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転生したら最初は苦労したけど、今は何とかなりそうです!(次話以降のデータ消失により更新停止)  作者: 古加海 孝文
第二十四章 魔獣極大氾濫(ワースト・モンスタースタンピード)
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第二百八十話 エストニアムア王国からのシシャ

タイトルの『シシャ』は誤変換ではありません。

 その日、首都を移転して初めて、外国の使者がこのアルフヘイム城へと訪れていた。


 使者の数は三人。エストニアムア王国の外交特使として、その中でも外務卿以外では高位の者達ばかりが三人だ。


「突然の訪問に対して、王自らのご対応感謝いたします。本日は本国より書簡を預かりましたので、お届けに伺ったのと、出来ればご回答を頂きたく馳せ参じました」


 三角形の形で並んだ後、先頭にいた代表者らしき者がそう告げ、書簡らしき物を跪いてから頭の上に捧げる。


 俺の記憶だと一般的に書簡を渡す際には、このようなやり取りの仕方は無かったはずだ。つまり通常の書簡ではないという事だろう。すぐに近くの物に受け取らさせ、書簡を持ってこさせる。同時に使者達には楽な格好にするよう命じた。


 書簡を広げるとそこに書いている事に、思わず唸りそうになる。


 まとめれば、それはエストニアムア王国も今回のスタンピードを察知するも、その規模に対応できる戦力が無く、また国内の混乱が今回のスタンピード発生で再び活性化し、国としての機能が喪失間近であり、我が国に保護を求めているという事だ。


 しかもこの書簡には国王のサインと共に必要であろう閣僚のサインまでも連名で付けられており、保護と被害を最小限に抑えられるのであれば、国自体の譲渡まで構わないとすらある。本来であればエストニアムア王国は大国であり、間違っても新興国である我が国に対する要請や要望の域を完全に超えた物だ。


「ここに書かれている事は間違いないのか? 正直、書かれている事の一部は到底信じる事など不可能なのだが」


 書簡を隣に座るエリーに渡し、彼女も内容を確認する。その後ろなどにはイロやベティと子供達もいるが、席が用意されているのは俺とエリーのみだ。


「書簡に間違いはございません。陛下の仰られる事も当然ではございますが、正直に申し上げて我々には後がないのです」


「後がない? 国力からすれば、君らの国の方が上のはずだ。むしろ通常であれば、我々が保護を求めるような案件であると思うが?」


 地理的要因によりエストニアムア王国側が先にスタンピードの影響を受けるが、影響を受ける場所は今の所限られているだろうとの報告も受けている。つまり魔物は殆どの被害を受けずに我が国へと雪崩れ込んでくるのは想定済みだ。


 無論どこかで魔物が分散し、周囲を襲うようになれば話は別だろうが、今は廃墟となっている以前国家があった場所に対して、魔物はそれを完全に無視している。少なくとも人工的な建造物には今の所魔物は反応していない。人がいないという事もあるかもしれないので楽観視は出来ないが、一般的に魔物は人工物があるとそこに対しての攻撃を行う事が多い。なので今回のスタンピードに関しては、今の所ほぼ確定的な侵入経路や時間が判明している。そしてその進路上にあるエストニアムア王国側の大地は、大半が森であり、下手な刺激さえ行わなければそのまま通過する可能性が高い。


 それに我が国も自国の防衛を優先するのは当然であり、特に今はまだその準備段階。今の予定ではスタンピード迎撃にギリギリそれが間に合うかどうかの瀬戸際だ。武器などの生産力に国力を注ぎ込む形になっているため、一部の民生品は既に品薄状態になりつつある。すぐに生活に困る事が無い物ではあるが、いつまでも放置して良い問題では無い。


 これが普通の魔物であれば準備は問題なかったはずだが、最初の調査でいくつか衝撃的な事が分かった。


 まずはスタンピードが通過した後に残った大地には、一般的に植物が必要とするような栄養素がことごとく欠乏している事。つまり土壌の入れ替えをしない限り、通過した地域では作物の生産が実質出来なくなる可能性が高い。


 それから最初は魔力の残滓だと思われていたスタンピード通過後の魔力痕跡は、魔力ではなく、魔力となる前の魔素であり、これも生態系に影響を及ぼす。


 原因はまだはっきりしていないが、魔力の元となる魔素は時として生態系に毒となるようであり、特に濃度が高くなるとその影響が著しく、所謂魔物と呼ばれる物は、そういった魔素だまりから発生するのではないかと仮説を立てているが、それを証明できる手段が今の所不足している。そもそも自然界には魔力だまりはあったとしても、魔素だまりは極めて珍しい現象であり、本来なら空気中に含まれる魔力を一とした場合、魔力だまりで五から十程度だが、どうやら魔素だまりは五十以上のようであることと、にも関わらず、魔力探査計などでは探知できないことが分かってきた。今は魔素を検知する装置を開発させているが、今回のスタンピードに間に合う可能性は低い。


 また直接スタンピードで魔物が通過した場所以外でも、周囲はある程度魔素の影響を受けるようであり、今まで通過してきた場所で植物が立ち枯れしたり腐っていることも確認されている。その範囲はまだ調査中であり、正確な範囲は絞れていない。


 少なくともこれらに対する対策が国内で必要であり、当然国外まではその状況を見守る以外に何も出来ないのが現実だ。仮に今スタンピードで魔物が国内に侵入すれば、対策すら行えない可能性の方が高い。


「スタンピードに関してはこちらも把握している。またこちらで出来る範囲の調査は行っているが、はっきり言って国外まで防衛線を延ばすことは不可能だ。現状では我々もある程度国内に侵入したところで迎撃線を行う手筈になっている。その為の準備を行っている最中であり、新たに防衛線を敷設することは出来ない」


 下手に希望を持たれても困るため、この手の事ははっきりとさせる必要がある。そもそも防衛線にしても、それがどこまで機能するかは未知数の所が大きく、地上部隊と航空部隊による三次元的な攻撃を行う予定ではあるが、航空戦力に搭載できる武器には限りがある。地上もあまり接近させられると、魔素による影響で部隊に被害が出る可能性が高く、その場合は現状お手上げとなってしまう。対魔素仕様の戦闘車両を開発できないか研究もさせているが、そもそも魔素は極めて小さい物質であり、航空機のように完全与圧するなら別だろうが、換気装置でどうにかなる可能性は低く、当然完全与圧型の戦闘車両など生産その物に色々と無理がありすぎる。


 無論これらの事は機密扱いであり、彼らのような外交官的使者には伝える事はしないし、伝えるつもりもない。


「しかし首都をここへ移転した事は正式に伝えていなかったと思うが、どうやってここへ?」


 エストニアムア王国に対して首都移転の可能性は伝えていたが、場所までは教えていない。当然王城の場所や入り口も教えていない。ただ、国境からこちらの車両を使用して緊急に移送したとは聞いているが、首都に案内するには我々王族などの許可が必要であり、俺やエリーはその様な話を聞いていない。


「それについては、私の方で緊急性が高いと思いまして、連絡が遅れた事をお詫びします」


 突然発言したのは、控えていた国防大臣であるオッリ・ペララだ。どうやら三人の使者は書簡の内容をそもそも把握しており、国境警備隊から大臣へと緊急連絡が入った事で、本来の手続きを省略したようである。


 本来なら越権行為ではあるが、今回の場合は内容が内容だけに仕方が無い部分も大きいだろう。今後は注意するようにだけ言い、特に罰するような事はしない事にした。


「内容は理解したが、これについては今すぐ結論を出せない。悪いがこちらで国境までは送るので、回答は今しばらく待って欲しい。結果はこちらから担当者を選出して、決まり次第早急に連絡する。必要であれば国境周辺に待機所を設けるなりして、そちらで待っていてもらいたい。またはこちらから直接そちらの王都エストニアムアに行く事も可能だが、飛行船の発着場は機能しているのか? それ次第でこちらの回答を届ける時間が変わってくるのだが」


「飛行船の発着場は問題ありません。現在は事情があり飛行船の運用を停止しておりますが、離着陸に関しては全く問題ない事だけは確かです」


「ならば、そちらに直接こちらの担当者を送った方が早いだろう。まあ、どちらにしてもそちらの都合もあると思う。当然こちらの都合もだ。なので今回はこのままお帰り願いたい。無論どうするかについては真剣に議論する事は約束しよう。ただ、その結論として要望に応えられるかどうかは、今の段階ではまだ何も言えない」


「分かりました。こちらからもその様に報告をしておきます。この度は陛下への突然のご訪問を許可していただき、誠にありがとうございました。出来れば良い結果をお待ちしております。それでは我々はこれで失礼させて頂きます」


 使者の代表者はその様に言ってから、謁見の間を後にした。護衛や案内係などが彼らを誘導し、完全に姿が見えなくなってから思わず溜息が出る。


「それで、今回どうすれば良いと思う? 俺は正直今の段階であまり関わりは持ちたくないのだが、かといって見捨てるのもまた忍びない。かといって、あの案をそのまま受け入れる訳にはいかないだろう」


「そうね。陛下の言うとおりだわ。私達の食料の蓄えは十分だとしても、エストニアムア王国の住民までとなると不可能だわ。ある程度は向こうの物を持ってきたとしても、限度があるだろうし」


 エリーもあまり乗り気ではないようだ。それは当然だと思う。


「陛下。そもそも国境でこちらに入国するとしても、場所が限られているため全員は間に合いません。それにあの条件を普通に考えれば、裏に何かあると考えるべきでしょう」


 今でも役職は首相となっているが、どちらかというと今では議会との渡し役になってしまったアルホ・ヴァータモイネンが懸念を伝えてきた。勿論それは俺も考えているが、すぐに背景を調べられるほどの余力も無い。


「陛下。この件に関しては一度議会でも話し合わせて下さい。議会としての結論を一度提出します。その上で陛下のご判断にお任せするしかないかと思われます」


 結局そうするしかないか。他に案もなかったので、この件については一度議会に任せる事となった。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

評価、ブックマーク等感謝です。


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。

感想なども随時お待ちしております!

ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。


それと、現状色々な理由で(夏の暑さだけではなく)体調を大幅に崩しております。

次回の更新が遅れる事があると思いますが、ご理解のほどお願いいたします。

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