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第二十六話 魔法とは?

2015/10/08


『第二十六話 魔法とは?(前二十五話)』を加筆修正しました。


よろしくお願いします。

 エリーと一緒に、唯一ある窓から外を見る。


 町の雰囲気が変わる事はないけど、いくつか更に気になる事があった。


 まず町のすぐ外側は森みたいだ。町を囲むように城壁か何かがあるみたいだけど、その外側は森になっている。畑なんかは全部壁の内側。


 少なくとも一番城壁の外側は、緑が広がっているし、そこに人工物がある気配は見当たらない。窓から見える範囲も距離も限られているけど、それは間違いないと思う。


 分かってはいるんだけど、馬車以外の乗り物は全く見当たらない。僕らのいる建物から見る限り、徒歩か馬車、もしくは乗馬以外の移動方法は無いように見える。


 僕らがいるところが町の中心部かどうかはともかく、少なくとも一般的な住宅がある地区ではなさそう。近い建物をいくつか見たけど、お屋敷といった表現がしっくりくる。


 家々には煙突があり、ほとんどの家から煙が出ている。緑が多いし、それなりに暑さもあるので、初夏から夏の終わりの間だと思う。昼食の時間が少し過ぎた所だし、当然暖房の煙とは思えないので、多分薪か何かを燃やしているんだろう。


 照明としてランプの話があったし、電気はないはずだ。ガスがあるとも思えない。何より電線が全く見当たらない。


 ガスの可能性も考えたんだけど、少しだけ何気なく『燃える気体』と言ってみたら、おかしな顔をされたので、多分間違いないだろう。


 電線を地中に埋める方法もあるけれど、僕らがいる場所にさえ電気がないのだから、電気はないと考えるべき。


 なのに前の話では、『千四百年程僕らは眠っていた』事になっている。


 仮にそんなに長くなかったとしても、僕らの使っていた暦から六百五十年近く眠っていた事になる。エリーは更に三十年程遡るので六百八十年くらいだ。


 暦が変わったのがいつか分からないし、そもそも国が違えば暦が違う事だってあるとは思う。


 だからって、魔法が使えなくなるとは、到底考えられないんだけど……。


「エリー、魔法って何だと思う?」


「急にどうしたの、クラディ?」


エリーが怪訝な顔をした。


「あの人たちは、魔法が使えないって言っているけど、そんな簡単に魔法がなくなるなんて、正直考えられなくって」


 実際、僕らは触れる事で、僅かながら魔法が使えるのは確認している。魔法が無くなった訳じゃないと思う。


「確かに変よね……私達は一応は使えて、あの人たちが使えないなんて、普通に考えたらおかしいわ。あと私が気になるのは、ヒト族しかいない事。私達が見ている場所は限られているけど、それでもヒト族以外見ないのはおかしいと思うの」


「だよね。この窓から見ても、ヒト族以外は見ない気がする」


 いくら限られた所しか見る事が出来ないにしても、他の種族が全くいないのはおかしい。


 それなりの帽子などを被れば、一応エルフ族などは見た目をごまかせるはずだけど、特徴的な体躯をしている種族では無理がある。例えばサキュリア族なら翼があるし、オーク族ならヒト族との違いが顔で分かる。他の種族にしても似たような物だ。


「僕も色々おかしいと思うんだ。僕らを最初『魔物』って言っていた人たちがいたよね? なら、あそこに見える森の中に魔物がいると思うんだけど、多分町を囲っている壁のすぐ外が、森になっている。普通に考えたら、壁の周囲は木を切っているんじゃないかと思うんだ。でないと、何時襲われるか分からないから」


「私もそう思うわ。何があったのかは分からないけど、ヒト族しかいないなんて絶対おかしい」


 かといって、いずれも今のところは状況証拠でしかない。


「気になる事はまだあるんだ。あの人たち『人魔大戦』って言っていたよね? 人魔大戦ってのがあって、そこで僕らの知っているラクトーム歴が終わったのと、今使われているって言っていたエルロア歴の始まりが、ほぼ同じみたいだって。年数も問題なんだけど『人魔大戦』って何だと思う? 普通に考えたら、人と魔物の戦いに思えるけど……」


「違うの?」


 肯定の首肯をする。


「これはあくまで僕の推測。人魔って、人と魔物の戦いじゃないのかも」


「どういう事? 説明してくれるのよね?」


「あくまで可能性だよ? 魔っていうのは、『魔物』じゃなくて『魔法を使う人』だとしたら?」


「え……それって」


 僕だって、本当は考えたくない。でも可能性は十分にある。


「魔力がない人と、魔力がある人が戦争をして、どういう理由かは分からないけど、魔力のない人たちが勝ったんだ……」


「そ、そんな事、ある訳無いじゃない。クラディは頭がおかしくなったの?」


 エリーは若干震えている。寒さでない事は明白。部屋は暖かいし。


「あくまで可能性だよ、エリー。本当なら違う理由が欲しいんだけど、魔法が使えない人しかいないという点では、魔力を持つ人たちが負けたと考えれば、一応説明は出来る。ヒト族しかいない理由は……仮にヒト族の魔力だけが、長い年月で失われた。その代わりに魔力に頼らない武器を手に入れた」


 そこで一息ついて、ざっと頭の中の思考を纏めた。


「僕らが見た銃も、その一つかもしれない。もちろん証拠なんてないよ? 他の種族がいない説明だって、僕には分からない。ただ『人魔大戦』というからには、かなり大きな戦いだったはず。魔力を持った人たちが負けたあと、どうなったかは分からない。どこかで生きているかもしれないし、一人も残っていないかも……」


 エリーの顔色が、一気に悪くなった気がした。


「あ、あり得ないわよ……いくら魔力を使わない武器があったとしても、そう簡単に魔法や魔術、召喚術を使った攻撃が、負けるとは思えないわ」


 確かにその通りなんだけど……。


「僕だってそう思うさ。それでも一つだけ言える。ここには僕らの味方はいない。敵と決めつけるのは早いかもしれないけど、味方とは思えない。だから僕らは、慎重に行動する必要があると思う」


 とはいえ、僕らはまともな魔法を使える状態じゃない。なので、普通の剣であっても、僕らには十分すぎる程の驚異だ。


「そ、そうね……クラディの言っている事も、理解出来るわ。確かに私達二人以外は敵かもしれない。ちゃんと周囲を見ないとダメよね」


 エリーは一度俯いたあと、再び外の景色を見た。


「初めて魔法が使えた時……」


「なに?」


「私が初めて魔法を使った時なんだけど。確かあれは二歳だったと思うわ」


 さすがは生粋のエルフ。二歳でちゃんと記憶もあるし魔法も使える。僕みたいなハーフエルフだと、普通はどんなに早くても三歳以降らしい。まあ、僕の場合は色々例外があるけど。


「私の両親は、とても喜んでくれたんだけどね。私は怖かったの……」


「え、何で?」


「一番の理由は、人を殺してしまうかもしれないって事」


 ああ、成る程。僕みたいに転生して生まれた訳じゃないし、小さい頃から魔法の利点を教わる代わりに、当然欠点も教わる。


「魔法が怖かった? そうは正直見えないけど……」


「私はしばらく怖かったわ。それに、普通の人たちよりも魔力が多いって言われていたし」


 確かに過剰な力は、時として災いとなる。まあ、僕ら二人はその災いに巻き込まれたとも言えるけど。


「今は?」


「もちろん怖くはないわ。ただ、出来れば人を殺す事に使いたくはないわ。クラディもでしょ?」


 今の状況を察しているんだと思う。


 仮に今魔法が使えたら、僕らは魔法を使ってここから逃げ出すだろう。当然誰か犠牲になると思う。問題は、その犠牲の程度だ。怪我で済ます事が出来るのか、最悪相手が死んでしまうのか……。


「全部何事もなくってのは、流石に私でも無理だって分かるわ。それでも出来れば傷つけたくない」


「魔法は、傷つけるための道具じゃないよ。正しく魔法を使えば、他の人を救う事だって出来る。ただ、今の僕らには何も出来ないけどね」


 簡単な治療魔法なら一応使えた。もちろん今は使えないけど。だから魔法は、傷つけるだけの道具と思いたくない。


「心配するのは分かるよ? でも必要な時は使わないと。出来れば僕だって使いたくはないけど、襲われたら、身を守るのは当然だよね?」


 この辺が、当たり障りのない回答だと思いたい。


「そうね……」


 何か思う所があるのかも。それ以上エリーは、何も言ってこなかった。

データが一度飛びました……。

おかげで更新が三日延びた(;_;)

幸いバックアップはあるんですけどね。

でも書いていた途中の物は流石に……。

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