第二百六十九話 最近の流行がなんだかおかしい!?
2018/07/16
誤字修正等行いました
今は状況確認毛最優先だろう。→今は状況確認が最優先だろう。
腕輪の使用量→腕輪の使用料
人が集まれば、当然色々な出来事が起こるのは当然だが、最近王都アルフヘイムで変わった流行があると耳にした。
特に問題が無い流行だとの話は聞いているが、問題はその流行の内容を誰も詳しく説明してくれない事だろう。どんな事が後ほど問題になるか分からない以上、特にまだ建国して間がない今の状態では、ある程度把握する必要があると思うのだが、それを伝えても口が堅い。
それでも犯罪行為でないという事だけは強調されているので、とりあえず最初は静観していたが、どうも何やらおかしいと気になってくる。
まず、その流行の行為が行われているのは、まだ開発などが一切されていない無人の地など、人が本来あまりいないような所という話。そしてその行為のせいか、そういった場所がかなりの割合で荒れ地と化すという報告。
しかしながら死傷者は一切確認されておらず、むしろそこから帰ってくる者は笑顔に満ち溢れているという。またそういった場所へ人を運ぶ馬車まで運行されているというので、かなりの者が行っていると分かるが、彼らは総じて『ちょっとしたピクニックのような物』と証言するばかりであり、どうやら兵士達もこっそり参加している様子があるが、誰もが口を閉ざしている。
一応軍部に問い合わせてはみたが、こちらも明確な返答が来ない。
そして何より分からないのが、我々王族は参加を拒否される事だろう。
つまり軍の一部も参加するような流行ではあるが、王族関係者などが近づく事は好ましい事ではないという事であって、にもかかわらず、一般の住民は休日になるとこぞって参加しているらしいとの報告も上がっている。そしてその報告をしてくる者は、何かを隠しているようなのだが、その意図が分からない。
「3人とも、最近の流行の噂は聞いているか?」
「流行の噂? 一体どういうものなの?」
イロも知らないらしく、聞いている範囲で説明してみたが、どうやら誰も知らないらしい。お茶を持ってきたメイドにも聞いてみたが、噂は知っているものの、具体的内容までは知らないらしい。
「地形が変わるほどの事をやりながら、死傷者は皆無というのも余計に気になる。一度、こっそり調べた方が良いかもな」
「そうね……あまりに危ない事をしていたら、禁止せざるを得ないだろうし」
エリーも流石に放置は出来ないと考えたらしい。
「でも、私達が行けば必ず目立ちます。そうなると、相手も警戒してしまうのでは?」
確かにベティの指摘はその通りなのだが、これといって適当な人選が思い浮かばない。何よりここでメイドなどをしている者達も、可能性としては何かを隠している場合すらある。
しかし、地上に大きなクレーターなどまで出来ているのに、それに伴う音を聞いた事がない。確かに多少は離れているが、それでも音や振動はあって良いはずだ。
「それなら、私が確認いたしましょうか?」
ヘルガが提案する。確かに彼女であれば、俺たちよりはまだ知っている者が限られている。知っているのは政府関係者などが大半であり、一般まではあまり知られていないはずだ。
「そうだな、頼む。一応、あまり目立たない格好で、現場が見えたら映像記録結晶で記録するだけで構わない。基本は近づき過ぎず、やっている事の確認だけで構わないのと、出来るだけ密かに頼む。ヘルガなら出来るとは思うが」
「はい。アマツカミボシとしての記憶などもありますし、無理はいたしません。夜間に場所を確認した後、密かに自動撮影を施した映像記録結晶の設置と、日中に遠距離からの監視に出来るだけ留めます」
「そうね。現場近くに自動記録用の物があれば、詳細も分かりやすいかもしれないわ」
エリーも賛成し、決定だ。
多少不安要素があるのは否めないが、今は状況確認が最優先だろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
荒れ地に集まった人々の中、一人のエルフの青年が不安げに周囲を見渡しながら言った。
「まあ、お前は初めてだし、心配するのも分かるが、それ以上にスリリングで楽しいのは保障するぞ。何事も経験さ」
一緒に来ていた別のエルフの男が、これから起きる事を興奮しながら言う。それを聞いた青年は、少しばかり緊張が解けたようだ。
「それに、音や振動の対策はバッチリさ。何せ、軍まで協力しているからな」
そう言われて周囲を見るが、軍の制服を着ている者は皆無。恐らく、バレないように私服で参加しているのだろう。
「だけども、本当に大丈夫なのか? いくら軍が関与していても、陛下達にバレないとは思えないんだが……」
「何言っているんだ? その為の軍だぞ。それに、陛下達には公開していない新しい技術も使っているらしいからな」
「なら、大丈夫か」
「それより、始まるぞ。初めてだからかなり驚くと思うが、慣れれば参加もしたくなるさ。まあ、今日はあんたの案内で、俺は不参加だがな」
「悪いな」
「良いって事よ。それより、楽しんでくれよ?」
そんな二人の会話を、離れた所で特殊な魔導集音器を用いて聞いている者がいるが、その存在に気が付く者は誰一人としていなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「これは陛下にお伝えしなければなりませんが、しかし何故このような事を秘密裏に行っているのでしょうか? 中止させる事はさほど難しくは無いでしょうが、他の問題が発生してしまうと思われますね」
近すぎず、遠すぎない位置からヘルガはそんな事を静かに呟く。
映像記録結晶は問題なく作動しており、後は誰もいなくなってから回収すれば終わり。手元の端末で、どの映像記録結晶も気が付かれる雰囲気すらなく、このまま待っていれば問題ないとヘルガは予想する。
「陛下がどう判断されるのか気になりますが、私は役割をこなすだけですからね」
ヘルガとなって肉体を得ても、やはりどこかアマツカミボシとしての行動原理が働いてしまっている事に、本人は気が付いていないが、それは仕方の無い事なのかもしれない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヘルガが調査から戻り、俺たちはその記録された映像を確認する。
そこに映っていた物は、現場の状況からすれば十分想定出来るものだ。しかし、内密で行うにしてはどうしても危険を感じてしまう。
「陛下、如何いたしましょうか?」
今、部屋にいるのは俺とエリー達妻三人、そしてヘルガだけだ。部屋は完全防音では無いものの、一応人払いは済ませており、聞かれたからといって聞いた相手がどうにか出来るとも思えない。
「でも、皆楽しそうですね」
「それは否定できないかな。ただ、やるならちゃんと報告位してもらいたいんだが。別に禁止するつもりのないのだし。むしろ参加してみたいが、そういえば最後に使ったのは……」
かなり前とか、そういう以前の問題だ。今でも出来るとは思うが、問題はあれがそのまま出来たとして、周囲が萎縮してしまう可能性もある。
「エリーはやったことは?」
「あるわね。ただ、私も見せると萎縮させそう」
「二人のを見てみたい気もするけど、こう聞いていると怖いわね」
俺とエリーの言動に、イロを怖がらせてしまったか?
「因みにベティは?」
「やったことはないですよ。そもそも、これってかなり高度な魔法ですよね?」
「高度と言うよりも、相性的な問題だろうな。ただ気になるのは、あの場に集まっている全員が出来る事か? いくら何でも、そこまで簡単なはずではないのだが……」
「映像を見ると、みんな同じような腕輪をしているわよね。あんなのあったかしら?」
イロに言われて注意しながら映像を見ると、確かに腕輪をしているように見える。何か補助的な物なのだろうか?
「遠くからだと判断しづらいけど、魔石も組み込まれていないかしら? 小さいからもしかすると別な物かもしれないけど、宝石にしては形が歪な気がするのよね」
エリーは映像を良く見ている。流石にそこまでは俺も気が付かなかった。
「ただ、見ていると私もやってみたいわね。これって召喚魔法よね?」
「ああ、多分そうだ。イロも見たのは初めてなのか?」
「そうね。普通はもっと一般的な魔法を習うことが多いから、召喚魔法まで試すことはまず無いはずよ。でも、なんでみんな使えるのか、やっぱり疑問よね」
映像に映っているのは、大小様々な召喚された魔物というか、いわゆる召喚獣だ。
基本的に召喚獣であれば主人のいう事は聞くので、相手の召喚者や周囲の者にまでは危害を加えることなど、その様な命令を出さない限り大丈夫だと思うが、迫力だけを見るとかなり面白くもある。それと、一部の召喚獣は人とほぼ同じ大きさか、若干小さいのもあるようで、そういった召喚獣と別の者が直接対決している場合もある。怪我には細心の注意を配っているのか、見たところ軽傷程度以上は無いように見える。訓練としては面白いかもしれない。
「あれ、この人とこの人……」
ベティが映像に誰かを見つけたようだ。
「知っている人?」
エリーも気になったのか、ベティがどこを見ているのか探っているらしい。
「はっきりとは分からないですけど、多分ここにいる人達の何人かは、議員で秘書をやっている人や、役所の職員だと思います。前に見た人と似ているので」
「それって大丈夫なの?」
「いや、それは構わないというか、チャンスかもしれないな」
イロの疑問に、俺はチャンスと答え、その理由を説明すると納得してくれたようだ。
「むしろ、町が大きくなってきたのだから、そういった場所があっても良いとは思う。まあ場所を慎重に選ぶ必要はあるだろうけども、向こうもこれなら反対は出来ないだろうから、証拠にはちょうど良かったと言える」
「物は考えようね。でもそれなら、専門的な所を作っても構わないわね」
「むしろストレス発散には良いかもしれませんね」
イロとベティは、その有用性に気が付いたようだが、エリーは映像を集中して見つめたままだ。
「エリー。何か気になる物でもあった?」
「気になるというか、多分この人議員よ。あとその横にいる人は、陸軍の教官だと思うわ。どこかで見たことがあると思ったのよ」
それなら余計に好都合だな。早速議会へ殴り込み……じゃなかった。提案してみるか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そうですか。いつかは知られると思っていましたが、案外早かったですね」
「落ち込んでいるようだけど、別に禁止するつもりはない。むしろ、街中にちゃんとした施設を作って、安全性をきちんと確保した上で、入場料とかも取れると思うのだけども、君らが賛成するかどうかが問題だな。個人的には俺も参加したい所なんだが」
「え? 陛下もお持ちなのですか?」
ん? どういう事だ?
「ちょっと待ってくれ。俺と君らの間に、何か齟齬があるように思う。君らがやっていたのは、召喚魔法なんだよな?」
映像に映っていた人物と、その他関係してそうな人物を集めて聞いた所、案外簡単に認めた。もう少し隠すかと思ったが、隠せないと薄々思っていたのだろう。
「陛下。召喚魔法はかなり高度な魔法です。実際に魔法とは言っていますが、それよりも一つ上の『召喚術』と呼んでいる者もいます。内密にしていたのは申し訳ありませんが、こちらがないと召喚魔法は大半の者が使えません」
そう言って議員の一人が取り出したのは、映像で見た腕輪だった。これで召喚魔法を補助している?
「少なくとも俺は、そういった物がなくとも使えるな。まあ、しばらく使っていないので少し試す必要はあるだろうが」
「なんと……」
議員の驚きと共に、他の者も驚きを隠せないのかざわめいた。
「これは一体どういった効果があるんだ?」
「これは召喚補助の腕輪と一般に言われていて、装着者の魔力より一ランク下の召喚獣を呼び寄せることが可能になるのと同時に、召喚獣に絶対的命令権を発動させる物です。軍の研究者が偶然作り上げた物ですが、いまいち使用する目的もなく、しばらく保管されていました。それを仲間の研究員が見つけ、実際に試した所案外好評だったので、暇な時に作成させている物です。流石に遊びで使うような物を、通常の業務中には作るわけにいきませんので。今のところ生産は多くて一日に二日三つといった所ですね。忙しい時は作る事も出来ませんし」
それはそうだろう。今のところ遊びで使っている以外の目的が無いのだから。それにしても『術』か。それ程難しいとは正直思えないのだが、俺みたいなのが特殊なんだろうな……遊び?
「確認だが、召喚獣はきちんと言う事を聞くのか?」
「はい。それは問題ありません。対人の戦闘でも、相手を殺すようなことはしないように命令できますし、今のところ重くても骨折程度です。それも自滅しての骨折ですので、実質的には基本軽傷のみですね」
なら、軍事訓練に使えるのではないか?
いくらこの辺りは魔物が少ないとはいえ、多少は存在する。流石に召喚獣を殺す武器での戦闘は不味そうだが……。
「それと、召喚獣は誤って殺してしまっても問題ありません。むしろ召喚獣同士での戦いでは、それなりにどちらかが殺されます。多少の休息時間とも言えば良いのでしょうか? それを過ぎれば再召喚可能ですので」
となると、武器の訓練にも使えるのか? この辺は要確認だが、相手がいるのといないのでは、効率が違ってくる。
「因みにだが、人型またはそれに近い物を召喚した場合、会話が出来たりはするのか?」
「種類にもよりますが、可能です」
それなら、軍事訓練にも使える可能性が高まったな。まあ、それはそれとして、住民の息抜き兼ストレス発散にはちょうど良いだろう。
「では、君らが主導して街の中に闘技場のような物を作って欲しい。場所は任せる。そこでなら、誰でも召喚魔法での競技などを行えるようにして、闘技場の入場料や腕輪の使用料、怪我をした場合の治療費などを国庫に納められるようにしてくれ。闘技場は大きめの方が良いだろうな。観客席も勿論作って構わないし、参加者と観客者で入場料を分けるのも良いだろう。それから召喚獣に確認して欲しいが、軍事訓練に参加できるかだな。可能であれば、陸軍などの練度向上に役立つだろう。そちらは別件で調査してくれ」
「それでは、公式に召喚魔法を使用して良いという事でしょうか?」
議員が驚いているが、当然だ。むしろこんな事で収入を得ることが出来るなら、安いものだろう。
「勿論だ。むしろ娯楽のために推奨しても良いと思うが? まあ、賭け事となるとそれなりに検討する必要があるだろうが、場合によってはそれも認めていい。ただし賭け事を併設する場合は、よく議会で協議の上、こちらにも内容は絶対に伝えるように」
「わ、分かりました。早速議会で提案したいと思います。それと、召喚の腕輪についてはどういたしましょうか?」
「どうもこうも、とりあえず陸軍の兵員数分は最低限制作してくれ。訓練に使うとなれば、それくらいあっても良いはずだ。勿論研究も構わないぞ。最優先という訳では無いにしても、何が役に立つか分からないからな」
「あ、有り難うございます!」
研究者の一人が立ち上がって礼をする。これまでこっそり作っていたので、どこか後ろめたかったのだろう。しかし役に立つのであれば、別に叱責する必要など無い。
「まあ、闘技場が完成するまでは今のまま続けても構わないが、安全には十分配慮してくれ。治せる怪我ならまだしも、腕や足を失ったや、死人が出たなどとなったら大事だからな。それさえ守ってくれれば、止めはしない」
俺の言葉に、その場の全員が思わず安堵しているが、仕事は仕事できちんとしてもらわなければ困る。その辺は様子を見ながらにするか。
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