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第二百五十八話 魔方陣と魔法語と魔力と

2018/03/21 変換ミスや追記を行いました

 色々試していて分かってきたのが、魔法陣と一口に言っても、実は魔法語一つ変えるだけで変化が起きる程不安定な物ではないのかと推測するに至った。


 顕著なのは今は使用していない魔法語で作成した魔法陣と、今の魔法語で作成した魔法陣では、基本的な効果は同じだけども、そこから発生する現象に違いが出てくるという事だ。


 付け加えるなら、過去の魔法語と今の魔法語を組み合わせて使用は出来ない。これはいくつか試したが、間違いないだろう。


「しかしそうなると、違いは何だ?」


 手元には最も簡単な火を起こす魔法陣が二つ――今の魔法語版と、昔の魔法語版――が並んでいる。どちらも正常に動作する事は分かっているが、他に製作した今と昔の魔法語を組み合わせた魔法陣は、最悪小さな現象ではあったが爆発もしている。しかしほとんどの場合は、発動すらしない。


 因みに爆発した魔法陣だが、魔法陣を描いたミスリル板には影響がなかった。表面で『ボン』と小さな音がしただけの爆発であり、煙も出ていない。ただし魔法陣はその後起動しなくなった。


 今と昔の魔法語を比較した場合、私が知っている魔法語はおおよそ千五百年前に使われていた物で、当然一部の文字は大きく変わっているし、細かい事まで指摘してしまえば、文法こそ同じかもしれないが、文字としては別の言語と言ってしまっても良い。


 だからこそ、個人的にはこの謎を解いてみたくなる。


 しかしながら、これ以上は今と昔の魔法語を組み合わせるのは、妻達にも反対されるだろう。そもそもこの実験は、妻や子供達に内密で行っているのだから。


「陛下。お茶をお持ちしました。しかし、本当に内密で行っていても宜しいのですか?」


「ヘルガか。私も危険な事はこれ以上しないつもりではいるし、この謎が解ければ、魔法陣だけではなく、魔法にも何か革命的な進歩が得られるのではないかと考えている。反対したい気持ちは確かに分かるが、もう少し時間が欲しい」


(わたくし)で良ければ、お手伝いはいたします。陛下の知識よりも古い魔法語も知っておりますので、お役に立てる可能性はあります」


 そういえばヘルガは肉体を持つ以前から計算すると、少なくとも十万年近くの知識があるはずだ。ほとんどは単なる監視ではあったはずだが、それでも私などよりよっぽど知っているだろう。


「それよりも陛下。またご自身の事を私と言っておられます。お気を付け下さい」


「分かってはいるが、つい最近までは『僕』と言い、その後なんとか『私』と言葉を直したところで、さらに『俺』と使い分けるのは容易ではない。君なら分かっていると思うが?」


「はい。ですがこればかりは仕方がないかと」


「分かっているさ。ところでヘルガ。君の知っている魔法語で、単純に火を起こす魔法陣を一つ描いてくれないか」


「分かりました。こちらをお借りします」


 ヘルガはミスリル板を一枚手元に用意して、魔法陣を描き出す。


 出来上がった魔法陣を見ると、魔法陣その物はほぼ同じようだが、記述している魔法文字は、私の知っている魔法文字よりもさらに古いのか、一部似たような文字こそあるが、全体的には全く異なっていると言って差し支えない。それに周囲を六角形で囲っており、この点でもかなり違う。


「これは約六万年前に使われていた魔法陣です。目的は先に陛下が作られた他の二つと同じですが、当時は鉄や銅などの通常の金属に描かれていたようです。今回はミスリル製の板を使用しておりますので、当時と同じとは限りませんが……」


「当時はミスリルなどを使用していなかったのか?」


「いえ。その様な事はありませんが、今よりも貴重品であった事は間違いないかと」


 貴重品に、単なる火を起こすだけの魔法陣を描くわけもないな。問題は通常の鉄などと比べて、ミスリルの板だとどの様な効果が出るかだろう。


「起動しても問題はないな?」


「大丈夫だとは思われますが、念のため慎重にお願いします」


 流石に六万年も前の魔法陣ともなれば、今と同じ動作をするかどうかまでは保証できないか。


 しばらく魔力を流していたが、魔法陣は何の反応もない。今までなら既に魔法陣が完全に起動しているはずだが、その徴候すらない。


「ヘルガ。起動しないようだが、何か分かるか?」


 そう言われてヘルガは魔法陣を観察する。一応魔力の供給は続けているが、爆発しない限りは安全な位置でヘルガも見ている。


「もしかしてですが……」


 ヘルガがこちらを振り向いて、思いついたような口振りをした。


「魔法陣への魔力不足の可能性があります。当時に比べて現在は、空気中の魔力が格段に減っている状況です。そこから考えると、この魔法陣は空気中からも魔力が供給されていたのではないかと思われます」


「ちょっと待ってくれ。それは私が生まれた頃と比較してもか? おおよそ千五百年程前のはずだが」


「いえ。それは違うと思います。この魔法陣と、先ほど描かれた魔法陣を比較しただけですが、クラウディア様が描かれた物とはあまりに違うので、その可能性があるのではないかと考えたのです」


 確かにいわれて見れば、私が描いた魔法陣と比べると違いがかなりある。基本的な所こそ似ているが、あくまで似ているだけであって、同一とはとても言えない。


「クラウディア様。また『私』と言われていますよ?」


「そんな簡単に言葉は直せないさ。それよりも、他に知っている魔法陣はあるか?」


「大量にあるので、基本的な物をいくつか作成します」



 その後いくつか魔法陣を作ってもらったが、どうやらかなり古い時代に魔法陣が変わったらしい。しかし、それがいつ頃なのかまでは分からない。ただ共通して言える事は、どの魔法陣も空気中の魔力を活用しているという事だ。つまり使い方によっては、魔力の供給源として空気中の魔力も使えるという話になる。そして同時に、空気中に一定濃度の魔力を保管できる事でもあり、これらを上手く組み合わせる事で技術革新を起こせるかもしれない。


 ただ、今ある空気中の魔力は、これが使われていた時と比べると格段に低いのだろう。その点は改良する必要がある。もっと専門的な研究所や開発部を作るべきか? しかしそれでは、予算や人員の確保にも問題が出るだろう。


「詳細に調べれば大発見になるだろうが、今は無理だな。わた……俺一人では、とてもではないが妻達が許してくれないだろう。かといって専門の研究機関を作る程、人も資金もあるわけではない。せっかくの技術なのに、正直勿体ない」


「奥様方に、一度相談されてはいかがでしょうか? 少なくとも特にエリーナ奥様は興味を持たれるかと思われます。必要とあれば、私の方で知っている限りの魔法陣は作成しておきますので、無駄にはならないかと思われますし」


「そうだな。無理のない範囲で頼む。しかしこうなると、空気中の魔力がもっと高い方が色々と便利そうだが、あの存在が邪魔になるな……」


 勿論、俺とエリーが捕まっていたあの施設だ。だが今のところ、これといってあの巨大なシステムがどうなっているのか分からない点も多く、しかも似たような物が世界各地に点在している可能性がある。全て一度に破壊するなり機能を止める事が出来れば一番だが、それはそれで無理がある。


「それでも、今後の魔法陣改良の参考にはなるか」


 そもそも、学術的にはなぜ魔法陣を描くと、本来使えないはずの魔法まで、魔力のみで使用できるようになるのかが分かっていない。魔法陣を描く時に、分かりやすく魔石を置く位置に引き、特定の魔力が流れた時に発光したりするような描き方をすると、それを目で確認できるが、こういった事を知る人は、どうやら今の時代少ないらしい。


 魔力が流れた際に、その部分の魔法陣が発光する技術は、実際の所、今はほぼ失われた物だ。しかし元は簡単な物であり、むしろなぜ失われた技術なのかが分からない。何しろ魔法陣を起動させる際に、最初の魔力を流す位置へちょっとした魔法陣を追加するだけなのだ。応用でいくつかの魔法陣を書き足す事により、複数回同じ場所へ魔力が流れた時に、そこの色が変化するなどといった事も可能になる。今まで色々やってきたが、てっきり皆知っていると思っていたため、先日子供達に見せた時には、皆に驚かれた。


 さらに突き詰めれば、魔力その物は魔法の相性とは無関係と分かっているが、なぜか人により得意、不得意な魔法の系統が異なる。となると、炎系統が使えるが、水系統は苦手という人の場合、それは魔力とは全く別の理由で決まっている事であり、この原因が分かれば魔法の得意不得意はかなり解消される可能性も秘めている事になる。


「エリーナ達にも相談するが、これについては優先的に調べさせるように願いたいな。本当なら俺も参加したいくらいだが、流石に許してはくれないか」


「……そうですね。難しいかと思われます。」


 どちらにしても、まだまだ調べる事は多そうだ。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

評価、ブックマーク等感謝です。


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感想なども随時お待ちしております!

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