表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
306/331

第二百七十二話 労働者不足は深刻だったようだ

2018/07/16

誤字修正を行いました

田畑の法も→田畑の方も

かなりの性あるところであり→かなりの差があるところであり

 国王という事になって、さらに以前よりも政府や議会に仕事を任せることが多くなり、当然それらが決めた仕事は住民が行う。他にも住民が独自に作ることもあったりと、当然まだまだ開発段階から抜け出せていないこのアルフヘイムでは労働者不足になっている。


 実際に特に陸軍は体力をつけるという意味合いの元、住宅建設なども行っているのが実情だ。将来的には工兵部隊などが発足されるだろうが、全ての場所で魔導建設機械が使える訳でもなく、人手に頼る所は多い。


 また街の中の建設を優先している関係で、他の場所に関しては遅れがちになっている。それを見越して予定は立てているが、予定通り何事も進むはずもない。


「陛下。この案件なのですが。今のところ工事を再開する予定すら立ちません。何か良い案でもあればと思うのですが、お知恵を拝借したく伺いました」


 執務室に来ているのは運輸大臣でオーク族のマルティン・アルマハーノだ。


 よく物語などではオークというと豚の化け物や魔物といった扱いだが、はっきり言えばほとんどのオーク族は若干豚顔ではあるが、それ以外は特に太っているという事もなく、体格がしっかりしている感じはしても、間違っても魔物などとは到底言えない。


 彼の場合は若干背は低めだが、むしろ痩せ型で、なのに力はそれなりにあるという。先入観さえなければ、普通の人と変わらない。


「運河の延長計画か。確か、用水路に水を引く事も兼ねていたはずだな」


「ええ。まだ田畑の方も整備が終わっていないため、用水路への水供給は問題ないようなのですが、この運河は将来アルフヘイムを横断する重要な運河ともなり、運河での輸送も見込まれるため、本来は優先度を上げたい所なのですが、それを行うための人も機械も全く足りておりません」


「用地確保は問題ないのだな?」


 示された地図を見ながら、周辺がどうだったか思い出す。確か運河を挟んで工業地帯や商業地帯を結ぶ目的もあったはずだ。つまり現状では、それらも完成していないか、完成していても十分な効率が発揮されていないことになる。


「最短で工事を再開できそうなのはいつ頃になる?」


「それが……全くの未定です。一気に発展していることは喜ばしい事なのですが、当然それに伴い工事関係から他の業種へ転換する者も多いため、工事従事者は次第に減っている事も大きな理由かと。田畑の機械化はだいぶすすんでいると聞いているのですが、同時に拡張された田畑にも人が割り振られるため、実数としては減る一方となります。ベビーブーム状態になっているとも聞いておりますが、子供達が成長するまでも時間がかかりますし……」


「そうだな。これは案外厄介な問題だ。議会の方では何か対策案が出ているのか?」


「それが……」


 何だか歯切れが悪い。これは裏がありそうだ。思わず警戒してしまう。


「実は、陛下にお願いできないかという案が持ち上がっているのです」


「俺が?」


「ええ。元々陛下は魔法がどの分野に関しても優れていますので、お手伝い頂ければかなりの工期短縮になるのではという意見が。ただ、政府としては陛下に頼るのは良くないのではという意見で統一しています。そもそも住民があっての街ですし、国ですから。与えられた物ばかりでは意味がないと思うのです」


「それはそうだな。しかし、俺が工事をするか……。確かに早くは出来ると思うが……」


「我々政府の方でも何か良い案があれば良かったのですが、実際の所手詰まりでして」


「人が足りないのであれば、それは仕方がないが、しかし俺一人で全て終わらせてもな。出来る出来ないなら、出来るが、それとこれとは別だからな。政府と議会で再度良い方法を模索してくれ。俺は妻達と相談してみる」


 本当なら俺が出る事ではないはずだが、発展が遅れるのもまた問題だ。


 最初にある程度のインフラが整えられていれば、少なくともある程度の人口増には耐えられる。しかし今の進み具合では、正直覚束ないのも確か。


 アルマハーノ大臣が部屋から出るのを確認し、一緒にいたヘルガに鍵をかけさせる。


「ヘルガ。率直にどう思う?」


「そうですね。一つにはあまりに急激な発展が問題とは思いますが、以前のことを考えれば仕方がないと思えます。そもそも政府や議会も街やその周囲の発展に関して、計画性に問題があるのではないかと考えます。現状、一部の田畑を移設して市街化する余裕は本来無いかと思うのですが、実際には実行されています。また、軍の規模も一時的に縮小されてはいかがでしょうか? 偵察部隊と最低限の迎撃を行う空軍は必要かと思いますが、現状でこの国に攻め込むことが出来る国はないかと。ただ、軍は一定の収入が約束された組織でもあるので、急な縮小は反感を買う恐れもあるでしょう。ですので、一部を陸軍のように建設に回してはいかがでしょうか? 体力作りは空軍でも必要かと思われますし、ローテーションで組めば、それなりの成果も上がると思われます」


「確かに今の空軍は少し大きくなり過ぎているな……」


 元々エストニアムア王国防衛で強化した面が強い空軍であり、現状では完全に人員が余っている。勿論新型機のテストなどには必要な人員もいるし、正式採用後には慣熟訓練させる必要もあるので、無闇な削減も難しい。何より空軍がある事がかなりの強みになっているのも事実だ。


「それと、一部の鉱山の操業を一時停止されてはいかがでしょうか? 現状でもかなりの備蓄があるので、無理に採掘を続ける必要は無いと思われます」


「それはそうだが、建設機器の不足も問題ではないのか?」


 そもそも現状では魔法があるとはいえ、建設機器無しでは遅延を免れない。


 確かに魔法は便利だが、それは個人の力量でかなりの差があるところであり、当然上手い下手は存在するし、上手くても時間がかかったり、下手でも時間がかからないので任せられる場所もある。当然現場などでそれぞれの力量によって配置が違ってくるし、建設に関わる魔法などが殆ど使えない人も多いのが現実で、その穴埋めが建設機器だ。


「それなら、陸軍と空軍の工廠に建設機器の発注をされるのはいかがでしょうか? 新型も確かに大切ですが、今ある物でとりあえず問題ない物は、しばらく現行品を使用するしかないかと。現実問題、他に建設機器を製造できそうな所が思い浮かびません」


 軍は現在独自の工廠を持っており、原則その工廠で製造している。これは機密保持というよりも、人がいないために民生品と軍用品を分けるためだ。特に一部の軍用品は複雑な構造をしているため、民間で作ることが出来ないという理由も大きい。


「軍があまりに疎かにならないのであれば、俺は構わないが、一応その辺は政府と議会、軍とで調整をするように伝えてくれ」


「はい。それは勿論です。それでは私はまず政府の中で調整を行いますので、これで失礼します」


 ヘルガも一時退出すると、途端に書類へ目が行く。以前に比べればだいぶ減ったとはいえ、それでも俺が印を押さなくてはならない書類も多い。こればかりは仕方の無い事だ。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「工事の手伝いですか?」


 夕食が終わった後に妻達へ相談すると、ベティが最初に反応したが、エリーやイロもどこか悩ましげだ。


「私はすぐに賛成は出来ないわ。一度でもそういった事を行えば、後はなし崩し的に工事ばかりの日々の予感しかしないもの。そういった事については、一応政府や議会、行政側の管轄で、私達は直接口出しすることはないことになっていたはずよね? それとも、それ程遅れているのかしら?」


「どうやらそうみたいよ」


 イロの疑問に、書類を見ていたエリーが答えた。


「ちょっと確認してみただけでも、大がかりな工事が十件ほど事実上の無期限延期状態ね。小さな物を含めると、どの程度になるのかは分からないわ」


「そもそも大臣にも言ったが、一度に範囲を広げすぎだとしか俺は思えないがな」


「ええ。その結果としての遅延ね。多分防波堤になるような人がいないんじゃないかしら? それか、全体を把握している人がいないのね。どちらにしても問題ではあるのだけど、すぐに解決できる問題でも無いわ」


 流石にエリーは報告書などを少し確認して、その辺りのことをすぐに指摘した。元々そういった能力が高いのかもしれない。


「ただ、あまり遅れるのは流石に得策ではないとも思うわ。政府と議会次第では、手伝わざるを得ないかもしれないわね」


「正直俺はあまりやりたくないが、仕方がないか」


「ええ。今回ばかりわね。イロとベティも、それなりに手伝ってもらうかもしれないから、一応覚えていて」


「そうなる前に、政府と議会が対策を考えれば一番なだろうけどな……」


 そう言ってから食後のお茶を飲む。いつもと違わない味のはずなのに、何故かとても苦く感じた。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

評価、ブックマーク等感謝です。


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。

感想なども随時お待ちしております!

ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ