第二百九十話 テスト飛行だからってこれは無い!
建設中の港などの視察が終わり、再び僕らは飛行船で空の上の人となった。
行きに特に問題も無く、今度は首都アルフヘイムまで直行する事になる。なおかつ行きと違って速度も出すテストを最後に行うので、帰りは一日程度で到着予定。ただし速度のテストに関しては詳しい話を聞いていなかったので、実際にどの程度の速度を出すのかは分からない。
そもそも飛行船と名乗っているけど、搭載している機関は小型魔道炉と魔道ジェットエンジン。今までの飛行船は全てプロペラを回していたけど、この飛行船はジェット推進なので本来はかなりの速度が出るし、旅客用ジェット機が当分は多くの都市に滑走路が作れない事が分かっているので、このタイプの飛行船で長距離は人を運ぶ事になる予定。
飛行船を浮かせている気嚢も魔動炉から供給される魔力で瞬時に中の気体を調整でき、無燃性の軽い機体と思い気体を使い分ける形だから事故で爆発する心配も無い。少なくとも前世の世界であった初期の飛行船の水素爆発とは無縁だ。
なおかつ高速移動の時には尖端にある魔法陣が空気の層を切り裂く形で機能して、実質地球の超音速戦闘機のような形が飛行船の船体を魔法陣で保護するため、それこそマッハとかそういった数字だって出るとは思う。流石にそれをやるといくら多少は離れているといってもアルフヘルムまで数時間で到着してしまうのと、急加速したときの船内の安全を確保出来ないはずだからやらないと思うけど、詳しくは聞いていない。
だから何だか嫌な予感がしているんだよね。
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「ちょ、ちょっとこの揺れ、どうにかならないの!?」
イロが揺れる船内でシートに掴まりながら叫ぶ。子ども達も顔色を青くして、何人かは泣いているくらいだ。
「クラディ、船長に取り次ぎなさい!」
エリーも青い顔をしながら、こちらを見て叫んだ。その顔は今にも吐きそう。
「わ、分かったから!」
そうは言っても、船内電話とかそういった物が無く、直接船橋に行かなくてはならない。
どんな試験なのか知らされていなかったので心配ではあったけど、まさか『上下移動を伴う高速試験』とまでは思わなかった。さっきから船内はまるでジェットコースター状態で、実際のジェットコースターよりはマシかもしれないけど、それでもどこかに掴まっていないと危なくて座っている事すら大変な状況だ。
とにかく船長のところに何としても行って、何をしているのか確かめるのが先決だろう。
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上下運動を激しく繰り返している飛行船なのに、地球には無い方式で動かしているからか墜落だけはまだしていない。それでも動きは激しく、慣性の法則とかその他色々な法則まで全く違うって事も無いから、当然操舵室に行くまでかなり時間がかかる。
そもそも僕らがいたところは操舵室から一定の距離があったし、操舵室は本来関係者以外立ち入り禁止。なので僕は魔力認証で扉を開く事が出来るけど、普通の人は操舵室に入る事すら出来ない。
結局操舵室に到着したのは移動を始めてから一時間くらいが経ってから。それまで手すりに掴まりながら落ちないようにしたり、逆に手すりを登ったりもした。
「船長、何が起きているのか報告して欲しい!」
操舵室に何とか到着して、何が起きているのか確認したいけど、まずはそれを叫んだ。
「へ、陛下! 申し訳ございません!」
「そういうのは後で良いから、状況を説明!」
この船の船長を任された、以前調査飛行船『サヴェラ号』副長をしていたオリヴィエ・ベルジェ船長が台にしがみつきながら答えてきた。
「機関の出力を上げたところ、舵に問題が出たようです。舵が勝手に上下運動をしているようで、原因が分かっていません!」
上下左右から固定していなかった物が飛んでくるので、ベルジェが大声を出していても周囲がかなり五月蠅い。
「機関の出力を下げようとしましたが、こちらも原因不明で出力操作ができない状態になっています!」
「緊急停止装置は試した!?」
「もちろんです!」
そうなると、最後の手段しか無い。
「許可するから、エンジン切り離し! それと予備の舵に切り替える準備と、今の舵を投棄準備! 周辺に被害が出るような所を飛んでいるのか!?」
「周辺は大丈夫です! 本来の航路とも既に外れています! 現在は未開発地域の無人地帯、下は森もない空き地です!」
「すぐに魔道停止信号を送りつつ、エンジン切り離し! 切り離しが確認できたら予備エンジン始動! 舵が回復しない場合は、舵も投棄! 予備の舵に切り替えて!」
流石に大型飛行船だから、予備の物は積んでいる。ただ、こんなに早く実際に使う事になるとは思わなかった。
「魔動炉、出力最低に保持しつつ魔動炉からのエネルギー供給緊急停止、エンジン切り離します!」
多分機関長だと思うけど、男性が大声で叫ぶ。
「ダメです、流行魔動炉からの供給をどうして求められません! 出力は計器では現在五%のはずですが、エンジンの状態からすると八〇%程度供給されていると思われます!」
「魔動炉緊急停止!」
こうなったらとりあえず魔動炉の暴走も考えないといけない。早々暴走する設計では無いはずだけど、こういった時のための緊急停止手段もある。
「緊急停止了解しました! 制御装置作動、緊急停止します・・・・・・魔動炉緊急停止信号を受信、エンジン出力の低下を確認!」
「エンジン緊急停止信号を!」
船長がすぐさま状況判断を行う。ここは僕が口出さなくても大丈夫と信じたい。
「エンジン緊急停止・・・・・・信号受信しません! エンジンに何らかの問題があると思われます!」
ほとんど機関長の声は悲鳴に近い叫びだ。
「予備エンジン始動、現在のエンジンを切り離し!」
再度船長が命令して、大きな音と共にエンジンが切り離されたのが分かる。窓の外に大きな物が四つ落下していくのが見えた。さらに小さい物もいくつか落下していく。
「舵、戻りました! 船体を水平に保ちます!」
舵を握っていた人が今度は叫ぶ。とりあえず危機は逃れたかな?
「予備エンジンの噴射を確認。出力安定、速力、予備エンジンのため落ちます。高度を下げて場合によっては緊急着陸を行いますが、陛下、構いませんね?」
「もちろんだ、船長。予備エンジンか舵がおかしくなったら、その時点ですぐに緊急着陸して欲しい。とりあえず家族の元に戻るから、後は任せた」
まだ窓から見える風景は速度があるけど、とりあえず何とかなったみたいだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結局あの後、近くの飛行船着陸場まで何とか飛行する事は出来て、僕らは一旦飛行船を下りた。
魔動炉を停止して確認させたところ、魔動炉に何かが外から衝突した形跡があり、それが原因かもしれないとこの事。ただそれだけで損傷するほど壊れやすくないはずだけど。
その他にも配管などに異常がいくつか見つかり、エンジンは投棄したけど、その付近でも本来あり得ない爆発の跡があった。
エンジンを投棄した位置は記録されているので、後ほど回収できるならエンジンの一部でも回収できると思う。
エリー達はかなりの酔いが出てしまって、それから三日ほどその場で滞在。無理ない事だと思う。
迎えの飛行船が来て、僕らはそれに乗って帰還する事になったけど、故障した飛行船の調査でしばらくは技術者などが忙しくなりそうだ。
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