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第二百五十二話 親と国王と子供達

2018/03/21 表現や誤字などを修正しました

 久々に一日の休暇を取る事が出来た。いや。正確に言うなら、あまりに働き詰めなので首相達が休暇を取るようにと進言してきたのが正しいが、それはそれで有り難くもある。ただ、それを首相達に言わせたのはどうやらエリー達のようだ。私の事を心配しているのかもしれないと思うと、私もまだまだだと思わざるを得ない。


 それはさておき首都アルフヘイムの開発は、住宅地に関して言えばほぼ終わった。まだまだ公共設備に関しては遅れが出ているが、住宅地を最優先にしたので仕方がないだろう。


 そんな事を思いながら、カーテンを開けた窓から街並みを見る。


 最初は王都アルフヘイムと名前を付けていたが、これからの事を考えると王都ではなく首都と呼称を変更する事にしたが、今でも王都と呼ぶ物は少なからずいる。こればかりは仕方が無いだろう。


 そのまま振り返り、部屋の中を見渡す。


 まだ王城は完成していないので、未だ仮住まいではあるが、実際の所住むだけなら問題ない。むしろ王城が完成した後は、広い空間に慣れる事が出来るかが心配だ。


 そんな部屋の中には、エリーが鏡台で髪を解かしていた。鏡越しに目が合うと、彼女は振り向いて微笑んでくれる。


 ベッドは四つあり、一応私達四人が同時に寝る事が可能だが、ベティはまだ幼い子供達と一緒の部屋で寝る事が多い。イロは身支度を終え、隣にある部屋にお茶の用意をしに行っている。


 お茶の用意は大抵メイド達が行うが、朝はエリーかイロが用意してくれる事が多い。最初はメイド達が淹れてくれていたが、エリーとイロの強い要望により、朝だけは二人が淹れる事になっている。その代わりにメイド達はベティの所や朝食の準備と忙しいが。しかしそれも、城と言う名の屋敷が完成すれば変わってくるだろう。


 そもそも住まいとしては、城は必ずしも有用とは思えない。他の国に舐められないという理由で建設せざるを得ないが、技術的には城を作る必要など皆無だ。何しろ防衛の要は全て地下にあり、当然非常時には全て地下で指揮を執る。陸軍用の施設も地下に設置され、この世界の基準では、それを突破するのは奇跡が起きない限り無理だろう。


 ただ城の有効活用は色々とするつもりだ。


 特に外周部分などには見学用のコースも設け、機密扱いになっていない事は普通に解説付きで観光できる。元々新しく出来たばかりの国なので美術品などは無いに等しいが、その代わりにこの国で採取できる様々な鉱物や植物の見本を置いたり、アルフヘイムの縮尺模型や城の縮尺模型も設置される。一部では既に出来つつある、元々この国に来るまでは名工などと言われた人々が陶芸や木彫りの作品を展示する場所も用意しており、新しいなりにもそれを生かした観光資源とするつもりだ。


 因みに城の中には陶芸品や木工品の販売所もあり、これに関しては通常よりも利益の一部が国に納められる事になっている。その代わりに城で販売する物については通常の税を免除する事で、全体の利益としては制作者側に有利となるようにしており、尚且つ生産に関わった工房などが直接販売するため、値段は他の所で買うのと大差無いにも関わらず、利益率は極めて高い。


「あなた、お茶が用意できましたよ」


 イロがワゴンを押しながら部屋に戻ってくる。上にはティーポットにカップや茶菓子が載せられている。茶菓子は少量だが、甘みの強い物だ。朝の糖分補給にはちょうど良い物で、ここの特産物であるフルーツをジャムにして、それを付けて食べるのが一般的である。


「ありがとう、イロ。エリーの準備は?」


 そう言って振り向くと、エリーの準備も終わっていたようだ。使った物を台に置いてこちらへ来る。


「今終わったわ。それよりもこの香り、今日は高地原産の茶葉かしら?」


「流石はエリー。よく気がついたわね」


 私にはどうやら茶葉の原産地などを当てる技能は無さそうだ。流石に良い茶葉を使っているかどうか程度は分かっても、この辺は男性と女性の違いもあるかもしれない。それに私の場合は仕事で忙しく、お茶を味わう事がここ最近少なかったのも影響しているのだろう。


「せっかくクラディがお休みなのだから、これくらいはね?」


 そう言いながらイロは私の方を見て微笑んだ。


「ありがとう、イロ。こんな事でも、もう少し家族との時間を大切にしなければと思うよ」


「そうね。クラディは一人で抱えすぎている自覚があまりに少なすぎるわ。むしろ欠如していると言っても良いかもしれないわね。あなたが全てを抱え込む必要は無いのよ?」


 それには流石に反論できなかった。大人しくテーブル側の椅子に腰掛ける。


「朝食の準備まで、もうしばらく時間があるわ。クラディも、たまには国王という立場を忘れる事も大切よ?」


 追い打ちをかけるようにエリーに言われると、何も反論できなかった。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 朝食の準備が終わったとの事で食堂に案内されると、そこには既にベティを含めて子供達全員が待っていた。それぞれ定位置に座り、私達が来るのを心待ちにしていたのか、エリーとイロの子供達は特に笑顔になる。


 それとまだ三歳になって間もないベティの子供達は、文字通り屈託のない笑顔だ。前世では結婚もしていないし、当然子供がいた事もないので正直新鮮な気持ちになる。


 それはそれとして、私達は用意された席に着くと料理が運ばれてきた。朝食と言っても前世の日本食とは比べるまでもなく、かなりしっかりとした食事だ。何しろ朝から肉料理が並ぶのだから。


 もちろん庶民と我々とでは食事の内容に差はあるが、それでも一般的に朝から肉料理を食べるのはごく普通であり、前世の物語などでは『エルフは森の民なので、基本森の恵みを~』などという事は全く無い。質素になりがちなのは昼食で、これは現状開発に忙しく、いつの間にか広がった弁当文化も大きく作用しているだろう。当然その代わりに夕食は量が出る事になるが、なぜか夕食の方が菜食的な物が多い。


 まあ、肉は別にして野菜に関してはそのほとんどが工場での人工栽培になっており、通常の畑で栽培された物に比べて価格は半額以下。それどころか、栽培が容易な物に関しては四分の一程度の値段になっている。その代わりに通常の畑で育てられた物は『天然物』とされ、価格は人工栽培生産の倍は最低でもするが、それでも一般庶民が買える値段だ。


 またここで出している食事に関しては、原則として人工栽培生産物を優先している。味も天然物と変わらず、しかも収穫周期まで早いという代物という理由もあるが、一般庶民がまだまだ苦労の絶えない中、我々が贅沢するのはお門違いであろうという判断からだ。まあ値段が安く、味が天然物と変わらないというのは、まだどうしても庶民感覚が抜けない所があるイロやベティ達にとっても受け入れられたという事が大きい。


 肉に関しては、そのほとんどが軍の演習で捕らえた動物や魔物となっている。一部でようやくこの世界の牛や豚、羊などに相当する動物の養殖も行われ始めたが、そもそもここにいた人々に養殖の技術が無かった事もあり、想定よりもだいぶ遅れは出ているが、元の人口が少ない事もあってさほど問題になってはいない。


 また魚などの魚介類に関しては、今のところは食卓に並ぶ事はない。元々魚がこの地域に少なかった事と、さらに海までも距離があるので、どうしても現地での消費量以上は用意できていないのが現状だ。しかしこれもあと一年か二年で最も近い海までの鉄道が完成するので、その後は漁船の整備も必要になるだろうが、冷凍や冷蔵輸送した魚介類を首都にも届ける事が出来るようになるだろう。


 元々冷凍に関しては水魔法を用いる事で氷を作り、それで冷却して輸送するという事は行われていたが、それでも輸送に使うのが馬車であり、遠くに輸送する事はほとんど無く、都市部などに輸送されてきたとしても、そのほとんどが干物などに加工された物だった。


 しかし我々は違う。魔法による長期的な冷蔵、冷凍技術が完成し、しかもそれを鉄道の車両に搭載する事が可能となった。実際に試験的にだが、遠距離の人工栽培や一部の天然物を冷蔵や冷凍輸送する試みが行われており、将来首都が大きくなってきて工場を遠くに移設する事になったとしても、多少の価格上昇はあるだろうが、それでも一割程度の価格上昇で済むだろうとの試算も出ている。


 安全保障の点から全ての野菜工場などを移設する事はないが、それでも食料の一部に関しては色々と目処が経ち始めているのは良いことだろう。


 そんな事を考えながら食事は最後のデザートになる。冷蔵や冷凍技術が確立したこともあって、一般の人にもその恩恵としてアイスクリームやそれの類似品が様々生まれ、今日のデザートはフルーツとアイスを組み合わせた物だ。やはり技術が発達すると、普段の生活も豊かになると思う。


 食事も終わり、先に子供達との話を優先する事にした。仕事の話がどうもあるようだが、それは後回しで良いと、暗に執事を通してエリーに指示されたのもあるが、やはり子供達との語らいは大切だろう。それよりもすでにエリーとイロの子供達は五歳になり、見た目どころか言葉づかいも大人と変わらない。その成長ぶりには驚かされるばかりだ。


 この前新年を迎え、今はサヴェラ歴五年三月。とはいえ、まだまだ冬の寒さも残る。


 元々比較的温暖なこの地域ではあるが、それでも雪が降る事もあるし、前世の日本の四季程では無いにしても、それなりの季節感はある地域である事は間違いない。


 長男のタルヤと次男のミエスに関しては、既に地方の町なら補佐は必要だとしても、一応は任せられる程度の知識はあるだろう。流石にベティの子である三男のヘンリッキと四男ヨエルは、一般的な成長をしている事もあり、長男次男とは違い、ごく一般的な教育をやっと始めたようだ。それでもエンシャントエルフである私の血を引くためか、魔法などの才能は一般人を既に凌駕しており、剣術も幼いなりに頑張っているのは微笑ましいと思う。剣術などまともに出来ない私が言えたことではないだろうが。


 女の子達は、長女のエミリアと次女のブリタ、三女のドロテーアに関して言えば、こちらもエリーとイロの子である事もあり、すでに一般的な成人女性とほとんど見分けがつかない。既に作法なども恥ずかしくない程に教育されたようで、その点では私の方が恥ずかしくなるくらいだ。言い訳でしかないが、そもそも私やエリー達は、そういった教育とは無縁だったというのもあるだろう。こればかりは家庭教師であるヒルダ・ヴェサラに一任するしかない。


 普段は食後のお茶を淹れるのはメイドの仕事であるが、今日は妻達が行ってくれる。そしてメイドは全員部屋を出ているところを考えるに、事前に妻達が話をしていたのだろう。身分的な問題を考えても、なかなか家族だけで過ごすという事は難しいようだ。それにメイドや執事は緊急時の護衛役を担っているという点もある。実際に私達の側にいるメイドは、誰もがそれなりの戦闘訓練を受けているらしく、今いる部屋が窓の無い部屋であり、実際にどこに誰が座っているかは分からないように家具配置の図面でさえ本物は存在しない。そして一週間ごとに家具類は配置換えが行われ、しかも図面なしで行われるために、どこに誰が座っているかなど、相当の内通者でなければ分からない。今は仮住まいであるが、これは今後城が完成した後も行われる事になっており、しかも椅子などは全て全く同じ規格で作られているため、その椅子を見て誰が使用しているかすら分からないようにしている。当然入れ替え時に椅子は丁寧に掃除され、表面もその都度違う物に張り替えられているらしく、張り替えた物は再利用しているが、これまた表面のすり減り具合で誰が使用したかすらも分からないようになっている。


「タルヤ、ミエス。こっちに」


 私とエリー、イロがソファーに座って、お茶の準備も終えたところで、二人を呼ぶ。私がいつ引退するのかは分からないが、二人は間違いなく次の国王候補だ。


「父上。お呼びですか?」


 二人はすぐさま私達の前に来たので、ソファーに座るように促すと、タルヤが早速聞いてくる。


「何。難しい話ではないさ。最近はどうかと思っただけだ。私も忙しく、二人とゆっくり話す時間もとれなかったからな。二人とも頑張っているようだが、無理はしていないか?」


 普通に考えれば、この世界のエルフがいくら早めの成長とはいえ、詰め込みすぎなのではないかと心配になる事がある。別に詰め込み教育その物を否定はしないが、どんな事にも限度はあるはずだ。


 色々と聞いてみたが、特に不満に思っている事は無いらしい。どうやら休息も十分に時間を確保されているようで、その間に娘達との交流もしているようだ。とはいえ心配になってしまうのは、やはり私が親となったからだろうか?


 二人との話が終わった後、次に呼んだのはエミリアを初めとするハイエルフ組の子供達。こちらはこちらで男性陣よりもゆとりのある教育を受けているらしく、イロの子であるブリタは、イロよりもお茶の淹れ方が上手くなったと自慢している。イロは何だか恥ずかしそうにしているが、子供達の成長はやはり嬉しい。


 そして最後に呼んだのがハーフであるベティの子達。まだまだ三歳と幼さが残るが、それでもハイエルフの血がそうさせるのか、普通のハーフよりは成長が早い。人間換算で五歳から六歳くらいの成長だろう。言葉の学習などを既に始めているらしいが、少なくとも日常会話は十分に習得していると思われる。


 ベティの子達は成長に合わせて教育を行っているので、まだまだ簡単な教育のみだ。それに実年齢がまだ三歳程度という事もあり、時折幼さが垣間見られるのは微笑ましく思える。本来ならエリーやイロの子達もこのくらいで成長して欲しいところだが、こればかりは仕方が無いだろう。


 結局二時間程かけて子供達との語らいを終えた後、今度は子供達を退出させて私とエリー達三人。それから執事とメイド数人を部屋に呼び、エリー達が合図をすると扉が内側から閉められる。扉の前にはヘルガが直立不動の体勢で、外から中に入る者がいないようにしているようだ。同時に私の逃げ道も塞がれたとみるべきか?


「さて、クラディ。これで余計な人はいなくなったし、子供達と久しぶりにゆっくりふれあえたわよね?」


 そう言いだしたエリーは真剣な眼差しで私を見る。


「ああ。ここのところまともに話す機会もなかったのは反省している」


 これは流石に本心だ。確かに忙しかったとはいえ、夜には家にいる。ただ、いつも食後にはすぐ仕事で離れてしまうだけだ。


「あの子達は言わなかったけど、それなりに寂しがっているのよ? そもそも長男のタルヤにしても、まだ5歳という事を忘れていないかしら?」


「忘れているつもりはないが・・・・・・」


「あなたはそう言うと思っていたけど、あの子達は違うのよ。それに議会の人達とも話したわ。正直今のあなたは働き過ぎ。確かにこの国の国王かもしれないけど、全てを背負う必要は無いのよ? 見ていて余裕がなさ過ぎるわ」


 そんな風に見えるのだろうか? 正直実感がまるで無い。


「私達の方で話は付けておいたわ。今後の仕事はもっと他の人達に任せなさい」


 エリーの言葉に、イロとベティも頷いている。


「分かった。そこまで言うなら、その通りなのかもしれない。しかし今後の予定などはどうするんだ?」


「そっちは私達で調整するように、議会などの関係者に伝えてあるし、了解は取っているわよ」


 追い打ちをかけるようにイロが指摘してきた。まさかそこまで手回ししているとは。


「私の方でも、ちゃんと指示は出しています。仕事はもっと重要な物だけに絞って、これからは家族との時間を大切にして下さいね?」


 トドメにベティの発言。どうやら私が気が付かずにいるだけで、既に話はまとまっていたらしい。


「降参だ。確かに働き過ぎだったのかもしれない」


 私は大げさに両手を上に上げて、そう言うしかなかった。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

評価、ブックマーク等感謝です。


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。

感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


それと、今回データが全て消えたため、更新が遅れてしまいました。

他に手がけている二本の小説データも消えてしまったため、設定資料なども全てない状況です。

最低限、この小説の現在出てくる人名などはなんとか復元しましたが、根本の設定資料が全て無い状況となっております(地名、国名その他関連資料や、主人公を含めた主要人物の内部設定資料など)。

このため更新が今後かなり遅延する可能性が高いです。

ご迷惑をおかけしますが、今後ともよろしくお願いします。

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