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第四十二話 剣術を習う?

2016/02/01 誤字及び内容の一部修正を行いました

2016/01/14 話数の番号変更、内容と誤字の修正を行いました。

 町についての情報は手紙でとりあえず確保できるのが分かったので、前に分かった僕の技能について、色々と検証中。


 とはいえ僕やエリーで分かる事はほとんど無い。そもそも僕らがいた時代にはなかった概念の筈だ。なので、それが分かる人に聞くんだけど、一人が全部知っているなんて都合の良い事はない訳で、その専門家に会いに行く事になる。


 そして今日は体力と技能を元にした、各種武器の適正だ。一応全部の適正を確認してもらうため、予定は三日程かける予定らしいんだけど、早めに分かった場合は即訓練もするらしい。


 そんな訳で今いるのは、秋津集落にある武術練習場。


 この練習場は色々な訓練が出来るようになっていて、剣や刀はもちろん、弓などの練習も出来るし、馬術の練習も出来る。それなりに広いのは理由があって、隣接している二つの別の集落――ウルフ族とケットシー族共同で運用されている。なのでここだけは敷地が三つの集落をまたいでいる。


 やっぱりというか当然というか、刀を見た時から思っていたけども、ここのエルフの主要武器は刀で、あとは長弓。外周では流鏑馬みたいな訓練もしているようだ。どこまでも日本の事が頭に浮かぶけど、エルフ族の人名はとても日本的じゃない。むしろ日本的なのはウルフ族だったりするので個人的にはかなりの違和感がある。


 それとケットシー族だけども、彼らは彼らで磁器の製作が得意なのだとか。見た感じ中華風や和風の磁器が沢山あるので、この三つの種族はどこか日本を彷彿させる。


 ケットシー族はケットシー族で、前世で知る限りの容姿とは若干異なったりする。


 見た目は確かに猫のような姿だし、全身も体毛に覆われているけど色は様々。それとクーシー族という、ほぼ外観は犬だけども、ケットシーと似た種族もいて、ケットシー族とクーシー族は共同で同じ所に住んでいるらしい。普通に人と同じくらいの身長がある人もいれば、子供程度の身長しかない人でも大人の人がいたりして、見た目で年齢が分からないのはちょっと難儀だったりする。


 そして彼らは諜報のプロ。いわゆるスパイに向いているらしい。瞬時に動く事が出来て、小さな武器を比較的好み、闇夜でも視界が効くのだとか。なのでハンターになるケットシー族やクーシー族は、夜の見張りをすることが多くなるのだとか。


 たとえ枯れ葉の上だろうが、音を立てずに背後に近寄られた時は流石に驚いたけど、彼らからすると特に何か特殊な技能を使っている訳ではないらしく、音を立てて歩くことがむしろ出来ないとかいっている。まるでちょっぴり忍者を思い浮かべるけど、日本の忍者はそんな存在であるはずもなく、まあこれがこの世界の常識として考えた方が良いのかもしれない。


「それでは身分証の詳細を見せてくれ。それを見てからでないと判断できない」


 今回僕らに付き添っているのはマッティ・ニエミサロというエルフの男性で、年齢は六九歳らしい。剣術が専門らしいけど、一応一通りのことは出来るそうだ。ちなみに若手のホープらしい。


 とりあえず言われたままに身分証の詳細を表示させる。もちろんそれを見たニエミサロさんは腰を抜いて驚き、何をどう見れば良いのかといった感じになっている。毎回のようになっているので、流石に僕とエリーは慣れてきたけどね。


「必要な物だけに絞りますか? 言ってもらえればそれだけを表示するので……」


 ここのところ技量の計測や訓練の時は、決まってこの言葉が出るようになった。詳細と言われたら全部見せることが基本らしく、隠していてもすぐにバレる。なので最初から全部表示するんだけど、毎回同じ事を繰り返していて辟易している。


「そうして欲しい。えーと、体力や技能、あとは……」


 言われるがままに指定された物を前面に配置して、最後に確定させた。後で気がついたんだけど、別々の項目を一つにまとめて表示が出来る事が分かって、それ以来このやり取りばかりだ。


「うーん、ベルナル君は体力こそ普通だが、技能はずば抜けているというか、本来あり得ない数値だ。三桁など見たこともないし、ましてや二百を超える? 君は一体どうやったら……」


 それが分かったら苦労しない訳で、それが分からないからこういう所に顔を出しているのに、逆に質問されても困るだけ。だけどこんな事が毎回続くと慣れていくのが怖い。


「僕としては数字で出されても分からないんですが。そもそも普通の値が分からないし、分かってもじゃあ比較してと言われると、そちらも困るんでしょう?」


 これも毎度のやり取りになってきた。同じく辟易しているけど、それを言っても仕方がないので言わない。


「技量の一般的な値は、エルフの場合で六十程度。高くても八十が限度だと言われている。ちなみに八十近い者ともなれば職人として高級な道具や武具などを作れるし、ハンターなら大型……そうだな、新しい単位でいう所の体長十ガル程度の熊を一撃で倒せたりもする」


 十ガルって確か前に言った時からすると、前世での電柱一本分くらいの長さの筈。それを一撃でって……。


「まあ、そう言う訳で、君の実力は正直分からない。体力が普通なので重い物は持ち運びできないだろうが、それでも多少なら技量でどうにかなってしまいそうな気がする。いや、きっとしてしまうな」


 そんな事を言われても嬉しくないし、そもそも比較対象が決定的におかしい。電柱一本分の長さもあるような熊なんて、熊と呼んでいいのだろうか? でも魔物と前に言わなかったところを見ると、魔石は取れないんだろうなとは思う。ここの人たちは魔石が取れる場合は、必ず同じ形状の動物がいれば『魔物の○○』と言うから。


「それでは色々と武器との相性を見てみたいが、体力的に大型の剣は無理があると思う。どうせ君らのことだから、魔法で軽くとか簡単に言いそうだが、今回は魔法の使用は禁止だ。純粋に力量を見たいからな。剣なり刀は探させるので、まずは弓から試してもらおうか」


「弓ですか? 私触ったこともないんですけど?」


 エリーが、あからさまにやりたくないといった感じで反論してきた。まあ僕も乗り気じゃない。


「使えるかどうかは後で判断するから、とりあえずやってみてくれ。この町の住人は、男女問わず最低限自分の身は自分で守れることが必須条件だ。何しろ周囲が物騒な森なのだから」


 確かに言っている事は分かる気がする。だけど全ての住民に武器を扱えるようにってのも、なんだかやり過ぎなのは気のせいに思うのは変なのかなと思う。


「まあ色々と言いたい事があるとは思うが、この町の決まりだ。私も例外を認める訳にはいかない立場だし、集落代表からもしっかりと言われている。どんな武器でも構わないので、一つは覚えて欲しい」


「拒否は出来ないのね……私、人殺しはしたくないのに」


 エリーの呟きに、思わず同意してしまう。


「別にハンター業をしろと言っている訳でもないし、あくまで身を守るためだぞ? さっきも言ったように、この町は魔の森に囲まれている。いくら壁があるとはいえ、希に侵入してくる魔物だっているんだ。そんな時に戦えなければ死ぬしかない。もちろん無闇に子供に教えたりはしないが、訓練が必要な年齢になれば、どの種族でも行っているんだ。ハンター業にしたって人を殺す事などまずあり得ない。本当にごく希に魔物に捕まって殺さざるを得ない場合はあるが、そんな事は数ヶ月に一回もあれば多いくらいだ。現にここ一年ほどは起きていないと聞いている。後は仮にだが、人族が攻めてきた場合だな。しかしこれもこの場所が知られていないので一度もない。なのでそんなに心配しなくても大丈夫だ」


 そんな会話が続きながら、とりあえず弓が用意された。



「ねえ、クラディ……」


「エリーも?」


 弓を構えながら的に向かうけど、その的には一つの矢も刺さっていない。一番的に近くても的の真下に落ちているし、ほとんどは明後日の方向に飛んでいる。


「これってやっぱりアレよね……」


「だね……」


 二人して溜息をつきながら、教官役でもあるニエミサロさんは頭を抱えて唸っている。


「まさかそれが邪魔になるとは想像もしなかった……一応抑える道具もあるんだが、装着してみるか? はっきり言って、多分君らには着心地が最悪だと思うが」


 そう言いながら、ニエミサロさんは僕らの胸の膨らみを見た。そこにはなんだか微妙な雰囲気が漂っている。


 エリーは女性だからまだ納得は一応されているようだけど、僕に関しては色々思う所があるようだ。


「引く度に胸につっかえたり、当たったりで使えません。それを装着したとして、改善される見込みはありますか?」


 こんな時には、はっきりと言った方がいい。


「やってみないと分からないが、それでもここまでだと無駄だと思う……」


 今僕らは、簡易的な革の胸当てをしているけど、胸の部分に傷が多い。それは矢が飛ぶ時にかすったり、弓の弦が擦った跡だ。ちなみに矢はそれぞれ二十発放った。


「止めよう。小型の弓もあるが、君らはそれ以外の方法が向いていると思うし、魔法で遠距離の攻撃が出来ると聞いている。接近戦の武器をもっと重点的に考えるべきだろうな」


 早い話が、絶望的に弓に向いていない。これがクロスボウ的な物だと違うかもしれないけど、そもそも遠距離に対しては攻撃魔法で対処出来る。なので弓を選択する理由が出てこなくなってしまう。


「痛みは大丈夫か? すぐに他のを試したいが、痛みがあるなら休んだ方がいい」


「あ、僕は大丈夫です。エリーは?」


「私も大丈夫よ」


 二人でそう言うと、すぐに回復魔法をかける。回復魔法と言っても胸の痛みを取るだけで、炎症になっていたとしてもそれを取り除けばいい。水魔法で血液の循環をよくしながら、土魔法で皮膚の再生、火魔法で温めてすぐに回復。それを見ていたニエミサロさんは驚いていたみたいだけど、こんな事は僕らにとって初歩でしかない。


 この世界では、人体は水と土に関連するとされているが、実際水の治癒魔法は多数ある。しかしそれだけだと治癒するまでに時間がかかる。そこで土魔法で体の再生を行うのだけど、定着を促進させるために火魔法を使う。風魔法も応用出来ないかと思っているけど、今のところ使い道はまだ分からない。


 ところがこの町の人たちは、皆一種類の魔法しか使えないので、複数の同時使用など考えた事すらないらしい。


 ちなみに僕の場合は、魔力が高すぎるので該当箇所に手を当てるだけ。防具の上からでも効果は衰えない。衰えているのかもしれないけど、それを実感できるほどでもない。かなり魔力を絞っていても、回復はそれ以上に行えてしまう。早い話が、皮膚表面の角質層まで入れ替えてしまっているようで、当然跡など残るはずもないし、その下の脂肪や筋肉、内臓まで異常があったとしても治癒してしまうようだ。周囲からは驚かれるけど、僕としてははっきり言って魔力の無駄遣いに思える。せいぜい皮膚の表層部とその直下を治せば良いだけなのに、無駄に体の中まで治療してしまうから。


「剣の準備が出来ているかもしれないから、とりあえず戻ろう。それと胸当ては交換した方がいいな」


 ニエミサロさんはそう言いながら苦笑していた。まあ色が剥げるほど擦っているのだからそうも言いたくなるのだろう。



 再度訓練場にある建物に戻る。ここには休憩所はもちろん、食事も出来たりするのだけど、色々な武器の保管庫にもなっている。


 もちろん個人で保管する事が多いらしいけど、ある程度の訓練を受けないと個人所有は原則認められないらしい。まあ安全面など考えると無闇に子供に武器を持たせるのも危ないだろうし、個人保有でも子供などが安易に触れる事が出来ないよう、それなりの倉庫にしまったりする事が多いそうだ。


 例外としては儀式用の物というのがあるらしく、それは刃が付いていないなどの対策が一応施されていて、鈍器として使う効果はあっても人を刺したりする事は難しいらしい。


 ちなみにここにはその両方がある。刃が付いている物は実際に標的を切るための訓練用。もう一方は模擬戦用となっている。一応木刀もあるのだけど、今回は実力を測るために実剣が用意されている。


 剣は普通の両刃剣もあれば刀もあるし、短刀もある。よく見ると懐刀もあるようだ。とにかく片刃もしくは両刃のついた剣類は揃っているみたい。


 とりあえず僕らはごく普通の実剣を借りて、藁人形の前に立っていた。実剣の長さは一般的な長さで刃渡り一ガル程。最も標準的なサイズだそうだ。重さはそこそこあるけど扱えないほどの重さではない。


 藁人形の大きさは等身大。手もちゃんと着いていて頭もある。もちろん全部藁製だけど、芯に木が使われているらしい。練習用なので中に使われている木も、小枝程でしかないとの事。


 エリーは藁人形の前に立って一気に斜めに切りかかる。ちなみにエリーの基礎体力は四十一。技量は百九十九ある。体力は僕より少し上だけど、技量は僕より少し劣る。


 エリーの前にある藁人形は、一瞬で一刀両断されていた。それを見てニエミサロさんが絶句している。


 ニエミサロさん曰く、いくら技量が高くても芯となっている木まで、今までろくに剣を使った事のない者が切断出来るはずがないそうだ。何か他に要因があると考えて藁人形を観察すると、切断面が少し焦げていた。無意識に火魔法を使っていたようだ。


「無意識となると制御出来ないだろうから、こればかりは仕方がないな。本人に魔力を抑えろと言っても、こればかりはどうしようもない。魔力が高いと無意識で発動する。まあ弱いよりはいいと思う」


 という訳でエリーは剣については一応扱えるらしい。後は最も適した剣や刀を選択する事になるそうだ。


 僕の番になって、新しい藁人形が用意された。ちなみに中は鉄心が入っているそうだ。エリーの事の後なので、その対策? と、僕自身の色々な魔法属性やスキルを考慮したのだとか。一体僕はみんなにどう思われているんだろう?


 渡された剣はエリーと同じ剣。元々前世でも刀なんて扱った事はないし、剣だって初めて触る。


 軽く剣を振ってみると思いのほかしっくりと振れた。これもスキルの効果なのかな?


「よし、あの人形を切ってみろ」


 言われるがままに藁人形の前に立ち、剣を上段に構える。別にしなきゃいけない訳じゃないけど、何となく前世の記憶でこんなのがかっこよかったような気が……ゲームのコマーシャル画面だけど。


 そのまま右に抜けるように藁人形へ両断するように剣を振る。すると剣が一瞬光った気がしてから、藁人形が目の前から消えた。それと同時に手元がなぜかとても軽くなった気がする。


「え?」


 ニエミサロさんの声がしたけど、それ以上に周囲が静かな気がする。どうしたんだろう? 周囲を見渡すと、誰もが僕を見ていた。あれあれ、藁人形が消えてる……。


「……クラディ、何をしたの?」


 エリーが声を震わせながら聞いてくる。あれ? どうしたんだろう?


「剣で切りつけただけだよな?」


 ニエミサロさんは質問と言うよりも疑問といった感じだ。


「はい、そうです」


 確かに剣を振っただけだ。もちろん切れるように力を入れたつもりだけど、エリーのを見た後だから魔力を込めたつもりもないし、魔法を使ったつもりもない。


「恐らくだが、無意識に魔法か魔力を剣に伝えているんだろう。それに剣を見てみろ」


 言われて剣を見ると、鍔から先の刃が無くなっている。そういえば手元が軽くなっていたっけ……。


「魔法なり魔力に耐えられなかったんだろうな。それは普通の鉄だから、もし君が剣を使おうと思うと、最低でもミスリルで出来た剣……いや、オリハルコンで作った剣でもないと駄目なのだろう。それでも、普通の鉄剣でこんなになるのか? にわかには信じられないが……。他に要因があったとしても、我々では調べる事など出来そうもないしな。しかしオリハルコンか……表面だけならともかく、あの威力を見ると全てオリハルコンにするべきか? いや値段が……そもそも作れるのか? うーん……」


 ニエミサロさんは唸りながら、僕が手にしていた剣の残りを回収する。失った刃の部分を見ながら、余計に唸っている。先というか、剣の三分の二がない。よく見てみたら、溶けたような痕が見える。というより、蒸発したのかな? まさかとは思うけど、空気抵抗を上回った? いやいや、それはないはず。となると、無意識で発動した火魔法などで蒸発した?


「二人とも剣はもちろんだが、その他の武器についても当面考えさせてくれ。私だけではどうしようもなさそうだ。武器職人なども含み、君たちが扱える物を検討する」


 なんだか変な形で僕らの初めての剣の授業は終わった。

各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。


また感想などもお待ちしております!

ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


更新速度からおわかり頂けるとは思いますが、本小説では事前の下書き等は最小限ですので、更新速度については温かい目で見て頂ければ幸いです。


今後ともよろしくお願いします。

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