閑話 九 それぞれ
2016/01/31 誤字などの修正を行いました
2015/10/16
第三十一話 外される首輪と新たな地の前に、閑話を入れました。
とりあえず、まずは第一段階成功か……。
俺はそう思うなり、開けた扉の鍵を、魔法で内側から操作する。風魔法の一種で『音消し』とよく呼ばれるその魔法を用いながら、同時に土魔法と風魔法を用いて『ロック』の魔法を使った。
鍵が完全にかかった事を確認してから、再度土魔法を行使する。今度は扉を壁に融着させる魔法だ。これで体当たりでもしない限りは、早々簡単に扉は破られない。
すぐに外へと通じる穴から出ると、今度はその穴を塞ぐ。流石に今度は少し時間がかかったが、それも想定のうちだ。それに、迎えが来るまではこれ以外に何も出来ない。
俺たちが『同族』が捕まったと知らされたのは三週間程前。
男女一人ずつと聞いていて、多少体力を消耗している可能性があるときいたが、最初に見たときは本当に生きているのが不思議なくらいだった。
男の方は衰弱はしているが、まだ何とかなる。しかし、女の方はそれに加えて栄養失調と思われる感じがしたし、正直生気に欠けているとしか思えなかった。
空を見上げると、夜空に小さな点が見えた。どうやら迎えが来たらしい。
とにかく今はさっさと逃げるに超したことはない。こんな町は滅びてしまえと思う。
しかし、今の我々には十分な戦力がない。何より、この町と我々の町は距離がある。少数で攻め落とせる程、甘くはないだろう。
仲間のドラゴンで、私達のボスでもある彼に鞍を付けながら、二人の様子を私は見る。一人は私と同じ男のようだが、えらく胸が大きいと思う。エルフ族の特性とは分かるが、正直私の彼女よりも大きいのではないか? 女の方もかなり大きい部類だろう。種族的な特徴とはいえ、やはり思う所はある。
私は鳥人族の中でも飛行能力に優れているので、今回の作戦に選ばれた。私が得意とするのは、特に長距離でも飛行速度が落ちない点だ。最高速度では他の仲間に負けるが、長時間飛行では仲間の中でも一、二を争うと自負している。
救出した二人は、勘だけども仲間だと思う。事前にエルフらしいとは聞いていたし、種族的な嫌悪感は見せていないようだ。今のところは、それが救いだと言えよう。
私は種族は違っても、この二人は仲間だと思いたい。理由はどうあれ、このような仕打ちをした人間など、滅んでしまえばいい。
少し下を見ると、別の仲間が救出を手伝った友人を連れてきてくれた。これでとりあえずは集合だ。
助け出した二人とも、明らかに何か怯えているが、今は説明をしている暇などない。早く安心させてやりたいが、今は脱出が先だ。
とりあえず上空でも寒くならないようにと、最低限の衣服と厚手の布を何枚か渡す。少し躊躇いがちだったが、おとなしく着てくれた。これで上空の寒さも多少は和らぐだろう。
鞍を付け終わったので、まだ着替え途中だったが、無理に鞍に乗せる。すこし怖がったようだが、今は緊急時だ。
それに今は空の上とはいえ、敵地の真ん中にいるようなもの。いくら相手に攻撃手段がないはずとはいえ、私も早く離れなければと思う。
ボスのドラゴンが食事のことを伝えると、私達は急ぎこの場を離れる事にした。
二人の様子を見ていると、なぜだか私は悲しくなる。
特に女性の方が酷いみたい。体のあちこちに傷が見え隠れしている。一体何をしたら、こんなになるのかしら?
食べ物もあまり口に入らないのか、前に乗った男性からの食事もなかなか食べ終わらない。
水分は取っているが、明らかに危険な徴候に見える。
だけど私達は出来るだけあの町から距離を取らないと。
私のようなハピキュリア族は、魔力で手を再現している。なので、普通に飛行するときには手を出さない。
それでも私の何かを刺激するのか、女性の方を翼で温めてあげたくなってしまう。
だけども、今そんな事をしている余裕は無い。あいつらから少しでも距離を取らないと。
本当に人間というのは最悪で最低な種族だ。
もちろん私達の町にも多少はいるけど、なぜか人間だけで集まるとろくな事をしない。大抵騒ぎを起こすのは人間だけど、なぜそこまで争うのか分からない。
背中に乗せた二人を考える。
事前に報告は受けていたが、体の傷だけでも相当な物だ。ここまでくると、心にも傷を受けてしまうと聞いたことがある。
数百年前からずっと、我々と人間は争ってきた。文字通り、血肉を争って。
多少言葉の訛りなどはあるが、一応共通語もあるので話は互いに出来る。しかし、人間共は我々を敵としか認識していないし、そもそも私のような大型のドラゴンともなれば、討伐されたあげくに食料とされることがあるらしい。私はゴメンだ。
しかし、我々も黙って殺されるわけにはいかない。なので戦う必要があるが、人間共はほぼ似たような体格をしているため、共通の武器を使うことが出来るようだ。
だが、我々は種族によって大きさが異なる。それだけではなく、能力もかなり異なる。当然皆が同じ武器防具とは出来ない。
それでも我々は、人間共と物理的な距離を出来るだけ取ることで、出来るだけ無用な争いをせずに済むようにしている。
しかし、我々の町にも人間はいる。
我々を襲うことはないが、やはり見ていてどこか不安になるのも心情だ。
それにあの件もある。
我々は、緩やかな破滅に向かっている気がするが、誰も信じはしない。
早急に何か対策を取らなくてはならないが……。
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