第二十二話 助かったと思ったら、助かっていない!
2015/07/28
章と内容を修正しました。
なんだか気分が悪い。目眩もするし、凄く体が揺れている気がする。しかも眩しい。
何事かと思って目を開けた。強い光と緑が見える。
「大丈夫? あなた、自分が誰だか分かる? 私の顔は見える?」
声がした方向を向くけど、あまり良く見えない。僕のすぐ左に誰かいる。多分女性だとは声で分かる。
「ご、ごめん……目がはっきりと見えないんだ。えーと……」
何とか声を絞り出して、返答した。
「無理はしなくていいわ。私もそうだったから……」
その人の声は、何か悲しそうな雰囲気がある。
「ちょっと彼が起きたわよ! 食べ物と飲み物を寄こしなさいよ!」
彼女がそう言うと、他に誰かの声がした。すこし声が遠い。でも男の声だと思う。光が眩しくて、まともに周囲の確認が出来ない。
何か音がして、急に冷たい風が僕を襲った。
「うぅ……」
「それと、暖かい毛布とか無いの!?」
彼女の声ははっきり聞こえるけど、他の声ははっきり聞こえない。
誰かが僕に布か何かを掛けてくれたみたいだ。寒さが幾分和らいだ。
「これで多少は大丈夫だと思うわ。無理はしないで」
安心出来る声。別に声の主が女性だからという訳じゃなくて、言葉に優しさがある。男女関係なく発している言葉が優しそうでも、言葉そのものに優しさがなければ駄目だと思う。
「あ……ありが……とう」
「無理しないで。私はずっと側にいるし」
今度は少し悲しそうな声。特に『ずっと側にいる』と言っていた所が悲しそう。ただ、それに対してどう答えてあげれば良いのか分からない。そもそも僕自身の状況が分からないし。
『聞こえる? もし聞こえたら、私の手を握ってみて』
突然頭の中に声がした。この声は僕の側にいる女性の声だ。左手を軽く握られていたので、僕も軽く握った。
『よかった。これで内緒話が出来るかもしれないわ。私の名前はエリーナ・バスクホルド。エルフよ。あなたは多分ハーフエルフよね? とりあえず、あなたと会話を出来るか試してみたいから、私の言うとおりにやってみて。魔力を頭に集中させた後に、私に少しでいいから魔力を流す感じ。そうね……私の頭に流す感じでね? やってみて。あ、でも無理はしないでね?』
言われたとおりに魔力を頭に集中させる。体はまともに動かせる状態じゃないけど、魔力は多分大丈夫みたいだ。そして手を伝わせながら、彼女の心に魔力を流すイメージを送る。
『いいわ。口に出さずに心の中で何か喋る事出来る?』
『こ、こうかな?』
『上出来、上出来! 成功ね。やっぱりエルフの血を引いている事だけの事はあるわ。これは魔力思念回路という、一種の魔法なの。難しい言い方をしたけど、普通は「エコー」って呼んでいるわ。一応魔法を使える事が出来れば、誰でも使う事が出来る筈なんだけど、エルフやエルフの血が流れている人の方がやりやすいみたい。それにしても、あなたかなりの魔力があるみたいね?』
『魔力の事が分かるの? 確かに僕はかなり魔力が高いって言われていたけど。そうなんだ。あ、ごめん。僕はクラウデア・ベルナル。クラディって呼ばれていたから、クラディでいいよ』
『じゃあ私もエリーでいいわ。まだあなたの体の方が万全じゃ無いと思うし、しばらく横になっていた方がいいわ。エコーは相手の魔力がかなり関係しているの。それに良い状況じゃないし。無理は禁物よ』
『良い状況じゃないって、どういう事?』
『どういう人たちか分からないけど、私達は捕まっているわ。私もそうだったけど、クラディも変な筒に入れられなかった?』
『うん、そんな記憶がある。ちょっとまだ記憶が曖昧な感じがするけど』
『大丈夫、クラディ? 無理なら話は後でいいけど?』
『大丈夫かな、これくらいなら。ただ、難しい質問は無理かも』
『分かったわ。無理そうだったらいつでも言ってね。それで今の状況なんだけど、私達は変な筒に入れられていたのは知っているでしょ? 私達そこから出る事が出来たみたいなの。ただ、出る事が出来たのはここにいる人たちがやったみたい。他にも私達以外の人がいたはずだけど、一緒にはいないわ。それと、あの筒を利用して私達は監禁されているの。クラディが寝ている間に調べてみたんだけど、金属製の格子がはまっているし、足は縄で縛られている。手も縛られているけど、こっちは食事が出来る程度になっているから、自分で縄を解こうとしない限りは問題ないわ。ちなみに解こうとしないでね。私がやろうとして怖い思いをしたから』
『怖い思い? いや、いいよ。何となく状況が分かればどうなるかも分かるから。所で僕らはどこかに移動しているよね? エリーはどこに向かっているか分かる?』
『帝都って言っているのは聞こえたけど、具体的な名前は分からないわ。それに私達の周りにいる人たちなんだけど、言葉がちゃんと通じないの。全くじゃないけど、私達の喋る言葉とは少し違うみたい。最初はどこか遠くの街の方言なのかなって思ったけど、違うみたい』
根拠は分からないけど、僕より先に起きて状況を確認しているんだろうし、余計な事は言わなくていいと思う。
『私達を連れているのは七人。一人は見た事もない武器を持っているわ。手の平よりちょっと大きいくらいなんだけど、先端に穴が開いていてそこから金属が飛び出すみたいなの。魔法じゃないわ』
『あ、そういえば魔法は僕たち使えるの?』
『残念。首輪の事は覚えている? 私達あれをされたままよ。だから魔法は全く使えないわ。ただ、こうやって初めて分かったんだけど、首輪をしていても相手に触れていれば、触れている人に対しての魔法は使えるみたい。あと、この透明な筒も魔力を吸収する素材だと思うわ。触れながら魔法を発動しようとしたけど、何も起こらなかったから』
『そうなんだ……教えてくれて有り難う。それとさっき言っていた武器だけど、多分【銃】じゃないかな?』
『【銃】って何?』
もしかしたら、エリーは知らないのかも。僕も捕まった時にこの世界で初めて見たし。前世の記憶も大丈夫みたいだから記憶はとりあえず大丈夫だ。ただ、あまり変な事を言うと、せっかく良い関係になれそうなのにぶち壊してしまうかも。当たり障りのない範囲で答えよう。
『僕が捕まった時にはあった武器だよ。ただ、それと全く同じかは分からないけど。方法は分からないけど、その筒から金属を発射して使う武器なんだ。弓なんかよりも多分強いと思う。かなり離れた所からでも狙う事が出来るみたいで、弓よりも早いみたいだ。だから変な事はしない方がいいと思う』
ちょっと前世の記憶も混ぜているけど、もし似たような武器なら危ない事だけはちゃんと伝えた方がいいと思う。
『そうなの……私が眠っている間にも新しい武器が出来たのね。所でクラディは、何年に捕まったか覚えている?』
『何年?』
『私が捕まったのは確かラクトーム歴二五三一年の獅子の月だったはずよ。日にちまではちょっと思い出せないの』
獅子の月という事は九月だ。
『多分だけど……僕が捕まったのはラクトーム歴で二五五〇年の白蛇の月、三の週だったはず。日にちは僕も思い出せない』
白蛇の月は一月。週は七日で一週間で、三の週とはその月の三回目の週。今は慣れたけど、最初は違和感があった。
『そっか……一応聞くけど、歳はいくつ? 私は捕まった時が二十一歳』
『僕は十八歳だったはず。今が何年か分からないけど……』
『そっか、一応私が年上なのは間違いないんだ。だからって遠慮はしないでね? 今は私達立場が同じだし。知識としてはクラディの方が知ってそうだから、私が知らない事は、遠慮無く教えてくれると嬉しいかも』
『もちろん。でもエリーじゃなくて、エリーさんって呼んだ方が?』
『呼び捨てで構わないわ。ここがどこか分からないし、クラディが捕まるまでに三十年くらい過ぎているとなると、私の両親がどうなったかも分からない。それにクラディが何年眠っていたのかも分からないから、年上とかそういうのは関係ないわ。今は呼び方よりもこれからどうなるかの方が大事だと思うの』
『確かに。じゃあこれからもエリーと呼ばせてもらうね。よろしく、エリー』
『こちらこそ、クラディ』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後エリーと色々な情報交換をした。
彼女自身も僕より一日早く目覚めただけで、それほどこの状況を理解している訳ではないようだ。
それから僕らを捕まえたらしい七人組は、間違いなく全員人族。ただし彼らは自分たちを『人族』とは呼ばず、『人間』と言っているし、僕らの事を時々だけど『魔物』や『モンスター』と呼んでいる。
数日観察した限りでは、彼らは全員魔法が使えない。それは彼らが何度か熊や狼に襲われている時に確認出来た。攻撃方法は全て剣や槍、弓で、魔法を使う様子が全くない。
僕らに関しては、正直かなり良くない状況だと思う。
まずは僕もエリーも服を着ていない。一応薄い布で体を隠しているから裸じゃないけど、貫頭衣ですらなく一枚の布でしかない。しかも紐の類もないので、下手に動く事すら出来ない。
一応その上に、少し厚手の毛皮に似た物を用意してもらったけど、これも体の周囲に纏う事が出来るだけで、防寒する事は出来ても服とは言えないと思う。
実際この状態だと、手足を縛られていなくても逃げるのはかなり厳しい。体に巻き付けた布でしかないので、下手に走ると確実に落としてしまう。それを無視して走れば当然裸だ。そもそも靴だって履いていない。近くに街があったとしても、裸の男女を何も言わずに入れてくれる事は無いと思う。それに身分証になるような物も無いし、お金もない。道具もないし魔法も使う事が出来ないので、何かを狩る事で生活というのも不可能だ。
どちらにしても、今はこの状況に堪えるしか無いのかもしれない。
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