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第三十四話 エルフの集落

2016/02/01 誤字及び一部内容の修正を行いました。

2015/11/17 内容の修正と章の番号を変更しました。

 退院となり、エルフ族の二人が迎えに来た。


 回復魔法が余程効いたのか、激しい動きさえしなければ、もう十分大丈夫との事。後数回は病院へ行く必要があるらしいけど、それを過ぎれば治療は終了らしい。


 僕らの体にあった様々な傷は消えている。当然これも魔法のおかげなんだけど、流石に回復魔法に対して詳しいわけではないし、見た目が戻っただけでも十分だ。


 もちろん回復魔法以外の、普通の薬とかも使った。飲み薬はもちろんだけど、貼り薬や軟膏など、種類はいくつもあるみたいだ。


 迎えに来ている一人はオーケ・トーケル・セーゲルストローレという人で男性。歳は二九七歳で、集落の代表補佐をしているらしい。


 もう一人はアンナ=カーリン・フルトクヴィストという人で、この人も代表補佐。年齢は三〇五歳との事だけど、二人とも三十代と言われても、僕らは疑わないだろう。


 協議の結果、僕もエルフの集落に迎えてもらう事が出来るらしく、ルフタネン家の人にお世話になるとの事だ。


 ルフタネン家の人は四人家族で、子供が二人。ハーフエルフなどには比較的理解があるらしく、比較的裕福な家庭だそうだ。家族は道具屋を営んでいるらしく、その為家も比較的広いのだとか。


 候補はいくつかあったようだけど、ルフタネン家は集落の中心に近く、集落の代表の人なども近所なんだとか。何かあった際の保険なんだとは思う。


 他にもここの生活に慣れてもらうために、外に出やすい環境である事もその理由みたい。


 確かに今の僕らには知り合いが誰もいない状態だし、頼れる人が一人でも多い方がいい。


「ここが私達の集落よ」


 フルトクヴィストさんが教えてくれる。集落とは言っても、しっかりとした石造りの建物が並んでいて、そこそこ大きな建物もある。道も石畳になっていて、正直驚くくらいに整備が行き届いている。


 それにしても長いし覚えにくい名前。どういう基準なんだろう?


 他の集落も同じような感じで、集落と言っているけど普通の街並みと変わらない。昔は掘っ立て小屋の集まりから始まったらしくて、その名残で集落と言っているのだとか。


「本当にエルフの方ばかりみたいですね」


 道を行き交う人はエルフ族ばかり。たまに他の種族もいるけど、そういう人はなんだか浮いている感じがする。


「ああ。あくまで我々エルフ族の集落だからな。別に他の種族を排斥している訳ではないが、原則として同じ種族は同じ種族で暮らすのが当たり前だし、商売以外で他の種族と会うことは少ないな。そもそも、集落毎に商店もしっかりあるので、他種族の集落に用事がある事は少ない」


 セーゲルストローレさんが教えてくれるけど、なんだか以前の事を思うと寂しく感じる。


「君らが生まれ育った所と違うとは思うが、こればかりは慣れてもらわないとな。それに町の中央広場には色々な種族が集まって露天なども多い。気になるのなら一度見に行くといい」


 病院を出てすぐに中央広場を通ったけど、確かに色々な種族が集まっていた。ただ喧噪もそれなりにあったりして、治安がちょっと気になる。


「まず集落に着いたら、私達の集落のことを含めて、色々事前に伝えることがあるわ。特にベルナル君は姿が似ているとはいえハーフエルフだから、ちょっと注意が必要ね」


「ちょっと、クラディには責任がないでしょ! それにクラディは優しいんだから!」


 あれ? いつエリーにフラグ立てたんだろう? それとも単に気を使っているだけ? そういえば前世からモテた事は一度も無かったからな……。


「あ、いや、気分を害したなら済まないが、こちらの事情も察して欲しいだけだ。一応集落の関係者にはちゃんと伝えているし、大丈夫だとは思う」


 まあ今からあまり考えてもね。


 道中エルフ族は大体千人程いて、集落にはそれぞれ代表とその補佐がいることを教わった。今案内してくれている二人は、エルフの集落で補佐をしているらしい。


 ここでは成人として扱われるのは四十歳からだそうで、二十歳になると働く訓練などをするらしいけど、あくまでそれは見習い。四十歳を過ぎるまでは結婚も出来ないし、一人で住むことも原則許されないらしい。


 仮に何かの事故で両親を失っても、その親戚などが親代わりになることが多いそうだ。ごく希に、親戚などもいない場合にのみ養子に迎えられる事があるらしいけど、それだって四十までは大人と認められない。


 そんな事を聞きながら、やっと集落の中心にある集会場に到着した。平屋だけど結構大きな建物みたいで、横の広さだけでも普通の家の四軒分くらいはある。気になるのは、建物が江戸時代の屋敷に似ている事。偶然?


「お帰りなさいませ、オーストレーム様、セーゲルストローレ様」


 入り口で数人のエルフが待っていた。女性が三人で男性も一人いる。挨拶をしたのはその中の一人の女性。


「お出迎えご苦労様。今日からこの集落で世話をすることになった、クラウデア・ベルナル君とエリーナ・バスクホルド君だ。話は聞いていると思う」


「はい、伺っております。歓迎の準備も整えておりますので、中にどうぞ」


 案内されながら中に入る。集会場と聞いていたと思うんだけど、どっちかというと屋敷って感じだ。しかも中に入る時に靴を脱ぐように言われた。


 他の人たちは白い靴下を履いているみたいで、僕らは臨時に用意されたのか、同じように白い靴下を渡されて履くように促される。靴下と思ったけど、どうも足袋のようで親指だけ別になっていた。まるで江戸時代とかにタイムスリップした気分。エリーは終始不思議な顔をしているし、僕だって多分同じだけど。


「一応私達エルフの集会場ですからね。これくらいの装飾は当たり前です。それから私達エルフは、室内に土足で上がることはありませんので」


 そんな僕らの疑問を感じ取ったのか、先頭で歩いている人が教えてくれた。


生花せいかはもちろん、彫刻や宝石類……すごいわ」


 エリーも圧倒されているみたいで、たかが集会場にと思っているんだと思う。ちなみにすぐ、『せいか』ではなく『いけばな』と訂正されたけど。


 個人的に気になったのは、やっぱり建物の内装。まるで純和風を思わせる。実際盆栽もあったりするんだけど、置いている場所が廊下にある棚の上に載っているだけなのでちょっと違和感。


 まあ日本文化が文字通りあったら、それはそれで怖いかも。


 でも襖とか障子とか、どこまでも日本文化に思えて仕方がない。これで畳でもあったら、普通に日本文化と言われても、何の違和感もなく納得してしまいそう。


 案内している人や、迎えに来た人が男性ならスーツのような服、女性は黒が主体のワンピースなのが救いかも。これで和服を普通に着ていたら『ここは一体?』って思うはず。


「こちらになります。皆さんお待ちですよ」


 襖が開けられ、中に通される。そこで思わず足が止まってしまった。中にいる人が男性なら羽織袴、女性は着物で統一されている。町中ではそんな姿など全く見なかったのに、一体ここはと思ってしまう。しかも床は畳だ。羽織袴の方はよく見ると紋付きで、種類もいくつかある。


「さあ、こちらです」


 呆気にとられながら案内される。前方には床間があり、まるで戦国時代や江戸時代を思わせる鎧甲冑と剣というか刀みたいなのが三本置かれている。どれも見た目は日本刀で、一本は脇差しくらいのサイズかな?


 案内された席は上座で、僕たちを迎えに来た二人が左に並び、その向こうに若干年配の女性がいた。席は当たり前のように座布団があり、椅子は全く見当たらない。僕らは上座の一番右側だ。


 僕もエリーもどうしたら良いのか分からず、硬直したまま立ったままだ。


「ん、どうした? 二人とも早く座りたまえ」


 エリーは当然何が起きているか分からないといった感じだし、僕も一体何が起きているのか、当然のごとく分からない。


「もしや、座り方が分からないのでは?」


 フルトクヴィストさんがそう言うけど、少なくとも僕は座り方を知っている。ただそれ以上に、目の前の光景が信じられない。エリーは座り方が分からないとは思うけど。


 それにしても、なぜ和風なのだろう? これは目の錯覚? それとも夢を見ている?


「うむ、慣れていないのであろう。適当に座るがよい」


 上座の中央にいる、若干年配風の女性が言う。この部屋にいる上座を除き全て正座。上座でも女性は正座をしていて、男性だけが胡座だ。


「クリスティアンソン様のお言葉だ。早く座るがいい」


 どの男性が言ったのか分からないけど、そう言われて素直に座る事にした。ただエリーはどう座ったら良いのか分からないようで、僕がそっと『両足を前に出しておいたら?』と伝える。椅子に慣れた生活では、座布団に座るのは辛いだろう。僕もこの世界に来て椅子に慣れてしまい、正座は出来そうもないし、胡座もちょっとどうなのか考えてしまう。結局エリーと同じように座った。


「座り方はまあ良い。いずれ覚えてもらう事になるだろう。さて、今日は二人の歓迎だ。皆事前に知らせていると思うが、この二人は失われた文明の生き残りであり、同時に愚かな人種に捕らえられていた。昨日まで中心部の病院で入院していたが、普通の生活なら大丈夫だと医者から聞いている。まだ四十に満たないので成人ではないが、女子の方は我々と同じくエルフであり、男の方はハーフであるがエルフの血が流れている。見た目は我々と変わらない。二人には親族もいない状況である。皆二人を温かく迎えてくれると嬉しい」


 上座の中央からさらに奥にいたエルフの女性が紹介してくれた。上座中央にいる女性より若干若いみたいだけど、それでもそれなりの年齢に思える。こんな時、エルフの実年齢って分からないんだよね。


「フェーストレーム様、確かに聞いてはおりましたし外見は確かに我々と大差はありません。しかしハーフの者を受け入れるのは……」


 上座からかなり離れた男性エルフが言うが、途中で言葉を切った。僕らの横にいた二人のエルフが、強い視線で見ている。まるで殺気を放っているようで、僕も思わず見てしまうくらいだ。


「あなたが言いたい事は理解しているわ。でもハーフである事は彼の責任では無いし、ご両親もいない。そもそも、二人は今とは違う時代の生まれ。この町に知り合いも当然いない。その中であなたはこの子を放り出せと? 唯一の知り合いは、同じ境遇の彼女だけ。無責任な発言はお止めなさい」


 フルトクヴィストさんの言葉で、部屋の中が一気に静まりかえる。それどころか、何か空気が冷たくなった気がする。冷蔵庫の中みたいに感じた。


「し、失礼しました、フルトクヴィスト様。どうか失言をお許しいたしたく……」


 最後の方は、かろうじて言葉が聞こえる程に小さくなっている。身分差があるのだろう。まあ、どんな世界にもそれはあるからね。


「まあ、初めての事だ。今回は大目に見ようではないか。しかし皆の者、次からは発言に注意するように」


「フェーストレーム様、お見苦しい所を」


 フルトクヴィストさんの言葉に、やっと周囲の異様な雰囲気がおさまる気がした。上座中央の左隣にいる女性は、フェーストレームさんという人らしい。


「それと、この二人はルフタネンの所に預ける。決定事項だ」


 一瞬ざわついたけど、オーストレームさんが全体を見渡しすぐにおさまった。


「どのような理由であれ、この二人は今日から我々の仲間だ。もし問題を起こす事があれば、私としても相応の罰を与える。皆そのつもりでいるように」


 フェーストレームさんの発言に、誰もが黙っていた。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 紹介とそれから食事が振る舞われた。食事は和食に似ているけど、必ずしも完全に和食という訳でもないみたいだった。


 料理の出し方はまるで料亭の形みたいだけど(もちろん前世では行った事もないけど、ネットで見た事はある)、肉料理が多い気もする。ただどれも繊細で、見ているだけでも飽きないし、味も当然良い。それに香りも良かった。


 食事が終わってから、僕らはペッレルヴォ・ルフタネンさんいう男性と、その妻であるアヌさんを紹介される。


 ペッレルヴォさんは八七歳でアヌさんは八十歳との事で、他に子供が男女一人ずついると、再度説明された。年齢も僕らとそう変わらないそうだ。


 ちなみに集会所での服装は、エルフ族の正装らしい。集会はもちろん、他の種族との会合でも原則正装が基本だとの事で、それ以外はあまり着ないとの事。冠婚葬祭も同様と言われた。あとで僕らの服もあつらえてくれるとの事だ。


 それにしても、まさかこんな所で和服を見るとは思わなかった。特に女性用の着物は着るのが大変なはずだし、エリーは我慢出来るのかな?


 他にもいくつか注意点があるとの事だったけど、それはルフタネンさんの家で教えてくれると言われた。

各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。


また感想などもお待ちしております!

ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


更新速度からおわかり頂けるとは思いますが、本小説では事前の下書き等は最小限ですので、更新速度については温かい目で見て頂ければ幸いです。


今後ともよろしくお願いします。

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