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転生したら最初は苦労したけど、今は何とかなりそうです!(次話以降のデータ消失により更新停止)  作者: 古加海 孝文
第二十四章 魔獣極大氾濫(ワースト・モンスタースタンピード)
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第二百八十一話 迫るモノタチ

 第一次調査隊が投下した調査用の各種機器は、投下してから平均して二時間すると、次々と故障の通信を最後に連絡を絶った。それでも有益な情報を多数得られた事は大きい。


 送られてきたデータをその後精査したところ、少なくとも何の装備もなく生命体が活動できる場所ではない事が確定し、特に人のような複雑な生物になるほど、その活動できる予測時間は短い事も判明した。もし何の装備もなくそこへ人を送れば、せいぜい十分程度で呼吸困難を起こし死亡する予測が立てられ、さらに一日経過した時点で、肉体が崩壊し、三日以内に骨すらその痕跡が無くなるというのが、データを検証した科学者達を震え上がらせる。当然このような事は前代未聞であり、それを再現できる方法など思いも付かない。


 比較的単純な植物――苔など――であっても、その生命活動が維持できるのは計算上一週間程度であり、そして高濃度の魔素は金属なども侵す事が判明したほどだ。それが分かった事により、第二次調査で投下する予定の調査機器は見直しが求められ、少しでも長時間の調査が可能な設計変更を余儀なくされている。


 当然スタンピード通過後の事は機密扱いとされており、スタンピードそのものが発生している事は国民に知らされているが、最悪の事態にどうなるかは伏せられたままとなった。どちらにしろ現状では対策方法が皆無であり、下手に教える事による混乱を回避するには仕方が無かったと言える。


「それで、スタンピードの後方から小型爆弾での攻撃は失敗だったんだな?」


 国防大臣のオッリ・ペララは、戻ってきた第一次調査隊や研究・調査の関係者に招集をかけ、その報告を受けていた。


「はい。こちらが受けた指示のうち、その殆どを試しましたが効果は全く無いと言えます。狙ったのは最後尾に近い小型の魔物で、投下した爆弾は全部で八発でした。うち三発が直撃した事は明らかですが、至近弾を含めて効果があったとは考えられません。少なくとも無傷である事は間違いなく、またその進行速度を落とす事にも失敗しました。むしろ爆弾が直撃した事すら気が付いていないかと。正直考えられない事ではありますが」


 偵察隊のうち、数少ない爆弾を搭載した機体に乗り込んでいた機長が、どこか悔しそうに説明する。しかし小型爆弾でも、通常の魔物であればオーバーキルとなるのが普通だが、それを複数受けても影響がなかったというと、かなりの問題な事は確かだ。根本的な戦略を見直す必要が出てくる。


「また観測機により、爆撃後に魔力の増大が確認されたため、それ以降の攻撃は中止しました。魔力の増大ですが、恐らく実際は魔素だと考えられます」


「十分だ。小型でも爆撃を行っただけで周囲に魔素をまき散らすとなると、今までの魔物と同一に考える事は難しい事になるが、他に何か分かったり気になった事は?」


「まだ整理しているデータも多いため、これ以上は」


「そうか。では研究部や調査部からの報告を聞きたいが、魔素対策の進展を聞きたい」


 別の男が一度手を上げてから発言を始める。


「可能性の域をまだ出ていませんが、魔力が減少した魔石で、間接的に魔素を吸収できる可能性があります。ですが一度魔素を魔力に変換する必要があるため、魔素の中に魔石を置いただけでは効果は見込めません。また魔力に変換するための装置も現状では大型であり、仮に完成したとしても広範囲を浄化するとなると、どの程度の時間が必要になるかもまだ計算できない状態です。当然魔力が減少している魔石が一番良いのですが、一度魔石を使用すると外す事もあまり無いので、程よく魔力が減っている魔石を確保する事が難しくあります」


 一般的に魔石は様々な魔力の燃料として使われ、魔導炉が設置されたアルフヘイムでも同様だ。特に移動式のランプに代表される、携帯型の魔道具には必須と言える物であるので、魔力が無くなるまで使用される事となる。そして魔力が無くなった魔石は自然崩壊してしまうため、魔力がある程度減った状態の魔石を確保する事は自然と難しくなる。


「魔石を必要とする魔道具に、残り魔力を表示させる事が出来れば、ある程度減った状態で回収する方法もあるかとは思いますが、現状では難しいかと思われます」


 そもそも魔石を使用する時は、魔力が無くなるまで使用するのが常識であり、しかも魔道具その物も魔力が完全に尽きるまで一定の出力を出すように以前から設計されている。当然魔力が無くなるまでその変化に気が付く事は難しく、しかも魔石はその大きさが同じであっても、保有している魔力が同一とは限らない。魔石を販売している所で魔力量は計測されており、それにより値段が付けられてはいるが、魔力が少ないからといって役に立たない訳でもなく、特にランプなどでは通常使う魔石の他に、魔力が切れた時のために非常用としてもう一つの魔石を取り付ける事が出来たりするため、売り物にならないような魔力がごく僅かしか無い魔石でも無い限り有用とされているし、僅かしか魔力を保持していない魔石も、それを集めて限界まで魔力を取り出す事は普通に行われているため、魔石の需要は常にあるのが現状である。


「魔力量が少なくなった魔石の確保については、私の方で考えてみよう。君らは魔素を効率よく魔石にため込む方法を見つけて欲しい。それから偵察の方は今後監視を中心として行う。下手に刺激して魔素を増やされたら現状取り返しがつかなくなる可能性もある」


 ペララが周囲を見ながら確認するように今後の方針を伝えていく。どちらにしても、魔素を取り除く方法が見つからない事には下手な事が出来ないと分かった以上、ペララはそれを報告しなければならない。そしてその事にペララは心の中で悪態をついていたが、それを部下に見せる訳にはいかない。


 そんな状況が続きながら会議は進んでいく。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 会議が行われている時も、定期偵察としてスタンピードの監視は続いていた。


 前回のように大規模な調査でもないし、そもそも上空から監視するだけでしかないが、それでもこれで得られた情報により、この先スタンピードの集団がどこに向かうかの正確性が高くなるため、偵察は欠かせない。


 この日はまだ改修が終わっていないR-1オヤンペラ偵察機の一つが参加していた。改修された機体に比べ速度も遅く、行動できる距離も限られているが、スタンピードを控えた今、偵察行動が出来る機体はそのほとんどがいつでも使用できるようにされている。新型のR-2アルーヴ型汎用大型偵察機も製造されているが、新規に製造するには時間がかかり、どうしても既存のオヤンペラ偵察機を減らす事は出来ないし、機器の改修などもある。しかしそれも順番待ちになっており、今飛行しているこの機体は当面その予定がない。


「目視でスタンピードの先頭を確認。予定通りの偵察を行う」


 機長がマイク越しにそう言うと、機体後部のスピーカーや各員が付けているヘッドホンからその音声が流れる。


「速度や方向は今のところ変わっていないが、あの数は恐ろしいな」


 マイクを切った後に、隣にいる副機長へ向けて話す。副機長は操縦桿から手を離し、双眼鏡で周囲を伺っていた。


「足止めできる方法でもあれば良いのですが。攻撃も禁止されましたし、今は見ている事しか出来ないのが歯がゆいですね」


 そう思っているのは当然副機長だけではない。それでも命令は守らなければならないし、そもそも迎撃用に積んでいる前部と後部の機銃以外には武装が無く、爆弾も積んでいない。機銃はあくまで相手をひるませる程度の物であり、その間にエンジンを全開にして離脱する事が目的のため、弾数もさほどない。


「まあ我々の任務は監視だ。今はそれに専念しよう」


「ええ。それにしても凄い数ですね。こんな集団が襲ってくるかと思うと、正直逃げ出したいですよ」


「逃げ出すって、どこにだ?」


 後ろでエンジンなどを監視している機関員が呟く。


「それも考えるために、我々がこうして監視しているんだろう? 正直難しい事は俺には無理だ」


 操縦桿を握ったまま、機長は窓から外を覗いた。そこから見えるのは青い空と地面を覆う魔物の大群。その正確な数は今も分かっていない。


「機長、右前方二十度付近を見てください。魔物が合流しているように見えます」


 副機長が双眼鏡をこちらに渡しながら言い、その手を操縦桿に置く。操縦桿を副機長は確保した事を確認してから、機長は双眼鏡を受け取って言われた方角を双眼鏡越しに見た。


 そこに見えたのは、小規模ではあるが魔物の群れがスタンピードに合流している姿であり、同時にそれはスタンピードの規模が今も膨れあがっている事を意味する。


「本部に連絡。スタンピードに対して魔物が集合している。規模がさらに拡大する可能性高し。急いでくれ」


 少し後方にいた通信士が、機長の言葉を無線で伝え始めた。


「これは大問題だぞ……」


 機長の額には細かな汗が浮き出ていた。

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