第二百九十三話 思わぬ所?思っていた所?からのクレーム
緊急援助として放出する麦などの約束を終えて、今度は議会で輸送についての問題洗い出しなどを行っている最中に、思わぬ所というか、考えれば確実に文句が出る所からクレームが出たという事で、どうやら議会で揉めているらしい。
それでも約束した最初の両は輸送したいので議会に顔を出すと、二つの勢力がにらみ合っていた。そしてそれを眺めているもう一つの勢力みたいな物がある。
「えーと、これってどういう状況なのかな? 説明をして欲しいんだけど・・・・・・」
入って思わず呟いてしまう。
「あ、陛下。来られたんですね」
二つの勢力の間でどうしたら良いか迷っているのを眺めていた一人がこちらに気が付き、その代表という訳か医療大臣のターヴェッティ・アルホネンさんがこちらに近づいてくる。
「えーと、説明してもらえると嬉しいんだけど・・・・・・」
何だか部屋の中に嫌な魔力だまりみたいな物が発生しているような感じで、正直かなりピリピリした雰囲気があるんだけど、なぜかそれでも暴走という感じではなく、何とも言えない雰囲気なのがもどかしい。
「えーとですね、余剰分の麦で対立しているんです。それを送るという事になったら、あちらが反対意見を出してきて、それで議長が止めに入っているんですが、かといって議長も反対派の言う事も分かるといった感じですかね」
「そこまでの問題って、何? そんな貴重品?」
「いえ、貴重品というわけではありませんが、食料大臣のステラ・カフコヴァー氏が今になって強硬に反対していまして・・・・・・」
「備蓄が足りないとか? そんな事はないと思うんだけど」
「備蓄で作っていた物が原因ですね。お酒・・・・・・エール類を作るのに麦が必要ですが、ケットシーやオーク、コボルト族などがエールの生産量を減らすのに強硬に反対しておりまして・・・・・・」
「あぁ・・・・・・」
良くあるファンタジー世界とかだとドワーフが大酒飲みとか、強い酒が好みという設定があるけど、今の時代だとそこまで度が強いお酒というのはあまり流通していない。もちろん強いお酒というのはあるんだけど、そういった物はかなり高価だし手間もかかっていて、一瓶で金貨が何枚も飛ぶような世界になる。蒸留酒に理解がない人が多い事が原因らしいけど、別に僕も強いお酒を飲みたいとは思わないから口出しもしていない。ちなみに一瓶は前世で言えば多分ウイスキーとかが入っている瓶より少し大きい程度。あまりお酒を僕はそこまで飲まないから気にしていなかったけど、恐らく一リットルくらいの量だと思う。そういった物で品質が最低レベルでも金貨が何枚も必要だし、高級な物だと白金貨が必要。金貨一枚でも下手な貴族家だと年間予算になるし、白金貨一枚だとエストニアムア王国で子爵家の年間給付。そんなこともあってか、あまり高級なお酒という物は出回らないし買い手もいない。なので作られる量も少なくなるので、余計に高額になっているというのもあるけど。
「でも、お酒用の麦は別枠で押さえてあるはずだよね?」
「そうなのですが、内務大臣のセドリック・マクネアー氏がお酒用の麦も少し供出するべきではと言い始めまして、それからこの有様です」
まあ、お酒というのは色々なところで飲まれるのはその通りだし、ワイン系統が好みではない人はエールなどを好んで飲むらしいから、それで対立しているのかもしれない。ワイン用のブドウは食用には適さないらしいし。食べられないわけじゃないから、知らないけどね。
「それで、結局どうしたいわけ?」
「我々としては、増産は今回は見送るべきだと思っています。そもそも増産したところで飲む人間も限られていますし、恐らく消費しきれないかと。実際、古い麦で安く提供している物の方が売れるという現実もあるんです。もちろん今年取れた物で作った物は、それなりに需要はあります。ですが全体の需要を考えると、そこまでする必要も感じないのです」
あれ? 結構麦って余っている?
「ああ、勘違いしないで下さいね? お酒用の特に安価な物には、品質が良くない物を使っているのです。そういった物は必ず一定数出ますから。そのうえ畑も拡張していて、一部では手が回っていないところもあるらしく、品質不良の麦は正直増加傾向だと聞いています。だったら畑の拡張はしばらく止めても良いと思うのですが、畑その物を作るのに時間はかかりますから。この領地ではかなり魔道機械が導入されていて畑の拡張は早いですが、品質管理となるとまた別のようですし。その辺は専門外なので私も分からないのですけどね」
そりゃあ医療大臣として起用しているし、元々医者で今も議会が無いときは医師として働いているのだから、畑に関しては専門外なのは仕方がない。というより、専門のはずのカフコヴァーさんが反対しているって、もしかして大酒飲みだったりするのかな?
「麦の品質としては悪い物もあるけど、それ自体も供出できたり出来るのかな?」
「出来るとは思いますよ。そもそも品質の基準もかなり高く設定していると聞いているので。しかもエストニアムア王国と異なり、麦を植える前にも肥料などをかなり丁寧にしていると聞いた事があります。実際に品質不良の麦を見たわけではありませんが、もしかしたらエストニアムア王国の下手な麦と比べても良い麦かもしれませんね」
あぁ、頭痛くなる。あまりしたくないけど、強権発動かなぁ。
「ちなみにこれが収まる様子は?」
「今のところは無いですね。恐らくですが、カフコヴァー氏は新麦の新酒を多く確保したいのではと今では思っています。あそこまで反対するのは、それ以外考えづらく。私などは飲めれば良い方なのでこだわりはあまり無いんですけどね」
「とりあえず、その品質が悪い麦とか、その辺をいくつか用意させてもらえないかな? 別にそんなに時間はかからないよね? 明日出直すから、その時に物を見て判断して良いと思うんだけど、何か意見はあったりするかな?」
「いえ、私からは。むしろそうして頂けるなら、無理にでも今すぐ持ってこさせますよ?」
「いやぁ、あそこに割って入るのはちょっとね。そもそも議会への口出しは基本したくないし。その為の議会なんだから。どうしてもというときは口出すけど、これくらいで口出しをしていたら今後も大変そうだし・・・・・・」
「お察しします」
「じゃあ、明日出直すから頼んで大丈夫かな?」
「ええ。こちらで手配しておきますよ。彼らはあのまま放置した方が私も良いと思いますし。議長にも今日は閉会という事で伝えておきます」
「ありがとう。頼むね」
まさかこんな事で議会が紛糾するなんて思いもしなかった。
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