第二百八十七話 初めての海の幸なので、そのままでも塩味でも美味しい!
試作として建造中の軍用船を見てから、エリー達の所に向かった。
今回は突然では無いにしても、僕らが王族ということで建設の大半が終わったばかりの宿舎を使わせてもらう事になる。大半というのは、中の仕切りとなる壁が無い状態で、後から建設している宿舎には後付けの壁も採用されている。
これら後付けだったりする壁は、宿舎としての役割が終わってからを見据えた対応で、事務所などにするのに壁が多すぎると困る場合があるし、他にも一階だと壁は最小限の方が良い場合もあるからだ。特にそうに今後なる可能性の物は、初期から簡易式の壁しか設置していない場合もあり、簡易式の場合は中で倒れにくいようにして、簡易の壁としているだけだったりする。なので天井付近など隣との間に隙間がある場合がほとんどだけども、工事関係者からするとこの形の方がむしろ都合が良いらしい。
何せ工事は常に同じ場所で行われているわけでも無く、港自体も少しずつ広がり、港を維持するための町も同時に整備をしている。人材不足なのでそれほど早くは進んでいないけども、早いと数日で別の所に移り住む場合もあり、それまで使っていた場所が今度は倉庫となっていたりで、作業する人達からは『外の風と雨さえ入らなければ、とりあえずは問題ないですし』なんて言われる始末。
本当は工事する人達にもある程度ちゃんとした仮設住居的な物を用意したいのだけど、むしろそれは反対された。そもそも工事がこれからどこまで進むのか分からないので、工事現場に置いたままの物と、寝る場所に必要な物がそれぞれ保管できるようになっていれば問題ないと力説されては、こちらも反論できない。
「ええ、ここに便器を付ければトイレ。キッチンを取り付ければ調理場などのように、下水の穴なども全て同じ形にしています。それで必要なら壁を取り付けるなど、それだけで完成してしまいますね」
どうやらベティが宿舎について聞いていたらしい。同伴していた女性が答えているようだ。
「この方法、他でも使えないかしら?」
「多分、使えると思うわ」
傍にいたエリーの問いに、ベティが答えている。
「主人が来たら、相談してみるのも良いかも」
エリーは僕が傍にいないときは『主人』と呼ぶ事があるらしいけど、こうやって聞くと新鮮だったりする。
「噂をすれば、来たみたい。終わった?」
荷物の確認を終えて、偶然僕の方を見たイロが皆に伝える。ちなみに子ども達は隣の部屋のようで、そちらから声が聞こえる。
「まあ、今回はどんな形かだけを見に来ただけだし、完成までは時間がかかるだろうからね。後でどんな形が良いかもう少し話し合うと思うけど、とりあえず今日は終わりかな?」
「なら、少し早いけど夕食にしましょう。私達もここのことは聞いておきたいし、無礼講って事でね、ジェッダさん? 案内できるくらいだから、今日くらいは大丈夫でしょ?」
ジェッダは少し考える素振りを見せると、素直に了承する。
「仕事の方は問題ないのかな? 今日や明日のの作業日程など、書類にしておくべき事があると思うんだけども」
思わずそんな事を言うと、ジェッダさんは微笑んで返してきた。
「流石にアルコールは控えさせて頂きますが、食事なら問題ありません。それに陛下や奥様方とお食事が出来る機会など、まずありませんし」
本音は最後の所かもしれないが、本人がそう言うなら問題は無いと思うことにする。
「では、食事の用意をさせます。場所が場所なだけに大したものは出せませんが・・・・・・」
「それは問題ないわ。私達だって元は王族とか、そういう身分じゃ無いもの。それにその気なら調理人と食材だって持って来ることは出来たでしょうけど、ここは海が目の前だから、魚料理など出せるんじゃないかしら? 私としてはそちらを頂きたいわね」
ジェッダさんは驚きの顔を一瞬見せるも、すぐに取れたての魚料理を用意することを約束して部屋から退室していく。僕も海の魚なんかこの世界に来てから食べたことがないかもしれない。
「食材が最低限だったり、調理人が来なかったのって、こういう事なのね」
イロは感心したようにそう言うと、子ども達も同席できるように隣の部屋に呼びに行き、一緒に来ていた使用人の何人かはテーブルなどの用意を始めた。一応畏まった形式ではないことだけ念を押して、必要ならジェッダさんの手伝いをするように伝えておく。彼女が直接料理をするかは分からないけど、無駄に負担を増やす必要も無いはずだ。
その後多分初めての海の幸に舌鼓を打ちつつ、大まかな現在の状況や今後の予定を聞いて、明日1日さらに軽く見て回ることを伝えてから、明後日には帰ることを伝えておいた。
ちなみに貝類はなく、比較的大きな魚を捕獲しているらしい。それでいて大味でもなく、比較的さっぱりした魚が多いと思う。調味料がここまでまだ十分に届いていないので塩味がメインだけど、それでも十分に美味しかった。今のところはどんな魚が捕れるかの調査をしつつ、様々な調理法を試しているらしいのだけど、それでも十分に美味しいと思える。
僕らの滞在期間が思ったより短いと感じたのか、ジェッダさんは少し安心した表情を最後にしていた。僕らがいることで作業が変に遅れたら、そっちの方が嫌だからね。
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