第二百四十二話 星の秘密
そろそろアマツカミボシの肉体の準備も終わり、残すはアマツカミボシの精神的な部分と言うべきだろうか? それを肉体に転送する時期になって、アマツカミボシからの連絡があった。
別にそれ自体は正直おかしな事だとは思いもしない。そもそも彼女? が初めて肉体を得るのだから、どんな形であれ不安に思う事もあるのだろう。前世で言えば、木星に旅立ったコンピュータが、矛盾した命令で乗員を亡き者にしてしまった事を描いた一連の映画を思い出す。小説板では、元々は木星では無く土星だったようだが。
その点アマツカミボシは、少なくともシオツジの管理下にあり、アマツカミボシ単体で暴走する危険は少ないと考えている。無論絶対とは言えないだろうが。
いつもの手順でアマツカミボシの所に訪れると、そこにはまるでホログラムのように立体化された惑星がアマツカミボシの隣にあった。大きさは身長の二倍程度あるだろうか? 一定間隔でそれは回転しており、雲なども再現されている。恐らくはこの星を外から見た画像を立体処理した物だと考えられる。
「恐らくは私がこのような形でクラウディア様をお呼び出来るのは、これが最後となるでしょう。そこでこの星全体の事について解説したくお呼びいたしました」
そう言われてみれば、前にこの星の大まかな大きさを聞いた。ただそれが今の単位とは異なるので、どうもまだその大きさを実感出来ずにいるが。
「今さらではありますが、この星に到着した者達は、この星を後に『第二ヤムト』と名付けました。当然その名称はかなり以前に失われており、今その名称を使用する事が好ましいとは考えておりませんし、それを否定するつもりはありません」
「とは言え、この星が球形に近い惑星であると認識している者は少ないようだがな」
実際に多くの者は、この星が平らだと考えており、球形状と考えているのはごく少数だ。そもそも実際の生活に大抵の者が関係ないとも言えるので、それを学問として研究している者はいないと言って差し支えない程である。
「しかし、それを伝えたいが為に呼び出したのでは無いのだろう?」
「はい。今回はこの惑星について現在までに分かっている事をお伝えしたく、お呼び出しした次第です。そもそもこの惑星は、この地に到着した者の故郷と比べて、はるかに巨大でした。最も横軸の長い場所で、約五.五三倍あります。ですが、移住元の惑星と比べると、空気の成分や重さなどがほとんど変わりが無かったのです。そこで当時の研究者は、この星について詳細に分析を行いました。その結果として、この惑星の内部は一部が空洞である事が判明しました。その為惑星の大きさの割に、この星の重力が元の惑星とほぼ変わりが無い事が判明したのです」
「内部が空洞? そんな事があり得るのか?」
全てが空洞で無いとしても、中心部分と表面部を支えきれないと考えられるが……。
「完全な詳細は結局分かりませんでしたが、どうやらこの惑星独自の物体で満たされており、中心部分と表面部分を支えるような柱状の物が多数有るのではないかとの結論に達しました。そして後に分かった事ですが、空洞の部分には今で言う所の魔素が濃密に液状化または固形に近い状態であると判明したのです。どうやらその影響で、この惑星には魔力を元とした力が発生し、それがあらゆる生態系に影響を及ぼしていると考えられました。そしてその影響で、多くの生命体が何らかの魔力を持っていると結論付けられました」
それを模型にしたようなホログラム状の物が、私の前に映し出される。惑星を半分に切断したような形で、地下深くの所に多数の柱状の物が存在しており、その柱で支えられている場所は一見空洞である。
液状化または固形に近い魔素……それ程までに圧縮されていると考えるべきだろうか? 前世の知識で言えば、マントルか外核のどこかが、恐らくは魔素で構成されているのだろう。さらにその中心部にこの星の核となる物がある。それに魔素が大量に含まれた惑星であれば、魔法などが使用出来る理由も一応説明が可能となる。
「しかし残念な事に、最初に移住してきた者達に、はその恩恵を享受する事は出来なかったようです。それでも世代を繰り返す事で、多少は魔法なども扱えるようになりましたが、彼らが復活されたエルフ程の力には到底及びませんでした」
「それは仕方が無いと思うが? そもそもこの星に到達した者達は、元々魔力など無かったのだろう?」
「恐らくはその通りだと思われます。私やシオツジが検証を重ねましたが、結局原因は不明でした」
「どちらにしても、この星で生まれ育たない事には、その恩恵を受ける事が出来ないと考えて良いのだな?」
「はい。今までの結果からは、それ以外に考えられません」
「では聞くが、冷凍睡眠状態から目覚めさせた場合は、この星で生まれた事になっていない。なのに魔力などを含めて今の一般的なエルフよりも強い場合すらある。この理由は?」
「それはシオツジが肉体改造を行っているからです。ですがその為にはこの船の動力が必要であり、前にお話しした私やシオツジの活動限界の話に繋がります。もちろん肉体改造を行わなければ、少なくとも魔法はほぼ使えないと考えて差し支えありません」
意外な所でここの動力源を消費していた訳か……。しかしこの世界では、魔法を使えないというだけで不利となる要素が多い。それに今さら言っても仕方が無いだろう。ならば、事実は事実として受け入れる事が賢明のはずだ。
「冷凍睡眠状態の者達については、今さらだな。私も過去の事をとやかくは言わない。それよりも気になるのは、内部は空洞ではないかという話だが、この大地が崩壊する事は無いのか?」
現状ではそれが一番気になる所だ。とは言え、それを対処しようとしても出来るとは思えないのだが。
「それは恐らく大丈夫かと。過去の計測の結果から、支柱となっている部分もかなりあるようですし、これは推測ではありますが、恐らくオリハルコンまたはそれに類ずる物で出来ていると思われます。この宇宙船が到着して以降、上部が崩壊したと思われる現象は発生しておりません。ただし数万年に一度程度ですが、どうやら地下の魔力が地上に噴出する事があるようです。ですがこれも一時的なもののようで、噴出は数日で終わります。大地に開く穴は大きさが最大で現在の単位にして六百Mで、最小で数M程のようです。この宇宙船が着陸してから以降、数百M規模の穴が開いた事はありません。同じ所から噴出した事例はありませんし、過去にも無かったと調査で考えられております」
「穴が開く際に、何か予兆はあるのか?」
「本来なら発生しない場所での地震もそうですが、数年規模でその周囲の魔力が明らかに上昇します。それを検知していれば、事前に避難などは可能かと考えられます」
「では、最後にその魔力噴出があったのはいつ頃だ?」
「今から一万四七九八年と六ヶ月前です。現在監視している限りにおいては、魔力が噴出する予兆は発見出来ておりませんが、年月的には次の噴出がいつ来てもおかしくはありません。それを監視する手段は既に用意しております。私が目覚めた際に、そういった物を含めてお渡しする予定です」
こちらも住居建設など色々と重なっている。すぐに問題になるので無ければ、後でも構わない事か。
「分かった。目覚めるまであと何日だ?」
「予定では四日後となります。その際はよろしくお願いします、クラウディア様」
「そうだな。こちらこそよろしく頼むよ。アマツカミボシ改め、ヘルガ・バスクホルド」
彼女の新たな名を伝え、私はその場を後にした。
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