第二十七話 人族以外の行方
2016/01/30 内容の一部修正しました
2015/10/08
『第二十七話 人族以外の行方(前二十六話)』を加筆修正しました。
よろしくお願いします。
僕らが奴隷として売られて、騎士の人たちに買われてから一ヶ月が経過した。
今のところ、客人扱いで不便は特にない。
暦は、昔に比べ簡素化しているみたいだ。昔はそれぞれ、その月に名称が付けられていたけど、今は単に数字のみ。
魔法がない以外は、一応見た感じ昔とさほどの変化はないと思う。まあ町中で大きな魔法なんか使う人はいないみたいだし。それを考えれば当然だよね。町中でそれなりの規模の魔法を使えば、目立つ以前に、最低でも怪我人だって出ると思う。
エリーは、窓から外を見るのが日課になっている。見ると言っても、風景を眺めているんじゃなくて、今までの事を整理しているって感じ。
まあ僕自身まだ色々と分からないし、実の親は別にしても、育ての親がその後どうなったのかは、正直かなり気になる。
ただ、本当に千四百年近く時間が経過していれば、はっきり言って調べるのは無理だろう。
そのせいか、エリーはベッドで時々静かに泣いている時がある。親を思い出しているみたいだ。
いくら二十一歳とはいえ、行方を掴む事すら出来ないかもしれないとなれば、泣きたくなるのは当然だと思う。
いくらエルフが普通よりも早く成人するとはいえ、心の成長まで同じとは限らないだろうし。
まあ僕も、時折悲しくなる事はある。ただエリーにもそれは見せないよう努力している。泣いたって、事態は解決しないんだし。何より、今は情報がないのでどうしようもない。
「ねえ、クラディ。さっきからずっと気になっているんだけど、外見がそれほど変わらない私達のようなエルフは別として、他の種族ってどうなったのかしら? どんなに年月が経過していたとしても、そんな簡単にいなくなるなんて事ある?」
言われなくても分かっている。でもどうなったかは分からない。
過去に戦争があったのは多分間違いない。何せ『人魔大戦』なんて言葉があるくらいだし。だからといって、ヒト族以外の、いくつもの種族が滅亡するなんて考えにくい。というか、ヒト族のみが生き残るのは不自然だと思う。
あの変な容器に入れられる前に見た街は、種族はそれこそ溢れる程いた。他の所だって似たような感じなんだと思う。それが全滅するなんて考えるだけでおぞましい。
可能性としては、ヒト族のみ耐性のある病気の類いだけど、それだって全部の街に蔓延すると考えるのは、いくらなんでも無理がありすぎる。
この世界の交通手段は限られている。
今の時代は分からないけど、僕らが育った時代では飛べる種族は確かにいた。だからといって大量輸送が出来るのとは違う。
前世で聞いた事のある世界的パンデミックは、世界中に短期間で移動可能な手段があってこその話だと思う。だけど、僕らが捕まる前も、今の時代も、そんな手段があるようには思えない。
「確信はないけど、きっとどこかで生きているはずだよ。僕らが知っている時のヒト族なんて、全体で言えばそんなに多くなかったと思う。それがヒト族だけになるなんて、いくら何でも考えられない」
そうは言っても、窓から全く見かける事のない他の種族を考えると、どうしても最悪を考えてしまう。ただ、どうしてそうなったのかが分からない。
「そうよね……どこかにいるはずよね……」
エリーは再び窓に目を向け、外を眺めていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そろそろ聞きたいことは終わりました。隊長の許可があれば、明日にでも体で話させるつもりですが、よろしいですか?」
「そうだな。私は構わない。しかし君も残酷だな。神託で保護したと言っていたが、やはりアレか?」
「当然です。エルフなど動物以下。情けは無用です」
それを聞いて隊長が笑いを堪えている。
「まあ、君の好きなようにしたまえ。必要な物があれば用意させる」
「有り難うございます。しかし、隊長の手を煩わせる事は無いかと」
「そうか。まあ、精々楽しんでくれ」
隊長の言質を取った俺は、あの二人をどうしようか、今からワクワク感がたまらない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
同じ頃、同じ建物の騎士団の会議室に、四人が集まっていた。
メンバーは団長と副団長、そして異様に目つきが悪い女性騎士に、目つきが明らかに悪い女性騎士とは明らかに違う、黒いマントを羽織った男。
マントを羽織った男は、テーブルの上に鞄を置き、そこから金塊を一つ取り出す。服もほとんど黒ずくめのため、金が余計に目立つ。
「しかし、騎士団ってのも中々ですな。私みたいのが、こんな所にいて大丈夫なんですか?」
黒ずくめの男が言った。騎士は全員帯刀しているのに、男はそれを恐れる素振りもない。
「我々は善人じゃない。それに、こんな辺境にいるんだ。我々が何をしようと、止められはしないさ」
答えたのは騎士団長だ。
「まあ、私としては商売になれば歓迎ですけどね。これが買い取り分の金です。額にして金貨千枚分はあります。もちろん薬代は引いてありますよ? で、引き渡しは?」
「明後日だな。それまでには、我々の方も終わるだろう。延びるようなら連絡する」
「分かりました。しかし、こんな強い薬を使ったら、普通は死にますよ?」
「一度で使う訳がないだろう? それに全部使うかはわからないしな。どのみち二人分は必要なんだ。多少多めの方が、我々としても都合がいい」
騎士団長は、どこか邪悪な微笑みをしている。
「大切な商品になる予定ですから、壊さないで下さいよ? 壊されたら価値が下がりますから。特に女の方は」
「分かっているさ。それに男の方だって、そっちに使うんだろう? どうせお前の事だ、切り落とすんじゃないか?」
黒ずくめの男の口が、ニヤリとする。
「あれだけの上玉ですからね。いい医者を知ってますし」
男は悪びれもせずに、それが当たり前のように言った。
「まあ我々は、薬で分かる事があればそれでいい。それ以後は我々は何も知らん。せいぜい壊さないように努力するさ」
騎士団長はそう言うと、目の前に置かれている様々な薬と、注射器を眺めて、まるで悪魔のような微笑みをしていた。
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