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第三十七話 身分証

2016/02/01 誤字の修正や内容の不備の指摘を受けましたので、修正しました

2015/12/10 章番号、内容修正しました

 なんだか帰りはヴィルマさんが急ぐように言われ、ほとんど駆け足に近い状態で家に戻る事になる。


 やっぱり体力が落ちているからだと思うけど、僕もエリーも息が上がっている。ヴィルマさんはすぐに水を持ってきてくれたけど、店番をしていたヴィルマさんの両親は、何事かといった雰囲気で僕らを見ている。まあ、当然だよね?


「三人とも大丈夫なの? ヴィルマ、無理させちゃいけないじゃない」


「分かっているわよ。でも大切な事なの。ちょっと二人に聞きたい事が山程あるから、今日の店番を他の日に移してもらえる?」


「ああ、構わないが……何かあったのか?」


「測定でね……二人に聞いてから、後でちゃんと話すわ。もしかしたら、私達エルフの集落どころか、この町全体の問題になるかも」


「ヴィルマ、本当に大丈夫? 顔色悪いわよ?」


 確かに顔色が悪く見える。僕らは息が上がって顔が赤くなっていると思うけど、ヴィルマさんは真っ青って感じ。


「悪くもなるわよ、あんなのを見た後じゃ。お母さんもお父さんも、お店が暇な時にちょっと来て。お父さんたちが判断しなきゃならないはずだから。でもある程度私が聞いておいた方が、後々楽でしょ?」


「まあ、ヴィルマが言うなら……」


 ヴィルマさんはそれを聞いて、僕らを店の奥の住宅部分へと僕らを引っ張るように連れていく。到着したのは食堂だ。


「二人ともごめんなさいね。ただ、今の状態であまり多くの人に知られるのは良くないと思うの。それとさっきも言ったように、お母さんやお父さんにもちゃんと伝えないといけないし、一度にみんなから質問されたら大変でしょ? 時間的に全部は無理だと思うけど、最低限の事を先に知っておけば、後は私が伝えるだけで済むから」


 なるほど、確かにヴィルマさんの言っている事は正しそうだ。


「でも、あんなに慌てなくても……。私達ってそんなにおかしいの? だってこれは身分証なんでしょ? だったら自然に他の人だって見るじゃない」


 エリーの言っている事も正しいと思う。身分証なのだから、提示を求められたら見せるしかないはず。


「それはね、こういう事よ」


 ヴィルマさんは自分の身分証を机の上に置く。すぐに身分証が白く発光して、すぐ上にまるでホログラムのような感じで色々な事が書かれている。


「この身分証なんだけど、大きさは手の平より小さいでしょ? だから魔法金属のミスリルを使っているの。本人が情報を出すように指示すれば、こうやって色々な情報を見る事が出来るわ。そして、身分証の方には必要な項目だけ表示させる事が出来るの」


 確かに身分証は、前世でいう所の定期券や運転免許証のサイズ。


「それに二人とも能力が高すぎて、一度に色々と記載するように考えちゃったのかもしれないわね。だからそんなに細かく書かれているの。普通は最低限の情報――名前と住んでいる地区とその場所、種族と年齢、魔法が使えるかの有無、あとは賞罰くらいしか表示させないわ」


 確かに今ホログラム状で空中に描かれた情報には、身分証に記載されていない事が沢山書かれている。


「一応義務として名前と住んでいる地区、性別、種族と賞罰は絶対に表示させる事が決まっているの。何かの際に重要だから。それ以外の項目は、本人以外だと専門の魔法使いでないと出す事が出来ないわ。魔力があっても魔法が使えない人だっているし、そういう人は魔力の項目を記載しないのよ。身分証を作る時は無意識で作るから色々な情報が出てくるけど、そのあとにこの出し方を教えてもらって、自分用に調整するの。でもあの人たちも驚いて、そこまで気が回らなかったみたいね。その表示のままだと色々面倒だし、教える事くらいは誰でも出来るから、面倒な事になる前に急いでもらったのよ。ちゃんと理由を説明しないでごめんなさいね」


「あ、いえ。そういう事なら仕方がないですよね。じゃあ僕らも表示する項目を選べるんですか?」


「もちろんよ。だからまず、それをしてもらおうとは思うんだけど、その前に二人の能力をざっと確認したいの。クラディ君……いえ、エリーさんの方を先に見せてもらいたいわ。身分証に触れて『開示』と言葉で言うか、頭の中で思い浮かべれば出るから」


 なるほど。本人であれば簡単に情報を選択出来るんだ。


「情報開示?」


 エリーはなんだか不安げかつ、本当にそれで良いのかと言った感じで言葉にする。するとエリーの目の前にホログラムの様な物が現れた。ただヴィルマさんと大きく違うのは、その数がとにかく多い事。目の前に現れたのは一つだけだけど、その後ろに何枚ものホログラム風の物が出現していた。


「何これ……」


 エリーは腰を抜かした様に、目の前の光景に驚いている。エリー程じゃないけど、ヴェルマさんも驚いた顔だ。


「悪いけど、見せてもらうわよ。大丈夫、すぐには大勢に広がらないわよ。あなたがこれを他人に見せなければだけど。私も無闇に他の人へ話すつもりもないし」


 僕とヴィルマさんは、エリーの隣に移って表示されている内容を見る。


「えっと……魔力が七万五千超え? 冗談でしょ? 属性も全部あるし、クラディ君と同じように全種類計測範囲を超えているわ」


 体力などの値は普通の値みたいだけど、魔力やその関連は確かにその通りだ。


「それに何これ……使用可能な技能が多すぎる。ちょっと、すぐ裏の方を前に持ってくる様にしてみて」


 エリーは言われるがままその真裏にあるもう一つを前面に持ってくる。指で選択出来るみたいだ。


「知らない技能も多いわ……。昔はどんな仕事をしていたの? たしか昨日あなたたちの時代では、成人の年齢が十歳や一五歳って言っていたわよね?」


「私は魔道具の製作を行っていたわ。まだ修行が足りなかったけど、そこそこの腕はあると言われていたの。しっかりと学べば一流の魔道具製作を出来ると言われてた気がする。とは言っても、家は鍛冶屋よ。その為の道具作りが基本だったかしら?」


 なるほど。魔道具の作成は色々な技術が必要と効いた事がある。ならその時に覚えた事が多いんだろう。


「ちなみに聞くけど、この召喚魔法って何なの?」


「魔法で動物や魔物を召喚して、それに勝つ事が出来れば次からは命令して色々と手伝ってくれるの。まあ私はせいぜいドラゴンの亜種が限界だったけど、流石に亜種といえどドラゴンには勝てなかったわ。それに相手を使役するのには、一人で戦わなければならないの。勝てば言う事を聞いてくれるようになるけど、一度でも負けたら難しいわね」


「他にもまだ色々あるみたいね。一つでは納まりきらなくて、合計で……八枚? 後で全部見せてもらうけど、一般的には一枚……というより、二枚なんてまず見る事がないし、かなりの熟練者でもせいぜい二枚。それも三分の一が納まれば優秀とされているのに……。エリーは力とか体力はともかく、魔法関連では誰にも負けないと思う。じゃあ次はクラディの方ね。エリーはとりあえず『情報収納』って言うなり考えて。それで消えるから」


 エリーの情報が消えると同時に、身分証の発光がなくなった。魔道具ってやっぱり便利だと思う。


「情報開示」


 ヴィルマさんに教わったとおりに言葉にすると、エリーと同じように目の前に色々な情報が出てきた。


「ちょ、ちょっと……何これ!」


 先ほどよりも大きな声で、ヴィルマさんが驚いている。


「エリーのも凄かったけど、クラディのは……表示枚数だけで十枚以上? あり得ないわよ……」


 最後の方はなんだか弱々しい声になっている。


 確かに数えてみると枚数は十七枚。しかもかなりビッシリと記載されていて、魔法だけでも六枚を占めているみたいだ。その他になぜか物理学や生物学、化学の用語も見受けられる。もちろん基本的な体力や魔力といった項目も、なぜか記載が詳細になっているのは気のせい?


「ねえ、クラディ。この銃器って何?」


 エリーが後ろの方にある一枚を見て、不思議そうにしていた。僕はすぐさまそれを一番前にする。そこは兵器の項目になっていて、その中に銃器の項目があった。


「ライフリング? タングステン? 薬莢? 爆轟? どれも聞いた事がないんだけど……」


 エリーは気がついていないみたいだけど、その他にも撃鉄やフリントロック、雷管といった単語もある。雷管ではセンターファイア型が特細かく解説されているみたいで、ちょっと読む気になれない。どれもマスケット銃の進化で生まれた機構だ。そういえば前世で火縄銃に興味を持った時に、色々調べた気がする。もちろんマスケット銃からその後の銃にかけての進化も含めてだ。多分僕は間違えて、知識まで表示しちゃったのかな?


 さらにヴィルマさんは放心状態。僕も同声をかければ良いのか分からない。


 さらに他の項目では火薬についての記載もいくつかある。黒色火薬の成分はもちろん、綿火薬やスリラー爆薬、ニトロトルレン――TNT火薬の構造式まである。そこまで覚えたつもりはなかったけど……一体いつ覚えたんだろう? それと誰も気がついていないけど、基礎的な爆縮レンズの製造方法まで記載されているみたい。


 さらに良く見ると、爆縮レンズの名前が光っている。それを押してみると膨大な量の製造方法などが細かく記載された物が出現。それだけで枚数は百枚を超えるんじゃないかという量だ。


 これ以上見られると色々不味い事になりそうなので、最初に表示されている項目へと戻した。その時に『表示を一枚ずつ』と考えたら、後ろに連なった項目が消える。どうも表示の仕方を変更出来るみたいだ。


「あれ? 消えちゃった。でも基本的な所でも常識外れじゃない。私のもおかしいかもしれないけど、クラディのは異常だと私も思うわ」


 流石にこれは弁解出来そうもない。何せ普通に考えても異常な数値ばかり。


 チラッと他の項目も見ていたけど、明らかに前世の記憶をかなり引きずっているのは明らかだ。かといって、今さら弁解出来ないだろうし……。何せ『転生者』とはっきり記載されているのだから。


 試しに基礎体力という項目を押してみた。


 『基礎体力・一般の生活で使われる体力の最大値』


「それって解説? まあ、そのままね。でもこの値って高いのかしら、低いのかしら?」


「エルフとしてならちょっと高めよ。クラディはハーフだから断言できないけど、ウルフ族の血が混じっているなら不思議ではないわ。彼らは比較的体力が高いから」


 放心状態からいつの間にか抜け出したヴィルマさんが教えてくれた。


「大丈夫ですか? 顔色がまだ悪いようですけど?」


 色々と理由はあると思うけど、明らかにヴェルマさんの顔色が悪い。


「大丈夫よ。それよりも血液型の項目を見せてくれないかしら?」


 『血液型・エルフとウルフ族の混血 形式不明』


「混血でも普通型くらいは出てくるのに、何故かしら……」


「分かりません。そもそもハーフなら種族の所に記載されている割合がおかしいと思うんですけど」


 何を基準に、エルフ七〇%・ウルフ三〇%と表記されているのだろう? 優性遺伝子と劣性遺伝子の関係なのかもしれないけど、そうなるとウルフ族の遺伝子は、エルフ族に対して劣性遺伝子が多いという事になるのかな?


「属性魔力は全部上限じゃない。魔力は訓練次第で上がる事があると聞いているけど、五桁は表示できないから、どうなるのかしら」


「属性魔力は四桁まで表示できるんですね。高い人だとどのくらいなんですか? 流石に僕の値がおかしいとは思いますが」


「そうね。私が聞いた事がある限りだと、一番高かった人で六千を少し超える人がいたらしいわ。ただその人は二百年程前の人らしくって、今だと高くても三千くらいって聞くの。一万を超える人なんていないはずよ」


 そういえば魔力は魔法を使った際に消費される値なんだろうか? それともゲームのようにMP的な物があるんだろうか?


「知識力が九百弱ってのもあり得ないわ。高くても普通は百前後よ? 知識力の値については、私達も分かっていない事があるんだけど、どっちにしても計測がおかしいと普通は考えるわね。ただクラディの他の値を見る限り、計測が失敗したとも思えないし……」


 知識力は知能指数とは違うだろう。いくら何でも知能指数が九百近いだなんて無理がある。


「とにかく色々異常だし、おかしな所も多すぎるわ。夜になったらお父さんたちに相談するけど、それまではこの事は誰にも話さないでね。面倒な事になる可能性が今後あるとは思うけど、出来るだけ私達エルフの集落で保護するって決まったんだし、もちろん私も協力するから」


 色々とおかしい事が多いとは分かるけど、一人で解決できる事でもなさそうだし、エリーだって僕程でないにしても数値がおかしいのは同じみたいだから、ここは任せるしか無いだろう。

各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。


また感想などもお待ちしております!

ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


更新速度からおわかり頂けるとは思いますが、本小説では事前の下書き等は最小限ですので、更新速度については温かい目で見て頂ければ幸いです。


今後ともよろしくお願いします。

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