、一体何のことだろう?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
昼食の時間が終わり、いつものメイドさんたちと遊んでいた。二歳児に出来る事なんて、はっきり言ってたかがしれているしね。
それにしても、今日は珍しく四人もメイドさんがいる。普通は交代交代なのに、一体何があったのか不安が余計に強くなる。? それに、どのメイドさんも何だか悲しそうな顔をしている。
うーん。やっぱり朝のあの会話が原因だろうとは思うけど。
聞きたくても、発音できる単語は限られているし、そもそもまだ会話は出来ない。単語だけで会話出来るほど、世の中甘くないしね。
それ以外で、意思の疎通など出来そうもないし、つまり手詰まりって感じだ。何かヒントを引き出せればと思うけど、方法が無い以上は待つしか無い。
そもそも朝の会話にで出来た、『あかのとき』って何だろう? その後に、確か四時とか二時って言っていたから、時間なのかもしれないけど、一日の時間を細分化している?
どっちにしても、この世界の時間感覚が分からない。
前世の時の時間の数え方が違うとは分かるけど、そもそもこの世界は二十四時間が一日なのかすら疑問。かといって、今のところ時間の概念が分からないので待つしか無いし。
まだ二歳だし、あまり難しい事を考えてもね。どうせあまり難しい事を考えると寝ちゃうし。
廊下を、誰かが歩く音が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。そんな事を考えていると、また何だか急に眠気が……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
気がついたら、何だか揺れている。規則的な揺れの感じだし、乗り物に乗っているんだと思うけど、やっぱり馬車なのかな?
起き上がると、知らない女の人だ。
眼は濃い緑色で、黒目がちゃんとある。髪の色は茶色だけど、染めているわけではなさそう。飴色といった表現が正しいのかな? まあ色の事はあまり詳しくないけど。
僕が気がついたのが分かったのか、急に彼女が抱き上げてきた。まあ悪い気はしないんだけどね。だって正直抱かれた感じが気持ちいいから。もちろん変な意味じゃ無い――と思う。うん、悪い意味じゃないはず!
「あら、起きたのね。今日からあなたは、私の家族。まだ二歳だから分からないかもしれないけど、これからは私が母親だから、遠慮しないでね」
え……。それって、実の両親から捨てられた? おいおい、いきなりどうなっているんだよ! まあ、なんとなく予想はしていたんだけど。
「本当は、実の両親が育てるのが一番なんだけね。あなたの魔力を計測中に事故があったみたいなの。簡単に言うと、あなたが強い魔力を持ちすぎているのが原因みたい。なので、私と夫が引き取る事になったから、これからよろしくね。って、二歳の子供に言っても分からないわよね?」
いやいや、理解してますよ? まあでも、普通は理解出来ないよね、多分。
それよりも、事故って何? あの時の検査で何かが起きたのかな?
「それにしても可哀想に。確かに元の魔力が強いみたいだけど、まさか、それだけで育てられないって……。確かに一定の魔力異常があると、育てていく際に問題もある事があるから、分からないわけでも無いんだけど……」
んん? つまり魔力が強すぎて実の両親に捨てられたの? そんなのアリ? それとも、この世界では珍しくないのかな?
「心配しなくても大丈夫よ。私は家で子供の魔法鍛錬の授業もしているし、あなたくらいの魔力ならちゃんと使い方は教えてあげられるから」
それって安心していいの? そもそも、魔力が強すぎるって何だよ! まあ、弱すぎるよりは良い方向に考えた方が良いのかな?
「もうすぐ私たちの家に着くから、それからあなたの魔力を含めて色々検査するわね。大丈夫。痛いとかそういう事は無いから」
そんな事を言われながら、抱きかかえられたまま、馬車はどこかに移動していく。この先、何が待っているのかな?