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第二百六十一話 何事も都合良く行かないのは、なぜ?

 最近になって隣国であるエストニアムア王国の様子がおかしい。


 具体的な動きはまだ掴んでいないが、最近になってエストニアムア王国からの物資が滞りがちだ。基本的に全てを国内生産しているため、今のところは影響がないのは幸いだが、だからといって全ての量をまかなえる程、国内で生産できるはずもない。何より人口が致命的に少ないため、どうしても生産量が限られる物が出てくる。その為、一部の商品で若干の値上げが出てきているが、今のところ経済に問題が出る程にはなっていない。


 そしてこちらの方が問題なのだが、移民申請が徐々に増えている。今のところは対処可能で、尚且つ受け入れはしていないが、それでもあまりに増えてくると、今後の問題にもなりかねない。


 さらに悪いのは、エストニアムア王国と以前に設置した魔導通信機で、こちらからの呼びかけに答えないどころか、どうやらエストニアムア王国側の魔導通信機が損傷しているか、魔石などの動力として必要な魔力が無くなっている可能性がある事だ。


 魔導通信機自体は、この国で俺が基礎設計し開発した物であり、当然こちらから通信機に問題がないかの確認がある程度行える。しかし聞いた話によると、どうやら意図的かどうかまでは分からないが、通信機として必要な魔力が確保出来ていないのは間違いないらしい。


 エストニアムア王国とは不可侵条約を結んでおり、勝手な領空侵犯も当然行えない。しかし以前に滅亡させた国々はこれに関係なく、こちらに対しては偵察機で監視を行っているが、そちらは急速に緑化が進んでいる。人がほぼいなくなったとはいえ、同時にかなりの動植物にも被害があったはずだが、それを考慮すると緑化率が計算に合わないとの報告もあり、しかも数ヶ月単位で草原が森に変貌したところもあると報告を受けた。


 そのうちいくつかの森では、かなり強力な魔物の反応も確認されており、想定外の何かが起きているのは間違いなさそうだが、それを地上から探索する程暇でも無く、定期的な航空偵察のみとしている。全く何もしないよりはマシだろうという判断だが、急速に魔物が育ったとなると、国境沿いの監視も強化する必要が出てくるだろう。


 どちらにしても、今は状況の把握に努めるしかない。議会がそれを行ってはいるが、我々も備えは必要だと思う。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


   サヴェラ歴六年(エストニア歴四〇一年)五月四日 旧フォルオ帝国領上空


「こんな偵察、意味あるのか?」


 その日アルフヘイム飛行場から飛び立ったR-1オヤンペラ偵察機に搭乗していたパイロットのテウヴォ・ペクリネンは、機長席から見える森を見ながら、副機長席にいる同僚に呟いた。


「これも仕事ですからね。前の戦争でここ一帯が荒れ地になったはずなのに、たった二年で森になったって話ですから、上も調べておきたいんでしょう」


 副機長席に座るのはアルシ・クイッコネン。機長、副機長共にエルフであるが、別にエルフというだけでパイロットになったわけではない。何度も行われた身体検査などに合格し、適正ありと認められた者のみがサヴェラ立憲王国の空軍に所属できるのであって、ヒト族やドワーフ族のパイロットもいる。なので他の航空機では、種族が違う者同士で飛行する事も多い。任されているこの偵察機が、偶然この二人の管轄になっているだけだ。


「魔力探知計とレーダーの反応はどうだ?」


 後部にある席へ、有線通信機――通称、魔導有線通信機――で機長が呼びかける。


『これといった反応なし。下は静かですよ、機長』


 偵察が主な任務であるこの機体には、複数の魔力探知計トレーダーが備わっており、それを複数の者達が見張っている。それを指揮するのはヘルフリート・ハイアーマン。クラニス族の男だ。


「何かあったら教えてくれ」


 そう言って機長は通信を切ると、再び窓の外を注視する。


 オヤンペラ偵察機は、そのコックピットの多くに強固で透明なプロトニンとヒヒロトニンを合成したガラスが多く使われ、非常に見晴らしが良くなっている。一部は足下も見えるようになっているため、飛行しながら眼下を見る事も容易だ。


「確かに静かではあるな……」


「何もなければそれで良いじゃないですか」


 クイッコネンの言葉に頷きながら、遠くを見る。一面緑に覆われたそこは、一見すると平和その物だ。しかし報告によると、ここ最近魔物の数が増えているらしいとの話を聞いている。


 しかしこのオヤンペラ偵察機は、上空三〇〇〇(メントル)を軽快に飛行しており、尚且つ今のところ大型の飛行型魔物の存在は確認されていない。いたとしても高度から考えるに、すぐさま襲われる事はまずあり得ない。そもそもサヴェラ立憲王国以外で、航空機を実用化している国は無いため、自前の翼がある種族か、竜種などの飛行可能な生物を調教し、それを使役した空軍ならばともかく、それ以外では不可能だ。そしていずれも魔力探知計とレーダーに反応が出るため、見落とす事がない限りは安全と言える。


『機長、魔探反応あり。左方向約二〇(ケイロ)


 通信機越しにハイアーマンの声が届いた。左側やや下を見るが、これといって何もない。


 魔探とは、魔力探知計の事であり、正式名称を使う事はまず無い。そもそも緊急時などには、長い単語は好まれない事もある。


『レーダーにも感知。微弱なので、地上かと』


 手元にある双眼鏡で見渡すが、距離がまだある事もあるのだろう。そもそも何か分からないので、今の情報だけでは不足している。


『機長! 複数の魔探反応! 同方向です!』


 ハイアーマンが慌てたように通信機越しに叫ぶのが分かった。それを聞いたクイッコネンも左側を全体的に見渡す。


「機長、どうなさいますか?」


「そうだな……相手は地上で間違いないか?」


『地上で間違いありませんが、反応が続々増えています。現在少なくとも二十以上!』


「かなり多いな……高度を取って確認しよう。クイッコネン、高度五〇〇〇まで上昇。速度そのまま」


 それを聞いた副機長のクイッコネンは、エンジンレバーを倒し出力を上げながら、さらに操縦桿を徐々に引く。機体が徐々に上昇を始め、高度計が回り出した。


「ハイアーマン。計器の状況は?」


『魔探の反応はが徐々に強くなっています。かなり魔力の高い生物の可能性あり。レーダーには動きなし。上昇中のため、目標の上下位置は不明』


 魔探やレーダーは確かに最新だが、残念な事に自身の高度から、相手の高さを正確に割り出せる装置は備わっていない。開発自体はされているし、実際にアルフヘイムにはその実証器が稼働を始めたが、大きさが一般的な家一軒分はあるため、航空機に搭載できる目処は経っていなかった。なにより魔探とレーダーも最新装置であり、扱いに全員が慣れているわけではない。当然多少の見落とし前提のため、複数の装置を設置して、複数人で監視する事になっている。それでも以前のように目視のみよりは遙かに有用である事に変わりはない。


「機長、高度三五〇〇を通過。予定高度まで三分。目標との距離、現在一六K。予定高度時には十Kの距離となります」


 クイッコネンの報告に、つい最近取り付けられた時計を見る。時間がかなり正確に分かるようになり、正直まだ不慣れではあるが、相手との距離も計算できる事が分かるようになった。ただペクリネンはその計算を苦手としており、三分後に何故十Kの距離になるのかがいまいち理解出来ていない。しかしそれは彼に限った事ではなく、今のところ大きな問題とされていない。それでもその計算が即座に出来るクイッコネンには、正直敵わないと思うようになっていた。


「クイッコネン、操縦を任せた。ハイアーマン、方向はそのままか?」


『変わらずです。機体を十度程左に向けると、そちらから見やすくなる可能性があります』


「クイッコネン、十度左だ。予定高度に達し次第、高度を維持」


 クイッコネンの返事を待たず、そのまま双眼鏡へ再び目を当てる。すると距離はあるが、遠くに何か茶色い物が見えた。双眼鏡のレンズ位置を調整するネジを調整すると、何か巨大な物が地上にいる。


「対象物を目視で発見。撮影班、機首前方を確認し撮影を頼む」


 機内には魔導カメラを持った撮影班がいるので、方向さえ伝えれば彼らが対象物を撮影するだろう。問題なのは、あれが何かだ。


「高度四五〇〇通過。間もなく水平飛行に移ります」


 クイッコネンの報告を聞きながら、さらに前方を監視する。すると同じような茶色い物が、複数地上にある事が分かった。


「ハイアーマン、こちらでは茶色い大きな物としか分からないが、そっちで何か分かったか?」


『かなり大きな魔力を持つ生物としか。この魔力から推測するに魔物だと思いますが、魔探で確認する限り四〇近く周囲にいるようです。魔探から推測するに、全て同じ魔物の群体かと』


「分かった。そのまま監視を続けてくれ。撮影班が終了するまで、現空域で旋回飛行する」


 それにしても見た事がない魔物だとペクリネンは思った。多分背中だとは思うが、この高さから推測するに、ほとんど今は伝説に近いドラゴンのような大きさだと思うペクリネンだが、正直地上では会いたくない。


「撮影終了後、アルフヘイムに通信を入れて帰投する。クイッコネン。燃料の残量は?」


「この位置からだと、この場に最長十二時間は大丈夫ですね」


 初期型のオヤンペラ偵察機と異なり、このオヤンペラ偵察機は超小型の魔導炉を搭載している。その為僅かな魔力で、長大な航続距離を可能にしながら、尚且つある程度の偵察機器も搭載する事が可能となった。そして何よりも、残量の燃料と言える魔力を、正確に把握する事が可能となったのは大きい。地上の整備班の話では、初期型とは外見だけが同じで、中身は違う物だとさえ言われている。


「そこまで長くいる事もないだろう。魔探とレーダーの記録は正確に頼む。撮影終了後、予定通り帰投しようと思う。先にアルフヘイムへ連絡を入れておくか?」


「その方が良いでしょうね。恐らくは未確認の魔物です。向こうから何か別の指示がある可能性もあるので」


 正直それはゴメンだと思うが、命令なら仕方がないだろう。


「分かった。操縦を代わろう。アルフヘイムに連絡を入れてくれ」


 難しい事は、向こうでやってくれるだろう。俺達は偵察をするだけだ。

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