第二十三話 到着した先で売られる
2016/01/30 誤字修正しました
2015/07/28
話数の修正、内容修正を行いました。
馬車で隔離軟禁状態のまま移動し、すでに二週間が経過した。
一日二回の食事で、量も少なかったけど飢えない程度には出すつもりらしい。水も要求して、やっと少しもらえる程度。
以前の家では浴槽がある風呂があって、僕のような使用人でも毎日入る事が許された。商売をやっているから、綺麗にしておく事が大切なんだと言っていたけど、基本的に毎日風呂に入る習慣は本来無い。
実家には井戸水をため込んで、三日から四日に一回水のシャワーを浴びるくらいだった。エリーもそんな生活だったらしい。まあ水資源が豊富でない限り、風呂に入る習慣など早々は無いと思う。
今いるのは、簡単に言えばガラスの筒みたいな物なので、日中は暑いし夜は寒い。そして服そのものがまともじゃないので、体温管理は結構難しい。
エリーは大丈夫と言ってくれたけど、僕はやっぱり男だし、綺麗な人を見ればそれなりに考えてしまう事もある。そしてエリーは正直綺麗だと思う。
前世ではエルフは『美人』『美男子』というのが一般的だと思ったけど、現実はごく普通だし、美人の人なんてそんなにいない。その意味ではエリーと一緒にいられる事は、幸福だと思う事にしている。こんな状況だからこそ。
何よりエリーは僕のタイプに近いのかもしれない。おかげで一緒にいても苦にならない。こんな時に苦になるような人と一緒にいれば、それこそ問題だ。
エリーの方は先に起きたためか、僕が男である事を確認済みだったし、僕以外とはまともな会話も出来ないからか、半ば諦め顔だ。
ただ話とは言っても、言葉で話す時と魔法で話す時で会話はかなり違っている。
当然普通に話す時は当たり障りのない話になるし、魔法で話す時は、これからの事とか周囲に聞かれたくない事になる。
どうせする事もないので基本的には二人で横になったままだ。何より筒の幅はそんなに大きくないので、何もせずに寝ていた方が楽になる。
もちろんその状態だとエリーに触れてしまう事が多く……というか、触れずにいる事が無理だ。なのでこっそりとどこか体を付けて秘密の会話をしている方が多い。
ただ二週間も経つと話のネタも尽きる。なのでどうでも良い事を魔法で話す事も多くなった。
僕らを連れている人族は、僕らが静かにしていれば満足なようで、僕らが実は話をしている事に気がついていないようだ。その方が僕らとしても好都合だけど。
むしろ円柱を横にした状態の中にいるので、たまに大きく体同士がふれあう事がある。そんな時にニヤケ顔をしている周囲の男達がいるけど、正直どうでもいい。
その点はエリーも一緒らしく、霹靂していると常々言っている。
『そういえばもう二週間以上経過しているけど、一体どこに向かっているんだろう? どう見ても森の中だし、近くに街があるとは思えないし……』
『そもそも私が分からないのは、何で私達が【魔物】って呼ばれているかよ。魔物は確かに人を襲うけど、私達はこの人たちを襲っていないし、それどころかこんな目に遭わされている。あっちの人族の方がよっぽど魔物よ!』
『確かにね。僕らはどうも長く眠っていたとは思うんだけど、その間に何が起こったのか、それが分かれば解決すると思うんだ』
ただ、それは希望的観測。実際に解決するかはまた別問題だけど、それを今エリーに伝えるのも変な事だと思う。
『でも、今の状況じゃ無理よね。何より私は人を傷つけたくなんかないし』
『え?』
『人を傷つける事なんていやよ。今も昔も……』
彼女の目に薄らと涙が浮かんでいる。
『な、なんだかゴメン。何か傷つけちゃった?』
『え?』
ん? 言葉が噛み合ってない?
『私は人を傷つけるなんてイヤ。助ける事は躊躇わないけど、人が傷ついて喜ぶ人なんて最低よ』
『うん、そうだよね』
あれ、何か違う気がする……。何だろう、この違和感……。
『どうかしたの? なんだかクラディ変……』
『あ、ごめん。でも何か引っかかるんだ。大切な事を忘れているような……』
『大切な事?』
『いや、僕も人を傷つけるなんてイヤだよ? ただ、何か忘れてい……そうだ!』
確かエリーは昔家事で人を何人か大怪我を……。
『ちょっと気に触ったらごめんね。これは僕が聞いた話で、その事がエリーの事なのかは分からないんだけど……』
『いいわ。話して』
『僕がこんな事になる前に、誰かが火の魔法で火事を起こしたって聞いた事があるんだ。それで死者は出なかったのかな? だけど大変な事になって、その火事を起こした人は捕まっているって……』
『火事……それ、私の事かも。でも本当の事じゃないわ』
『違うの?』
『火事は確かにあったんだけど、その家は私の家の隣だったの。すでにその家は手遅れの状態で、中にいた人は全員助かったんだけど、このままじゃ他の家に火がどんどん燃え広がりそうで……』
『あれ? 僕の記憶だと、ほとんどの家が石で造られていたと思うけど?』
実際、僕がいた地域はほとんどが石造りの家だった。
『私の住んでいた場所はあまり裕福な所じゃなかったわ。クラディの時にどうなっているのかは分からないけど、その時は私の家周辺は木の家ばかりだったの。それで私の家も巻き込まれて、他にも二軒巻き込まれ始めていたわ。火を消そうにもあまりに火が強くて、水魔法で消火出来なかったの』
『そうなると、どんどん燃え広がるよね?』
『ええ、だから逆に一気に燃やしてしまったらどうかなって考えたのよ。一応他の人たちにも話して、水魔法が駄目だって事も分かっていたから、一気に焼き尽くす事にしたの。私は火の魔法が得意だったから。そして強力な火の魔法で、火事になっている家だけを一気に燃やしたわ。そしたら火事が何とか消えて、後は水魔法で再度燃えないように消火したの』
僕の聞いた話とは全然違う。
『その直後に、私は変な兵士に捕まって、あの変な装置の所に連れて行かれたわ。どうなったのかはクラディも知っているとおり』
わざと火を大きくする事で、空気中の酸素を奪える。そうしたら当然酸欠状態で火は消える。密閉空間じゃないから、バックドラフトとかも起きる事は無いと思う。すぐに水をかければ再燃する可能性はほとんど無い。合理的なやり方だ。
『エリーが実際やった事と、僕が聞いている事はまるで違うみたいだ。僕が聞いたのは多分エリーが火事を起こして、それが原因で捕まったような事を聞かされたと思う。その時に人が亡くなったような事も聞いた気がする』
『そんな……酷いわ。確かに火事を起こした人の家で怪我人は出たけど、他の家では怪我人は出なかったし、他の人からもこれからやる事はちゃんと説明したわ。それに怪我をした人だって軽傷だったし、すぐに魔法で治療していたから、傷跡すら残っていないはずよ。なんでちゃんと伝わっていないの?』
考えられる事は恐らく一つ。誰かが事実を隠蔽した。そしてその中には、僕らをあそこに閉じ込めた人も関わっている。
『もしかしたら、エリーを捕まえた人たちは、エリーの魔力を見て捕まえたのかも。それで本当の事を隠して周囲に伝えたんだと思う。実際に被害に遭った人がどうなったのかは、僕自身聞いていないし、この話だってだいぶ昔の事って僕は聞かされたから……』
『そういえば、クラディは人工魔石で捕まったって言ったわよね? 私の時にはそんな物は無かったわ。どういう物なの?』
人工魔石について知っている事を一通り話す。話ながら最初から魔力の高い人を狙うために仕組まれていたと実感する。
『そんな方法で……』
『今はこんな話は止めよう。気が滅入っちゃうよ。それにだいぶ暗くなったし、今日はもう寝よう。明日何があるか分からないからね?』
僕らは早く解放される事を祈りながら眠りについた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うーん、確かに人型の魔物のようですが、あまり前例がね……」
僕らは見知らぬ街に到着し、例の筒から出された後、両腕両足に鉄の枷と思われる物をはめられた。
そもそも魔法が使えない状態だし、見たところ僕らが素手で勝てるような相手ではない。結局引きずられるようにとある家に連れて行かれた。
一応服は貫頭衣に着替えさせられたけど、紐で縛っていないので横が簡単にはだける。枷をはめられているのでまともに隠す事も難しい。
貫頭衣も麻みたいなもので、それが皮膚に直接当たる。体中がチクチクして痛い。もしかしたら、麻よりも質が悪い物なのかもしれない。
それで結局僕らが連れてこられた先は、どう見ても奴隷商館だ。今は僕らを連れてきた一人と、カウンター越しに間で値段交渉をしているらしい。
「雄と雌を一匹ずつ。雌は初物かは分からないんだろ? 言葉を一応喋る事は出来るみたいだが、正直言ってあまり意思疎通が出来るとは思えないな。まあ人間に似ているから、好き者が玩具として使うには大丈夫だろうが、あまり期待して欲しくないんだよな」
「頼むよ。無理は多少承知だからさ。これでどうだ?」
僕らを連れてきた男は、三本の指を立てた。
「うーん……」
奴隷商は僕らを舐めるように見た後に、金貨二枚と銀貨五枚を取り出す。
「これが上限だ。こっちだって商売だからな」
「ちぃ。分かったよ。ああ、そういえばうちのボスが『ゆっくり喋れば多少理解出来そうだ』って言っていたぞ? 保証はしないが」
「分かった、分かった。おい、その二人を連れて行け」
こうして僕らは金貨二枚と銀貨五枚で売られたようだ。
各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。
また感想などもお待ちしております!
ご意見など含め、どんな感想でも構いません。
今後ともよろしくお願いします。




